人間ドック (Ningen Dock)
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34 巻, 5 号
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巻頭言
理事長講演
総説
  • 猿田 雅之
    2020 年 34 巻 5 号 p. 683-692
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

     1990年代の消化器疾患は,胃・十二指腸潰瘍や胃がんとウイルス性肝疾患が大部分であった.特にウイルス性肝炎は,後に肝硬変や肝細胞がんおよび門脈圧亢進症による合併症を起こし治療に難渋することが多かった.近年,抗ウイルス療法によりB型,C型肝炎ウイルスは駆逐もしくは制御可能となり,肝硬変と肝細胞がんも減少している.消化性潰瘍はヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の慢性感染が発症に大きく関わることが判明し,除菌が可能となった現代では新規発症は激減した.代わりに,萎縮性胃炎に伴う低酸から,除菌や未感染に伴う高酸へと変化し,逆流性食道炎など酸関連疾患が増加している.さらに,大腸腺腫,大腸がん,潰瘍性大腸炎やクローン病など下部消化管疾患が激増し,近年の小腸研究の進歩から小腸を標的とした新規薬剤も多数登場している.その他,膵臓がんは急増しているがいまだ予後不良な疾患であり,早期発見への取り組みが非常に大切となっている.

原著
  • 井芹 有紀, 大山 隆, 高守 史子, 宮川 純子, 林 愛, 富樫 理子, 酒見 隆信, 梅村 創, 南 美和子, 市場 正良, 岩坂 剛
    2020 年 34 巻 5 号 p. 693-701
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    目的:Helicobacter pyloriH. pylori)感染と人間ドック受診者の健診データとの関連を調べた.

    方法:2013年から2015年に高木病院 予防医学センターで人間ドックを受診し,抗H. pylori抗体を検査した未除菌者(基礎疾患合併者を除く)1,816名(年齢51.5歳,男性53.4%)を対象とした.陰性907名(年齢50.1歳,男性52.1%),陽性909名(年齢52.8歳,男性54.7%)であった.男性970名(年齢52.5歳,陽性率51.2%),女性846名(年齢50.4歳,陽性率48.7%)であった.

    結果:年齢補正後重回帰分析で,H. pylori陰性と陽性で有意差を認めた項目は,WBC(p<0.001,β=243.84),HDL-C(p=0.002,β=–2.17),LDL-C(p=0.003,β=3.94),血小板数(p=0.007,β=0.62),Hb(p=0.024,β=–0.16)であった.男性でHb(p=0.003,β=–0.2),女性でWBC(p<0.001,β=372.27),HDL-C(p=0.002,β=–2.98),Hb(p=0.014,β=–0.19),血小板数(p=0.015,β=0.85),LDL-C(p=0.028,β=4.23)に差を認めた.

    結論:H. pylori感染は血算や血清脂質と関連があり,女性の方が影響を受けやすいことが示された.

  • 近藤 圭一郎, 吉川 三菜美, 犬童 直美, 藤井 廉, 生松 泰典, 田邊 恵, 大町 春菜, 中島 好子
    2020 年 34 巻 5 号 p. 702-709
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    目的:体組成分析を用いて特定保健指導が骨格筋量に与える影響を検討した.

    方法:特定保健指導該当者で初回面接時と指導効果判定時に体組成分析を評価できた45人の保健指導効果と四肢骨格筋指数(SMI)変化の関係を検討した.保健指導は食事摂取制限,有酸素運動,禁煙を行ない,保健指導後3ヵ月以上経過して体重3kgないし5%以上または腹囲3cm以上減少したものを改善群,目標達成しなかったが改善したものを一部改善群,保健指導後に数値が不変または増悪したものを不変増悪群とし,指導後SMIと指導前SMIの差を指導前SMIで除した数値をSMI変動率(%)とし,3群間のSMI変動率を比較した.

    結果:改善群16例,一部改善群22例,不変増悪群7例で,指導前の体重,腹囲,BMIは改善群が他の2群より大きく,指導前体重で改善群と一部改善群の間に差が認められた.全体でのSMIは指導前8.26±0.74kg/m2,指導後8.18±0.71kg/m2で差がなかった.SMI変動率は改善群(n=16),–1.84±2.46%,一部改善群(n=22),–0.38±2.14%,不変増悪群(n=7),0.76±1.29%で,改善群と不変増悪群の間に有意差を認めた(p<0.05).また,体重変化量,体重変化率,腹囲変化量とSMI変動率の間にいずれも正の相関がみられた(それぞれp<0.05,p<0.05,p<0.05).

    結論:摂取カロリー制限と有酸素運動による特定保健指導で改善する群の方が四肢骨格筋量も減少する可能性があるかもしれない.

  • 北川 達士, 船橋 一真
    2020 年 34 巻 5 号 p. 710-717
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    目的:頚動脈エコー検査の横断的,縦断的検討を行う.

    方法:頚動脈エコー判定について,正常群(A),1.1mm以上のIMT(内膜中膜複合体肥厚)や頚動脈比20%未満のプラーク形成を認める群(B),頚動脈比20%以上のプラーク形成を認める群(C)の3群に分類し,関連因子につき多変量解析を用いて探索した.また,過去と現在のエコー所見の変化を改善群,無変化群,悪化群に分け,説明変数の検査値の差を算出して両者の関連を統計学的に検討した.

