人間ドック (Ningen Dock)
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33 巻, 4 号
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巻頭言
総説
特別寄稿
  • 荒瀬 康司
    2018 年 33 巻 4 号 p. 557-570
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー

     私は,2008年に日本人間ドック学会に入会した後,2010年より編集委員,2012年より編集副委員長,2014年より編集委員長を拝命し,学会誌の編集,投稿論文の審査等に携わらせていただいている.学会員の皆様に論文投稿をお願いしているが,一方では,学会員より,初心者向けに「論文の書き方」,「統計法の選び方」等の注意点を明示して欲しい等の要望が繰り返し寄せられている.そこで,今回は,統計法の選び方,表現法等につき,私なりにまとめてみた.私は,肝臓疾患を主体として約30年活動しており,統計関係については,各種の参考書1-9)を読みながら学会誌への投稿を繰り返してきた.統計法の記述についても,とんでもない誤り,勘違いを幾つも査読者より指摘されてきた.これらの多くの貴重な,裨益するご意見を基に原稿を修正してきた.今回は,これらの過去の失敗の実例を紹介し,統計を専門とされない方々に多少でも参考になればとの思いで本稿を記した.内容は,統計リテラシー,研究デザイン,データの表現法,要約統計量,推計,仮説検定,検定法の選択,リスク比とオッズ比,多変量解析,生存分析等における注意点である.

原著
  • 堀越 隆之, 石栗 一男, 山口 ひとみ, 山本 潤, 君塚 孝雄, 新藤 昇, 中川 良, 森山 優, 中川 一美, 中川 高志
    2018 年 33 巻 4 号 p. 571-578
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー

    目的:胃X線検査所見を利用し,ヘリコバクター・ピロリ感染を高精度,かつ効率よく判定する方法を考案する.

    方法:2013年から2014年の2年間で,オプション検査の血清ABC分類と胃X線検査を併用した受検者を対象に血清ABC分類と胃X線検査所見の関係を調べた.胃X線検査所見は従来法に加え,我々が考案した胃体部での胃小区像の有無や,バリウムの付着性による評価方法についても成績を調べた.

    結果:従来法である粘膜ひだの分布範囲の縮小や粘膜ひだの屈曲増加等を用いる評価方法は感染者に多くみられる傾向は認められたものの,A群とBCD群を明確に分類することは困難であった.しかし,我々が考案した胃体部での胃小区像の有無やバリウムの付着性による評価は容易かつ精度が高く,感染判定に有効であった.

    結論:今回考案した判定方法に,受検者の既往歴等を正確に把握できる問診を組み合わせることで,簡便ながら血清ABC分類の精度を補える,あるいは,代替可能な胃X線検査によるヘリコバクター・ピロリ感染判定システムが構築できると考えられた.

  • -受診者の継続受診促進の観点から-
    石川 和克, 庵原 立子, 角掛 篤子, 吉田 由貴, 金田一 万里子, 藤舘 道代, 狩野 敦
    2018 年 33 巻 4 号 p. 579-585
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー

    目的:肝機能異常を示す受診者をパターン別に分類し,病態の特徴を明らかにし,実質的な特定保健指導に資する.

    方法:2016年度の受診者21,730名(男性13,162名,女性8,568名)を対象とし,肝機能異常者を男女別に①群:ALT≧31 IU/LかつALT>AST,②群:AST≧31 IU/LかつAST>ALT,③群:γ-GTP≧101 IU/LかつALT・AST正常の3群に分類し,検査所見・背景・腹部超音波所見の比較検討を行った.

    結果:①~③群は,それぞれ男性,30.8%,3.8%,2.5%,女性,7.5%,1.8%,0.5%でいずれも男性に高率であった.男女とも①群は②,③群に比し,飲酒頻度が有意に低率かつ脂肪肝が有意に高率で,主にMetSにおける肝病変である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を反映していると考えられた.②,③群における脂肪肝の頻度は,肝機能正常例における頻度とほぼ同等であり,②群は主にアルコール性肝障害,③群は飲酒による酵素活性の上昇を示していると考えられた.また,②,③群の男性は,喫煙や循環器疾患との関連を,③群の女性は,他の因子との関連も考慮すべきであると考えられた.③群における原因不明例には,自己免疫性肝疾患が混在している可能性があり,この場合は専門医における精査が必要と考えられた.

    結論:肝機能異常例の病態を良く理解し,受診者には毎年の継続受診の指導を行うことが重要と考えられる.

  • 高橋 有香, 泉 並木
    2018 年 33 巻 4 号 p. 586-594
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー

    目的:健診後の二次検査受診率向上に対する取り組みとその結果を評価し,今後の課題について検討すること.

    対象と方法:2008年1月から2016年12月の人間ドック受診者(年平均2,265人)に対し,健診後の二次検査受診率向上のために取り組んできた内容についてまとめ,2008年と2016年時の二次検査受診率を比較した.

    結果:2008年より当院で行った二次検査結果の調査(以下,院内二次検査調査),2009年より他施設で行った二次検査の調査(以下,院外二次検査調査)を開始した.院内二次検査は,2011年9月までは紙カルテ,以降は電子カルテで結果を確認した.院外二次検査は,開始当初は,受診者に二次検査調査票を送付して調査を行っていたが,2013年より受診者に結果報告書と一緒に紹介状を送付し,受診した医療機関から結果が返信される方式とした.2014年,健診システム変更により二次検査調査は効率化し,二次検査調査の結果が健診結果と連動して時系列で参照できるようになったことより,受診者により有用な情報提供を行えるようになった.多角的な試みにより,2008年に比し2016年の二次検査受診率は,生活習慣病関連項目については有意に上昇し,がん関連項目については従来受診率の高かった上部消化管内視鏡検査を除いて,一部有意ではないが,上昇傾向となった.

