人間ドック (Ningen Dock)
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36 巻, 5 号
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巻頭言
総説
  • 山田 悟
    2022 年 36 巻 5 号 p. 637-649
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

     どの医学分野でもそうであるが,臨床糖尿病学も日進月歩である.本稿では,ここ数年の臨床糖尿病学におけるトピックスを取り上げて概説した.すなわち,①スティグマとアドボカシー,②クローズドループ,③ Ambulatory Glucose Profile(AGP),④糖質制限食,⑤Sedentary行動時間の減少,⑥SGLT2阻害薬の躍進,⑦GLP-1受容体作動薬の躍進,⑧超・超速効型インスリンアナログの登場,⑨ミトコンドリア機能改善薬の登場,⑩減量・代謝改善手術の普及である.また,⑪その他(特定保健指導,持続血糖モニタリング(Continuous Glucose Monitoring: CGM),食後高血糖)についても触れた.これらの事項は近い将来,初期研修医レベルが知識として持っているという時代が到来するであろう.

原著
  • 亀谷 富夫
    2022 年 36 巻 5 号 p. 650-655
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:喫煙と肥満は,血球検査に大きな影響を及ぼす生活習慣であるが多数例での詳細な報告は少ない.喫煙と肥満が血球に及ぼす影響を検討した.

    方法:2019年4月1日から2020年3月31日までに高岡健康管理センターで健診を受け,妊娠者と喫煙の有無とBMIが不明のものおよび精密検査で骨髄増殖性疾患と診断された者を除外した男性3,969名,女性3,722名を対象とした.白血球数,赤血球数,Hb値,MCV値,血小板数に関して,BMI,喫煙本数,CRP値,飲酒量との関連について男女別に重回帰分析を行い検討した.

    結果:血球の重回帰分析では,喫煙は男性では有意に白血球数,血小板数を増加させ,Hb,MCVを上昇させ,女性では有意に白血球数,血小板数を増加させた(それぞれp<0.001).BMIの増加は有意に白血球数,赤血球数を増加させ,Hbを上昇させ,MCVを低下させていた(それぞれp<0.001).また女性ではBMIの増加は血小板も有意に増加させていた(p<0.001).白血球への影響はBMIより喫煙の方が大きかった.逆に赤血球への影響は喫煙よりBMIの影響が大きかった.1日20本の喫煙は,男性で1,582/μL,女性で2,468/μLの白血球を増加させ,男性で0.2g/dLのHbを上昇させると推測された.またBMIは10kg/m2あたり男性で444/μL,女性で620/μLの白血球を増加させ,男性で0.8g/dL,女性で0.5 g/dLのHbを上昇させると推測された.

    結論:喫煙と肥満は,有意に血球検査に影響を与えていた.白血球は特に喫煙の影響が,Hbは肥満の影響が強かった.

  • 吉原 紘子, 岡﨑 陽子, 織田 寛子, 鈴木 圭一, 吉岡 辰泰, 川上 健司
    2022 年 36 巻 5 号 p. 656-662
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:当院人間ドックにおける簡易睡眠ポリグラフ検査(簡易polysomnography(PSG)検査)の呼吸イベント指数(respiratory event index: REI)と身体所見等の関連性について検討した.

    方法:2016年5月から2020年3月に当院の人間ドックを社員46,171名(男性:41,418名,女性:4,753名)が受検した.そのなかで自ら簡易PSG検査をオプション検査として希望した977名(男性:899名,女性:78名)を対象とした.簡易PSG検査の結果は,REIで正常から重症睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome: SAS)と4段階に分類し,中等症SASと重症SASおよび日本語版エプワース眠気尺度(Japanese Epworth Sleepiness Scale: JESS)が11点以上の軽症SASについては精密検査の対象とした.REIと年齢,体重,BMI,収縮期血圧,JESSとの関連性について検討した.

    結果:受検者の871名(89.2%)に軽症SAS以上の睡眠呼吸障害を認め,そのうち625名(64.0%)が要精密検査となった.REIと身体所見等の相関係数は,BMI 0.440,体重 0.392,収縮期血圧 0.251,年齢 0.198,JESS 0.047であった.

