人間ドック (Ningen Dock)
Online ISSN : 2186-5027
Print ISSN : 1880-1021
ISSN-L : 1880-1021
35 巻, 5 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
巻頭言
総説
  • 日山 亨
    2021 年 35 巻 5 号 p. 685-691
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

     人間ドックや健診(検診)が関係した医療裁判で,判決が平成元年1月から令和元年6月末までに出されたものは24事例認められた.検査別に見てみると,もっとも多いのが胸部X線(12事例)で,次いで,血液検査と胃X線検査(それぞれ3事例)であった.原因別に見てみると,もっとも多いのががんの見落とし(16事例)で,次いで,偶発症(5事例)であった.

     これまでのがんの見落としが関係した訴訟事例の考え方を胃がんの見落としに当てはめると,ほとんどの医師が一致してがんを疑う(否定すべき)病変と判断して,精密検査を行うような病変を見落とし,裁判になった場合には,担当医の責任が認められる可能性は高いと思われる.がんが見つかった部位を撮影した画像が見当たらない場合やがんが見つかった部位を撮影した画像の質がよくなく,病変の有無が判断できない場合は,鑑定医師の意見やその他の状況を鑑みて,裁判官は判断することとなる.

原著
  • 濵西 大成, 黒田 知美, 鈴木 晴美, 坂井 春男, 木村 政人
    2021 年 35 巻 5 号 p. 692-697
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:当施設では人間ドック受診者に対しアンケートはがきを渡している.アンケート内容はスタッフの対応,環境・設備,健診内容,待ち時間,リピート希望について評価をしてもらうものである.2014年度から2017年度のアンケートはがき4,941件のデータを集計し,リピート希望と各アンケート項目との間に相関性があるかを調査する.

    方法:スタッフの対応,環境・設備,健診内容,待ち時間は5段階評価で,リピート希望は4段階評価での回答形式であり,2014年度から2017年度に回収したアンケートはがき4,841件(既定質問項目の記載がないはがきは除外)を対象とした.今回の調査ではスピアマンの順位相関係数(rs)を用いて,リピート希望に強く関連する項目を求めた.

    結果:rsが一番大きな値となったのは2017年度の「スタッフの対応」で0.69,次点で2014年度と2017年度の「環境・設備」で0.67だった.また,2015年度の「待ち時間」は0.58となり一番低い値だが,rsの値をみると2014年度から2017年度のすべての質問項目とリピート希望との相関係数は0.58以上0.69以下となり,強い相関を認めた.

    結論:当施設のアンケート結果を対象とした今回の調査では,「環境・設備」「スタッフの対応」に対する評価が,リピート希望と強く相関している結果となった.しかし他の項目も十分に強い相関を示唆できる値であり,すべてのアンケート項目の評価を上昇させることで,よりリピート希望の評価が高くなると考える.

  • 早原 千恵, 中西 隆子, 日下部 昌太郎, 門屋 誠, 三木 隆, 中野 稔雄, 山本 一郎
    2021 年 35 巻 5 号 p. 698-703
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:近年の人間ドック受診者の受け入れ枠の増大に伴い,待ち時間の増加による受診者からのクレームや午前中で健診が終了しないことが多くなった.腹部超音波検査の検査順を新たに変更することにより検査待ち時間を短縮できるかを検討した.

    方法:人間ドックにかかわるスタッフへのアンケートを行い,健康診断における待ち時間が長い検査項目の把握を行った.このアンケート結果を基に検査の順番を変更し,その前後での10分ごとの腹部超音波検査の待ち時間の分布を比較検討した.

    結果:アンケート調査より,待ち時間が長いと感じる検査項目は,医師による診察・腹部超音波検査・看護師による記入済問診票の内容確認の順に多かった.アンケート結果を基に腹部超音波検査を早く終了させるため,検査の誘導順序の見直しを行った.腹部超音波検査の10分ごとの待ち時間の人数の割合は変更前では10分以内が51.0%であったが変更後には68.7%となり,変更後では40分以上の待ち時間はなくなった.変更後には腹部超音波検査受診者全体の終了時間も早くなった.

    結論:誘導方法を変更することで,腹部超音波検査自体の待ち時間は減少した.また検査終了時間も早くなった.受診者の快適性の向上や受け入れ増加を見込める可能性がある.

  • ―新潟方式の試作とそのパイロットスタディによる効果の評価―
    加藤 公則, 田代 稔, 鈴木 沙織, 大塚 政人, 小林 隆司, 三木 扶久子, 春木 匠, 小松原 祐介, 藤原 和哉, 津下 一代, ...
    2021 年 35 巻 5 号 p. 704-712
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:2018年度より特定健診・特定保健指導も第3期を迎え,「柔軟な運用による特定保健指導のモデル実施(以下モデル実施と略す)」が設けられた.このモデル実施を用いた新たな特定保健指導「新潟方式」を確立するために,現状の保健指導180ポイントにおいて,その効果に有効下限閾値があるのかを検証した.

