人間ドック (Ningen Dock)
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31 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 津下 一代
    2016 年 31 巻 1 号 p. 7-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー
     超高齢社会に突入した我が国において,日本再興戦略の主要なテーマとして「健康寿命の延伸」が掲げられ,健康投資を推進する動きがあるが,一方では保健事業に対する評価の目が厳しくなっている.本総説では特定健診・特定保健指導を例に,効果を狙った保健事業の企画(対象者選定法,保健指導プログラム)・運営(人材確保と教育)・評価の現状と今後の展望を述べる.
     特定保健指導では特定健診データとレセプトデータを利用した分析により,保健指導参加群の検査値の方が非参加群と比べて5年間にわたり良好であり,生活習慣病関連医療費が有意に低いことが示された.保健指導の効果を高めるためには,わかりやすく標準化したプログラムと保健指導者の資質向上が重要である.
     平成30年度からの改革では,医療保険者に対しデータヘルス計画の本格実施,特定保健指導以外の保健事業も評価するインセンティブ制度が検討されており,PDCAサイクルを回した保健事業の展開が求められる.
原著
  • 榎本 孝惠, 中野 匡, 髙橋 麻美, 松澤 範子, 中島 直美, 岩﨑 絢子, 西舘 美音子, 加藤 恵美子, 中川 一美, 中川 高志
    2016 年 31 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー
    目的:従来の眼科検診項目である眼底検査,眼圧検査にFrequency Doubling Technology Perimetry(FDT)を付加し人間ドックにおける緑内障スクリーニング方法について検討した.
    方法:2011年6月から2014年12月に医療法人大宮シティクリニックの人間ドックにおける眼科検診項目(FDT,眼底検査,眼圧検査)で何らかの異常が指摘された症例6,930人を対象とし,これらの症例の眼科精密検査後の最終診断の結果をレトロスペクティブに比較検討した.
    結果:上記期間の眼科検診受検者49,442人のうち,6,930人に何らかの異常を認めた.これらの症例に対して,最終診断の結果調査を行い,緑内障と診断されたのは1,159人で,そのうち新たに緑内障と診断されたのは485人であった.このなかでFDT異常は426人,眼底検査異常は428人,眼圧検査異常は5人であった.また,FDTのみの異常は57人,眼底検査のみの異常52人,眼圧検査のみの異常1人が含まれた.FDTのみ異常例の特徴は,近視眼底のため緑内障所見が眼底写真から判断困難な傾向があり,眼底検査のみ異常であった症例の特徴は,眼底写真で網膜神経線維層欠損域が狭い傾向があった.一方,各検査の陽性的中率はFDT30.6%,眼底検査58.2%,眼圧検査42.4%で,最終診断で緑内障と診断された症例を異常検出した率はFDT89.5%,眼底検査88.4%,眼圧検査1.0%であった.
    結論:FDTは人間ドックにおける緑内障スクリーニングに有用と考えられた.一方,FDT正常で眼底検査のみの異常例,眼底検査正常でFDTのみ異常の症例も多数存在するため,現状の眼科検診では両検査の併用が望ましいと思われた.
  • 原口 泰子, 満崎 克彦, 林田 明美, 當麻 康弘, 菅 守隆
    2016 年 31 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー
    目的:当センターにおけるがん検診の事後管理は,要精検者に結果票とともに精密検査依頼書(以下,紹介状)を添付郵送し,その後未受診者には検診受診2ヵ月・5ヵ月後に受診勧奨文書を再送する運用である.定期的な受診勧奨にもかかわらず,胃X線検査における精検受診率は,他のがん検診に比べて低いのが現状である.そこで,胃X線検査の要精検者に対し,個々の結果に応じたメッセージ性の強い受診勧奨パンフレットを作成し,精検受診率向上に向けた取り組みを行ったので,その有効性を検討した.
    方法:要精検者300名をA群:医師の結果説明あり,B群:結果説明なしで受診勧奨パンフレットを紹介状と同封,C群:結果説明なしで紹介状のみを送付の3群に分類し,各群における精検受診率,精検受診までの期間を比較検討した.
    結果:精検受診率はA群68%,B群65%,C群55%であった.受診勧奨パンフレットによって,医師結果説明とほぼ同等の受診勧奨効果を認めた.A群,B群,C群ともに検診後2ヵ月以内に7割以上が受診していた.
    結語:受診勧奨パンフレットは,精検受診率の向上に寄与する有効なツールと考えられた.また,早期受診勧奨が精検受診率向上の一要因と考えられ,医師結果説明を徹底し,受診勧奨パンフレットを用いた早期の受診勧奨を行うことで,さらなる精検受診率向上が期待される.
  • 高島 周志, 小豆澤 深雪, 鈴木 真優美, 泉 由紀子, 住谷 哲, 藤岡 滋典, 湯川 雅彦, 佐藤 文三, 中村 秀次
    2016 年 31 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー
    目的:大腸がんスクリーニングにおける便潜血検査,特に便ヘモグロビン定量値の有用性について検討した.
