日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
109 巻, 1 号
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特別寄稿 ―専門医制度の現状と課題―
  • 池田 康夫
    2012 年 109 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    現在,わが国の専門医制度は,各学会がそれぞれにその制度を設計し,専門医を認定していることから必ずしも広く国民に認識される専門医となっておらず,欧米のそれとは異なっている.専門医制度の意義は,医師にとっては研修プログラムの充実によって診療レベルを高めるとともに修得した知識,技量などについて認定を受け,それを社会に開示できることであり,患者にとっては診療を受けるに際して医師の専門性の判断ができることである.更に,医師の診療における役割分担を推進し,患者がより効率的な診療を受ける体制が構築できる.専門医制度を確立することは,わが国が抱えている医療の諸問題を解決するためにも必須である.(社)日本専門医制評価・認定機構では制度の再構築に向けた議論を煮詰め,このほど基本設計を公表した.その骨子は,初期研修を修了した医師は18基本領域のいずれかの専門医になり,その後にSubspecialtyの専門医となる2階建て制度である.そしてこれまで,学会が認定してきた専門医を新たに中立的第三者機関を設立して行うとともに,研修施設のサイトビジット,研修プログラムの評価・認定という新たな作業を担うこととする.
  • 菅野 健太郎
    2012 年 109 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    日本消化器病学会専門医制度は,1988年に認定医制度が開始され,2002年に現在の専門医制度に移行した.その後毎年,専門医制度委員会で,専門医カリキュラム,専門医試験,専門医資格更新要件などについて審議・改訂され現在に至っている.しかし,本学会の基盤学会である日本内科学会が,認定医,専門医カリキュラムの大幅な更新を行ったこと,本学会が社会的要請の強い疾患へ対応していく必要性があること,卒後教育における国際的な考え方を導入する必要性があることなどから,専門医カリキュラムの大幅改訂,専門医活動の活性化を行う必要性が生じている.本稿では,専門医制度をめぐる諸問題と本学会の対応について述べる.
  • 中尾 昭公
    2012 年 109 巻 1 号 p. 15-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    日本消化器病学会は消化器病診療を専門とする優れた医師を養成し,消化器病医療の向上のために1987(昭和62)年より専門医制度を設け,専門医,指導医,認定施設,関連施設の審査業務を行ってきた.とくに専門医育成のための専門医研修カリキュラムは非常に重要であり,医療の進歩にともなって改訂されていくべきものである.現在そのカリキュラムの大幅改訂が進められているが消化器病専門医のなかには消化器外科系の専門医も多く含まれている.将来に向けて理想的な日本消化器病学会専門医制度を確立するために,関連する外科系学会の専門医制度の現状を紹介するとともに課題について述べた.
  • 石橋 大海, 松井 敏幸, 江口 有一郎, 宮明 寿光, 長浜 孝, 阿部 慎太郎, 神代 龍吉, 林 純, 小森 教正, 上田 城久朗, ...
    2012 年 109 巻 1 号 p. 19-29
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    「専門医」への要求・要望が増している今,消化器分野においても社会へ応えることができる専門医の育成が迫られている.現代に即した専門医育成のためのカリキュラムの改訂とともに,若い医師に魅力ある教育システムを示さなければならない.専門的知識や技術の修得とともに,判断力,決断力,患者への思いやりの気持ちを有し,チーム医療を行える専門医の育成が望まれる.現在不足している医療過疎地における消化器医,消化器をsubspecialtyとする総合医とともに消化器腫瘍医の育成が急務であり,専門医教育として不足しがちであった栄養・代謝,医療安全,リスク評価などの社会医学的視点に関する教育も必要とされる.
総説
  • 水野 元夫, 武 進, 石木 邦治, 山本 和秀
    2012 年 109 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    Helicobacter pylori除菌治療による胃癌1次予防効果に関してはレベルの高いエビデンスとして示されているとはいえないのが現状である.しかし,早期胃癌内視鏡治療後の2次癌の予防効果がランダム化比較試験により明らかとなり,さらに,われわれの報告を含め,1次癌の予防効果を示す観察研究もいくつか報告されてきた.この点に関し,さらなる長期にわたる臨床研究は時間の浪費であり,積極的な除菌による胃癌予防を実行すべき時代に入ったと考える.より効果的な胃癌予防,さらには新規感染の防止のため,就職,結婚などの機会に,できるだけ早期にH. pyloriスクリーニングを行い,感染者には可能な限り除菌を行うように勧めるべきである.
今月のテーマ:H.pylori感染症 ―最近の知見と診療の進歩―
  • 兒玉 雅明, 村上 和成, 安部 高志, 沖本 忠義, 内田 智久, 山岡 吉生, 守山 正胤, 藤岡 利生
    2012 年 109 巻 1 号 p. 37-46
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    CagA多型性による細胞傷害の差が指摘されているが,当大学にて抗東アジア型CagAを作製し胃粘膜傷害の差を比較した.H. pylori陽性254例中30例が陰性であり,西欧型CagA株とCagA陰性株が考慮された.胃癌28例はすべて東アジア群であった(P=0.040).内視鏡的萎縮は東アジア群が有意に高度であった.組織学的に前庭部大弯で萎縮,腸上皮化生が,体部大弯で好中球活動度,萎縮が東アジア型CagA群において高度であり,東アジア型CagAによる強い胃粘膜傷害が示唆された.本法は安価かつ簡便で胃癌リスク群スクリーニングに適すると考える.またCagA以外の胃癌危険因子の関連も検討が必要である.
  • 中村 昌太郎, 松本 主之
    2012 年 109 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    胃MALTリンパ腫の診療に関する最近の知見について,Helicobacter pylori除菌後の長期予後を中心に解説した.本邦における多施設大規模追跡試験により,H. pylori除菌後の胃MALTリンパ腫の長期予後がきわめて良好であることが明らかとなった.対象420例の除菌による完全寛解率は77%であり,3~14.6年(平均6.5年)の追跡の結果,除菌10年後の治療失敗回避率は90%,全生存率95%,無イベント生存率86%であった.多変量解析の結果,H. pylori陰性,粘膜下層深部浸潤およびt(11;18)/API2-MALT1転座が除菌抵抗因子として抽出された.本症に対する除菌治療の保険収載により,H. pylori依存性胃MALTリンパ腫症例が減少し,将来は除菌抵抗例やH. pylori陰性例の診療が問題となることが予想される.
  • 塩谷 昭子, 鎌田 智有, 春間 賢
    2012 年 109 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/06
    ジャーナル フリー
    NSAID消化性潰瘍の発生には,胃酸分泌が重要な因子であり,胃酸分泌の低下あるいは抑制は潰瘍発生に抑制的に働く.H. pylori除菌は,NSAIDs内服開始前の潰瘍発生のリスクを低下させるが,長期NSAIDs内服例に対しては,潰瘍発生の予防効果はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と比較して十分ではない.低用量アスピリンを含めNSAIDs継続投与が必要な潰瘍出血例に対しては,除菌の有無にかかわらず酸分泌を十分に抑制することが重要である.H. pylori感染とNSAIDsは互いに独立した潰瘍の危険因子であり,除菌治療のみでは,NSAIDsによる消化性潰瘍は予防できないことに注意すべきである.
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