患者:63 歳,女性
主訴:右大腿に多発する小結節
既往歴:甲状腺機能亢進症
家族歴:なし
現病歴:20 年程前から多発する小結節を自覚していたが,無症状のため放置していた。
現症:右大腿外側の径 5 cm 程度の範囲に,最大 1.5 cm の淡紅色の柔らかいドーム状結節,または皮内結節が集簇していた(図 1 )。わずかではあるが同範囲に褐色斑を認めた。
病理組織学的所見:表皮に変化なく,真皮に被膜のない境界明瞭な結節が存在した(図 2 a)。紡錘形や勾玉状の核を持った腫瘍細胞が錯綜し,柵状配列はみられなかった(図 2 b)。
診断:Mosaic localized neurofibromatosis type 1
患者:22 歳,女性
主訴:左鼻翼部の丘疹
既往歴:特記事項なし
家族歴:特記事項なし
現病歴:初診の約 5 年前より左鼻翼部に 1~2 mm の常色結節が出現し,多発するようになった。前医にて Fibrous papule of the nose が疑われ,精査加療目的に当科へ紹介となった。
初診時現症:左鼻翼部に常色~淡褐色を呈する,1~2 mm の丘疹が 4 個みられた(図 1 )。ダーモスコピーでは毛孔非一致性の所見が得られた。右鼻翼部,口腔粘膜や手足に皮疹はみられなかった。
病理組織学的所見:ドーム状に隆起した病変で(図 2 a),真皮内に膠原線維の増生と小血管の拡張がみられた(図 2 b)。また,基底細胞直下に表皮に対して垂直に配列する膠原線維がみられた。
診断:Fibrous papule of the nose
患者:78 歳,男性
主訴:下腹部,陰部・鼠径部の紅斑,疼痛
現病歴:3 年前に Pagetoid spread を伴った肛門管癌直腸浸潤,左鼠径リンパ節転移に対し当院外科で直腸切断術,左鼠径リンパ節摘出術を受けた。術後補助化学療法終了時に左鼠径および左腸骨動脈周囲リンパ節転移による再発が確認され化学療法が再開されたが,脳梗塞の併発により中断されていた。同時期に陰部から鼠径部に疼痛を伴う紅斑が出現した。当初おむつ皮膚炎と考え外用治療を行ったが改善なく,次第に紅斑が下腹部にまで拡大し,表面に粟粒大から小豆大の隆起を伴うようになったため,原疾患の皮膚転移を疑い小隆起部より皮膚生検を行った。
現症:下腹部から鼠径部,陰囊,陰茎のオムツに覆われた部分に多数の粟粒大から小豆大の小隆起を伴う浸潤性紅斑を認めた。陰囊陰茎は腫大し,一部びらんを伴っていた(図 1 )。
病理組織学的所見:腫瘍細胞が真皮全層の間質に浸潤し,一部は胞巣状に増殖していた(図 2 a)。腫瘍細胞は部分的に腺腔構造を形成し,その一部は淡明な胞体を有し(図 2 b),原疾患の腫瘍細胞と酷似していた。
免疫組織化学的所見:D2-40 染色陽性を示す拡張したリンパ管内には腫瘍細胞が集塊をなし閉塞していた(図 3 )。
診断:肛門管癌の鼠径リンパ節転移に伴うパンツ型皮膚浸潤
患者:64 歳,女性
主訴:前胸部,左右前腕のびらん
現病歴:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の既往あり,5 年前より無治療で経過観察されていた。X-2 カ月の血小板(Plt)数は 16.8 万/μl だった。X-7 日に左右前腕にびらん,X-2 日に前胸部に鶏卵大のびらんを生じ急速に拡大した。Plt 数低下を伴い X 日に受診した。
初診時現症:体温 36.4 度,右前腕には母指頭大のびらん,前胸部に広範囲にびらんを認め,辺縁は淡い紅斑と水疱で縁取られていた(図 1 )。
検査所見(異常値は下線で示す):WBC 12,690/μl (neut 94.8%),Plt 2.6 万/μl,CRP 8.1 mg/dl,PT-INR 1.19,Fib 638 mg/dl,AT-3 101%,FDP 6.7 μg/ml。血液培養は施行しなかった。
病理組織学的所見(図 2 ):前胸部びらん辺縁の紅斑の生検時に水疱を生じて水疱蓋が脱落した。表皮は角化層と顆粒層が欠損し,真皮浅層の浮腫と血管周囲性にリンパ球と一部に好中球浸潤を認めた。
診断および治療:X 日よりセファゾリン(CEZ)2 g/日を開始し,X+3 日にはびらんは,胸骨部を除いてほぼ上皮化し,紫斑形成を伴った(図 3 )。X+8 日に CEZ を終了した。水疱内容液で exfoliative toxin(ET)A 陽性 MRSA3+(CEZ 最小発育阻止濃度は1 μg/ml)を検出した。X+3 日の Plt 数は 0.2 万/μl,全身性に点状紫斑が多発した。PSL 内服と連日の Plt 輸血にて X+10 日には Plt 数は正常範囲内に回復した。
