症例:81 歳,女性
主訴:右頰部の結節・痂疲性褐色局面
現病歴:数年来,顔面の紅斑落屑性皮疹を主訴に不定期に受診。時により,接触皮膚炎,乾燥性皮膚炎や脂漏性皮膚炎の診断をうけ,各種ステロイド,ヘパリン類似物質やケトコナゾールクリーム等の外用を行っていた。最近,右頰部に結節・痂疲を伴う褐色局面が目立つようになり悪性を心配して受診した。
現症:右頰部に小結節と痂疲からなる褐色局面を認める(図 1 )。痂疲はピンセットを用いて容易に剝離できたが,2 個の角化性小結節が残った(図 2 )。周囲皮膚には淡黄色の鱗屑,血管拡張やミリウム形成が目立ち,軽度のヒリヒリ感がある。
診断と治療経過:脂漏性角化症疑い(鑑別疾患として日光角化症等),酒さ様皮膚炎およびアカツキ病と診断。 悪性ではないかとの心配とヒリヒリ感とで洗顔が十分に行われていないことが分かったため,病態説明を行い皮膚の清浄化を促すと共に,ケトコナゾールクリームの外用と,心配の元になっている小結節の液体窒素凍結療法(2 週間ごとに計 3 回施行)による除去を図ったところ,約 2 カ月後にはヒリヒリ感を含み皮膚症状は消失し,以後再発は無い(図 3 )。
症例:0 歳 6 カ月,女児
主訴:左側頭部の黄色結節
既往歴:特記事項なし。正期産,自然分娩で出生。出生時異常なし
家族歴:特記事項なし。
現病歴:出生時より左側頭部の頭皮に脱毛局面がみられたが,次第に黄色結節となった。増大傾向であったため当科へ紹介となった。
現症:左側頭部の頭皮が一部欠損した脱毛局面を認め,10×10 mm 程度で透見される黄色,角化性の内容物を認めた(図 1 )。ダーモスコピーで観察すると,表皮が部分的に残存し架橋構造を形成していた(図 2 )。
頭部 MRI 像:左側頭部の皮下脂肪織内に達する境界明瞭な無信号の陥凹した囊腫状病変を認めた。頭蓋骨や頭蓋内との明らかな連続性を認めなかった(図 3 )。
診断:先天性皮膚欠損症
臨床経過:経過中に表皮の架橋構造は消失し,角化性の内容物は乾燥し褐色へ変化した。初診から約 1 年後に内容物が自然脱落し,これに対して病理組織学的検査を施行したところ角質塊であった。角質塊の下床は陥凹病変を呈し,被覆皮膚はきわめて萎縮性であった。
症例:23 歳,女性
主訴:上口唇左側の潰瘍
職業:整体師
パートナー:数カ月間なし
現病歴:初診 2 週間前より上口唇左側の一部に発赤と腫脹が生じ数日後に潰瘍化した。その後頚部左側の多発性リンパ節腫脹が生じ当院耳鼻咽喉科を受診した。左扁桃に限局した潰瘍をみとめ悪性リンパ腫などが疑われた。口唇潰瘍の精査依頼で当科に紹介された。
初診時現症:上口唇左側に直径 10×5 mm の血痂を伴う皮膚潰瘍がみられた(図 1 )。また,頚部左側に無痛性のリンパ節を多数触知した。
血液検査所見:RPR 定量 32 倍,TPHA 定量 1280 倍と高値であった。単純ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルスおよびヒト免疫不全ウイルス抗体は陰性であった。
病理組織学的所見:粘膜表層に壊死,好中球,核破砕物を伴う潰瘍病変をみとめ,その下層に形質細胞や組織球からなる肉芽腫をみとめた(図 2 a)。免疫組織化学染色にて抗トレポネーマ抗体染色に陽性の多数の桿状の菌体が検出された(図 2 b)。
診断:陰部外下疳,第 1 期梅毒
69 歳,女性。初診 5 カ月前から全身に皮下結節が生じ,自然消退と新生を繰り返していた。3 カ月前に左下腿の皮下結節が潰瘍化し近医受診。連日処置を施行したが改善なく当科紹介となった。初診時,左下腿内側に約 3 cm の潰瘍を認め,四肢や体幹に小指頭大~母指頭大の皮下結節が多発していた。上腕の皮下結節を生検したところ,乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫と皮下脂肪織炎を認めた。血管炎の所見は認めず,Ziehl-Neelsen 染色は陰性だった。単純 CT にて右肺 S2 領域に結節影と右肺門リンパ節の石灰化を認め,インターフェロンγ 遊離試験陽性であり,肺結核に伴う Bazin 硬結性紅斑と診断した。呼吸器内科にコンサルトを行い,抗結核薬 3 剤で治療を開始したところ下腿潰瘍は上皮化し,全身の皮下結節は消退した。播種型の Bazin 硬結性紅斑は報告が少なく,稀な症例を経験したので報告する。
