患者:61 歳,男性
主訴:陰囊の紅斑
現病歴:腎癌の多発遠隔転移に対し,アキシチニブ,ニボルマブ,スニチニブで順次治療していたが,病勢進行のため,3 週間前からカボザンチニブ 60 mg/ 日を開始した。数日前から陰囊に紅斑が生じ疼痛を伴うため受診した。
現症:陰囊水腫がみられた。陰囊には左右対称性に紅斑がみられ(図 1 a),一部では弛緩性の水疱,びらんを形成していた(図 1 b)。
診断:カボザンチニブによる陰囊紅斑
治療および経過:ベタメタゾン吉草酸エステル軟膏の外用およびガーゼ保護で症状は改善した。柔らかい下着,ズボンを着用するように指導し,以後は再発なく経過している。なお,カボザンチニブ開始時に手足症候群の有害事象について説明を受け,ヘパリン類似物質クリームを外用していたこともあり,経過中に手足症候群を生じることはなかった。
患者:33 歳,男性
主訴:左側腰部の多発性結節
既往歴・家族歴:特記すべき事項なし
現病歴:約 3 カ月前から左側背部から腰部に結節を自覚し,増数したために受診した。疼痛,瘙痒などの自覚症状はなかった。
現症:左側背部から腰部にのみ,3~6 mm のドーム状に隆起した類円形,弾性軟の小結節が多発していた。 一部の腫瘍は毛孔一致性であった。カフェオレ斑などの色素性病変はみられなかった( 図 1 a,b)。
病理組織学的所見:真皮内に比較的境界明瞭な被膜を持たない病変を認めた(図 2)。毛包周囲に紡錘形の核を有する腫瘍細胞が増殖し,肥満細胞もみられた(図 3)。以上の所見から神経線維腫と診断した。
診断:神経線維腫症 1 型モザイク(皮膚の神経線維腫のみ)
患者:70 歳,女性
初診:2020 年 5 月中旬
主訴:左上背部の瘙痒を伴う落屑性紅斑
既往歴:右第 1 指と左第 1 趾爪白癬の診断で治療中
現病歴:左上背部の“こり”に対し,ピップエレキバン®(以下エレキバン)を約 20 日間貼付したままにしたところ瘙痒を伴う紅斑が出現した。“かぶれ”の自己診断で副腎皮質ホルモン(OTC 薬)を外用したが,約 1 カ月経過しても治癒しないため受診した。
現症:左上背部に,径約 5 cm の漿液性丘疹と鱗屑を付した浮腫性紅斑の環状配列を認める(図 1 a,b)。
検査:ズームブルー®(久光製薬,鳥栖市)を用いた KOH 鏡検で菌糸性菌要素陽性(図 2 )。
診断:体部白癬
治療および経過:ルリコナゾール外用にて,1 週間後には色素沈着を残すのみとなった。
患者:61 歳,女性
初診:2020 年 8 月初旬
主訴:右前胸部のヒリヒリする紅斑
現病歴:2 日前より右前胸部にヒリヒリする紅斑が出現し,次第に酷くなってきた。症状(図 1 )から刺激性接触皮膚炎を疑い問診したところ,漂白剤や消毒剤等の化学薬品の使用歴はなかったが,発症直前の草取り中に小さい虫をタオルで数回払った記憶があった。
初診時現症:表面に小水疱を付した,数条の紅暈を伴う淡灰色皮疹を認めた(図 1 )。
診断:線状皮膚炎
治療および経過:クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏と亜鉛華軟膏の外用およびフェキソフェナジン塩酸塩 120 mg の分 2 内服を 1 週間行った。初診日翌日には淡灰色部分は暗灰褐色に色調変化を来しており(図 2 ),1 週間後には紅暈部は鱗屑を伴い上皮化していたが,暗灰褐色部は痂皮を残しており皮膚障害がより高度であったことが窺われた(図 3 )。
全身性強皮症(強皮症)は,自己抗体産生に代表される自己免疫現象を背景に,皮膚および内臓諸臓器の線維化,血管病変によって特徴づけられる膠原病である。この強皮症の病態形成には自己抗体産生などにより B 細胞が強く関与している。近年,B 細胞のサイトカイン産生能の重要性が明らかとなってきている。強皮症では,Regulatory B 細胞が IL-10 産生を介して病態を抑制し,Effector B 細胞が IL-6 産生を介して促進する。この Regulatory ・Effector B 細胞バランスの異常が強皮症の発症機序に関与している。
25 歳,男性。耳鼻科で両茎状突起過長症に対し,全身麻酔下で切除術を施行した際,麻酔離脱時にヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム(HC コハク酸 Na)とフルルビプロフェンアキセチル(ロピオン®)を投与後より,酸素飽和度低下・血圧低下を認めたため,輸液速度を上げアドレナリン筋注を行い回復傾向となった。薬剤によるアナフィラキシーショックが疑われ,皮内テストを行ったところ HC コハク酸 Na で陽性であり同剤による薬剤性アナフィラキシーショックと診断した。またエステル基の異なるヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウム(HC リン酸エステル Na)は皮内テスト陰性であり,コハク酸エステルがアナフィラキシー反応に関与したと考えた。自験例では,後日施行された呼吸器内科の検査でアスピリン喘息の併発が疑われた。