    結論:今回の検討では,REIとBMIは正の相関を認めた.また,REIと体重,収縮期血圧には弱い正の相関があり,これまでの研究と同様に肥満とSASとの関連性が示唆された.

  • ―仁戸名糖尿病コントロール研究より―
    八木ヶ谷 裕美子, 西村 元伸, 佐藤 眞一, 小川 正恵, 岩﨑 智子, 大村 千登恵, 今井 綾, 宮沢 幸世, 関 直人, 吉岡 みど ...
    2022 年 36 巻 5 号 p. 663-671
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:糖尿病重症化予防は国や自治体の喫緊の課題となっている.そこで,健診機関と糖尿病治療の専門性をもつ医療機関との直接連携により健診で高血糖要受診と判定された方を受診に導くこと,専門外来の受診による初期教育などで糖尿病重症化予防を図ることを目的とした仁戸名糖尿病コントロール研究を2018年に起ち上げた.今回は高血糖未受診者に対する健診当日の保健師による積極的介入の成果を報告する.

    方法:前年の健診で高血糖要受診とされた者をあらかじめ抽出し,健診当日に該当者の血糖値を即時把握する.再び血糖が受診勧奨域でかつ医療機関の受診が確認できない者に対し,健診中に保健師から糖尿病の詳しい病態説明を含めた保健指導と,さらに糖尿病専門外来の受診をその場で予約する積極的介入を行い,対象者の医療機関受診と耐糖能に対する効果を検証した.

    結果:2017年にのべ32,441名が健診を受診し,高血糖要受診とされた者は938名であった.このうち翌年に健診を受診した488名の血糖値を即時把握し,再び受診勧奨域でかつ医療機関の受診が確認できなかった250名の動向をさらに翌年の受診時に確認したところ,前年に保健師による積極的介入ができた群では積極的介入ができなかった群に比べ,医療機関の受診を確認できた者が有意に多かった(p<0.00005).

    結論:高血糖要受診と判定されながら医療機関への受診に結びつかない者に対する受診勧奨に,健診当日の保健師による積極的介入は有効である.

  • 南部 美由紀, 桐原 優子, 高橋 俊明, 齊藤 研
    2022 年 36 巻 5 号 p. 672-677
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:禁煙後に体重増加がみられることが多い.禁煙後の体重の経年変化と喫煙本数,食行動の関連を明らかにし禁煙指導に活用する.

    方法:2015年度から2019年度まで当院特定健康診査連続受診者の男性1,923名のうち,禁煙をした受診者の体重の経年変化について検討する.また,1年目の体重変化が維持または減少群,体重増加が3kg未満群,3~5kg群,5kg以上群の4群に群別し,禁煙前の喫煙状況(1日19本以下・20本以上)の割合や標準的な質問票の食行動に関する回答を禁煙前後で比較した.

    結果:禁煙継続年数ごとの体重変化量は1年目平均+2.20kg,2年目+0.55kg,3年目-0.04kg,4年目-0.44kgであった.禁煙1年目の体重増加割合をみると,喫煙状況19本以下では維持・減少群24.4%,3kg未満群56.1%,3~5kg群14.6%,5kg以上群4.9%であった.喫煙状況20本以上では維持・減少群10.9%,3kg未満群35.9%,3~5kg群37.5%,5kg以上群15.6%で,19本以下と比較すると体重増加の割合が高く有意差がみられた.また,食行動別に1日20本以上群と19本以下群を比較すると「人と比較して食べる速度が速い」人が1日20本以上群で禁煙後に有意に増加していた.

    結論:禁煙者の8割は禁煙1年後,平均約2kg体重が増加していたが,3年目以降は増加がみられなかった.喫煙本数が1日20本以上の場合体重増加量が多いため,「食べる速さ」に留意するよう指導が必要である.

  • 稲田 慶一, 永澤 英孝, 北川 あい
    2022 年 36 巻 5 号 p. 678-683
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:一般的に基礎心疾患を有さない心室期外収縮(premature ventricular contraction: PVC)の予後は良好とされているが,頻回のPVCにより心機能低下・心不全を発症する症例が散見される.本検討の目的は当院の健診・人間ドックにてPVCを指摘された受診者の特徴を明らかにすることである.

