症例:6 歳,男児
主訴:右第 3 趾末節背の紅斑を伴う水疱
現病歴:受診前日,右第 3 趾末節背部の紅斑を伴う水疱に母親が気づく。
初診時現症:右第 3 趾末節背部に,紅斑を伴い白色内容を透見できる水疱を認める(図 1 )。疼痛等の自覚症状は無く,咽頭炎症状や発熱等の全身症状も無かった。
検査と検証: A 群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus,以下 GAS)迅速検出キットにて,水疱内容に強陽性を得た(図 2 )。問診と検証(図 3 )により,患趾をしゃぶる癖のあることが判明した。
診断:Blistering distal dactylitis(BDD)
治療と経過:水疱内容の穿刺除去,セフジニル 240 mg の分 3 内服 1 週間とフシジン酸ナトリウム軟膏外用にて治癒した(図 4 )。検尿で異常はなかった。
症例:73 歳,女性
主訴:前額の色素沈着と頭部の瘙痒
現病歴:初診の約 1 年前から前額左側に 500 円玉大の色素斑が出現した。近医で medium クラスのステロイド外用で加療されるも難治で,色調が黒味を帯び拡大した。また同時期より鼻根両側にも黒褐色斑が出現し,難治なため当院を受診した。
現症:前額および鼻根両側に瘙痒を伴う黒褐色斑を認めた(図 1 )。
生活歴:市販の染毛剤で自ら毛染めを行っていた。
病理組織学的所見:表皮上層に多数のメラノファージが存在する組織学的色素失調を認めた。表皮の空胞変性や液状変性,炎症細胞浸潤は目立たなかった(図 2 )。
パッチテスト:48 時間および 72 時間判定で p-フェニレンジアミンに ++ となった(ICDRG 基準)。1 週間判定時に同部位は淡い色素沈着を残した。
診断:Acquired dermal macular hyperpigmentation(ADMH)
治療および経過:染毛剤による色素沈着型接触皮膚炎(Riehl 黒皮症)を疑い,頭部にベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル外用を開始した。頭部の瘙痒は軽快したが,前額や鼻根両側の色素沈着は不変であった。
症例:40 歳,男性
主訴:右鼻唇溝部の皮内結節
既往歴:好酸球性副鼻腔炎,毛包炎,爪白癬
現病歴:初診半年前より,右鼻唇溝部付近に結節が出現した。時々排膿することがあった。切除希望で,当科を紹介となった。
初診時現症:右鼻唇溝部よりやや人中側に点状に開口した毛包がみられ,その下にごくわずかに皮内結節を触知した(図 1 )。(4 mm パンチで全切除した)
病理組織学的所見:開大した毛包漏斗部様の囊腫構築と,その囊腫壁から球根状あるいは蕾状に増殖する上皮小葉がみられた(図 2 a)。また,囊腫内部には角化物が充満しており,顆粒層を経て角化する部分と,顆粒層を欠く外毛根鞘性角化を示す部分があり,腫瘍内には,脂腺導管を模倣するような管腔様の構造も認めた(図 2 b,c)。
診断:病理組織学的所見より,pilar sheath acanthoma と診断した。
中等症から重症のアトピー性皮膚炎(AD)患者にバリシチニブを経口投与した 4 つの国際共同試験が実施された。その結果,16 週間の二重盲検プラセボ対照期間の評価で,単剤投与,ステロイド外用薬との併用のいずれの場合も,バリシチニブは AD 症状全般を投与開始早期から改善し,16 週間その改善を維持した。また AD 患者での忍容性が確認され,試験期間中に認められた有害事象は関節リウマチ患者で確認されている範囲内であった。以上より,バリシチニブは,中等症から重症の AD に対する有用な治療選択肢となることが期待される。
30 歳台,男性。初診 10 年前より両膝の関節リウマチに対してメトトレキサート(Methotrexate,以下 MTX)を週に 1 回内服していた。初診 9 カ月前頃より MTX を連日内服し,休薬することを繰り返していた。初診時,口腔内のびらん,嚥下痛を認め摂食不良を伴った。また,血液検査では汎血球減少を認めた。薬剤歴より MTX 過剰内服による口内炎および汎血球減少と考えた。下口唇より生検を行ったところ,組織学的には表皮および真皮内の炎症細胞浸潤と大型の核をもつケラチノサイトを認めた。MTX の副作用として皮膚粘膜障害や汎血球減少は知られているものの,その報告の大多数は関節リウマチの好発する女性,特に副作用の出やすい高齢者である。青年男性における副作用の発現は高齢者と比較して稀ではあるが,過剰内服により起こり得るため,患者に対しては十分な服薬指導を行う必要がある。