25 歳,女性。中耳炎の治療のためクリンダマイシン塩酸塩カプセル(ダラシン®カプセル)が処方された。内服翌日より躯幹四肢に紅色丘疹が出現し急速に拡大したため近医で薬疹が疑われた。10 代の頃に痤瘡の治療でクリンダマイシン含有ゲル(ダラシン®T ゲル)が処方され,顔全体に発赤および丘疹が出現した既往がある。全身性接触皮膚炎が疑われ治療後にパッチテストを施行したところ,クリンダマイシン含有ゲルおよびクリンダマイシン塩酸塩カプセル双方に陽性所見を示した。同時に施行したクリンダマイシン塩酸塩の DLST は陰性であった。以上よりクリンダマイシンが起因した全身性接触皮膚炎と診断した。
タール・ピッチ皮膚症は急性,慢性,増殖性の 3 型に分類され,増殖性タール・ピッチ皮膚症とはタール曝露から数十年を経て腫瘍性病変が発生した状態を指す。タールの発癌性は,煙突掃除夫と陰囊がんの関連性や,山極勝三郎と市川厚一が家兎の耳にコールタールを反復塗布し,人工発癌に成功したことでも有名である。現在ではベンツピレンやベンゾアントラセンが発癌のイニシエーターやプロモーターとして作用していることが判明している。タールを扱う代表的な職業は,製鉄用コークス炉,タール蒸留所,電極製造,アルミ精錬,カーボンブラック製造,防蝕・防腐・防水塗装,耐熱煉瓦製造,絶縁テープ製造など,多岐にわたる。コールタールは 1972 年に特定化学物質に指定され,製造および使用に制限が加えられ,関連業務に従事している労働者に対しては特殊健康診断が実施されることとなり,タール・ピッチ皮膚症患者は減少したが,中小の零細企業においてタール・ピッチ取扱業務に従事している場合には,環境管理や健康管理が不十分な場合もある。症例は 94 歳,男性。7 年半の経過中,有棘細胞癌が 7 カ所,日光角化症が 30 カ所,Bowen 病が 1 カ所,露光部に集中して発生した。職業歴として 20~50 代に漁師をしており,タールを用いて漁網の補強をしていた。その後も農業などにより長期的に光線曝露があった患者に生じた増殖性タール・ピッチ皮膚症を経験したため報告する。
症例 1:72 歳,女性。子宮平滑筋肉腫の多発肺転移に対して投与されたトラベクテジンの血管外漏出があり,右胸部 CV ポート刺入部を中心に広範囲の組織壊死を来した。適宜デブリドマンを施行し,4×8 cm の範囲に全層植皮術を行い漏出後 71 日目に略治を得た。症例 2:67 歳,女性。子宮平滑筋肉腫の多発リンパ節転移,肺転移に対して投与されたトラベクテジンの血管外漏出があり,右胸部 CV ポート刺入部を中心に広範囲の組織壊死を来した。適宜デブリドマンを施行し,5×5 cm の範囲に全層植皮術を行い漏出後 96 日目に略治を得た。紅斑部の病理所見では,いずれも表皮,真皮には炎症所見は目立たず,皮下組織の広範囲な壊死があった。表皮・真皮の温存ができると考え,皮下組織のみのデブリドマンによって植皮範囲を縮小できた。トラベクテジンの血管外漏出に遭遇した際は感染やさらなる壊死の拡大を防ぎ,創部の縮小を目指して加療することが必要である。また医原性の障害であり,自験例のように数回のデブリドマンと植皮術が必要で,傷閉鎖までは長期間を要することを慎重に説明していくことが重要である。
71 歳女性。初診 2 カ月前から全身に瘙痒を伴う浮腫性の紅斑とびらんおよび,緊満性水疱が多発した。病理組織学的所見および血中抗 BP180 抗体価陽性より水疱性類天疱瘡と診断し,プレドニゾロン 20 mg/day,ミノサイクリン(ミノマイシン®)100 mg/day の内服を開始した。治療開始 10 日後に炎症反応の上昇を伴う 38℃台の発熱が出現し,精査加療目的に治療開始 12 日目より当科入院とした。さらに,好酸球の経時的な増多を認め,治療開始 17 日目の胸部 CT では間質に斑状のスリガラス陰影が多発していた。気管支肺胞洗浄液での好酸球比率の著増,経気管支肺生検での好酸球の浸潤が確認され,好酸球性肺炎の診断に至った。水疱性類天疱瘡・好酸球性肺炎の両側面からステロイドパルスを施行したところ,速やかな好酸球数の改善とともに水疱新生の消失,肺野病変の軽快が確認できた。水疱性類天疱瘡における好酸球性肺炎ではミノサイクリンの内服により惹起される症例が報告されているが,本症例では一時的なミノサイクリンの中断で好酸球の増多はおさまらず,また再開により増悪を来さなかったことから,水疱性類天疱瘡に伴う好酸球増多自体によって惹起された好酸球性肺炎を考えた。
