認知神経科学
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26 巻, 1 号
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表紙
目次
招待講演
  • Garrard Peter
    原稿種別: 招待講演
    2024 年 26 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/21
    ジャーナル フリー

    This paper describes the motivation, methodology and findings of a collaborative project that led to the production of the first two versions of the Mini Linguistic State Examination (MLSE). Chief among the motivations for the work was the need for a quick, simple and quantitative clinical test of linguistic cognition that could capture the varied phenotypes of progressive aphasia and improve the consistency with which individual patients are classified by clinicians. We were also fascinated by the possibility of comparing the performance of such an instrument by speakers of two different languages (English and Italian) which, although typologically close, present a number of important contrasts. Researchers interested in PPA have since created parallel versions of the instrument in 12 further languages, including Japanese. Comparison of the final forms taken by each of these versions and the ways in which the individual subtests are varied to exploit the idiosyncracies of the language they are testing may itself yield new insights into both the clinical spectrum of primary progressive aphasia and the biological basis of language itself.

招待講演関連特別セミナー
  • 西山 千香子, 亀井 編, 川村 瞳, 大槻 美佳
    原稿種別: 招待講演関連特別セミナー
    2024 年 26 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/21
    ジャーナル フリー

    原発性進行性失語症(以下、PPA=Primary Progressive Aphasia)の簡易評価検査であるMini Linguistic State Examination(以下、MLSE)の、日本語作成の過程について紹介する。作成にあたっては、MLSEイギリス英語版を元に、部分的にイタリア語版を参照した。作成手続きは、尺度翻訳に関する基本指針(稲田、2015)を参考に進めた。まず、イギリス英語版から翻訳者が日本語訳を作成し、別の検証者が英日翻訳の照会及び検証を行った。翻訳者と検証者で意見が分かれた点については、両名で協議した。言語特異性を踏まえ、下位項目ごとに作成チームにて協議の上、刺激となるイラスト、語彙や文章に変更を加えた。検査内のイラストは、外部イラストレーターへ作成を依頼し、統一を図った。こうしてできた日本語訳プレ版を、94名の健常者(30代から90代男女)に実施した。その結果を踏まえ、チーム内で協議の上、復唱の下位項目及び音読の下位項目において、それぞれ1語ずつ単語の置き換えを行い、10名の健常者に修正箇所の再実施を行なった。この過程を経て、PPAのある方へ実施する第一版として、MLSE-J ver.1(MLSEの検査冊子、採点用紙、及び検査手引きの日本語訳)が完成した。現時点では一般公開はなされていないが、本版はMLSEグローバルウェブサイトに日本語版として掲載している。作成の過程においては、11の下位項目中、9つの項目で日本語の言語特異的な修正が行われた。

会長講演
  • 大槻 美佳
    原稿種別: 会長講演
    2024 年 26 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/21
    ジャーナル フリー

    失語症をめぐる視点の変遷、明らかになったこと、未解決のことを整理した。19世紀半ばから、局在論・連合論/欠損症候の視点と、全体論/症候のダイナミズムの視点の両者があり、実証・経験の立場からの主張や、理論・仮説も多々提起されたが、今日求められているのは、その両者を説明できる新しい視点と考えられる。MRIなどの構造画像の普及で、要素的言語症候と損傷部位の関係が明らかになり、機能画像の発達で、要素的言語機能とそれを担っている部位の関係・ネットワークなども明らかになってきた。一方で、言語機能の変動(意図性と自動性の解離などを含む)、カテゴリー特異性やモダリティー特異性に関する知見はまだ散発的であり、言語のネットワーク仮説とどう整合させるかが今後の課題である。

セミナー
  • ─これまでとこれから─
    中川 賀嗣
    原稿種別: セミナー
    2024 年 26 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/21
    ジャーナル フリー

    Liepmannは1900年に最初の失行例を報告し、その後古典的失行論を提案した。本稿ではこの失行論の骨子について述べた。その後、彼の失行論をめぐる形で多くの失行論が生まれ、議論されつつも、永らく決着がつかずにあった。しかし20世紀末には失行判定の要点が次第に明らかにされ、失行の発現機序も、急速に解明されつつある。失行症学の新しい展開を生む可能性を孕んでいる。

シンポジウム─言語への新しいアプローチ─
  • 小川 七世
    原稿種別: シンポジウム─言語への新しいアプローチ─
    2024 年 26 巻 1 号 p. 28-35
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/21
    ジャーナル フリー

