人間ドック (Ningen Dock)
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33 巻, 5 号
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巻頭言
理事長講演
総説
  • 田中 幸子
    2019 年 33 巻 5 号 p. 668-674
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/27
    ジャーナル フリー

     膵がんは最近,罹患数増加に伴い死亡者数が増加し注目を集めています.早期に診断されることが少なく,5年生存率は10%未満と予後の非常に悪いがんです.早期診断のためには,無症状ないしわずかな症状の時期に,軽度の異常所見を拾い上げること,そして膵がんの可能性の高い病変を的確に精査に持ち込むことが必要です.人間ドック受診を膵がんの早期診断に効果的に結び付けるためには,非侵襲的な腹部超音波検査の精度向上が有用と考えられます.そのための方策として,精査超音波検査,診断装置の整備,検査担当者の教育,腹部超音波健診判定マニュアルの採用,外部評価受検などが大切です.

特別寄稿
  • 和田 高士
    2019 年 33 巻 5 号 p. 675-682
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/27
    ジャーナル フリー

     人間ドックは,身体の状態を多角的に検査し,異常所見に対して保健指導を行い,必要に応じて精密検査や治療を勧奨する総合的な健診診断である.特定臓器がんによる死亡率低下に特化したがん検診や,メタボリックシンドロームに着目した特定健康診査・特定保健指導では体重・腹囲減少の観点から評価されている.しかし,人間ドックでは検査対象が広範囲であるがゆえにその有用性が評価されにくい.そこで,いくつかの評価視点から健診・検診・人間ドックの意義・有用性についての報告を紹介し,特に近年,健康評価の指標として注目され,死亡率や健康寿命に強く影響を及ぼす主観的健康感の観点から,人間ドックの意義・有用性について概説した.国民健康基礎調査の統計結果と著しく異なる人間ドック受診者での特徴は,主観的健康感が良好で,高齢になっても保たれることである.加えて,人間ドックの長期継続受診により,良好な健康感が維持されることが特筆される.

原著
  • 長谷川 泰隆, 垂水 信二, 近藤 洋史, 大崎 高伸, 伴 秀行, 根岸 正治, 國近 則仁
    2019 年 33 巻 5 号 p. 683-693
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/27
    ジャーナル フリー

    目的:制度開始から10年が経過した特定保健指導の長期的な因果効果の評価を目的に,6年後までの検査値改善効果を検証した.

    方法:2008~2010年度の積極的支援利用者2,152人を介入群,未利用者6,523人を対照群とした計8,675人を6年後まで追跡した.傾向スコアマッチングによる共変量調整を行い,まず,積極的支援利用者全体の検査値改善効果を検証し,次に,1年後の体重変化量別の効果を検証した.傾向スコアは,特定健診の全項目を共変量としたロジスティック回帰により推定し,介入群1人に対して傾向スコアが最も近い対照群2人をマッチングして検査値の群間差を比較した.体重変化量別の検証では,介入群を体重変化量で1%以上増,±1%未満,1~2%減,3~4%減,5~6%減,7%以上減の6群に分け,群毎に対照群を1対2でマッチングして群間差を比較した.検査値は体重,腹囲,血圧,糖代謝,脂質,肝機能検査を対象とした.

    結果:積極的支援利用者全体では,体重,腹囲,血圧,血糖,HbA1c,中性脂肪が6年後,HDL-Cが5年後,ALTが4年後,γ-GTPが3年後,ASTが2年後,LDL-Cが1年後まで有意な改善効果を認めた.1年後の体重変化量別の検証では,3~4%減で1~2年後,5~6%減で3~4年後,7%以上減で5~6年後の有意な検査値改善効果を認めた.

    結論:検査値によって改善効果の持続期間が異なること,1年後の体重減少量が大きいほど長期的な検査値改善効果が得られることを明らかにした.

  • 太田 純子, 林 良典, 飯島 喜美子, 佐々部 典子, 郡司 俊秋
    2019 年 33 巻 5 号 p. 694-700
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/27
    ジャーナル フリー

    目的:大腸腺腫発症のリスク因子として,Helicobacter pyloriH. pylori)感染およびMetabolic syndrome(MetS)因子,生活習慣因子の関与について検討した.

    方法:2013年4月から2017年3月までに,当院人間ドックを受診した男性44,254名のうち,便潜血検査(免疫反応2日法)が陽性で,二次検査として全大腸内視鏡検査が施行された1,450名を対象とした.40歳未満,上部消化管内視鏡検査未施行,内臓脂肪面積未測定,大腸悪性腫瘍・炎症性腸疾患を除外した990名(平均年齢55.3歳)について横断研究を行った.大腸腺腫発症のリスク因子として,H.pylori抗体価およびH. pylori感染胃炎,MetS因子,生活習慣因子が及ぼす影響について,単変量解析およびロジスティック回帰分析による多変量解析を用いて検討した.