60 代,女性。Sjögren 症候群にて内科で加療中であった。初診 3 年前より腹部の皮疹を自覚していた。病変は腹部,側腹部に限局し,浸潤を触れない紅斑を散在性に認めた。組織学的には真皮内の血管,汗腺周囲にアミロイド沈着を認めた。血清 M 蛋白や尿中 Bence-Jones 蛋白,血清 free-light chain(FLC)検査は陰性であり,Sjögren 症候群に合併した萎縮性結節性皮膚アミロイドーシスと診断した。本症例は Sjögren 症候群に合併することがあるとされ,また全身性アミロイドーシスへ移行することがあるため経過観察を要する。
70 歳,女性。初診の2 年前より外陰部に紅斑を自覚し,徐々に拡大した。前医初診時, 大陰唇から肛門部にかけて広範囲に紅色局面があり,びらんと結節を認めた。皮膚生検で乳房外 Paget 病と診断され,腫瘍切除術+皮弁形成術を施行した。切除標本では Paget 細胞が表皮内および真皮内に胞巣をなして増殖していた。病期Ⅱで切除断端が陽性であったため術後に放射線療法と weekly パクリタキセルを開始した。3 コース後に肝転移が判明し,Tri-weekly ドセタキセル(DOC)に変更したが肝転移が増大した。免疫染色で HER2 蛋白 3+ であり,トラスツズマブ(HER)の導入目的に当院へ転院した。HER+DOC 併用療法を開始し,CEA は低下し,肝転移も縮小した。1 年半 PR(部分奏効)を維持した。しかし PD(進行)となり,low dose FP に変更したが,6 カ月で PD となった。再度 HER+DOC を投与すると,一時的な効果はあったが 3 コースで PD となった。TS-1+DOC,HER 単独,DOC 単独では全体的に増悪傾向であった。HER+DOC に戻し, CEA 低下と肝転移一部縮小を認めたが,3 コースで PD となった。緩和ケアに移行し,肝転移判明後から 4 年 6 カ月後に呼吸不全で死亡した。肝転移を含む進行期乳房外 Paget 病の予後は 1 年程度であるが,HER+DOC 主体の化学療法で長期生存が得られた。
60 代,男性。4 年前から腋窩や会陰部の排膿があり化膿性汗腺炎と診断されたが,通院を自己中断していた。4 カ月前に臀部疼痛による歩行困難で再診した。同時期に発覚した肝細胞癌の手術を先に行い化膿性汗腺炎の手術を控えていたが,発熱,貧血,急性腎不全を生じ緊急入院した。右尿管結石からの水腎症と腎盂腎炎に加え,尿・血液培養より Candida albicans(C. albicans)を検出し,両眼に点状斑状出血と白斑が多発しており眼内炎を伴ったカンジダ血症と診断した。カンジダ血症および化膿性汗腺炎の治療を並行して行ったが難渋し,2 回の手術と 3 カ月以上の入院を要した。本症例のように化膿性汗腺炎による消耗・全身状態不良が日和見感染症を起こす可能性を念頭におき,なるべく早期の治療介入が望ましいと考える。
51 歳,女性。当院当科初診 3 カ月前から頭頚部・顔面に瘙痒を伴う皮疹が持続していた。近医皮膚科でステロイド外用治療を行ったが改善が乏しく,皮膚症状は次第に拡大・増悪していった。当院内科受診時の血液検査で梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum,以下 TP)抗体定性陽性が判明し,皮疹が持続しているため当科を紹介受診した。頭頚部・前額部に鱗屑や浸潤を伴い,辺縁が隆起した環状紅斑が点在・融合していた。追加検査の rapid plasma reagin(以下 RPR)定量は高値で,また,皮膚生検の抗 TP 抗体免疫組織化学染色で表皮内に多数の菌体を確認でき, 第 2 期梅毒の環状丘疹性梅毒疹と診断した。抗生物質内服治療を 8 週間行い,皮疹は徐々に平坦化・退色していき,色素沈着となり治癒した。しかし,治療終了 5 週間後も RPR 定量は高値のままであったため,皮膚生検を再度実施したが,抗 TP 抗体免疫組織化学染色で菌体は認めなかった。その後,RPR 定量は低減していった。
環状丘疹性梅毒疹の本邦報告例は自験例を含め 8 例と少なく,近年の成書には記載がないことが多い。ここ数年間で本邦の梅毒患者報告数は男女ともに増加傾向にあり,早期診断・早期治療をするには梅毒の多彩な臨床所見に精通する必要がある。
