人間ドック (Ningen Dock)
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37 巻, 5 号
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巻頭言
総説
  • 櫻井 薫
    2023 年 37 巻 5 号 p. 773-782
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     今後の歯科は従来の歯の形態回復中心の診療形態だけではなく,口腔機能の管理を行いその機能の維持・回復を行っていく必要があるという厚生労働省の方針から,2018年度の診療報酬改定で「口腔機能低下症」という新たな病名が加わった.口腔機能の低下を老化だということで放置しておくと単なる口の問題ではなく,要介護状態になるリスクが上昇する.口腔機能の低下に対応するには,従来のエックス線検査や歯周病の検査だけでは診断がつかない.診断するには本稿で紹介する検体検査や機能検査を実施しなくてはならない.今回は口腔機能が低下していく「オーラルフレイル」という概念と新病名「口腔機能低下症」の診断に用いる検査とその対応について解説する.そして歯科では珍しい当院で行っている「歯科ドック」についても紹介する.

原著
  • 木下 美紀, 大谷 隆浩, 鈴木 貞夫, 藤田 紀乃, 和田 昭彦, 松井 寛, 大島 慶太, 長岡 芳
    2023 年 37 巻 5 号 p. 783-791
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:人間ドック男性受診者の血清LDLコレステロール(以下,LDL-C)値と身体特性・生活習慣の関連を検討した.

    方法:2017,2018年度の同時期に当センターを受診した340名を対象とした.LDL-C値140mg/dLをカットオフ値とし,両年度のLDL-C値の変化から維持群,改善群,悪化群,非改善群の4群に分けて検討した.4群間の比較はχ2検定により行い,有意となった項目はBonferroni法により群間比較を行った.また,ロジスティック回帰分析によりLDL-C値140mg/dL未満と各項目との関連を検討した.

    結果:BMI,体脂肪率,脂肪肝,長期的体重増加,運動習慣,間食習慣において4群間に有意な差があった.BMI 25kg/m2以上(以下,肥満),体脂肪率25%超,脂肪肝あり,長期的体重増加ありの割合は非改善群が維持群より高く,運動習慣ありの割合は維持群と改善群が非改善群より高く,間食習慣ありの割合は悪化群が維持群と非改善群より高かった.前年度LDL-C値に基づく層別ロジスティック回帰分析により,前年度140mg/dL未満群は間食習慣ありが有意な負の関連を,140mg/dL以上群は前年度肥満が有意な負の関連を,運動習慣ありが有意な正の関連を示した.

    結論:間食習慣がある者はLDL-C値が140mg/dL以上に上昇し,非肥満者と運動習慣がある者はLDL-C値が140mg/dL未満に低下することが示唆された.

  • 道庭 賢一, 田中 孝浩, 小澤 政博, 春木 耕祐
    2023 年 37 巻 5 号 p. 792-799
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:生活習慣病の高リスク者を推定するため,定期健康診断データ・レセプトデータを使用し,生活習慣病5疾病(糖尿病,肥満症,高血圧症,脂質異常症,肝機能障害)の6年以内の発症を予測するリスクモデルを開発した.

    方法:2010年から2016年に定期健康診断を受けた191,458人から,糖尿病では79,414人を学習に,39,778人を検証に利用した.学習データとして健康診断データを,ケース判定の補助情報としてレセプトデータを使用し,ランダムサバイバルフォレストによりリスクモデルを学習した.予測精度向上のため,ランダムサバイバルフォレストの学習パラメータである決定木の数,決定木の深さ,説明変数の数,ノードサイズを最適化した.

    結果:3年以内発症予測のarea under the curve(AUC)は糖尿病で0.96(95%CI, 0.96-0.97),肥満症で0.94(95%CI, 0.93-0.94),高血圧症(収縮期)で0.86(95%CI, 0.86-0.87),脂質異常症(中性脂肪)で0.94(95%CI, 0.93-0.95),肝機能障害(AST)で0.85(95%CI, 0.84-0.86)であった.

    結論:健康診断データのみで予測を実行できる生活習慣病のリスクモデルを開発した.このリスクモデルは予測精度が高く,生活習慣病リスクの層別化に有用であることが示唆された.

  • 中居 賢司, 神谷 亮一, 村上 晶彦, 石田 由貴, 三田 修, 田代 敦, 芳沢 礼佑, 大和田 真玄, 森野 禎浩, 狩野 敦
    2023 年 37 巻 5 号 p. 800-807
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:人間ドック健診の経年記録で検出された非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation: NVAF)発症例の洞調律時のリスク要因と予防的意義について検証した.

