患者:77 歳,男性
主訴:右側頭部の紅色結節
既往歴:アルコール性肝硬変,食道静脈瘤
現病歴:初診 2 カ月前に右側頭部に紅色結節を自覚した。結節は徐々に増大傾向のため当科を紹介され受診した。
現症:右側頭部に 2 cm の可動性不良の紅色結節を認めた(図 1 )。
病理組織学的所見:HE 染色では表皮は肥厚し,真皮に異型上皮細胞の増殖からなる大小不整形胞巣が多発集簇性にみられ網目状構造を認めた(図 2 )。
免疫組織化学的所見:浸潤している細胞は,CK7 が陽性で,CK20,CEA,Uroplakin Ⅲは一部で陽性であり(図 3 ),転移性皮膚腫瘍の所見と考えられた。
画像所見:造影 CT で右腎中から下極,腎門部に 62 mm の腫瘤と腎周囲脂肪織浸潤がみられ原発巣と考えられた。また左下肺野と右第四肋骨に転移性病変を認めた。
診断および治療:組織学的所見と画像所見より,腎盂癌の皮膚転移と診断した。以後の治療を泌尿器科へ依頼した。Gemcitabine+Carboplatin 療法が開始されたが全身状態が急激に悪化し原発巣診断から 2 カ月後に永眠された。原発巣と転移巣の外科的切除は希望されず原発巣の組織検査は施行できていない。
患者:13 歳,女性
主訴:舌の点状色素斑
現病歴:7 歳時,舌の色素斑を自覚し増大傾向を示した。母や同胞に舌の異常所見は認めなかった。
既往歴:てんかん,自動症,自閉症,自傷行為
内服:ラメルテオン,レンボレキサント,アリピプラゾール,クエチアピン,レベチラセタム
現症:舌背前方と舌外側縁から後面にかけて,自覚症状のない黒褐色点状色素斑を多数認めた(図 1 a,b)。
ダーモスコピー所見:舌の茸状乳頭に限局した黒褐色の色素沈着部を認め,褐色突起に乳頭基部から血管成分が流入する ‘rose petal’ pattern を呈していた(図 2 )。
診断:Pigmented Fungiform Papillae of the Tongue(以下 PFPT)
経過:無治療で初診から半年後,大きな変化はみられなかった。
患者:54 歳,男性
主訴:全身の角化性紅斑
既往歴:特記事項なし
現病歴:発熱後,前胸部に紅斑が出現し,顔面や頭部に拡大した。前医で湿疹としてステロイドの外用および内服で加療されたが増悪し,3 カ月後に血液検査で RPR および TPHA 高値で当科に紹介された。感染機会は聴取したが不明であった。
現症:手掌足蹠を含む全身に角化性紅斑が多発していた(図 1 a ~ c)。
病理組織学的所見:前腕の角化性紅斑より生検した。中拡大像で真皮浅層から中層の血管周囲に多数の炎症細胞浸潤があり,顆粒層は保たれ表皮突起の延長はなかった。強拡大像で真皮浅層から中層の血管周囲に多数のリンパ球と形質細胞浸潤があった(図 2 a,b)。抗 Treponema pallidum 抗体(BIOCARE Medical LLC)を使用した免疫組織化学染色(TP 染色)では,表皮にらせん状のトレポネーマ菌体があった(図 3 )。
臨床検査所見(下線は異常所見を示す):(CBC)WBC 6320/μl,RBC 449×104/μl,Hb 14.8 g/dl,Ht 44.8%,Plt 31.2×104/μl(生化学)T-bil 0.6 mg/dl,AST 18 IU/I,ALT 14 IU/l,ALP 70 IU/l,γ-GTP 14 IU/l,LDH 172 IU/l,BUN 16 mg/dl,Cr 0.90 mg/dl,CK 249 IU/l,Na 104 mEq/l,K 5.3 mEq/l,Cl 97 mEq/l,CRP 0.13 mg/dl(感染症)梅毒 RPR 定性(+),梅毒 RPR 定量 474.9 R.U.,梅毒 TPHA 定性(+),梅毒 TPHA 定量 8443.3 R.U.
