症例は44歳女性。初診の約1ヵ月前,左前腕伸側に紅色丘疹が数個集簇して生じ,虫刺されと思い放置していたが,それらは融合して局面となり,次第に遠心性に拡大した。初診時,同部に45×30mm,馬蹄状,扁平隆起性で,触診上は柔軟な紅色局面が単発する。外縁は境界明瞭で連圈性,隆起の頂点はやや黄色調を呈する。なだらかに平坦化してきた中央部は表面粗慥で軽く落屑する。自覚症状,全身症状はない。臨床像は,尋常性狼瘡に類似したが,菌は組織学的にも培養でも陰性であった。組織所見が,真皮上層の著明な浮腫と,核破壊を伴う好中球主体の真皮細胞浸潤を示したことより,好中球性紅斑と診断した。非常に強いツベルクリン反応を呈したこと,及び生検部位に皮疹が新生拡大したことは,好中球性紅斑の特徴である素因のhypersensitivityによると考えた。1975年,篠と中溝が提唱した好中球性紅斑は,その重症型であるSweet症候群から,そのvariantであるrecurrent neutrophilic dermatosis of the face,及び軽症型までを,臨床像と組織所見が共通することより包括した概念であり,共通の病因や病態生理があることを窺わせる点ですぐれている。Neutrophilic dermatosisとは別個の概念であることを確認したうえで,好中球性紅斑を病名として用いる時は,neutrophilic dermatosisと混同しないよう,本例のような軽症型に使うのが妥当との意見を述べた。
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