    古典的な失語症学は、脳血管障害を主とする局所脳損傷患者の臨床研究をもとに発展した。それに対し、進行性の失語症は、神経変性疾患による全般的な認知機能低下(認知症)を伴わない緩徐進行性失語症として、1982年にMesulamにより提唱された。その後、“認知症を伴わない”という部分は改訂され、2011年に神経変性疾患のなかで緩徐進行性の失語症を呈す一群は原発性進行性失語primary progressive aphasia(以下PPA)の3型─非流暢・失文法型、意味型、ロゴペニック型─として臨床診断基準が整備された。この間、脳血管障害の失語症、PPAのいずれにおいても神経心理学的研究は重要な役割を果たしてきた。本論では、まずロゴペニック型PPAに行った神経心理学的アプローチによる検討を紹介する。次いで失語症の進行、背景疾患/病理の観点からPPAが失語症学にもたらした新たな視点に言及する。失語症の進行については、喚語困難・漢字の失書から始まった自験例を通して、言語症状の中でも当初からある症状が重症化し、新たな症状が加わっていく経過を示す。さらに進行するにつれ、失語症にとどまらない症状を呈した意味性認知症の検討から意味記憶についても考える。

  • 伊集院 睦雄
    原稿種別: シンポジウム─言語への新しいアプローチ─
    2024 年 26 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/21
    ジャーナル フリー

    人の言語機能は複雑であり、その理解にあたっては学際的なアプローチや様々な方法論が必要となる。ここでは、言語機能の中でも「読み」に焦点を当て、認知神経心理学におけるモデル論的アプローチが明らかにしてきたことを概説し、将来の展望を探る。読みに関するモデルとして、辞書の参照と規則の適用を用いて文字列を音韻列に変換する二重経路モデルが提案されており、これまでに健常成人が音読時に呈する様々な特徴や、表層失読、音韻失読、深層失読といった読みの障害を呈する症例の読み誤り特徴をうまく説明することに成功してきた。これに対し近年、コンピュータを用いたシミュレーション研究の進展があり、特にコネクショニスト・アプローチの立場から、従来の単一症例研究による方法論や機能的二重乖離の原則、あるいは脳研究に関する考え方などに対して様々な問題が提示されている。こうした計算論的モデルは、正常な認知システムの構造の理解と障害の発現機序の解明にとって重要な役割を果たしてきた。今後は、意味に関わる言語機能の理解が急速に進むことが期待される。

  • 角田 亘
    原稿種別: シンポジウム─言葉への新しいアプローチ─
    2024 年 26 巻 1 号 p. 42-50
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/21
    ジャーナル フリー

    反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation。以下、rTMS)は、その刺激頻度に応じて大脳皮質局所の神経活動を変化させる介入であり、例えば1ヘルツ以下の低頻度rTMSは刺激部位の神経活動性を抑制する。脳卒中後失語症に対するrTMSの治療的適用としては、健側大脳への低頻度rTMSが行われるようになってきている。そして、健側大脳への低頻度rTMSの有用性はすでにメタ解析の結果としても確認されている。脳卒中後失語症に対するrTMSは、脳の可塑性を高める介入と位置付けられるようになっているため、言語訓練とrTMSを併用することで言語訓練の効果が促進されるものと期待される。脳卒中後失語症に対するrTMS治療の効果を高める方策としては、spaced applicationの応用、theta burst stimulationなどの新しい刺激モダリティの導入、機能的脳画像所見に基づいてrTMSの適用方法を決定する治療戦略などが注目されている。ただし、本邦の現状としては、脳卒中後失語症に対するrTMSの適用は保険適応外となっている。脳卒中後失語症に対するrTMS治療がさらに広まり一般化することによって、脳卒中後失語症患者の機能予後が改善されることを切望する。

短報
  • 松田 凌, 北村 隼大, 津端 亮介
    原稿種別: 短  報
    2024 年 26 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/21
    ジャーナル フリー

    認知症や軽度認知障害の患者やその家族を対象とした介護負担に関する研究は多く報告されているものの、認知機能の測定対象が限定的である点や、精神症状と合わせた分析が不十分であることなど、課題が残されていた。したがって本研究では、もの忘れ外来受診者の認知的・心理的機能、及びその介護者の抱える負担感について検討することを目的とし、63組の外来受診者(要介護者)及びその主たる介護者(主介護者)から得られた検査データを使用した分析を行った。使用された検査データは、要介護者を対象としたSDS、レーブン色彩マトリックス検査、WMS-R、主介護者を対象としたJ-ZBI、DBDであった。分析の結果、① 要介護者の多くが高い抑うつ傾向を示していたこと、② 要介護者の多くは同年齢集団に比べて低い認知機能を有していたこと、③ 主介護者は強い介護負担感を抱えていること、などが明らかになった。以上より、軽度認知障害レベルであることが推定されるもの忘れ外来の患者やその介護者であっても、認知症患者やその介護者と同様に強い不適応感を有していることが示唆された。これらの結果は、認知機能障害がたとえ軽度であったとしても、当人を対象とした心理的支援、介護者を対象とした社会的支援の必要性を主張するものである。

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