診断:梅毒性乾癬 第二期梅毒
治療経過:28 日間のアモキシシリン 1500 mg/日の内服で,皮疹は消退し,治療開始 4 週間後に RPR 159. R.U.(初診時の 1/2 以下)に低下した。
症例 1:17 歳,女性。1 歳頃の歩行開始時期より手足に水疱形成を繰り返していた。水疱は軽微な刺激にて誘発されるが,瘢痕を残さず治癒していた。症例 2:39 歳,男性。症例 1 の父親である。幼少期より手足に水疱形成を繰り返し,症例 1 と同様に瘢痕を残さずに治癒していた。この家系には大祖母,祖母,叔父など,複数の親族に同様の症状が認められた。病理組織学的所見では,症例 1 は表皮内,症例 2 は表皮真皮境界部に水疱を形成し,いずれも真皮浅層にリンパ球などの炎症細胞浸潤を認めた。蛍光抗体はいずれも陰性であった。家系図から常染色体顕性遺伝が疑われ,遺伝子検査を実施したところ,症例 1 および 2 の両者においてケラチン 14 遺伝子(KRT14)に変異を認めた。これらの所見を基に,単純型表皮水疱症(epidermolysis bullosa simplex,EBS)の父子例と診断した。EBS は常染色体顕性および潜性の遺伝形式をとることが知られているが,常染色体顕性遺伝型では,ケラチン 5 遺伝子または KRT14 にヘテロ接合性の遺伝子変異が高頻度に認められる。出生直後や幼少時期には臨床症状が完成していないことが多く,臨床症状のみで病型を診断することは極めて困難である。そのため,慎重な経過観察が必要であり,家族内発症頻度の把握や,出産に対する両親への遺伝カウンセリングが重要である。今後さらに遺伝子診断の重要性が高まると考えられる。
51 歳,男性。口内びらん・潰瘍,頭部のびまん性紅斑が生じ,当科を受診した。口唇粘膜びらん辺縁部の病理組織では上皮内の裂隙形成,棘融解を認め,蛍光抗体直接法では上皮細胞間に IgG,上皮細胞間および基底膜部に C3 が沈着していた。正常ヒト皮膚切片を基質とした蛍光抗体間接法では,血清希釈 40 倍まで患者 IgG が表皮細胞間に反応した。抗デスモグレイン(Dsg)3 抗体は 128.7 U/ml と上昇し,免疫ブロット法でエンボプラキンとペリプラキンに対する自己抗体が検出された。PET-CT で多発リンパ節腫大を認め,リンパ節生検の結果,濾胞性リンパ腫と判明した。腫瘍随伴性天疱瘡(paraneoplastic pemphigus,PNP)と診断し,プレドニゾロン(PSL)60 mg/日とともに R-CHOP 療法を計 6 コース施行した。リンパ腫は寛解に至り,粘膜・皮膚症状も改善していたが,PSL 漸減中(PSL 15 mg/日内服時点)に通院治療を自己中断した。治療中断から 3 年後に口腔粘膜病変が再燃したため再診した。抗 Dsg3 抗体は 4570 U/ml と上昇していた。PET-CT でリンパ腫の再燃はなかった。PSL 55 mg/日に加え,シクロスポリン,リツキシマブを併用した。現在,症状の軽快に合わせてPSL を漸減中である。PNP は予後不良な疾患であるが,自験例では治療中断期間を含め,5 年間と比較的長期間の経過を追うことができた。随伴腫瘍が寛解していても PNP の病勢は再燃・進行し得るため,慎重に経過をみていく必要がある。
86 歳,男性。腹部大動脈瘤切迫破裂に対し,加療後に敗血症の診断となり,バンコマイシンを含む複数の抗生剤で治療された。バンコマイシン投与を開始して 16 日目に陰部と掌蹠に水疱が出現した。抗ヒスタミン剤の内服およびステロイド外用を開始したが,体幹に水疱の新生と口腔粘膜にびらんを認め,ステロイドパルス療法を施行した。蛍光抗体直接法で,基底膜部への IgA の線状沈着を認め,蛍光抗体間接法(1M 食塩水剝離皮膚基質)で表皮側に IgA が反応し,免疫ブロット法では BP180 の C 末端に対する IgA 抗体が検出された。線状 IgA 水疱性皮膚症(Linear IgA bullous dermatosis;以下 LABD)の発症機序は不明だが,標的抗原は多岐にわたり薬剤誘発型の報告もある。原因薬剤の半数以上はバンコマイシンと報告されており,自験例もバンコマイシンによって誘発された LABD の 1 例と考えた。バンコマイシン誘発型 LABD は初発症状としてびらんや粘膜疹を呈し重症薬疹と類似した症状を呈するが,バンコマイシンの投与中止のみで軽快する場合があり,両者の鑑別が重要である。