    方法:人間ドック受診者3,186例(2020年4月~2021年3月,男性2,212例,女性974例)の標準12誘導心電図(ECG)でNVAFが記録された90例中,過去の時系列記録より洞調律が確認された30例(男性29例,女性1例)〈NVAF発症前洞調律群〉である.対照群は,同一期間内に人間ドック健診を実施し,年齢,性別を調整した連続する洞調律群(sinus rhythm groups: SR)172例(男性169例,女性3例)である.

    結果:NVAF発症前洞調律30例で統計学的に有意であった健診項目は,Body mass index(BMI),血圧,心胸郭比(cardiothoracic ratio: CTR),胸部レントゲン写真シルエットサイン,心電図左房負荷(negative P in precordial V1: Neg PV1)であった.ロジスティック回帰分析で有意であった項目は,BMI(≧29),CTR(≧50%),シルエットサイン,Neg PV1であった.新たに考案したNVAF予測スコアは,NVAF発症前洞調律群ではコントロールに比べて高値であった(8.1±1.7 vs 3.8±1.7, p<0.0001).NVAF予測スコアによるカットオフ値は6(曲線下面積 AUC 0.961),感度/特異度(0.86,0.967)であった.

    結論:肥満,心拡大,左房負荷,シルエットサインなどがNVAF発症の有用なリスク要因であり,NVAF発症予防への啓発が期待される.

症例報告
  • 松尾 史朗, 大眉 寿々子, 野田 吉和, 本間 智美, 鈴木 裕子, 田宮 青滋, 井關 治和
    2023 年 37 巻 5 号 p. 808-814
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     今回我々は,人間ドックでの心電図検査でWellens症候群を疑い,通院医療機関との連携によって早期診断,早期治療に成功した症例を経験した.症例は60代男性,狭心症と慢性腎臓病にて通院治療を受けていた.人間ドック心電図検査において前回記録にはなかった二相性T波がV3-5誘導に認められた.人間ドック受診時に胸痛はなかったが,1ヵ月前から時々朝に胸痛を自覚していた.Wellens症候群を疑い通院医療機関への早期受診を勧めた.冠動脈造影にて左前下行枝近位部に高度狭窄が認められ,同部位に経皮的冠動脈インターベンションが実施された.経過は良好,心電図は2ヵ月後に正常化した.

     Wellens症候群は,不安定狭心症の一種であり,胸痛がない時間帯のV2-3誘導における深い陰性T波あるいは二相性T波を特徴とする.前下行枝近位部に高度の狭窄病変が存在し,血行再建治療なしでは数日から数週以内に75%が広範前壁梗塞を発症する.この心電図変化は時に非特異的変化として見過ごされることがあることから,循環器内科,救急診療科領域では注意喚起がなされてきた.

     人間ドックでの心電図判読に際してもWellens症候群を見過ごさないようにせねばならない.前胸部誘導にT波の変化を認めた際には,受診者の胸部症状を確認するとともに,過去の心電図波形との比較検討を行うことが大切である.

  • 柴田 信博, 中田 浩史, 中嶋 啓雄, 高橋 正秀, 大久保 智治
    2023 年 37 巻 5 号 p. 815-818
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     血清CA125値(以下CA125)の異常高値は,卵巣がん,腹膜がんや子宮体部の悪性腫瘍の存在を示唆する.一方まれではあるが,子宮筋腫や子宮腺筋症などの良性子宮腫瘍や巨大な子宮筋腫を合併した原発性腹膜がんとの併存例でも異常高値を呈する症例が報告されている.症例は50歳女性.人間ドック健診の一環として,分子腫瘍マーカー検診と腹部超音波検診を受け,CA125の異常高値と8cmに肥大した子宮を指摘され,MRIによる精密検査を行った.MRIでは子宮腺筋症と診断されたが,8cmに増大して愁訴があることと腹膜がんの診査目的で,ロボット支援下子宮全摘術を行った.腹膜がんは否定され,CA125は術後基準値内に復した.閉経後の女性で,CA125の異常高値を認める5cm以上の子宮腺筋症では,患者とのインフォームド・コンセント(informed consent: IC)のもとに,後腹膜を含む付属器の鏡視下観察後に低侵襲下の子宮全摘術を行う選択肢も容認される.

委員会報告
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