画像データに対する古典的な統計推論におけるF統計量の妥当性は、球形仮説に依存する。球形仮説とは、二つの測度の組(たとえば、ある変数の二つの水準に対応する二組の測度)において、その差の分散が、あらゆる組み合わせにおいて等しいと言う仮定である。しかし、実際には、実験条件が異なることや、イメージング時点間の時系列相関などの複数の要因によって、球形仮説は成立しないことがある。
繰り返し測定の文脈において、球形仮説が満たされない場合の伝統的な対処方法を説明し、相互に比較している文献は数多い。すでに利用可能になっているSPMの方法、また、最近開発された方法は、画像データの分散構造に対処するためのある種の新しい方法論を用いているが、これを従来の伝統的な方法論ときちんと比較する議論は未だなされていない。SPM'99は、時系列相関に関係した球形仮説からの逸脱のみに対処している。この方法は、自由度の調整によるものであるが、これはGrennhouse-Geisserの1変量F検定の方法と数学的には同等である。すなわち、まず、本質的な系列相関を、ある構造を想定して表現し、この想定された構造上の非球状性を、自由度を調整された分布で近似する方法である。最近開発された方法では、関係する分散の全てを推定するために、パラメトリック経験ベイズ法(PEB)が使われている。この方法は、反復制限最尤法(ReML)と同等である。fMRIの時系列データでは、推定すべき分散は、白色雑音の分散や、AR(1)成分の分散である。また、混合効果の分析では、これらの分散は、被験者内分散(被験者によって異なるとしても良い)や被験者間分散に対応する。より一般的に言えば、被験者が、異なるグループに分けられるとき、それぞれの群の残差分散は異なるであろうがそれらを推定することになる。PEB法では、それぞれの分散成分の推定値が不偏になるように、全体の自由度(たとえば、fMRIスキャンの数)を分割する。具体的には、EMアルゴリズムという繰り返し的手法によって、モデルの係数の推定値や、分散の推定値を得る。
以上のような理論的考察のみではなく、実データの分析例を示す。実データの分析では、voxe1ごとに、球状性からの逸脱の程度が異なることを示す。
(要旨訳 繁桝算男 東京大学総合文化研究科生命環境科学系心理学)
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