43 歳,女性。左側腹部の白斑に対して 23 年前に外用 PUVA 療法を 1 年間行われ,皮疹はやや改善した。その後,経過観察されていたが白斑の内部に赤褐色調の色素斑が出現し,急速に拡大した。初診時には境界不明瞭の淡い白斑内に約 0.6×0.5 cm の不整形の赤褐色斑が認められた。ダーモスコピーでは色素斑の辺縁に leaf-like areas を認めた。切除後の病理組織検査では表皮から発芽するように好塩基性の腫瘍細胞が胞巣を形成して真皮乳頭層内に浸潤している。胞巣辺縁には腫瘍細胞の柵状配列も観察された。免疫組織化学染色で Ber-EP4 が陽性であった。以上の所見から白斑上に発生した表在型の基底細胞癌と診断した。Fontana-Masson 染色では腫瘍胞巣内にのみメラニンが散在性に観察された。文献を渉猟したところ白斑上に生じた基底細胞癌の報告は稀で自験例を含めて 6 例しかなかった。これらを集計し,基底細胞癌発生の pathogenesis を含めて若干の文献的考察を加えた。
76 歳,女性。約 8 カ月前に両側下腿伸側に自覚症状を伴わない紅褐色局面が出現した。病理組織学的に膠原線維束間の開大とムチンの沈着があり,脛骨前粘液水腫と診断した。血液検査では TSH の低下,遊離 T3,遊離 T4,甲状腺刺激抗体,TSH レセプター抗体の上昇がみられ,Basedow 病と診断した。また甲状腺エコー検査では右葉に結節性病変を認め,甲状腺穿刺吸引細胞診の結果,甲状腺乳頭癌と診断した。脛骨前粘液水腫は稀ではあるが Basedow 病や甲状腺癌発見の契機となることがある。下腿伸側に局面,結節,圧痕を残さない浮腫を認めた際は本症を念頭に置いて皮膚生検を施行し,本症診断後は既往の有無にかかわらず甲状腺の精査を行うことが勧められる。
54 歳,男性。初診の 7 カ月前に健康診断で白血球増多を指摘され,6 カ月前より体重減少を認めた。初夏となった初診 2 カ月前より褐色尿,1 カ月前より頭部と手指に落屑が出現し,外用療法にて難治のため当科を紹介され受診した。頭頂部と前額部,両手指伸側に痂皮を付すびらんを認め,軽微な刺激で容易に水疱を形成した。貧血と軽度の肝機能障害,尿中ウロポルフィリンの著明な増加を認め,晩発性皮膚ポルフィリン症(porphyria cutanea tarda:PCT)と診断した。PCT の診断と同時期に慢性骨髄性白血病と診断され,血液内科で治療を継続されている。白血病の治療開始後,冬季に皮膚症状は自然軽快した。血液悪性腫瘍を合併した PCT は海外で報告されているが,本邦では本症例が初めてである。
65 歳,女性。歯科口腔外科にて角化囊胞性歯原性腫瘍術後の経過中に,頭部の腫瘤が認められたため,当科を紹介され受診した。頭部に黒褐色局面を 3 カ所認め,病理組織学的にいずれも基底細胞癌(BCC)と診断した。頭部 CT 検査で大脳鎌の石灰化,胸部 CT 検査で二分肋骨を認め,また娘に同症の既往があり,Kimonis らによる診断基準から基底細胞母斑症候群(BCNS)と診断した。患者の末梢血 DNA を用いて本疾患の原因遺伝子の一つである PTCH1 を解析した結果,エクソン 7 に 1 塩基の欠失変異 c. 980delG(p. Cys327Phefs*15)がヘテロ接合型で同定された。本変異は,過去に報告されておらず新規の変異と考えられた。BCNS では経時的に BCC が多発する。とくに放射線治療後に照射部位に一致した皮膚に BCC などの腫瘍が発生することが知られており,放射線照射や紫外線曝露を避けるなどして BCC の発生リスクの軽減を図るとともに,非露光部も含めた全身の定期的観察が必要である。