78 歳,男性。当科初診 7 カ月前より,去勢抵抗性前立腺癌に対してアパルタミドの投与を開始され,初診 2 カ月前より,躯幹四肢に浮腫性紅斑が出現した。休薬により褪色したため,減量での投与を再開されたが,皮疹が増悪し,エンザルタミドに変更された。その後も皮疹の改善がなく全身に拡大したため,当科を受診した。略全身に著明な落屑を伴うびまん性の潮紅がみられ,発熱を伴った。皮膚生検の病理組織像では,表皮内へのリンパ球浸潤とケラチノサイトの個細胞壊死がみられ,浸潤するリンパ球の大部分は,CD4 陰性,CD8 陽性であった。以上より,アパルタミドによる紅皮症型薬疹と診断した。プレドニゾロン(PSL)30 mg/日の内服を開始後褪色し,PSL 20 mg/ 日へ減量したが,再燃があり PSL 40 mg/ 日へ増量した。PSL 増量 6 日後,両肺すりガラス陰影が出現した。アパルタミドによる薬剤性間質性肺炎の可能性を考え,メチルプレドニゾロン 1 g/日を 3 日間投与した。その後 PSL 40 mg/ 日へ減量したところ,ニューモシスチス肺炎を合併し,CMV 抗原と EBV-DNA 陽性が判明した。皮疹は改善が乏しく,遷延していた。薬剤性過敏症症候群と診断し,PSL を緩徐に漸減したところ,皮疹は徐々に褪色した。アパルタミドは,有害事象として皮疹の発現率が高く,皮疹は遅発性に出現し,遷延しやすい特徴を有するようである。本症例では,薬剤性過敏症症候群の診断に至り,PSL の緩徐な漸減により皮疹は褪色した。しかし,肺障害のため永眠された。
症例① 37 歳,男性。粘膜型尋常性天疱瘡に対してステロイド全身投与を行ったが効果不十分であり,血漿交換療法および免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)を行った。また並行してトリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤(ST 合剤)の内服を行った。IVIG 開始後 14 日目,ST 合剤開始後 15 日目に無顆粒球症を発症し,同日に発熱性好中球減少症を生じた。顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤ならびにタゾバクタム / ピペラシリン(TAZ/PIPC)の投与を行い,血球数は徐々に増加した。症例② 48 歳,男性。粘膜型尋常性天疱瘡に対してステロイド全身投与を行ったが効果不十分であり,アザチオプリン内服開始後に IVIG 投与を行った。IVIG 開始後 7 日目,アザチオプリン開始後 43 日目に無顆粒球症を発症し,翌日には発熱性好中球減少症を生じた。G-CSF 製剤ならびに TAZ/PIPC の投与を行い,血球数は徐々に増加した。ST 合剤やアザチオプリンにより生じた可能性も否定はできないが,発症様式や期間から自験例では IVIG により発熱性無顆粒球症が生じたと考察した。IVIG により生じる無顆粒球症の病態の詳細はいまだ明らかではないが,今後注意すべき有害事象の 1 つと考え報告する。
53 歳の男性。2013 年頃に近医皮膚科で尋常性乾癬と診断され,以降カルシポトリオール軟膏,ジフルコルトロン𠮷草酸エステル軟膏外用と月に 2,3 回程度の紫外線療法が行われていた。2019 年,長時間の野外作業を行った翌日より,躯幹四肢の浸潤性紅斑局面が多発し発熱も認めた。当初は尋常性乾癬の急性増悪や膿疱性乾癬を疑い,入院のうえシクロスポリン内服を開始したが,その後全身に緊満性水疱が多発した。各種検査結果から水疱性類天疱瘡と診断しプレドニゾロン 60 mg/日の内服を開始したところ皮疹は速やかに改善し,その後プレドニゾロンを漸減しているが皮疹は再燃していない。
81 歳,男性。初診の半年前より左前腕伸側に鶏卵大の腫瘤が出現し,2 カ月前より同部位の中枢側にも鶏卵大の腫瘤を認めていた。悪性リンパ腫等を疑い,各種臨床検査,画像検査,病理組織学的検討を行った。組織学的には多核巨細胞を伴う類上皮細胞肉芽腫を認め,一部壊死巣を伴っていた。T-SPOT も陽性であったため,結核の鑑別が必要となったが,抗酸菌培養と組織染色陰性であったため結核を除外した。胸部 CT で縦隔および両側肺門のリンパ節腫大,両肺びまん性かつ上肺野優位の微細な粒状影,心電図で不整脈がみられ,二回目の組織検査でサルコイドーシスに典型的な非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫がみられたため,診断に苦慮したが,最終的に皮下型サルコイドーシスと診断した。サルコイドーシスと結核の鑑別は非常に重要であり,T-SPOT や組織学的壊死など検査所見の意義を十分に理解した上で,診断することが重要である。