    結果:A,B,C群の相関比では,年齢,性別,腹囲,収縮期血圧,クレアチニン,HDL-C,LDL-C,FPGに有意差を認めた.A群とB+C群の2群間での多変量解析による検討では,年齢,性別,収縮期血圧,HDL-C,LDL-Cに有意差を認め,年齢の標準偏回帰係数は1.02と際立って高かった.A+B群とC群の多変量解析では,年齢と性別以外に有意差はなかったが,C群にFPGが高い傾向を認めた.エコー所見の経時的な変化と説明変数の検査値の差をCox比例ハザードモデルで検討したところ,クレアチニンの増加とBMIの減少が所見の悪化に関連していた.

    結論:頚動脈エコーの動脈硬化所見は加齢の影響が大きく,異常所見の検出には脂質異常症や血圧が関連していた.また,プラークの増大には耐糖能異常のかかわりが示唆された.経時的なエコー所見の変化を調べたところ,悪化群ではクレアチニン値の上昇とBMIの減少が関連しており,これらの変化に注意すべきと思われた.

  • -クラウドスクリーニングサービスの展開と有用性-
    佐藤 憲一, 青木 空眞, 阿部 杏奈, 小沢 晃世, 星 憲司, 川上 準子, 中川 吉則, 森 弘毅, 飛田 渉, 吉岡 明美, 佐藤 ...
    2020 年 34 巻 5 号 p. 718-730
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    目的:甲状腺機能異常はしばしば見逃されている.そこで,我々は人間ドックで測定済の基本的検査データを使用して甲状腺機能異常をスクリーニングする簡便で安価な診断支援の方法を開発した.本報では,実用化されたスクリーニングサービス(SS)実施例での成績について報告する.

    方法:人間ドック3施設において,SSにより甲状腺機能異常疑いで専門検査勧奨となった受診者には,残血からFT4とTSHを測定した.ホルモン測定によりもれなく異常の有無と重症度を確定して,発見頻度・陽性的中率(PPV)などを評価した.

    結果:新たに発見された機能異常者は23名で,発見頻度は施設ごとに0.11%,0.46%,0.26%であり,PPVは16.3%,37.5%,20.5%であった.このうち,医師が診察時に甲状腺機能異常を疑ったのは2名のみであった.甲状腺中毒症での2時点予測の精度は1時点予測に比べて大きく向上しており,時系列予測が優れていることを検証できた.

    結論:SSは測定済みの基本的検査データを2次利用するだけの簡便で安価なバセドウ病や甲状腺機能低下症の新しいスクリーニング法として有用であり,甲状腺機能異常を呈している可能性がある受診者を人間ドックから専門医につなげるメリットが確認された.全国的に使用され,気づかれずにいる多数の患者を発見して治療につなげることが期待される.

  • 若松 弘之, 大内 輝, 千田 彰一, 岡崎 幸生, 山田 俊幸, 谷口 信行
    2020 年 34 巻 5 号 p. 731-736
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    目的:循環器健診における心臓聴診の有用性を検討した.

    方法:2018年4月から1年間の健診受診者9,763例(母集団)のうち,新規に循環器疾患と診断された症例に対してスクリーニング方法別(心電図検査,胸部X線検査,心臓聴診)の発見動機を後ろ向きに調査した.

    結果:新規診断は52例(調査対象)であった.心電図検査,胸部X線検査,心臓聴診のスクリーニング方法別の有所見数は,心電図検査が42件で最も多く心臓聴診が23件,胸部X線検査が8件の順であった.単独で発見された31症例のスクリーニング方法別の内訳は,心臓聴診が15例,心電図検査が16例,胸部X線検査が0例であった.聴診による心雑音のみで発見された15例は,いずれも弁膜症でかつ健診時無症状あった.心臓聴診のみで中等度以上の弁膜症が4例みつかり,その4例中1例は健診6ヵ月後に弁置換術となった.

    結論:心臓聴診は弁膜症のスクリーニング方法として必須と考えられる.

  • 成島 道昭
    2020 年 34 巻 5 号 p. 737-742
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    目的:昭和大学横浜市北部病院人間ドックにおける肺がん検診の現状について検討する.

    方法:2009年4月から2019年3月までの期間で,当院人間ドックにおいて低線量CTを用いた肺がん検診を受診した1,952名(男性1,455名,女性497名)を対象に,要精検率などがん検診精度管理指標を中心に後ろ向き調査を行った.

    結果:要精検率は3.8%(75名/1,952名),精検結果判明率は60.0%(45名/75名),発見肺がん数5名(原発不明1名含む),切除肺がん数3名,Ⅰ期肺がん数3名,肺がん疑い濃厚かつ診断未確定7名(悪性胸膜中皮腫疑い1名含む)であった.また,精検受診率は85.3%(64名/75名),肺がん発見率は0.20%(4名/1952名),精検による陽性反応的中度は5.3%(4名/75名)であった.

    結論:がん検診精度管理指標(プロセス指標)と比べ,精検受診率,肺がん発見率および陽性的中度はいずれも高い数値であり,当院肺がん検診の質担保がなされているものと思われた.

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