    方法:対象は,2018年4月から12月までに特定健診を受けた人で,特定保健指導の積極的支援の対象者202人.A群 0ポイント,B群 20ポイント,C群 100ポイント,D群 180ポイントの4群に分け,保健指導終了の3ヵ月後の実績評価時に,腹囲2.0cm以上かつ体重2.0kg以上相当に減少した者(達成者)の割合を群間比較し,有効下限閾値の有無を検討した.また翌年の特定健診データとも比較検討し,その特定保健指導効果の持続性も確認した.

    結果: 実績評価時の達成者の割合については,A群20.4%,B群36.0%,C群28.0%,D群12.5%であり,BとD群間のみ有意差が認められた.実績評価時の達成者が翌年も達成者のままでいた人はA群80.0%,B群88.9%,C群92.3%,D群100%であり,群間に有意差はなかった.

    結論:実績評価時において,保健指導の効果にはポイント数に依存する関係は存在せず,有効下限閾値は存在しなかった.また,翌年も特定保健指導の効果が持続していた.

  • ―コールセンター開設からIVR導入の試み―
    岩井 道子, 田中 仁朗, 山口 理惠, 竹田 しのぶ, 谷田 真紀子, 婦木 祐市, 岡部 佳代子, 園尾 広志, 小林 亮
    2021 年 35 巻 5 号 p. 713-723
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:受診者の増加により「電話がつながりにくい」という意見が増加したため,施設内にコールセンターを開設し,応答率90%以上を目標とし,顧客満足度向上に取り組んだので報告する.

    方法:2012年から2018年に健診予約業務について以下の改善を行い,応答率を調査した.電話応対に関するアンケートを2011年と2020年に実施し,顧客満足度の評価を行った.2012年1月:オペレーター支援・運用システムにより入電情報を分析し,コールの多い時間帯に重点的にオペレーターを配置.2012年4月:コールセンターを開設,ガイドラインやトークスクリプトを作成し,電話応対の標準化を図り,応対品質向上のために外部講師による指導を開始.2014年1月:電話,郵送に加えてFAX予約を開始し,PCで申込書を管理.2017年8月:自動音声応答(Interactive Voice Response: IVR)導入.

    結果:コールセンター開設前の応答率は46.5%であったが,開設後の応答率は64.6%に改善した.PCFAX予約導入後,応答率は72.0%になり,IVR導入後に応答率は98.5%となった.2020年アンケートで「電話がつながらない」という意見は減少した.

    結論:コールセンター開設,IVR導入により応答率は改善し,顧客満足度は向上した.

  • 中居 賢司, 村上 晶彦, 吉岡 邦浩, 田中 良一, 橋本 康二, 鈴木 俊彦, 三田 修, 三田 享子, 房崎 哲也, 森野 禎浩, 狩 ...
    2021 年 35 巻 5 号 p. 724-730
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:日常の人間ドック肺がんCT検診実施例で,視覚による定性的冠動脈石灰化の評価とリスク要因の意義について検証した.

    方法:2019年4月より2020年3月,肺がんCT検診を施行した184名(平均年齢60±9歳,男性172例,女性12例)を対象とした.肺がん精密検査として実施した胸部CT例において,視覚による冠動脈石灰化の定性的評価を行った.胸部CTは16列マルチスライスCT(Supria®:日立製作所,東京),心電図非同期,スライス5mmで行った.主要冠動脈領域に2スライス以上の層状石灰化を認めるものを冠動脈石灰化陽性<moderate>と判定した.冠動脈石灰化の有無と生活習慣病関連健診項目やFramingham scoreについて検証した.

    結果:1.184例中,2スライス以上の冠動脈石灰化<moderate>は30例(16.3%),平均年齢65.7±5.3歳(55~77歳),男性で高頻度(90%)であった.2.冠動脈石灰化<moderate>群の年齢をマッチさせた石灰化<none>群78例とで冠動脈石灰化に関する健診項目のロジスティック解析を実施した.年齢(≧70歳),BMI(≧25),糖尿病,LDLコレステロール(≧180mg/dL),12誘導心電図異常が有意な関連因子であった.Framingham scoreは,冠動脈石灰化<moderate>群で有意に高値であった(10.0±4.2 vs 6.9±2.9,p<0.01).

    結論:肺がん検診時の心電図非同期胸部CTでの視覚的定性による冠動脈石灰化は生活習慣病と関連し,人間ドックにおける冠動脈疾患のリスク評価に有用な手法と考えられた.