35 歳,女性。幼少期から爪甲の肥厚,下腿の毛孔一致性の角化,20 歳頃から両腋窩に多発する皮下腫瘤を自覚していた。父,長男にも同様に爪の肥厚がみられ,加えて父は体幹に多数の皮下腫瘤,長男は腰臀部の擦過部に毛孔一致性の角化がみられた。先天性爪甲硬厚症を疑い遺伝子検査を行い,KRT6A 遺伝子のエクソン 1 の 516~518 番目の塩基である CAA が欠失する変異をヘテロ接合体に同定した。発端者の腋窩皮下腫瘤に対しては皮膚皮下腫瘤摘出術を行い,多発脂腺囊腫と診断した。先天性爪甲硬厚症に対しては日頃のケアが重要であり,siRNA を用いた新規の治療薬の開発も期待されており,早期に発見し変異を同定することは将来的に意義が大きいと考える。
Birt-Hogg-Dube 症候群(BHD)は皮膚病変,腎腫瘍,肺囊胞を特徴とした常染色体優性の遺伝性疾患で,皮膚病変として線維毛包腫,毛盤腫が多発することが知られている。確定診断には成人発症の 5 個以上の線維毛包腫もしくは毛盤腫があり,少なくとも 1 個は組織学的に証明することが必要であり,病理組織で証明できなかった場合はフォリクリンの遺伝子変異を同定することで確定診断となる。本症例は腎細胞癌の既往および多発性肺囊胞の合併,軟性線維腫の多発は認めたものの皮膚病理組織診断で BHD の確定診断には至らなかった。このため患者血液から遺伝子解析を行い,フォリクリン遺伝子の exon 4 領域にミスセンス変異を同定したことで BHD と確定診断した。BHD は 40 代以降で高頻度に腎癌を発症し,それが生命予後に影響を及ぼすため,若年で肺気胸を繰り返し特徴的な皮膚病変を有する患者は BHD を疑い,なるべく早期に確定診断を行うことが重要である。
75 歳,女性。25 年前より両側手掌・足底に膿疱を伴う角化性病変が生じ,近医で掌蹠膿疱症と診断され外用治療および中波長紫外線治療を受けていた。5 年前より両足縁から踵,足背にかけて瘙痒を伴う長径 1 cm 程度の楕円形の褐色斑が多数出現した。右足外縁の褐色斑より皮膚生検が施行され,病理組織所見で皮疹の両端に cornoid lamella がみられた。紫外線治療後に後天的に角化局面が出現した病歴と併せて播種状表在性光線性汗孔角化症(DSAP)と診断した。本邦の汗孔角化症では MVD や MVK 遺伝子などのヘテロ接合性変異が報告されており,さらに紫外線などの後天的な要因が局所に新たな遺伝子変異を生じさせ汗孔角化症の病態を形成する。このような病態により汗孔角化症は長期間紫外線治療を受けた乾癬患者に稀に報告されているが,掌蹠膿疱症に合併して足底に発症した症例は本邦ではまだ報告されていない。今回われわれは掌蹠膿疱症に対して数年にわたって中波長紫外線治療を行った患者に発症した DSAP を経験したので報告する。
47 歳,女性。肺腺扁平上皮癌に対してドセタキセル(DTX)とラムシルマブ(RAM)の併用療法を開始 3 カ月後から,頭頚部・体幹・上肢に 2 ~ 6 mm の紅色丘疹が多発した。増大傾向で出血もみられたため,初診時から 3 カ月の間に合計 8 カ所の病変を切除した。病理組織学的に,いずれも毛細血管の増生がみられ毛細血管拡張性肉芽腫(Pyogenic Granuloma:PG)の診断であった。その後原病の増悪のため RAM は中止となったが,PG の新生はみられず,切除せず残存していた PG はすべて消退した。RAM 投与中に PG が生じた報告は自験例を含めて 15 例報告されており,通常の PG と比較して一部異なる経過もみられた。出血を伴うこともあるため慎重な経過観察が必要であり,症状増悪があれば外科的切除すべきであると考えた。
症例1:80 歳,男性。2 カ月前から左顔面に 6 × 5 mm の紅色結節が出現した。皮膚生検にて表皮直下から真皮深層にかけて異型性の強い紡錘形細胞の増殖を認め,1 カ月後に腫瘍全摘術を行った。病理組織学的に真皮浅層から真皮深層まで境界明瞭な結節が認められ,紡錘形細胞が錯綜配列を呈していた。腫瘍と連続した表皮の基底層の細胞は腫大し異型性のある核を有し,真皮網状層には solar elastosis を認めた。免疫組織化学的に,腫瘍細胞は CK5/6,α-SMA が部分的に陽性,vimentin が陽性,CAM5.2 と S100 蛋白は陰性であり spindle cell squamous cell carcinoma と診断した。症例 2:84 歳,男性。6 カ月前から左頰部に 7 × 6 mm の紅色結節が出現した。皮膚生検にて真皮内に異型性が強く,多形性のある線維芽細胞様の紡錘形細胞を認め,1 カ月後に腫瘍全摘術を行った。病理組織学的には真皮全層に境界明瞭な結節があり異型の強い紡錘形細胞が増殖し,多核巨細胞,核分裂像を認めた。免疫組織化学的に腫瘍細胞は CK5/6,S100 蛋白は陰性,α-SMA が部分的に陽性,vimentin,CD10 が陽性であり atypical fibroxanthoma と診断した。両者は臨床的,病理組織学的に類似しており,鑑別には様々な免疫組織化学染色を組み合わせて行う必要がある。
