消化管リンパ腫の診療に関する最近の知見を概説した.本邦の多施設追跡試験により,H. pylori除菌後の胃MALTリンパ腫の良好な長期予後が確認された(10年後全生存率95%,無イベント生存率86%).一方,H. pylori除菌療法は,H. pylori陰性MALTリンパ腫や胃diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)の一部にも有効である.最近,欧州で再燃/難治性MALTリンパ腫に対する高用量クラリスロマイシン単剤療法の有効性が報告され,本邦では,H. pylori陰性・除菌抵抗性消化管MALTリンパ腫を対象とした,同プロトコールによる多施設臨床試験が進行している.
消化管原発悪性リンパ腫は,節外性リンパ腫の最も多くを占め,その大半が非ホジキンリンパ腫で,ホジキンリンパ腫は非常にまれである.また,消化管悪性腫瘍の約1~2%が悪性リンパ腫とされていて,節外リンパ腫の30~40%を占める重要な疾患である.臓器別では胃が最も多く,次いで小腸,大腸の順で,食道のものはまれである.組織型としては,MALTリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫が多い.また,濾胞性リンパ腫が認識されるようになり,増加している.最近,比較的予後のよい低悪性度消化管T細胞性リンパ増殖症や,リンパ腫様胃腸症/NK細胞性腸管症が認識されている.
胃は節外性非ホジキンリンパ腫の好発部位で,節外性粘膜関連リンパ組織辺縁帯B細胞リンパ腫(MALTリンパ腫)とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)がその組織型のほとんどを占める.肉眼型はMALTリンパ腫では表層型が多く,DLBCLでは2型進行癌や決壊した粘膜下腫瘍様の腫瘤を形成することが多い.限局期のMALTリンパ腫の治療はHelicobacter pylori(H. pylori)感染の有無にかかわらず除菌治療が第一選択で,DLBCLでは(放射線併用)化学療法が推奨される.また,胃には全身性消化管リンパ腫の浸潤もしばしばおこり,肉眼像からの鑑別は必ずしも容易ではない.
腸管リンパ腫の大部分はB細胞性であり,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の頻度が高い.組織型によってある程度特徴的な肉眼型を呈する.治療の基本はRituximab併用多剤化学療法であるが,MALTリンパ腫の限局期例にはH. pylori除菌薬投与での寛解例も散見される.濾胞性リンパ腫は緩徐に進行するためwatch and waitも選択肢となりうる.マントル細胞リンパ腫は進行例で発見されることが多く,さらに強力な化学療法が必要である.T/NK細胞性リンパ腫の頻度は低く,治療抵抗性で予後不良例が多い.造血幹細胞移植の適切な導入や新規治療薬の活用も含めた治療法の確立が必要である.
本研究ではラテックス免疫比濁(LIA)法を用いた血清H. pylori抗体検出キットの判定保留域を256例の解析により検証した.その結果,LタイプワコーH.ピロリ抗体・J,H.ピロリ―ラテックス「生研」,LZテスト‘栄研’H.ピロリ抗体の判定保留域は,それぞれ4以上8.7単位/mL未満(陽性低値),10以上15.2U/mL未満(陽性低値),5.6以上10U/mL未満(陰性高値)であった.また,各キットにおいて判定保留域未満は未感染域,判定保留域以上は現感染域と考えらえた.判定保留域は他のH. pylori検査や内視鏡所見を参考に総合的に感染診断を行う必要がある.
68歳男性.肝右葉に巨大腫瘤を認め,左脈絡膜原発悪性黒色腫stage IV(右眼窩内・肝転移・胃/十二指腸転移・直腸転移)と診断された.肝内転移の他に,消化管,眼窩内に遠隔転移も認めたことから,全身化学療法DACa-Tam療法を開始したが2カ月後に肝不全のため死亡した.生前における悪性黒色腫の消化管転移の症例報告数は少数であり,ここに報告する.
症例は60歳代,女性.肛門痛,肛門出血にて下部消化管内視鏡検査を施行.肛門管に腫瘍性病変を認め,組織検査で扁平上皮癌と診断.CTで多発肝転移を認め,Stage IVと診断し,化学放射線療法(CRT)を施行.原発巣は消失,肝転移も縮小したが脳転移を発症し,放射線治療と脳外科手術を行った.現在FP,S-1にてCRとなり初発より6年生存中である.Stage IVで長期生存が得られているまれな症例であり,報告する.
症例は70歳代女性.H. pylori感染を背景とした隆起型MALTリンパ腫の診断で除菌治療を施行したが,粘膜下腫瘍様隆起性病変は残存した.1年後にボーリング生検を施行し胃原発濾胞性リンパ腫と診断した.しかし陽電子放出断層撮影検査でFDGの高度集積を認め,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫への悪性転化を除外できず,腹腔鏡内視鏡合同手術で切除し,最終的に胃原発濾胞性リンパ腫と確定診断した.
症例は80歳男性.上下部内視鏡で異常を認めない原因不明の消化管出血のため,カプセル小腸内視鏡を施行し,回腸に発赤調の隆起性病変を認めた.ダブルバルーン小腸内視鏡検査にて,バウヒン弁から95cmの部位に先進部が発赤調で正常絨毛構造が全体を覆った,長径5cm程度の隆起性病変を認めた.出血源と考え点墨を行い,腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した.病理所見では,メッケル憩室の翻転として矛盾しない所見であった.
症例は49歳男性.膵動静脈奇形(AVM)が原因で重症急性膵炎を発症したが,保存的治療中に膵AVMの自然退縮を認めた.その後,残存する膵AVMの流入血管に出現した動脈瘤に塞栓術を行った.塞栓1年後には膵AVMは完全消失し,その後6年以上再燃を認めない.急性膵炎をともなう膵AVMは急性期に外科的膵切除術を選択されることが多いが,本症例は重症急性膵炎の経過中に膵AVMが自然退縮した極めてまれな1例であった.