57 歳,男性。歯科治療後に,両側臀部に色素沈着を残さずに消退する発赤・腫脹を繰り返すことが 2 回あった。2 回とも症状出現時に,臨床所見や血液検査上炎症反応の上昇がみられたため蜂窩織炎と考えられ,セファゾリンナトリウム水和物(セファメジン®)点滴投与を受け数日から 1 週間程度で症状は軽快していた。今回,3 回目の同症状が出現した際に初めて,症状出現前に共通してバカンピシリン(ペングッド®)を内服していたことに気づいた。色素沈着を残さず治癒することと,病理組織学的所見を併せて非色素沈着型固定薬疹(nonpigmenting fixed drug eruption ; NPFDE)と診断した。NPFDE は,固定薬疹の亜型で,色素沈着を残さないという特徴に加え,左右対称性の皮疹の分布や多発傾向,間擦部への好発,不整形紅斑など,通常の固定薬疹と異なる臨床像を呈する。1987 年以降国内外でバカンピシリンによる NPFDE の報告は自験例以外にはなかった。蜂窩織炎様症状を繰り返す症例では NPFDE も鑑別に挙げるべきである。
2019 年 3 月より 1 年半の間,病勢に相関して D-ダイマーの上昇を伴った IgA 血管炎の 4 例を経験した。年齢は 55~80 歳(平均 69.5 歳),全て男性であった。3 例は消化器症状を伴い,1 例は肺胞出血で死亡した。4 例とも尿検査異常を伴っていた。全ての症例でステロイドの全身投与を行い,症状の改善とともに D- ダイマーは低下したが,1 例は D-ダイマーの再上昇が先行して肺胞出血が再燃し,死亡した。 IgA 血管炎では,血液検査で ASO や IgA,凝固第 13 因子活性などが測定されるが,その他のマーカーについてはあまり検討されていない。今回自験例では 4 例とも D-ダイマーが IgA 血管炎の病勢と相関して上昇し,鋭敏に反応した。D-ダイマーは,紫斑や筋炎とは関係性なく,より病勢が強い状態と考えられる消化器病変や肺胞出血と相関を示した。D- ダイマーが高値であった場合,消化器病変や肺胞出血の出現など,重症化の予測因子となり,その経時的測定は病勢や治療効果判定の指標になる可能性がある。
76 歳,男性。当院初診の 1 年前より体幹を中心に強い瘙痒を伴う浮腫性紅斑,結節を認めていた。難治性の多型慢性痒疹の診断で PUVA-bath 療法を開始したが,施行中に明らかな皮疹の増悪を認めた。 PUVA-bath 療法は中止とし,薬疹や腫瘍随伴症候群を疑い定期内服薬の変更と悪性腫瘍検索を行ったうえで,ステロイド全身投与(プレドニゾロン錠 0.33 mg/kg/day)を開始するも改善に乏しかった。ステロイド全身投与前の生検組織で表皮下水疱と表皮直下のリンパ球および好酸球浸潤を認め,類天疱瘡群の可能性が考えられた。血清中の抗 BP230 抗体陽性,抗 BP180 抗体陰性,および蛍光抗体法,ウエスタンブロット法の結果と臨床像を合わせて,最終的に本症例を抗 BP230 抗体と抗 linear IgA bullous dermatosis antigen-1(LAD-1)抗体を検出した結節性類天疱瘡と診断した。ステロイドを増量(プレドニゾロン錠 1 mg/kg/day)したが速やかには反応せず,免疫抑制剤を併用したところ瘙痒は改善し,浮腫性紅斑は消退,結節も扁平化した。
患者:73 歳,男性。既往にアトピー性皮膚炎がある。経過の詳細は不明であるが後頭部から頭頂部にかけてだるま型の脱毛斑が生じた。脱毛部の皮膚は肥厚していた。皮膚生検標本では表皮が菲薄化し,毛包の不規則な分布と歪な形態,真皮膠原線維の増生・硝子化が認められた。真皮上層には稠密なリンパ球,組織球,形質細胞の浸潤が認められた。免疫組織化学染色では IgG4 陽性細胞の強い浸潤があり,IgG4 陽性細胞数/IgG 陽性細胞数比は 58%であった。血清 IgG4 値は 313 mg/dl と高値を示し(正常値:11~121),組織学的所見と併せて IgG4 関連疾患と診断した。なお,他臓器の IgG4 関連疾患は指摘できなかった。ステロイド外用剤により,皮膚の肥厚は改善したが脱毛斑は残った。過去に IgG4 関連疾患としての脱毛症の報告は 2 例しかなく稀な病態だと考えた。これらを比較検討した結果,病態の経過が長いほど瘢痕化が進んで治療抵抗性となる可能性が示唆された。
〈症例 1 〉36 歳,男性。約 10 年前に右踵の結節性病変を自覚した。圧痛が出現したため受診した。エクリン汗孔腫の臨床診断で全切除を施行した。病理組織像では,真皮内に円形から紡錐形の核と好酸性細胞質を持つ腫瘍細胞が増殖し,膠原線維の増加を伴っていた。核分裂像はみられなかった。免疫組織化学染色にて,腫瘍細胞は S-100 protein,Melan-A に陽性であった。p16 の染色性は保たれており,MIB-1 index は 5%以下であった。以上の所見よりdesmoplastic Spitz nevus と診断した。