    結論:二次検査受診率をさらに向上させるためには,今後いかに受診者の二次検査受診への動機付けを行うかが課題である.

  • 足利 一美, 齋藤 敏子, 一関 智子, 村田 雅彦, 宮下 正弘
    2018 年 33 巻 4 号 p. 595-601
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー

    目的:日本人は世界で2番目に睡眠時間が短く,約3割は6時間未満で特に女性が短い.そのなかでも一番短いといわれている40~50歳代女性受診者を対象に,睡眠の確保に影響を及ぼす要因を明らかにし,保健指導に活用する.

    方法:問診時に,独自に作成した調査用紙を用いて聞き取り調査を実施.また,問診票より情報収集した.

    結果:27名全員が有職者で,教職員20名,市町村・都道府県職員5名,電話会社員1名,イラストレーター1名であった.労働時間は平均11時間7分,睡眠時間は平均6時間15分であった.睡眠の満足度については「満足していない」が55.6%,「どちらともいえない」が14.8%,「満足」が29.6%であった.中途覚醒は51.9%,睡眠で休養が十分とれていない割合は59.3%,睡眠時間は充分でない割合は66.7%であった.帰宅時間は全員18時以降であった.帰宅後就寝するまでの行動の平均時間は,受診者の96.3%が家事で84分,51.9%が仕事で38分,55.6%が娯楽で49分であった.睡眠の確保の対策をしない理由については,「習慣になっている」,「睡眠を重要視していない」などがあった.

    結論:食事や運動指導と同じように睡眠に関しても個別的,具体的な指導を行っていくためには,生活背景全体をアセスメントしていく必要がある.そして,睡眠不足がもたらす心身への影響を理解してもらい,睡眠の重要性を伝えていく必要があると考える.今後,リーフレットなどを作成して具体的な睡眠の保健指導を行うことができるよう取り組んでいきたい.

  • -精神的健康度も含めた検討-
    脇本 敏裕, 斎藤 辰哉, 門利 知美, 井上 雅子, 松村 友里, 山中 義之, 藤本 壮八, 高尾 俊弘
    2018 年 33 巻 4 号 p. 602-608
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
    ジャーナル フリー

    目的:壮・中年者におけるロコモティブシンドローム(ロコモ)の実態を明らかにし,その予防のための要因を明らかにすることを目的とした.

    方法:壮・中年の勤労者のうち,当センターで健康診断を受診した93名(平均年齢50±9歳,男性31名,女性62名)を対象とした.健康診断受診時にロコモ度テストおよび握力測定を実施した.健康診断・問診結果,ロコモ度テスト結果について多変量解析を行い,壮・中年者においてロコモに影響を与える要因を検討した.

    結果:ロコモ度テストの結果,27名がロコモと判定され,ロコモへの該当率は29.0%であった.ロコモ度1への該当者は19名(男性4名,女性15名)であり,ロコモ度2への該当者は8名(男性3名,女性5名)であった.ロコモ該当者27名のうち20名がロコモ25により判定された.ロコモ該当の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析の結果,精神的健康度の指標であるWHO-5得点が独立した要因として採択された(オッズ比:0.866,オッズ比95%信頼区間: 0.767-0.979,p<0.05).またWHO-5を目的変数とした重回帰分析の結果,「睡眠で十分休養がとれているか」(偏回帰係数:0.504,t値:5.009,p<0.001),と「運動習慣があるか」(偏回帰係数:0.294,T値:2.985,p=0.004)がそれぞれWHO-5得点と関連していた(調整済みR2=0.313,p<0.001).

    結論:本研究では壮・中年の勤労者においてロコモ該当者が約27.6%存在し,ロコモへの該当と精神的健康状態が関連することが明らかとなった.

症例報告
  • 宇賀神 卓広, 小山 美緒, 髙田 優子, 津戸 直樹, 藤沼 澄夫
    2018 年 33 巻 4 号 p. 609-613
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/03/29
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     今回,我々は,便潜血検査陽性で発見された腸管嚢胞状気腫症の1症例を経験した.

     症例は,糖尿病,気管支喘息,高血圧,狭心症で外来通院中の82歳の女性.糖尿病に対してアカルボースが処方されていた.軟便が続くため,便潜血検査を施行したところ陽性であった.全大腸内視鏡検査が施行され,S状結腸に平滑な粘膜下腫瘍が多発し,表面は一部発赤し薄い血餅が付着する部分も認められた.同病変は,CT colonographyで腸管壁に沿った気腫として描出され,腸管嚢胞状気腫症と診断された.症状が軽微で血糖コントロールも良好なため,アカルボースは継続し,慎重に経過観察された.しかし,軟便が続いたためアカルボースを中止し,1ヵ月後に大腸内視鏡検査を再検したところ同病変は著明に改善しており,本症例は,アカルボースを主因とする続発性と考えられた.

     腸管嚢胞状気腫症は,粘膜下もしくは漿膜下のガス貯留を主体とする疾患で,便潜血陽性の原因になりうるが大腸がん合併例の報告もあり,注意が必要である.また,漿膜下嚢胞の破綻により腹腔内遊離ガス像を呈すことがあるが,慢性型では手術を要する頻度は低い.画像検査で腹腔内遊離ガス像を認めた場合,有機溶剤使用歴,治療中の疾患,内服薬に関する問診,症状や腹部所見を参考に冷静な対応が必要である.腸管嚢胞状気腫症は,健診医療従事者が是非知っておくべき疾患と考え報告する.

研究報告
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