IgE 依存性即時型食物アレルギーの発症には二段階の免疫学的機序が関与する。まず,ある外来抗原に対して生体がこれをアレルゲンと認識すると,抗原特異的 IgE 抗体が産生され,組織中のマスト細胞あるいは末梢血中の好塩基球の表面に高親和性 IgE 受容体(FcεRI)を介して結合する(感作成立)。次いで,同じ抗原あるいは交差反応性を持つ抗原が侵入すると,細胞表面に結合した抗原特異的 IgE が架橋され,ヒスタミンなどの化学伝達物質が遊離され,蕁麻疹やアナフィラキシーが生じる(症状誘発)。これまで長らく,食物アレルギー発症における感作成立は,主に経口摂取した食物に対して経腸管的に生じると考えられてきた。ところが近年,本邦で生じた加水分解コムギ含有石鹸の使用による小麦アレルギー発症の事例を契機に,食物アレルギー発症における経皮・経粘膜感作の重要性が注目されることとなった。
30 歳,男性。急性骨髄性白血病を発症し,非血縁者間同種造血幹細胞移植を受けた。1 週間後に顔面や 四肢に紅斑が出現し,急性移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)と診断され,ステロイドパルス療法により軽快し,以降プレドニゾロンとミゾリビン内服で良好に経過した。移植から 3 年後,下肢に水疱,びらんが出現し,色素脱失や色素沈着を残すようになった。同時期から次第に皮膚硬化が出現した。水疱の病理組織学的所見では,基底層の液状変性と表皮直下の裂隙形成を認め,真皮深層から皮下にかけて膨化した膠原線維が増生し,萎縮した汗腺を取り囲んでいた。病理組織学的所見より皮膚硬化型慢性 GVHD と診断した。皮膚硬化は徐々に進行し下肢に潰瘍が多発し難治であった。プレドニゾロンの増量と局所処置に加え narrow-band UVB(NB-UVB)全身照射およびエキシマライトによる NB-UVB 照射を行い,徐々に皮膚硬化は改善し,7 カ月後に潰瘍は上皮化した。プレドニゾロンを漸減しているが,潰瘍の再燃はなく経過している。慢性 GVHD における紫外線治療の有効性について文献的考察を加えて報告する。
67 歳,女性。2013 年 3 月に左腋窩の皮下腫瘤を自覚し,血液内科で濾胞性リンパ腫と診断され,無治療で経過観察されていた。2014 年 8 月,口腔内びらんが出現し,10 月には全身に水疱を伴う紅斑が出現した。血清解析で抗デスモグレイン 3 抗体陽性であり,病理組織学的に表皮内水疱と棘融解細胞,液状変性がみられ,蛍光抗体直接法では表皮細胞間に IgG,表皮真皮境界部に IgG と C3が沈着していた。また,ラット膀胱上皮を用いた蛍光抗体間接法で IgG 陽性,正常ヒト表皮抽出液を用いた免疫ブロット法ではペリプラキン陽性であった。以上より,腫瘍随伴性天疱瘡と診断した。また,経過中経皮的動脈血酸素飽和度の低下と単純 CT で気管支壁肥厚を認め,閉塞性細気管支炎が疑われた。腫瘍随伴性天疱瘡に対してステロイド内服,ステロイドパルス,免疫グロブリン大量静注療法,血漿交換やリツキシマブ投与を行い,随伴した悪性リンパ腫に対してベンダムスチン投与を行ったが著効せず,誤嚥性肺炎を発症し死亡した。本疾患の治療法は確立されておらず,しばしば集学的治療を要するが,自験例のごとく治療抵抗性の症例も存在する。過去の報告に鑑み,重症化が予想される場合には早期に,腫瘍随伴性天疱瘡に対するリツキシマブ,随伴腫瘍に対する抗腫瘍薬の開始を検討する必要があると考えた。
53 歳,女性。初診の 2 年前より両肘に皮疹が出現し,ステロイド外用を行っていた。その後,無症候性の紅色丘疹が腹部,四肢に拡大し,精査加療目的に当科に紹介され受診した。前腕,下腿後面の紅色丘疹から採取した病理組織所見では,真皮膠原線維はびまん性に軽度変性しており,真皮中層~下層にかけて膠原線維間に組織球,リンパ球を中心とした炎症細胞が浸潤していた。同部位にムチンの沈着があり,interstitial type の granuloma annulare と診断した。自験例は,環状肉芽腫の定型疹をとらず,基礎疾患も特になかったために診断に難渋したが,組織学的検討が診断に有用であった。
78 歳,男性。免疫抑制剤使用の既往はない。2008年 7 月,左膝窩に皮下腫瘤を自覚した。PET-CT で 四肢に多発する皮下腫瘤を指摘されたがリンパ節腫脹や内臓病変はなく,病理組織像と合わせ primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma(PC-DLBCL) と診断した。R-THP-COP(rituximab,pirarubicin,cyclophosphamide,vincristin,prednisolone) 療法 8 コース施行後,左膝窩皮下腫瘤は完全に消失し,経過観察となっていた。2015 年夏頃より,右肘窩内側に暗紅色結節が出現した。病理組織像で PC-DLBCL の再燃と判断したが,以前よりも形質細胞への分化が強くみられた。加えて真皮から皮下にかけて AL (免疫グロブリン L 鎖)型アミロイドが限局的に沈着していた。右肘窩の暗紅色結節は,一部の腫瘍細胞が免疫グロブリンを産生し,それが AL 型アミロイドーシスとして沈着したものと考えた。
Jörg C. Prinz is Full Professor of Dermatology and Venereology at the Clinic for Dermatology and Allergology of the Ludwig-Maximilian University (LMU) in Munich, Germany. He graduated with a medical degree from the University of Innsbruck in 1983. After one year training in internal medicine at the University clinics of Freiburg he performed five years of basic immunology research as postdoctoral fellow at the Institute for Immunology of the LMU in Munich, focusing on the generation of monoclonal antibodies against cell surface molecules and the regulatory role of low-affinity IgE receptors in IgE production. He joined the Clinic for Dermatology and Allergology in 1990, where he founded the Research Group for Immunopathology. Jörg Prinz earned specialist qualifications in dermatology and venerology in 1995 and in allergology in 1996 and was appointed as Full Professor of Dermatology in 2001. His current responsibilities include being deputy chair of the Department and supervising the phototherapy unit and psoriasis center, and the serological analysis laboratory. At medical school he received several teaching awards.