    対象:平成19年1月から平成26年9月までの期間中,当センターにおける人間ドックにて,便潜血検査を施行した受診者のべ36,284人のうち,便潜血検査が陽性(便ヘモグロビン定量値のカットオフ値は80ng/mL)は2,719人(7.5%)であった.被検者のうち日生病院で全大腸内視鏡検査(total colon fiber:TCF)が施行された617人を対象として解析した.
    結果:大腸がんが発見された症例は31人(男性19人,女性12人),5.0%であった.大腸がん群と非大腸がん群との便ヘモグロビン定量値を検討してみると,大腸がん群の便ヘモグロビン定量値(504±332)は非大腸がん群(326±285)に比し,有意に高値であった(p=0.001).便ヘモグロビン定量値別に大腸がん症例数をみると,便ヘモグロビン定量値が900ng/mL以上の症例では88人のうち11人(12.5%)に発見され,900ng/mL未満の症例より高率であった.
    結論:便ヘモグロビン定量値は大腸がん症例では有意に上昇しており,大腸がんのスクリーニングに有用と考えられた.また,便ヘモグロビン定量値が900ng/mL以上では高頻度に病変がみつかった.さらに,より進行したがんでは便ヘモグロビン定量値が高値の傾向を示した.大腸がんスクリーニングには,便ヘモグロビン定量値も考慮に入れることが必要と思われる.
  • 豊田 将之, 村本 あき子, 津下 一代
    2016 年 31 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー
    目的:多量飲酒者に対する特定保健指導の効果を検証するため,特定保健指導の初回支援から6ヵ月後の飲酒習慣と検査データについて検討を行った.
    方法:同一健康保険組合の積極的支援終了者のうち,今回初めて特定保健指導に参加した男性555名を対象とした.特定保健指導の初回支援時(以下,初回支援時)に飲酒量を確認した.毎日飲酒・エタノール量40g/日以上群,毎日飲酒・エタノール量40g/日未満群,飲酒時々・なし群の3群に分け,特定健康診査時の検査データを群間比較,保健指導前後の検査データの群内比較を行った.さらに,毎日飲酒・エタノール量40g/日以上群内で,6ヵ月後のエタノール量20g/日以上減酒の有無,初回支援時の減酒計画立案の有無によりそれぞれ2群に分け,6ヵ月後までの検査データ変化量の群間比較を行った.保健指導の方法は3群で共通であり,初回はグループ支援で実施した.
    結果:特定健康診査時には3群間で体重,脂質,肝機能,血糖に有意差があった.保健指導前後比較において3群ともに有意な減量,検査データ改善がみられた.毎日飲酒・エタノール量40g/日以上群のうち減酒の有無2群間比較では,体重減少が減酒あり群で1.81±2.49kgであったのに対し,減酒なし群では0.33±2.46kg減少と有意差を認めた.BMI,腹囲,AST,γ-GTPの各変化量は減酒あり群で有意に大きかった.減酒計画の有無では有意差はみられなかった.
    結論:特定保健指導による減量および検査データ改善効果は,飲酒量が多い対象者にも一定の効果がみられた.特にエタノール量が20g/日以上減少した群で改善効果が大きかった.
症例報告
  • 中野 浩一郎, 榊原 一貴, 深尾 俊一, 奥嶋 一武, 伊藤 寛, 横田 広子, 安藤 拓也, 斉藤 慎一郎, 前田 頼佑, 神谷 賢吾, ...
    2016 年 31 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/29
    ジャーナル フリー
    目的:2010年に上山と八尾らが,胃底腺への分化を示す胃がんの新しい組織亜型として胃底腺型胃癌を提唱し,以降報告例が相次いでいる.当センター人間ドックで経験した胃底腺型胃癌について臨床病理学的に検討を行った.
    対象:2012年1月から2014年12月までに,当センター人間ドック上部内視鏡で胃底腺型胃癌と診断された5例を対象とした.
    方法:Helicobacter pyloriH.pylori)感染の有無,内視鏡所見,病理組織学的所見などの検討を行った.
    結果:症例は全例男性であり,平均年齢は55.6(46~61)歳であった.全例H.pylori感染陰性で,1例は除菌療法後だった.発生部位はU領域4例,M領域1例であった.肉眼型は4例0-Ⅱa,1例0-Ⅱa+Ⅱcであった.腫瘍径は全例10mm以下であった.治療は5例すべてに内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行った.病理組織所見は全例,胃底腺型低異型度癌で,粘膜下層への浸潤を認めた.脈管侵襲は全例陰性,切除断端も全例陰性であった.免疫組織化学的には全例Pepsinogen-Ⅰ陽性,H+/K+-ATPase陽性,MUC-6陽性であった.MUC-5ACとMUC-2は陰性であった.
    結論:今後,H.pylori感染率の低下に伴い,胃底腺型胃癌の増加の可能性が考えられる.萎縮のない胃粘膜でも本症の特徴を念頭に置き,注意深く観察することが重要である.
委員会報告
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