82 歳,男性。初診前日に下腹部右側に瘙痒を伴う紅斑が出現した。当院初診時,右下腹部に瘙痒を伴う線状の紅斑があり,皮膚生検では真皮の血管周囲に多数の好酸球とリンパ球の浸潤があった。皮下脂肪織にも同様の炎症細胞浸潤があったが,虫体はみられなかった。Creeping disease の疑いでイベルメクチン 9 mg(0.2 mg/kg)内服後に紅斑は退色傾向であったため,7 日後に同量を追加投与した。その後下腹部右側の紅斑は完全に消退したが,初診 10 日目頃より対側の下腹部左側に線状の紅斑が出現した。線状の硬結部,先端部の 2 カ所より生検を行ったが,前回と同様の所見であり虫体もみられなかった。初診 14 日後に再度イベルメクチン 9 mg 内服を行い,皮疹は消失し,その後皮疹の再燃はない。本症例では明らかな虫体はみられなかったが,患者血清を用いた Microplate ELISA で抗顎口虫 IgG 抗体が検出され,特徴的な臨床所見とあわせて顎口虫による creeping disease と診断した。
63 歳,女性。初診の 3 カ月程前から出現した左大腿の皮下結節を主訴に当科を紹介され受診した。初診時,左大腿内側に紫斑とその直下に 1 cm 程の皮下硬結を触れ,超音波検査では肉芽腫が疑われた。切除生検を行ったところ,病理組織検査で寄生虫が確認され,類結核性肉芽腫が真皮から皮下にかけてみられた。寄生虫は,DNA 検査の結果 Spirometra decipiens と同定された。Spirometra decipiens は,マンソン孤虫症の原因であるマンソン裂頭条虫とは異なる孤虫であり,今後広く認知されることが期待される。
非接触式放射体温計は,前額部皮膚表面の赤外線放射量を検知し腋窩温に換算表示する機器である。当科で使用する機器は,前額部の「発汗,てかり,毛髪,ファンデーション等の付着物により精度が低下する」と添付文書に記載されているが,皮疹が存在する場合の精度については記載がない。本調査では,前額部に紅斑を有する患者 30 例(紅斑群)と有しない 30 例(対照群)を対象として,非接触式放射体温計と接触式電子体温計で体温を測定し,測定値の差異(温度差)を比較した。温度差の平均は,紅斑群が 0.55±0.05℃,対照群が 0.33±0.03℃で有意差を認めた(p<0.01)。紅斑の重症度により紅斑群を中等度・高度群(16 例)と軽度群(14 例)に区分すると,温度差の平均は前者が 0.69±0.06℃,後者が 0.39±0.06℃で有意差を認めた(p<0.01)。なお軽度群と対照群の温度差に有意差はなかった(p>0.05)。
Professor Bachelez is professor at the Department of Dermatology of the Assistance Publique-Hôpitaux de Paris Saint-Louis University Hospital in Paris, France. Since 2004, Professor Bachelez has been full professor of clinical dermatology at the Université Paris-Diderot/Université de Paris, where he received his Ph.D. in Immunology in 1999. Professor Bachelez's clinical and research activities focus on inflammatory skin diseases, mainly psoriasis and psoriasis-related diseases, but also hidradenitis suppurativa, lichen planus among others. He is conducting his basic and translational research at the Institute National de la Santé et de la Recherche Médicale (INSERM U1163), in the Laboratory of Genetics of Skin Diseases at the Imagine Institute for Human Genetic Diseases in Necker Hospital, Paris. His areas of scientific research include immunogenetics and molecular mechanisms of the aforementioned immune-mediated and inflammatory skin diseases.