    方法:2010年1月から2018年12月までの9年間に12誘導心電図検査を施行し,単回検査中2回以上のPVCが記録された588名のなかでその後24時間ホルター心電図による精密検査を施行した100名を対象とした.ホルター心電図のPVC総数が5,000回未満(PVC少数群,n=63),以上(PVC多数群,n=37)の2群に分けて比較・検討した.

    結果:PVC少数群,PVC多数群の24時間のPVC総数はそれぞれ1,245±1,507(1~4,733),11,931±5,842(5,099~30,671)回であった.PVC2連発,PVC3連発以上の頻度はともにPVC多数群で有意に高かった(PVC2連発:1.3±3.6対62.0±145.8回,p=0.02,PVC3連発以上:0.05±0.21対0.49±1.28回,p=0.04).患者背景では,LDLコレステロール,中性脂肪ともに有意にPVC多数群で高かった(LDL:110.7±25.7対121.9±26.7mg/dL,p=0.04,中性脂肪:81.7±44.2対105.0±59.7mg/dL,p=0.04).

    結論:ホルター心電図による精密検査を施行し得た症例の約4割に頻回のPVCが認められ,安静時心電図検査で複数のPVCが認められた症例では定期的な経過観察が望ましいと考えられた.特にPVC多数群ではLDLコレステロール,中性脂肪が高い傾向が認められ,脂質異常を伴う症例では精査を勧めるべきと考えられた.

  • 東 ゆかり, 佐藤 泰子, 原口 美明, 小竹 文雄
    2022 年 36 巻 5 号 p. 684-690
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:当日医師からの結果説明とそれに基づいた保健指導の実施状況を把握するとともに,その効果を評価すべく生活習慣病に関連した検査項目の1年後の変化について比較検討を行う.

    方法:2018年度に血圧・脂質・血糖・体重において要経過観察もしくは要治療判定があった554人(男性360人,女性194人,平均年齢53.5±9.3歳)を対象とした.ただし,2019年度投薬治療者は対象から除外した.対象において指導実施率や年齢性別の割合などを算出した.また,対象を指導実施群(430人)と未実施群(124人)に分け,収縮期血圧(n=45)・拡張期血圧(n=52)・LDL-C(n=264)・HDL-C(n=17)・中性脂肪(n=30)・HbA1c(n=89)・体重(n=277)の7項目について2019年度と比較した.統計解析にはt検定を用いた.

    結果:指導実施率は77.6%であった.対象は40~60歳代男性が59.6%を占めていた.実施群において,収縮期血圧・拡張期血圧・LDL-C・HDL-C・中性脂肪において有意な改善が認められた.未実施群において,有意な改善が認められたのは,LDL-Cのみであった(p<0.05).HbA1cについてはいずれも有意な改善が認められなかった.

    結論:現在の当日結果説明と保健指導は検査データ改善にある程度効果があったと評価できた.HbA1cについては検査データの改善が認められなかったことから,指導内容や指導方法の見直しが課題となった.

  • 牛島 千衣, 岡村 建, 中埜 杏奈, 武田 あゆみ, 緒方 徹, 今村 明秀, 望月 直美, 山永 義之
    2022 年 36 巻 5 号 p. 691-700
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:健診における甲状腺超音波検査(ultrasonography: US)の成績,特に腫瘤性病変の特徴を検討した.

    方法:2018年4月1日から1年間にUSを実施した未治療の5,714例(女性3,971例,男性1,743例,平均年齢51.3±10.5歳)を対象とした.検出した腫瘤の最大径を計測,個数については単発と2個以上の多発に分類し,びまん性病変(腫大,不均質,粗雑など)の合併についても検討した.

    結果:2,333例(40.8%)に何らかの所見―充実性腫瘤1,551例(27.1%),嚢胞性病変1,002例(17.5%),びまん性病変467例(8.2%)―を認めた.二次検診の結果が判明した136例中,バセドウ病3例(0.1%),慢性甲状腺炎38例(0.7%),甲状腺乳頭癌9例(0.2%)であった.腫瘤性病変についてさらに検討すると,腫瘤径は対数正規分布を示し(p<0.0001),平均±2SDは6.8(3.2~14.6)mm,1,054例(68.0%)は単発,497例(32.0%)は多発性で,嚢胞性や腫大など随伴所見を527名に認めた.多発性または>20mmの腫瘤が高頻度に随伴所見を伴った.年齢とともに腫瘤が存在する頻度や多発する頻度が上昇し,その傾向は特に女性において顕著であったが,腫瘤の最大径は年代別差を認めなかった.

