日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
110 巻, 3 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
特別寄稿―第98回総会会長講演―
  • 菅野 健太郎
    2013 年 110 巻 3 号 p. 367-373
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/05
    ジャーナル オープンアクセス
    トランスサイエンスとは,科学技術専門家が市民社会との相互コミュニケーションのなかで,よりよい意思決定を図るべき問題(トランスサイエンス問題)に対して,科学技術専門家がとるべき姿勢と方法を考える学問領域である.このような考え方の欠如が,わが国において繰り返されてきた公害や原子力発電所事故に共通に認められる問題として明らかにされてきた.社会と関わることの多い医療においても,数多くのトランスサイエンス問題が存在する.われわれ医療者は,専門家の閉鎖的意思決定システムではなく,トランスサイエンスの実践によって,これらの医療におけるトランスサイエンス問題の解決を図っていく必要がある.
総説
  • 野澤 宏彰, 渡邉 聡明
    2013 年 110 巻 3 号 p. 374-378
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/05
    ジャーナル オープンアクセス
    慢性炎症は発癌のリスク因子であり炎症性腸疾患(IBD)はその代表例である.IBD関連癌についての過去の研究からは,健常人から発生するsporadic cancerとは全く異なった発癌プロセスが働いていることが示唆される.すなわち大腸炎の生じた粘膜において,特有の組織学的・形態学的変化をとり,これにともなって遺伝子変異(genetic,epigenetic),粘液発現の変化,免疫系の異常(サイトカイン・ケモカインの発現変化,Th17の誘導など),酸化ストレスの問題,腸内細菌叢などが複雑に相互に影響を及ぼしながら,癌化に至ると考えられる.しかしながら発癌メカニズムは,いまだ十分に解明されていない.
今月のテーマ:炎症性腸疾患と大腸癌
  • 味岡 洋一, 佐野 知江
    2013 年 110 巻 3 号 p. 379-384
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/05
    ジャーナル オープンアクセス
    潰瘍性大腸炎(UC)の発癌早期病変(粘膜内腫瘍)には広い組織学的多様性がある.通常の高分化腺癌や腺腫と組織学的に同質のものに加え,通常の大腸腫瘍ではみることがまれな特殊型がある.SM以深浸潤癌では,(通常の大腸癌に比べ)低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌の頻度が高い.またこれらの組織型に加え,分化型腺癌でも浸潤性発育を呈することが特徴である.生検診断には,(1)dysplasia分類,(2)日本の通常の病理診断分類,(3)厚労省分類,が用いられている.組織学的多様性を示すUC発癌早期病変の生検診断には,(3)厚労省分類をもとに,細胞増殖動態とp53蛋白過剰発現の有無に着目した診断過程が有用である.
  • 樋田 信幸, 松本 誉之
    2013 年 110 巻 3 号 p. 385-390
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/05
    ジャーナル オープンアクセス
    潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)におけるsurveillance colonoscopy(SC)の目的は,大腸炎に関連して発生する腫瘍性病変を早期に診断することである.しかし,慢性炎症粘膜を背景とするUCにおいて,内視鏡検査で腫瘍性病変を的確に捉えることは容易ではない.診断精度を上げるためには,UCに関連して発生するdysplasiaや大腸癌の内視鏡像の特徴を知ることが重要である.内視鏡医は,dysplasia associated lesions or massesと呼ばれる隆起型腫瘍のみならず,粘膜の色調や表面構造などの微細な変化をきたす平坦型腫瘍の存在にも留意して,注意深く観察する必要がある.少しでも腫瘍を疑う所見を見出した場合には,炎症性変化と腫瘍を鑑別するため,積極的に狙撃生検を行う.
  • 舟山 裕士, 高橋 賢一, 生澤 史江, 小川 仁, 渡辺 和宏, 羽根田 祥, 鈴木 秀幸, 福島 浩平, 海野 倫明, 佐々木 巖
    2013 年 110 巻 3 号 p. 391-395
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/05
    ジャーナル オープンアクセス
    潰瘍性大腸炎関連大腸癌では,大腸全摘が標準的術式であり,肛門温存手術が第一選択となる.回腸肛門吻合術は最も根治的であるが,回腸肛門管吻合術は残存直腸粘膜におけるdysplasiaの問題が残る.直腸癌合併例では全結腸直腸切除術が標準術式であるが,局所の進行度により括約筋間直腸切除術や,内肛門括約筋切除による肛門温存手術も可能である.術後排便機能は,一般の潰瘍性大腸炎手術例と同等とされるが,pouch failureは高頻度である.長期予後についても散発性大腸癌と同等であるとする報告もあるが,特にStage IIIでは不良であるとする報告が本邦からなされている.
  • 杉田 昭, 小金井 一隆, 辰巳 健志, 山田 恭子, 二木 了, 黒木 博介, 木村 英明, 鬼頭 文彦, 福島 恒男
    2013 年 110 巻 3 号 p. 396-402
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/05
    ジャーナル オープンアクセス
    クローン病に合併する大腸癌は欧米で結腸癌が多いのに対し,本邦では痔瘻癌を含む直腸肛門管癌が多い.大腸癌合併例はクローン病の罹病期間が長い例に多く,クローン病病変の合併のために早期診断が困難で予後は不良である.現状では直腸肛門の狭窄症状の進行,下血,痔瘻からの粘液排出増加などの臨床症状の変化に留意し,癌合併を念頭に置いて積極的な細胞診,組織診を行うことが必要である.直腸肛門管癌に対する癌サーベイランス法の確立については現在,厚労省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班で素案を作成し,本邦独自のsurveillance programの確立の可否を多施設でのpilot studyで検討している.
原著
  • 詫間 義隆, 高畠 弘行, 守本 洋一, 利國 信行, 山本 博
    2013 年 110 巻 3 号 p. 403-411
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/05
    ジャーナル オープンアクセス
    肝癌患者は年々高齢化している.ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation;RFA)を施行した240例を,75歳以上の高齢群(n=82)と75歳未満の非高齢群(n=158)に分け,合併症,生存率,再発率を比較した.RFAの合併症は両群で有意差なく,高齢群は非高齢群に比べ累積生存率が有意に低かった.多変量解析では高齢は生存率,再発率の規定因子でなかった.背景因子を共変量としたpropensity scoreによるマッチング後,両群の生存率,再発率に有意差はなかった.高齢肝癌のRFAは非高齢に比べ一見予後不良にみえるが,背景因子を考慮すれば安全かつ同等の効果が期待できる.
症例報告
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