Stage IV大腸癌は大腸癌の約17%を占め,そのうち肝転移が55.8%,肺転移が12.2%,腹膜播種が22.9%で,骨転移や遠隔リンパ節転移を含めたその他は9.1%である.大腸癌では遠隔転移があっても切除により治癒が期待できることから,原発巣と遠隔転移がともに切除できれば切除が勧められる.しかし,遠隔臓器切除後の再発率が60~70%であることから,遠隔転移巣切除の適切な時期や,大腸癌の化学療法の進歩により登場した周術期化学療法の是非が,解決すべき問題点である.また,症状のないStage IV大腸癌に対し原発巣を切除せず化学療法のみで治療する方針の妥当性を明らかにする必要がある.
切除不能な遠隔転移を有するStage IV大腸癌の治療において原発巣の切除およびそのタイミングについてはさまざまな考え方がある.特に無症状な原発巣の切除の意義は定まっていない.原発巣切除が予後延長に寄与する可能性が示唆されているが,明確なエビデンスはない.進歩した化学療法により原発巣制御が可能であり切除は不要とする報告もある.原発巣切除の適応は原発巣および遠隔転移巣の状態や全身状態,予想される予後と症状,手術リスクを検討して判断する.現在,無症状な原発巣を有する切除不能Stage IVに対する姑息的な原発巣切除の意義を検証するランダム化比較試験が進行中である.
Stage IV大腸癌の転移巣に対する治療としては手術療法,全身化学療法,動注化学療法,熱凝固療法,放射線療法などが挙げられるが,大腸癌治療ガイドラインでは「切除可能な場合には転移巣の切除を考慮する」とされている.一方で,切除不能な場合は化学療法など他の治療法が選択される.近年全身化学療法の進歩により,切除不能と判断された症例においても化学療法が奏功し根治切除が可能となる症例が増加しており,今後は化学療法と手術療法を組み合わせた集学的治療が重要となる.本稿では大腸癌の転移巣として頻度の高い肝・肺・腹膜播種を中心に,転移巣に対する治療戦略における最近の知見および今後の課題について解説する.
切除不能進行再発大腸癌では全身化学療法が標準治療である.近年その進歩は著しい.それは,次々と新規抗癌剤や分子標的治療薬が承認・臨床導入されたことの影響が大である.各種薬剤の適切な治療実践,RAS遺伝子診断による抗EGFR抗体薬を用いた治療の個別化,後方ラインにおけるマルチキナーゼ阻害薬のregorafenibや,新規ヌクレオシド系抗癌剤であるTAS-102の承認などにより,大腸癌の治療成績は近年飛躍的に向上し,生存期間中央値は30カ月に達している.近年のトピックとして,MSI-high大腸癌における抗PD-1抗体薬の有効性が報告され,今後の展開が期待される.
C型肝炎ウイルスgenotype/serotype乖離例でのDAAs薬剤選択における,genotype 1b特異的な薬剤耐性変異(RAV)解析の有用性を検討した.DAAs導入を検討した559例にcore-genotypingとserotypeを判定し,乖離例ではNS5A領域のRAV解析を追加した.乖離例は8例で1例がgenotype 1b/serotype 2でRAV解析判定可能,genotype 2/serotype 1は7例,うち4例でRAV解析判定可能であった.乖離例でRAV解析判定可能であれば,NS5A領域がgenotype 1bと相同性の高いHCVが存在することを念頭に,治療を選択すべきである.
初発肝細胞癌(HCC)患者651例を調査した.HBV 20.0%,HCV 36.3%,非アルコール性非B非C型(NBNC)24.4%,アルコール性NBNC 19.0%で,全HCCの平均腫瘍径は約4.0cm,診断契機の検査法は腹部超音波やdynamic CTが多かったが,単純CTや通常の造影CTも18.6%存在した.サーベイランス遵守率は,HBVが35.4%,HCVが49.2%と低く,その逸脱原因はHBV・HCV陽性の非認識や未受診,医師のサーベイランス非遵守であった.HBV・HCV陽性者の掘りおこし,受診率の向上,医師への啓発活動に加え,NBNC HCC危険因子同定が喫緊の課題である.
83歳男性.クエン酸第一鉄,β遮断薬,利尿剤(フロセミド,スピロノラクトン,トルバプタン)などを内服中.スクリーニングで実施した上部消化管内視鏡検査にて,十二指腸球部に点状の暗褐色の色素沈着をびまん性に認めた.生検では絨毛内に褐色色素を貪食したマクロファージを認め,褐色色素は鉄染色陽性であり,偽メラノーシスと診断した.エネルギー分散型X線による解析では沈着部位に鉄およびイオウ元素が検出された.
症例は37歳男性.遷延する発熱と肝障害出現のため当院紹介,精査加療目的に入院となった.サイトメガロウイルス(CMV)初感染と診断し,スクリーニングの腹部造影CTで肝炎の所見および脾梗塞,上部消化管内視鏡検査で食道潰瘍を認めた.健常成人であり対症療法のみで加療し,いずれも経過で改善を確認した.健常成人に発症したCMV感染にともなった脾梗塞および食道潰瘍はまれであるが,念頭におくべき合併症と考えられた.
67歳男性.膵体尾部に不整形腫瘤を認め,多発肝・リンパ節転移をともなっていた.生検にて低分化腺癌を認め,発熱とWBC・CRP・G-CSF高値を示し,G-CSF産生膵癌と考えられた.FOLFIRINOXは無効であったがnab-PTX+GEMは有効で,腫瘍縮小とG-CSF低下が得られた.5コースで増悪し約6カ月で死亡した.化学療法が奏効したG-CSF産生膵癌はまれであり報告する.
78歳男性.発熱,心窩部痛を主訴に近医受診.腹部超音波検査にて肝膿瘍を疑われ当科紹介,経皮的ドレナージ,抗菌薬投与にて解熱,CRP低下を認めたが,腹部CTにて膿瘍周囲の充実性部分の増大があり,経皮的肝生検を施行し低分化腺癌と診断.また,入院時から白血球増多,高Ca血症を認め,血清G-CSFおよびPTHrPを測定したところ高値であった.肝膿瘍を合併したG-CSF・PTHrP産生肝内胆管癌と診断した.