Spindle cell squamous cell carcinoma (SpSCC) は比較的稀な有棘細胞癌(SCC)の一亜型で高齢者の露光部,特に顔面に好発する。症例は 82 歳の男性。約 1 年前より右耳前部に紅色腫瘤が出現した。近医で切除されたが術後 3 カ月で再発し,当科に紹介された。初診時,右耳前部に 25×22 mm の隆起性紅色腫瘤を認めた。皮膚生検にて,核異型と好酸性細胞質を有する紡錘形細胞を認め,免疫組織化学染色で上皮系マーカーである p40,cytokeratin5/6,間葉系マーカーの vimentin が陽性,α-SMA,desmin,SOX-10,S-100 蛋白,CD34 が陰性であることより SpSCC が疑われた。1 カ月後に腫瘍辺縁から 5mm 離し耳下腺浅葉を含めて切除した。摘出標本の病理組織像,免疫組織化学像の所見より,SpSCC と診断した。術後,再発やリンパ節転移は認められていない。SpSCC は病理組織学的に H-E 染色のみではその他の紡錘形細胞を有する腫瘍との鑑別が困難であり,免疫組織化学染色がその鑑別に有用である。一般的に低分化型 SCC は悪性度が高いとされているが,放射線に関連しない SpSCC は低リスク群に分類される。自験例は,露光部に発生した SpSCC であるが,中咽頭扁平上皮癌に対する放射線治療施行後であることから,今後とも慎重な経過観察の継続が必要と考える。
目的:蕁麻疹,皮膚疾患(湿疹・皮膚炎,皮膚そう痒症)に伴うそう痒に対するルパタジンフマル酸塩(以下,ルパタジン)の使用実態下における安全性および有効性を検討した。
方法:アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,そう痒を伴う皮膚疾患患者を対象としたルパタジンの使用成績調査(観察期間は投与開始から最長 12 週間)で得られたデータのうち,蕁麻疹,そう痒を伴う皮膚疾患患者のデータを解析した。
結果:安全性解析対象症例 1392 例のうち,女性の割合は 58.8%で,小児(12~18 歳未満)が 5.2%,高齢者(65 歳以上)が 38.9%含まれた。副作用は 4.74%に認められ,重点調査項目の傾眠の発現割合は副作用の種類別で最も多く,3.38%に認められた。小児および高齢者での安全性について,副作用発現割合は小児が 2.74%,非高齢者(18~65 歳未満)が 4.89%,高齢者が 4.80%であり,カテゴリ間で有意差を認めなかった。肝機能障害または腎機能障害の有無別の副作用発現割合もカテゴリ間で有意差を認めなかった。蕁麻疹,そう痒を伴う皮膚疾患患者 1199 例における有効率(著効+有効の割合)は 89.8%であった。そう痒スコアは投与 1 週間後から改善された。
結論:ルパタジンの使用実態下における安全性および有効性について,承認時の臨床試験から新たに懸念される事項は認められなかった。
Dr. Kaplan is a professor of Dermatology and Immunology at the University of Pittsburgh in the United States. For over 15 years Dr. Kaplan has been exploring the fundamental immunological mechanisms that underly the initiation of cutaneous inflammation. His work focuses, in particular, on the function of individual subsets of skin-resident dendritic cells and the interactions between immune and non-immune cells (e.g. neurons and keratinocytes) in the skin.