91 歳,男性。既往にアルツハイマー型認知症,2 型糖尿病があり長期臥床している。数年前より四肢に皮下腫瘤が出没していた。初診 6 カ月前に仙骨部左側に,初診 3 カ月前に右臀部に皮下腫瘤が出現,初診 1 週間前に仙骨部左側の皮下腫瘤に皮下出血を伴い当科を受診した。仙骨部左側に 6×4 cm,尾骨部右側に 4×3 cm,右腸骨稜部に 5×4 cm,右大転子部に 4×4 cm のゴム様硬の皮下腫瘤を認めた。病理組織学的検査では表皮と真皮に特異的な所見は認めなかったが,皮下組織に変性,壊死,出血を伴い線維芽細胞と筋線維芽細胞の増殖を認める central area とそれをとりまく肉芽腫性病変を認め,ischemic fasciitis と診断した。本疾患は四肢,臀部に好発する稀な良性腫瘍で,慢性に圧負荷がかかる部位に生じやすいとされる。診断は病理組織検査と MRI でなされることが多いが,特に類上皮肉腫や粘液線維肉腫などの軟部悪性腫瘍との鑑別が問題となる。
67 歳,女性。2012 年 9 月露光部の紅斑,円形脱毛症を主訴に当科初診。精査にて全身性エリテマトーデス,シェーグレン症候群と診断。皮疹はステロイド外用剤で落ち着き,臓器障害なくステロイド全身投与せずに経過観察となっていた。2016 年頃より手指のこわばりや手指の硬化を認め,2017 年 11 月抗 RNP 抗体が 550 U/ml と高値であり,全身性強皮症合併のオーバーラップ症候群と診断。2017 年 12 月より下痢,嘔気が持続。2018 年 1 月,胸部 X 線で横隔膜下に遊離ガス像,腹部 CT で腸管壁内気腫を認め,全身性強皮症背景の腸管囊腫様気腫症と診断。その後も下痢,嘔気,食思不振,体重減少が持続し, 2018 年 6 月加療目的に当科に入院。入院中に Klebsiella pneumoniae による敗血症を 2 回,Candida parapsilosis による敗血症を 1 回,血管内カテーテル感染と思われる methicillin-resistant Staphylococcus epidermidis による敗血症を 1 回発症した。腸管囊腫様気腫症は全身性強皮症の消化管病変の終末像で根本的治療は現時点ではない。我々は抗菌薬による腸内細菌の制御と長期栄養管理を見据えて在宅中心静脈栄養の導入を試みたが,最終的には 2018 年 10 月にカンジダによる敗血症で死亡。剖検では小腸に内輪筋,外縦筋の萎縮と線維化を認めたが腸管壁内気腫はみられなかった。全身性強皮症やオーバーラップ症候群に併発した腸管囊腫様気腫症では敗血症を考慮した管理が必要である。
64 歳,女性。初診の 3 年前より口腔内に水疱の出現,消失を繰り返していた。初診時,口腔内に多発するびらん,顔面を除く全身に水疱・びらんが散在していた。病理組織検査で表皮下水疱がみられた。蛍光抗体直接法で表皮基底膜部に IgG と C3 の沈着がみられた。蛍光抗体間接法で表皮基底膜部に患者 IgG の沈着がみられた。また 1M 食塩水処理ヒト皮膚と患者血清を用いた蛍光抗体間接法では真皮側に患者 IgG の沈着がみられた。免疫ブロット法にて 290 kDa のⅦ型コラーゲンに対する自己抗体が検出された。 以上より後天性表皮水疱症と確定診断した。本症例は当初,ステロイド,各種免疫抑制剤,血漿交換療法に治療抵抗性を示し,再燃を繰り返した。免疫グロブリン大量静注療法を血漿交換療法とともに施行することで,新生水疱の出現が止まり,全身のびらんは上皮化傾向を示した。さらに一部の爪で再生がみられた。内服ステロイド量を減量することが可能となり,免疫抑制剤の内服も終了とした。現在はステロイドの内服加療のみで経過観察しているが,1 年間症状の再燃はなく,経過良好である。治療抵抗性を示す難治の後天性表皮水疱症に対し免疫グロブリン大量静注療法と血漿交換療法の併用は比較的安全でかつ有効な治療法であると考えられた。