    結論:USにて27.1%の高頻度に充実性腫瘤を検出し,0.2%に乳頭癌を認めた.腫瘤の最大径は対数正規分布し,加齢とともに頻度と数は増すが増大傾向は認めず,環境や加齢に伴う非増殖性の変化である可能性が示唆された.20mm以上の腫瘤形成は約1.2%と高頻度ではなかった.

短報
  • 近藤 武史, 吉川 祐代, 猪尾 真弓, 林 祥剛, 熊谷 仁人
    2022 年 36 巻 5 号 p. 701-705
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:2020年4月より子宮頸がん検診に液状化検体細胞診(liquid based cytology: LBC)法を導入し1年を経過した.従来法とLBC法を比較し当施設での経験について報告する.

    対象と方法:2019年度従来法21,502件と2020年度LBC法17,706件を集団検診と施設検診にわけて比較した.

    結果:標本不適正率:集団従来法0.6%,集団LBC法0.2%,施設従来法1.3%,施設LBC法0.02%.ASC-US(atypical squamous cells of undetermined significance):集団従来法1.6%,集団LBC法1.4%,施設従来法2.3%,施設LBC法2.2%.NILM(negative for intraepithelial lesion or malignancy):集団従来法97.2%,集団LBC法97.9%,施設従来法94.9%,施設LBC法96.9%.ASC-H(atypical squamous cells cannot exclude HSIL):集団従来法0.1%,集団LBC法0.1%,施設従来法0.3%,施設LBC法0.1%.LSIL(low grade squamous intraepithelial lesion):集団従来法0.1%,集団LBC法0.2%,施設従来法0.4%,施設LBC法0.5%.HSIL(high grade squamous intraepithelial lesion):集団従来法0.3%,集団LBC法0.1%,施設従来法0.5%,施設LBC法0.2%.要精検率:集団従来法2.2%,集団LBC法1.9%,施設従来法3.8%,施設LBC法3.1%.LBC法は従来法と比較して標本不適正率を有意に減少させた.検体処理業務や鏡検業務の負担軽減につながった.

    結論:LBC法の導入は不適正標本を減少させ,細胞検査士の負担を軽減した.細胞検査の質向上につながり,コロナ禍においても有用と考えられた.

臨床経験(活動報告)
  • 山口 直子, 金谷 美奈, 幸田 知世, 寺井 雅也, 日下部 昌太郎, 門屋 誠, 三木 隆, 中野 稔雄, 石橋 悦次
    2022 年 36 巻 5 号 p. 706-711
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:上部消化管内視鏡検査(以下,内視鏡)施行後,ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori: HP感染性萎縮性胃炎が疑われる受診者には医師から医療機関受診の必要性を説明していたが,人間ドック成績表に抗HP抗体価を反映した判定がされていないため,除菌治療を受けずに経過している症例があった.そのため,内視鏡判定の結果処理工程を改善し,医師のコメントが記載された内視鏡結果報告書を作成した.そして改善後の受診行動を検討した.

    対象と方法:約5ヵ月間に人間ドック内視鏡とHP抗体検査をした受診者のうち,医療機関受診が必要とされた35名を対象とし,電話による聞き取りを行った.

    結果:電話回答があったのは31名,電話不通者は4名で,そのうちHP除菌実施は21名,除菌薬未服が1名,除菌既往歴があり抗体価の経過観察指示は2名,HP感染がないと診断されたのが1名,医療機関未受診は6名,電話での受診勧奨後,除菌を実施したのは1名であった.

    結論:対象者の一部を除いては,HP抗体価を加味した内視鏡結果を理解し,自ら行動できていた.しかし,電話不通者を含めた一部の対象者の行動変容を起こすため,結果票以外からHPに関連する知識,除菌治療の情報提供が必要であると考察した.

委員会報告
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