人間ドック (Ningen Dock)
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34 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 荒瀬 康司
    2019 年 34 巻 1 号 p. 6-26
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/04
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     科学論文の基本的3要素は,内容・構成・表現である.投稿された論文において,これらの3要素が適切に記載されていると判断された際に,はじめて採用と判定される.3要素における第一の内容は,新規性,独創性があり,さらに医療関係者ならびに受診者に裨益することが肝要である.陳腐的な,人口に膾炙された内容のみでは科学誌には採用されにくい.第二の構成は,理解されやすいこと,利用されやすいこと,等を念頭に組み立てられている必要がある.第三の表現は,「読み手」を意識して書かれることを要する.専門用語,省略語を我流で使用しすぎないこと,文末を常体(だ・である)で統一することなど,「読み手」にとって分かりやすい,読みやすい表現であることが必要となる1).科学論文の要素である内容・構成・表現の作成においてはルールがある.そこで,本稿では科学論文作成上のルールにつき記した.ルールは,1~144までの通し番号で示した.1~31は内容・構成,32~144は表現について記した.論文記載上の留意点については,すでに人間ドック学会誌に掲載されたが,今回は約10倍の分量で,より詳細に記した1-3).なお,図表の書き方は論文作成上,重要ではあるが,紙数の関係で記述しなかった.

原著
  • -BMI平均値例との比較検討から-
    石川 和克, 庵原 立子, 角掛 篤子, 吉田 由貴, 金田一 万里子, 藤舘 道代, 狩野 敦
    2019 年 34 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/04
    ジャーナル フリー

    目的:当センター受診者5,013例(男性3,372例,女性1,641例)を対象に,BMI 18.5未満例の臨床背景と,BMI平均値例との比較検討を行った.

    方法:平均値例(A群)のBMIを男性は23.8~24.0(n=130),女性は22.0~22.9(n=183),BMI 18.5未満例を,B群:18.0~18.4(男性n=22,女性n=73),C群:17.0~17.9(男性n=40,女性n=85),D群17.0>(男性n=10,女性n=45)に分類し検討した.

    結果:BMI 18.5未満例は男性2.1%,女性12.4%であった.TGは女性でA群がB,C,D群に比し有意に高値,かつD群はC群に比し有意に低値であった.クレアチニンは男性でA群がC群に比し有意に高値であった.HDL-C,LDL-Cは男女ともそれぞれA群が,B,C,D群に比し有意に低値,および高値であった.血清アルブミンは女性でA群に比しC群が有意に高値であった.男性のC,D群は喫煙が高率の傾向で,血圧値との関連が示唆された.女性のBMI平均値例は降圧薬,脂質異常症薬の服用頻度が有意に高率で,かつ子宮筋腫の既往も有意に高率であった.脂肪肝は男女ともBMI 18.5未満例は有意に低率であった.

    結論:今回のほぼ健常者における検討では,男女ともBMI 18.5未満の痩せの例と明らかな健康障害との関連は認められず,痩せは主に男性では骨格筋の減少を,女性では皮下脂肪の減少を反映していると考えられた.

  • 須江 慶太, 平林 一, 小松 泰喜, 丸山 陽一, 勝山 澄江, 富岡 あき子, 大澤 道彦, 大塚 貴史, 佐藤 剛章, 斎藤 宗治
    2019 年 34 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/04
    ジャーナル フリー

    目的:鹿教湯病院では認知症予防に特化した「ものわすれドック」を開設した.認知症予防の観点に立った人間ドックはまれであり,過去に報告もない.本研究ではものわすれドック受診者の脳の状態や,運動習慣などの有無,心身機能の特性を明らかにして,今後の人間ドックの運動・生活指導の一助にすることを目的とした.

    方法:対象はものわすれドックを受診した15名である.受診者のMagnet Resonance Imaging(以下,MRI)やVoxel-based Specific Regional analysis systems for Alzheimer’s Disease(VSRAD)の画像所見をもとにした診査結果や,運動習慣や趣味活動の有無,そして心身機能の検査結果を記述的にまとめた.その後,まとめたデータを先行研究で示された認知症関連のデータと比較に基づき定量評価を行った.

    結果:MRIに基づく診査結果で明らかな異常を指摘された受診者は1名いたものの,それ以外の受診者の画像所見では明らかな異常はなかった.心身機能評価結果は先行研究で示された値と比較し良好な傾向にあり,日頃からの運動習慣,趣味活動を持つ割合が高かった.

    結論:ものわすれドック受診者の心身機能は良好な状態にあり,健康意識も高い傾向にあった.ものわすれドックでは,現状の心身機能の状態を客観的な数値をもとにフィードバックし,活動的な生活が維持できるように動機付けを行うことが指導のポイントになる可能性が示唆された.

  • 水谷 かおり, 宍戸 淑子, 平林 和子, 今井 弘毅
    2019 年 34 巻 1 号 p. 42-48
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/04
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    目的:当施設で二日ドックのオプションとして光干渉断層計検査(Optical Coherence Tomography:以下,OCT)を導入した.OCTとその他の検査との関連について検討した.

    方法:対象は平成29年10月から平成30年3月までの二日ドックの受診者1,613名(男性1,030名,女性583名)のうち希望者263名(男性173名,女性90名).緑内障治療中の方は対象外とした.対象者に眼底写真撮影,眼圧検査,簡易視野検査(Frequency Doubling Technology:以下,FDT),OCTを同日に実施し,判定は眼科医2名が行った.263名の各検査の緑内障疑い所見検出率と検査間の関連性,眼底・OCTの緑内障以外の所見検出の比較,同時期の全受診者を対象に実施した検査により3群に分けて緑内障疑い所見検出率と精査結果の比較を行った.

