症例1は5才姉。とくに誘因なく, 頭頂部にそう痒を伴う落屑性局面を生じ, ステロイド軟膏の外用で悪化した。初診時, 頭頂, 後頭, 左側頭部に境界鮮明な不整形の脱毛巣があり, 鱗屑と痂皮が付着し, 浸潤をともなう小豆大の扁平な紅色小結節が多発していた。トリコフィチン反応(ト反)は陽性であつた。病毛の直接鏡検で, 小胞子菌性寄生を認め,
Microsporum canisを分離した。ケルスス禿瘡と診断し, グリセオフルビン内服で治癒した。症例2は3才弟。姉の発症6週後に, 頭頂部に落屑性脱毛局面を生じた。初診時頭頂部に細かい鱗屑を付着した鶏卵大の不完全脱毛巣があつた。ト反は陰性であつた。同様に小胞子菌性寄生を認め,
M. canisを分離した。頭部浅在性白癬と診断し, グリセオフルビン内服で治癒した。ヘアーブラシ法による検索では, 両例ともに全部のスパイクから菌が生えた。また洗髪の前後では, 洗髪後に菌量の減少をみた。両親は病巣はなかつたが, 頭髪よりともに同菌を検出した。とくに治療しなかつたが, 4週後には陰性化し, 発病しなかつた。さらに初診の診察後の医師の頭髪より, 同菌を検出したが, 翌日には陰性化した。以上より
M. canis感染症では家族などの病巣のない頭髪より菌が分離されるが, 成人では治療の必要がないこと, 頭部白癬患者は空中に菌を散布しており, 直接の接触がなくても, 他人の頭髪に付着すること, 感染予防に頭部白癬患者の洗髪もある程度有用であることなどがわかつた。
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