  • 千田 裕子, 加藤 理恵子, 伊藤 絵理, 内田 裕美, 奥田 桂子, 藤井 清孝, 仲野 敏彦, 長尾 啓一, 山口 和也, 瀧澤 弘隆
    2021 年 35 巻 5 号 p. 731-738
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:腹部超音波再検査における膵描出能向上について検討した.

    対象および方法:対象は2017年11月~2018年10月の1年間に当院人間ドックおよび生活習慣病検診で腹部超音波検査(ultrasonography: US)を施行した14,096名.2017年11月より膵描出能向上と均一化を図るため,一部の所見名変更と独自のマニュアル作成を行っていた.検診時,膵に描出不能部位を有した受診者に再検査の案内を送付し希望者に後日,USを施行した.再検時に描出改善のない場合は飲料摂取後検査を追加した.再検査実施例について検診時,再検時,飲料摂取後(以下3時点)の膵描出程度を肥満度別に纏めた.

    結果:膵描出不能部位を有した429例中,40名から再検査の申し込みがあり,このうちBMI 37.0の高度肥満例を含む12例は飲料摂取なしに描出良好となった.再検時に描出不能部位を有した残り28例に胃充満法を実施したところBMI 45.0の高度肥満例を含む16例の全例で描出改善を認めた.

    結論:検診時に膵描出不能部位を有した場合,日を改めて再検査することや,胃充満法の併用で顕著な描出改善が認められ,造影画像診断必要例の減少効果が期待される結果を示した.今後は受診者への再検査促進に力を入れ検討を重ねたい.

  • 島津 将, 小林 伸行, 小山 和貴, 濱田 桂, 入江 文, 萬造寺 知子, 渡部 洋行, 土屋 敦
    2021 年 35 巻 5 号 p. 739-747
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:40歳以上でメタボリックシンドローム(MetS)の者は,40歳以前からの不適切な生活習慣により生じるとされ,40歳未満から生活習慣を改善する必要がある.そこで,40歳未満男性受診者のMetS群,メタボリックシンドローム予備群(予備群),および腹囲正常で検査値異常を示す非メタボ高危険群(危険群)の現状について検討した.

    対象および方法:2017年度のMetS判定可能な40歳未満男性受診者2,527名につき,MetS群,予備群,危険群,それら以外を健康群に分類し,それぞれ体型や臨床検査値および生活習慣につき検討した.

    結果:MetS群は151例(6.0%),予備群は408例(16.1%),危険群は43例(1.7%)でみられた.MetS群,予備群では,「20歳時から10kg以上の体重増加」があり,「食事摂取の速度」が速かった.飲酒は危険群で「毎日」の割合が高率であり,1回の飲酒量は健康群に比べ,各群で多かった.また,運動習慣は健康群で実施している者が多いわけではなかった.喫煙や食習慣では,各群で有意差を認めず,健康群でも不適切な生活習慣を送っている者は多いと考えられた.

    結論:MetS群,予備群では体重増加を認めている者が多く,まずは肥満にならないようにする必要がある.一方で,健康群にも,不適切な生活習慣を送っている割合は多く,現在の健康状況にかかわらず生活習慣を改善する必要がある.

  • 大西 真弓, 吉岡 慎司, 高橋 佳孝, 清水 幸裕
    2021 年 35 巻 5 号 p. 748-756
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:病院に勤務する職員を対象にロコモティブシンドローム(ロコモ)の実態を明らかにし,その予防のための対策を講じること.

    方法:急性期病院Aに勤務する20~50歳代の職員239名(平均年齢39.20±10.31歳),男性63名,女性176名)に立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25の3項目からなるロコモ度テストを実施した.結果を年齢別,職種別,ロコモ度テストの該当項目別に集計し,SPSSを用いて統計解析を行った.

    結果:ロコモ該当者は62名で全体の25.9%を占めた.ロコモ該当者の割合は50歳代で40歳代の約3倍に増加した.ロコモの該当項目では,看護師は50歳代でロコモ25単独,運動機能とロコモ25の両方に該当する割合が高くなったが,医師,事務職,技術職では50歳代で運動機能単独による該当割合が40歳代までと比べ高くなる傾向がみられた.看護師においては他職種と比較して有意に女性が多いことと,疾患特異的・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度(Japan Low Back Pain Evaluation Questionnaire: JLEQ)の結果で,50歳代で腰痛の程度が増加することから,腰痛がロコモ該当に関連していると考えられた.

    結論:本研究では,年代によるロコモ該当率が既報とは異なっており,その理由として職種や性別が関連していると考えられた.また,看護師は50歳代で腰痛がロコモ該当の要因として挙げられ,腰痛予防がロコモ対策に重要であることが推察された.

feedback
Top