    結果:OCT実施者263名の各検査の緑内障疑い所見検出率は,眼底7.2%,眼圧2.3%,FDT2.3%,OCT12.2%であった.実施した検査3群の緑内障疑い所見検出率は,眼底・眼圧10.3%,眼底・眼圧・FDT9.2%,眼底・眼圧・FDT・OCT15.2%であった.陽性反応的中度は,順に32.5%,43.5%,50.0%だった.緑内障以外の所見でOCTが検出した所見は黄斑上膜,脈絡膜腫瘍,網脈絡膜萎縮,黄斑変性であった.

    結論:OCTは緑内障疑い所見において眼底・眼圧・FDTよりも検出率が高かった.またOCTを実施することで判定の精度が向上した.OCTだけでは検出困難な所見もあり,他の眼科検査を組み合わせて実施することで精度向上が期待できると考えられた.

  • -肥満者にどう使用するか-
    馬嶋 健一郎, 島本 武嗣, 村木 洋介
    2019 年 34 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/04
    ジャーナル フリー

    目的:心臓足首血管指数(Cardio-Ankle Vascular Index:CAVI)は,動脈硬化指標であり有用だが,動脈硬化リスクが高いはずである肥満者で良好な結果となることをしばしば経験する.CAVIを肥満者に対して有効に利用するため,CAVI結果の分析を行った.

    方法:3年間の人間ドックでのCAVIを対象とした.肥満の有無でCAVI結果を分析し,重回帰で肥満がCAVI値にどの程度影響しているか検討した.また,CAVIの血管年齢結果を肥満の有無で検討した.加えて,脳MRI小血管病変が,肥満あり血管年齢低下群で増えているかを調査した.

    結果:対象者は839名.非肥満群と比べ肥満群は脳心血管病リスク因子を有意に認めたが,平均CAVI値は非肥満群8.0,肥満群7.7と有意に肥満群の方が低かった.重回帰分析で,肥満ありはCAVI値を平均0.36下げることが推定された.血管年齢低値の割合は,非肥満群37.2%(235/631),肥満群47.6%(99/208)であり,有意に肥満群で多かった.脳血管病変の有無は,「肥満なし血管年齢実年齢相応群」と「肥満あり血管年齢低値群」で有意な差はなかった.

    結論:肥満はCAVI値を有意に低下させ良好な結果となりやすい.よって,肥満者のCAVIにおける健診判定を考える際は,生活習慣の乱れを助長させないよう工夫する必要があると考えられる.一方で,血管年齢低値の肥満者において脳MRI血管病変は増えておらず,健康な肥満者を反映している可能性も示唆された.

  • 和泉 賢一, 長尾 敏彦, 小野 恭裕, 岩坂 剛
    2019 年 34 巻 1 号 p. 57-63
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/04
    ジャーナル フリー

    背景:脂肪肝は頻度の高い疾患である.そのうち,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のなかには,肝硬変から肝がんを発症する症例もあり,注意が必要な疾患となっている.NAFLDは肥満と関連が深いとされているが,脂肪肝後の報告は多いものの,脂肪肝になるまでの体重の変化をみた報告はほとんどない.

    方法:当院の2008年から2016年までの9年間の人間ドック受診者のなかから,腹部超音波検査受診者のデータを抽出し,そのデータより2回以上連続で脂肪肝の指摘がなく,加えてその後2回連続して脂肪肝の指摘を受けた人のデータを調べ,NAFLDと思われる人を選別した.その215人の過去の体重変化を追跡調査した.

    結果:215人の脂肪肝指摘時の平均BMIは24.5±2.6kg/m2であり,5年前より増加傾向にあった.過去7年間の体重の変化でみると,最もやせていた時点が超音波で指摘される5年前であり,その時点より平均すると約6.3%体重は上昇していた.

    結論:BMIが25kg/m2未満の状態から体重増加による脂肪肝のリスクが存在する可能性がある.約4~7%の体重増加は,脂肪肝のリスクになる可能性がある.しかし,症例が少なく,今後さらなる解析が必要である.

症例報告
  • 籠島 智, 寺田 総一郎, 髙木 昭房, 髙橋 定雄, 遠藤 久子, 高階 経幸, 北川 幸子, 山﨑 知子, 鈴木 俊雄
    2019 年 34 巻 1 号 p. 64-69
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/04
    ジャーナル フリー

     今回我々は,他院での胆嚢摘出術による無症状のガーゼオーマを経験したので報告する.

     症例は50歳男性.20年前に他院にて胆嚢結石による胆嚢摘出術を施行していた(腹膜炎合併).当健診センター腹部超音波検査で,肝下面,腹部大動脈および胃近傍に40×38mmの腫瘤が認められた.腫瘤は境界明瞭,辺縁整,内部不均一な低エコーを示し,また,内部に不整形な高エコー部分を伴っていた.周辺臓器と接しているが由来は明らかではなかった.外来でのCTおよびMRI検査でも,同部位に腫瘤を認め,腫瘤内部に一部分であるが,ガーゼの折り畳み構造を示すfolded fabric appearanceの画像所見も認められた.PET検査では,腫瘤に明らかな集積亢進を認めず,活動性の低い病変と考えられた.手術が施行され,組織学的検査にてガーゼオーマと診断された.

     ガーゼオーマは,様々な合併症を引き起こす.手術室での遺残防止対策が十分普及していなかった頃の遺残物が,無症状のまま看過されていることも念頭に置き,人間ドックにおいても十分注意を払いながら検査に努める必要がある.

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