〈症例 2 〉30 歳,女性。初診 2 年前より右下腿の紅斑を自覚していた。増大傾向はないが,皮疹部のひりつきが出現したため受診した。血管拡張性環状紫斑の臨床診断で部分生検を施行し,その後全切除を施行した。病理組織像では,真皮に好酸性細胞質を有する類上皮様細胞が膠原線維の増加を伴って増殖し,散在性に分布していた。核分裂像はみられなかった。免疫組織化学染色にて,腫瘍細胞は S-100 protein,Melan-A に陽性であった。p16 の染色性は保たれており,MIB-1 index は 5%以下であった。以上の所見より desmoplastic Spitz nevus と診断した。 今回,desmoplastic Spitz nevus と診断する上で p16 と MIB-1 の免疫組織化学染色が有用な参考所見となった症例を経験した。HE 染色のみで判別が困難である場合,これらの免疫組織化学染色が参考になる。
患者:91 歳,女性。いつからか不明であるが左こめかみに小さい皮膚病変があった。初診時,黒色面靤を思わせる直径 5 mm の黒色丘疹を認めた。ダーモスコピーでは中央は black homogenous pattern であり白暈を伴っていた。全摘生検標本では表皮は壊死組織で置き換わり,その直下からメラニンを含有した腫瘍細胞が脂肪織内に楔状に浸潤していた。毛包上皮の一部が残存するが,その中にもメラニンを含有した腫瘍細胞が少数認められた。腫瘍細胞は HMB45,Melan A が陽性であった。他切片の所見から腫瘍細胞が毛包内に局在したと考えられ,自験例を Follicular malignant melanoma(FMM)と診断した。 FMM はHantschke らが 2004 年に初めて報告した悪性黒色腫の稀な variant であり,過去に 9 例の報告しかない。その起源については通常の悪性黒色腫が単に毛包向性に浸潤した場合と,毛包内のメラノサイトが悪性転化した場合が想定されている。自験例は単一の毛包内のみに腫瘍細胞が浸潤し隣接する表皮は侵されておらず,しかも腫瘍細胞の局在は真皮中層以下であり,真の FMM と考えられた。
53 歳,女性。生下時より腰部右側から腹部右側にかけて広範囲な淡い褐色斑の中に小さな濃い褐色斑がびまん性に散在する病変(speckled lentiginous nevus)があった。初診の数年前から腰部の褐色斑の一部が黒色調となり徐々に隆起し,出血するようになった。全切除生検の結果,悪性黒色腫(tumor thickness 9 mm)であったため拡大切除とセンチネルリンパ節生検を施行した。センチネルリンパ節に転移はなく,最終的に表在拡大型悪性黒色腫(pT4bN0M0 StageⅡC)と診断した。その後,無治療で経過観察していたが術後7 カ月で肝,坐骨直腸窩,両副腎,多発骨転移を生じた。BRAF 遺伝子変異は検出されなかったため,抗 PD-1 抗体の投与を開始したが投与開始後 5 カ月で永眠した。Speckled lentiginous nevus 上に悪性黒色腫が発生することは 0.13~0.2%と比較的稀であり,症例の蓄積が必要であると考え報告する。
80 歳台男性。全身に広がる血疱を伴う紅斑と紫斑で当科を受診した。血液検査でヒト T 細胞白血病ウイルス 1 型(Human T-cell leukemia virus type 1,HTLV-1)抗体陽性で,成人 T 細胞性白血病・リンパ腫(Adult T-cell Leukemia/Lymphoma,ATL)様細胞 6360/μl,可溶性 IL-2 レセプター(sIL-2R)22,545 U/ml と高値であり,CT 検査で多発リンパ節腫大と脾腫があった。皮膚生検で真皮血管周囲に異型リンパ球浸潤があり,免疫組織化学的に浸潤細胞は CD3,CD4,CD7,CD25,CCR4 陽性であった。左鼠径リンパ節生検でも異型細胞浸潤があった。急速に呼吸状態が悪化し,FiO2 0.6 でSpO2 94%と呼吸不全となった。CT 検査で小葉中心性陰影やスリガラス影があり,胸水細胞診で ATL 細胞を多数確認し,ATL 急性型と診断した。年齢や既往,全身状態から,多剤併用化学療法ではなく,メチルプレドニゾロン 40 mg/day とエトポシド 25 mg/day の内服を開始したが効果は不十分であった。モガムリズマブの投与追加により,呼吸状態は改善し,皮疹と末梢血中 ATL 様細胞は消失し,sIL-2R も 346 U/ml と低下した。ATL は近年,骨髄移植に適さない高齢発症例が増えており,治療戦略に苦慮するが,経口化学療法とモガムリズマブによる治療を組み合わせることで良好な治療結果を得られた 1 例を経験したため報告する。