64 歳,男性。5 年ほど前より右鼠径部の皮下腫瘤に気が付いた。徐々に増大傾向にあり精査加療目的に当科を受診した。画像検査での鑑別は困難であり,皮膚生検と手術により病理組織学的に検討し estrogen receptor(ER),androgen receptor(AR)陽性の侵襲性血管粘液腫と診断した。AR 陽性を示した侵襲性血管粘液腫の症例は自験例を含めて 5 例の報告がある。再発例においては ER,progesterone receptor(PgR),AR の発現がその都度異なることも念頭に入れなくてはならない。AR 陽性症例では従来の gonadotropin releasing hormone agonist(GnRHa)や抗 estrogen 薬で病勢が悪化する可能性がある。そのため病変の切除後に病理組織学的に確定診断に至った際も,ホルモン療法のために ER,PgR だけでなく AR も精査する必要がある。ホルモン療法は頻回な画像検査を行い,増大する場合には抗 androgen 薬の使用を考える必要がある。
74 歳,男性。10 年以上前より下腹部に脱色素斑があった。初診の 2 カ月前に下腹部左側の紅色局面を自覚し近くの皮膚科を受診した。徐々に病変が拡大したため皮膚生検が施行された。乳房外パジェット病(extramammary Paget's disease:EMPD)の診断にて,治療目的のため,当科に紹介された。初診時,下腹部から陰囊にかけて多発する紅斑を認め,下腹部には多中心性に脱色素斑があった。また,左腋窩に脱色素斑を伴う紅斑を認めた。複数の紅色局面,紅斑,脱色素斑からの生検で Paget 細胞を認め,肉眼的辺縁から 1 cm 離して切除した。EMPD は稀に多中心性に病変を生じることがあり,アジア人男性に多いとされる。EMPD において,脱色素斑を伴う多中心性の病変を認めた場合には,腋窩も含めた慎重な視診を行い,複数の病変からの生検を検討することが重要である。
72 歳,女性。関節リウマチに対して約 20 年前からメトトレキサート(Methotrexate;以下 MTX)が処方され,12 mg/ 週で病勢コントロールは良好であった。初診 2 年前に帯状疱疹(右 Th6-7 領域)に罹患した。初診 2 カ月前から同部位に紅色丘疹や皮下硬結,潰瘍が出現し,その後下顎部にも潰瘍がみられた。外用治療では十分な改善が得られず,精査加療目的で当科を紹介され受診した。皮膚生検では,真皮全層に大小さまざまなリンパ球の浸潤を認め,中型~大型のリンパ球に核異型があり,それらは EBER in situ hybridization 陽性であった。皮疹は MTX の中止後に速やかに消退し,メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-Associated Lymphoproliferative Disorders;以下 MTX-LPD)と最終診断した。病変の初発部位は帯状疱疹の罹患部位に一致しており,Wolf's isotopic response の可能性があった。Wolf's isotopic response は,帯状疱疹などが治癒した部位に新たな皮膚疾患が生じる現象であり,悪性腫瘍の発生も報告されている。帯状疱疹との鑑別が重要であり,診断に迷う場合は積極的な皮膚生検が推奨される。
80 代,女性。不衛生な住居に居住していた。足爪の肥厚があるため,当科を受診した。両母趾などの複数趾に爪甲肥厚,弯曲,過伸長があり,鏡検で多数のダニ虫体,虫卵を認めた。鏡検で爪白癬も陽性であり,足爪白癬にダニが偶発寄生したと考えた。爪切りによる爪甲除去,清掃と爪白癬に対する外用療法を行いダニは消失した。鏡検での形態学的特徴からコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)を同定した。さらに,爪検体のミトコンドリア 16S rRNA 遺伝子解析を実施し,ケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)の存在も証明した。以上より,爪白癬の病変内に 2 種類のダニが寄生したと診断した。長年放置された爪白癬の病変は,チリダニ類やコナダニ類が生育しやすい環境となるが,これらのダニ類に感染性はなく,爪切りや保清,および爪白癬治療がダニの駆除に有効である。爪へのダニ寄生例では感染性を持つ爪疥癬の鑑別が重要であり,ダニ種を同定することは大切である。