    結果:単変量解析の結果,大腸腺腫保有群はH. pylori感染胃炎の割合が54.2%と非保有群の34.7%に比し高率で,H. pylori抗体価とともに有意差(p<0.01)を認め,年齢,BMI,内臓・皮下脂肪面積,血圧,中性脂肪,空腹時血糖,飲酒,喫煙,運動についても同様に有意(p<0.01)であった.MetS因子,生活習慣因子に加え,H. pylori抗体価(Model 1)およびH. pylori感染胃炎(Model 2)を共変量として用いた多変量解析の結果,H. pylori抗体価陽性(OR 1.595,95%CI:1.093-2.327,p=0.015)およびH. pylori感染胃炎(OR 1.97,95%CI:1.46-2.65,p<0.01)は独立した有意な危険因子であった.両モデルともに高齢,内臓脂肪蓄積,飲酒,喫煙,運動が有意(p<0.01)に関連する因子であった.

    結語:H. pylori感染は大腸腺腫発症の独立した有意な危険因子であった.

  • -効果的な保健指導を実施するために-
    松尾 由香, 桑尾 麻記, 山本 弥生, 武田 美作, 森下 恵利, 政木 明子, 窪 好美, 元木 徳治, 末廣 史恵
    2019 年 33 巻 5 号 p. 701-707
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/27
    ジャーナル フリー

    目的:慢性腎臓病(CKD)の発症・進展予防に対して保健指導を効果的に行っていくため,尿中アルブミン値が正常(30mg/g・Cr未満)である人間ドック受診者に対して,5年後の尿中アルブミン値の変化を調べ,その関連因子について検討した.

    方法:対象は,2009年および5年後の2014年に人間ドック健診を受診した9,694名中,糖尿病合併者と腎炎合併または既往者を除き,2009年に正常アルブミン尿であった8,386名(男性/女性:4,322/4,064名,平均年齢50.9±9.6歳)である.方法は,2014年の尿中アルブミン値の変化と2009年の各因子との関係を検討した.

    結果:2009年に正常アルブミン尿であった受診者の423名(5.04%)が2014年に微量/顕性アルブミン尿に移行し,そのうち86.3%の例では,尿中アルブミン値が100mg/g・Cr未満であった.微量/顕性アルブミン尿に移行する関連因子は,2009年の尿アルブミン値が高値,年齢,BMI高値,臍周囲径,高血圧合併,低HDLコレステロール値,低アルブミン血症であった.生活因子では,喫煙,たんぱく質食品をよく食べるなどが移行に関連した.

    考察:微量/顕性アルブミン尿に移行する関連因子のうち,年齢以外はメタボリックシンドロームに関連するものがみられ,血圧のコントロールや肥満の改善,禁煙,食生活の改善等で介入できるものが多いと考えられる.移行因子を持つ症例については,CKDへ進展する可能性も考慮して保健指導を行う必要がある.

  • 林 裕子, 崎原 永辰, 根間 一徳, 新城 清彦, 池野 愛美, 大仲 夏季, 重田 泰秀
    2019 年 33 巻 5 号 p. 708-713
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/27
    ジャーナル フリー

    目的:当施設における胃がん検診において,胃内視鏡検査に比べて胃X線検査後のヘリコバクター・ピロリ(以下,HP)感染胃炎の除菌施行率が低い要因を検討するために,胃がん検診におけるHP感染胃炎の診断精度と検査施行後のHP除菌率を両検査で比較した.本稿では,この現状の評価をもとに,胃X線検査後の除菌治療における課題を明らかにすることを目的とする.

    対象と方法:当施設で胃がん検診を受けたすべての受診者に対し,血清抗体検査の有無や除菌歴などを問診した.除菌施行率の推移は,X線・内視鏡の両検査で萎縮性胃炎と診断されもののうち,過去5年間でどちらか一方の検査しか受けなかった受診者を対象とした.胃X線検査の診断精度の評価は,2015年度に胃内視鏡検査を受けた1,320例のうち過去3年以内に胃X線検査を受け,HP血清抗体価の検査結果がなされ,しかも除菌治療がなされていない238人(男性153人,女性85人)を対象として,HP感染胃炎の診断に関して診断精度の指標を胃内視鏡検査と比較することで評価した.

    結果:胃X線検査におけるHP感染胃炎の陽性反応的中度は69.6%で,胃内視鏡検査では62.0%と差がなかったが,検査施行後の除菌施行率はX線検査では約20%で,内視鏡検査では約80%であった.

    結論:HP感染胃炎の診断精度は,X線と内視鏡検査との間に有意差はなかった.X線検査後のHP除菌施行率の有意な低さは,現行の医療保険制度の要件によるところが大きいと考えられた.

委員会報告
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