17 歳,男性。3 年前,柔道部で体部白癬が流行した際に罹患し,外用剤治療で軽快した。3 カ月前より後頭部に疼痛や瘙痒のある膿瘍や結節が多発し,他院皮膚科で抗菌薬内服や副腎皮質ステロイド外用剤で治療されたが拡大し,疼痛のため不眠も出現した。頭部膿皮症の一型である膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎(perifolliculitis capitis abscedens et suffodiens,以下 PCAS)の診断で生物学的製剤の導入目的に当科へ紹介となった。全頭に脱毛を伴う膿瘍や結節病変,頭部 CT では症状の強い部位に一致して皮下に浮腫性の炎症があり,膿皮症を示唆する所見だった。しかし,病理組織学的検査で真皮から皮下組織に毛包破壊像と肉芽腫の形成があり,血清 β-D グルカン(β-D-glucan,以下 βDG)の上昇もあったため,深在性真菌症の可能性を考え,テルビナフィン塩酸塩(ラミシール®,Terbinafine,以下 TBF)125 mg/day を開始した。当初臨床症状の改善に乏しかったが,生検部膿汁の真菌培養で 10 日後にコロニーの発育,1 カ月後に Trichophyton tonsurans(T. tonsurans)が同定されたことから,Celsus 禿瘡と診断し,TBF を 250 mg/day に増量すると速やかに皮膚症状は改善し,血清 βDG も正常化した。βDG は真菌の細胞膜構成成分で,培養検査より速やかに結果がわかるため深在性真菌症の補助的診断に用いられる。一般に Celsus 禿瘡では測定されていないが,本症例のように炎症症状が激しく臨床像から診断が難しい頭部の膿瘍を伴う病変をみた場合は,病理検査や培養検査とともに有用である可能性を考えた。
Tiago R. Matos has a longstanding interest in cellular immunology, particularly the interaction of T cells between human tissues and its relation to human autoimmune and inflammatory disorders. After graduating, in 2013, from his Master's and Medical degree with honors (MD, MSc), he received a Harvard Medical School scholarship that allowed him to conduct research at the laboratory of Prof. Dr. Jerome Ritz (Medical Oncology/Hematology at Dana Farber Cancer Institute/Harvard Medical School).
His pioneer translation research on regulatory T cells(Treg), has shown that humans have since birth a highly heterogenic subpopulations of Treg(both maturation and phenotypic subsets), which increase during our childhood and are essential to suppress the wide range of effector cells through several mechanisms. Treg heterogeneity seems to also be essential after hematopoietic stem cell transplantation(HSCT), being affected during graft-versus-host disease(GVHD). He helped to characterize the immunological impact of novel and successful therapies for GVHD in clinical trials, such as low-dose interleukin 2(IL-2) or with antibodies conjugated to an immunotoxin(CD3/CD7-ricin A).