66 歳,女性。右拇指球部に 25×16 mm の卵円形の皮膚陥凹がみられ,境界は明瞭で表面は紅色調であった。ダーモスコピーでは全体に紅色調であり,細かな red dots やこれより大きい white spots が観察された。境界部を生検したが,陥凹部は健常部より明らかに角質が菲薄化していた。病変内の汗腺開口部は正常角層の残存がみられた。以上の所見から Circumscribed Palmar Hypokeratosis(CPH)と診断した。 自覚症状も軽微であり,患者自身も治療を強く望まなかったので無治療で経過をみた。次第に陥凹が弱くなり紅色調も消退した。初診の 2 年 6 カ月後にはほとんど目立たなくなったので終診とした。終診時のダーモスコピー所見では,病変部の色調は一部に red veil をかぶったような部分もあるが大部分は健常部と同じ色調であり,white spots もほとんど確認できなかった。CPH の治療についてはステロイドをはじめとした各種外用剤は無効とされている。切除や遊離植皮術といった手術,液体窒素による凍結療法を行った報告も散見されるが確立されたものはない。自験例は無治療で経過をみたが,2 年 6 カ月後にはほとんど目立たなくなった。内外の文献を渉猟し考察を加えた。
34 歳,男性。小児期よりアトピー性皮膚炎で不定期に通院加療していた。10 歳頃から夏季の発汗時に手背から手・足関節の皮膚が白く浸軟し,乾燥すると消退するようになった。初診時,手背,両手関節,膝,両足関節の皮膚が肥厚し色素斑がみられた。手背の肥厚した部分より皮膚生検を行い,病理組織学的に過角化とエクリン汗腺の拡張がみられた。高温多湿環境下で発汗を促したところ,手背から手・足関節の色素斑の部分が白く浸軟した。特徴的な臨床症状より symmetrical acrokeratoderma と診断した。五苓散の内服で自覚症状は改善した。Symmetrical acrokeratoderma はこれまでに 11 例の英欧文報告例があり,そのうち 9 例が中国やインドからで本邦報告例は 1 例のみであった。
症例 1 は 61 歳,女性。右下腿外側に軽度の圧痛を伴う 1×1 cm の皮下結節に連続する 12×3 cm の板状皮下硬結を主訴に受診した。単純X線所見では濃淡のある石灰化像と CT 検査では筋膜レベルに筒状の高吸収域を認めた。症例 2 は 60 歳,女性。右腸骨部に約 8×4 cm で隆起した弾性硬の皮下腫瘤を自覚した。MRI で皮下脂肪織に境界明瞭な構造がみられ,T1 強調像と T2 強調像の両者とも高度な低信号を示した。2 例とも局所麻酔下に筋膜直上レベルで腫瘤を全切除した。周囲組織との癒着が強く,摘出時に腫瘤内部より米のとぎ汁様の内容物が排出した。病理組織所見では HE 染色で大小の淡紫色および淡紅色無構造物質の沈着と周囲に異物巨細胞を伴った炎症細胞浸潤を認めた。臨床像,画像所見および病理組織学所見から Tumoral calcinosis (TC) と診断した。2 例とも血清 Ca および P 値は正常であり,腎不全,膠原病などの基礎疾患や家族歴がないことから特発性正 P 血症型の TC と考えた。TC の疾患概念や分類および治療について文献的に考察した。
化膿性汗腺炎は,慢性炎症性の毛包閉塞性疾患であり,再発を繰り返す消耗性疾患である。2019 年 2 月に化膿性汗腺炎がアダリムマブの適応症として追加承認され,当科では投与期間が 16 週以上の症例を 6 例経験した。自験例の平均年齢は 38 歳で,男性 4 名,女性 2 名であった。治療効果は化膿性汗腺炎の重症度の指標となる International Hidradenitis Suppurativa Severity Score System(IHS4)スコアを用い評価した。投与前の平均 IHS4 スコアは 19.7 点で治療開始後全例においてスコアの改善を認めた。また, 2 例は症状改善後アダリムマブの投与を中止し,現在経過観察中であるが症状の再燃なく経過しており,投与を中止しても良好な状態を維持できる可能性も示唆された。化膿性汗腺炎は患者の quality of life に大きな影響を及ぼす疾患であるが,確立された診断基準や治療法がなく,長期罹患による癌化のリスクもある。生物学的製剤により速やかに症状を改善することで癌化のリスク軽減と,quality of life の改善が期待できる。生物学的製剤を用いての早期の治療介入のためにも今後の症例の蓄積と治療体制の整備が望まれる。
63 歳,女性。初診 1 年 8 カ月前に前医で左手背の皮下腫瘤を切除され,皮膚線維腫と診断された。初診 6 カ月前に同部位に皮下腫瘤が出現し増大した。同医を受診し,生検で superficial acral fibromyxoma が疑われ,精査加療目的に当科紹介となった。初診時,左手背に約 4×3 cm のドーム状に隆起した皮下腫瘤を認めた。1 cm のマージンをとり,手背腱膜上で切除し,PAT(perifascial areolar tissue)移植および全層植皮術を行った。病理組織学的に,真皮から皮下にかけて表皮との連続性のない比較的境界明瞭な腫瘤性病変を認めた。同部位では粘液線維様の間質を背景として,核異型の目立つ紡錘形もしくは星芒状の線維芽細胞様細胞が索状・花むしろ状に配列・増殖し,偽脂肪芽細胞の混在と炎症細胞浸潤を伴っていた。腫瘍細胞は免疫組織化学染色で vimentin,CD10,CD34,CD68,D2-40 に陽性だった。以上より自験例を myxoinflammatory fibroblastic sarcoma と診断した。術後放射線療法を追加し,再発・転移なく経過している。
Dr. Min-Geol Lee started his research carrier in 1983, when he was the 2nd-year resident of dermatology. He was interested in infection immunology, especially in syphilis. He worked at Dermatology Branch, National Cancer Institute, Bethesda, Maryland, USA for 1991-1993. There he studied Langerhans cell and gamma delta T cell. Since then, his research covered syphilis, melanoma, contact hypersensitivity, and psoriasis based on skin immunology with dendritic cells. Recently he is focusing his research on psoriasis.
第 82 巻 4 号(2020 年 8 月号)に掲載いたしました「日本皮膚科学会第 138 回山陰・第 34 回島根合同開催地方会」の抄録中、共同演者の記載漏れがあるものがありました。ここでお詫びを申し上げますとともに,以下の通り訂正いたします。
演題「抗原架橋能検出による自己免疫性慢性蕁麻疹の新規検査法の開発」(p.320)
【誤】古賀祐基1,横大路智治1,2,濱田貴行2,中山史菜2,内藤瑞季2,松尾裕彰1,2(1.広島大,2.広島大 薬学部)
【正】古賀祐基1,横大路智治1,2,濱田貴行2,中山史菜2,内藤瑞季2,千貫祐子3,森田栄伸3,松尾裕彰1,2(1.広島大,2.広島大 薬学部,3.島根大)