2019年に10年ぶりに慢性膵炎臨床診断基準が改訂された.今回の改訂では,慢性膵炎の定義にmechanistic definitionの考え方が取り入れられ,早期慢性膵炎の診断項目が危険因子の観点から見直された.膵炎関連遺伝子異常と急性膵炎の既往が診断項目に組み入れられ,診断特異度の向上が期待される.臨床徴候に背部痛が追加され,飲酒歴については純エタノール換算60g/日に基準が緩和された.画像診断基準では確診と早期慢性膵炎の診断項目にMRCP所見が追加され,早期慢性膵炎のEUS所見が整理された.改訂された診断基準が,慢性膵炎診療のさらなる質の向上と患者の予後改善につながることが期待される.
早期慢性膵炎は臨床症状,膵機能検査,超音波内視鏡検査所見を基に総合的に診断する.難治性心窩部痛患者に対し,trypsinを含む複数の膵酵素を測定し膵酵素異常を認めた場合に,積極的に超音波内視鏡検査を施行することが早期慢性膵炎の拾い上げに有効である.難治性心窩部痛患者に対しては,安易にPPIによる治療継続を行わず,非アルコール性早期慢性膵炎に対しては慢性膵炎に準じた治療により超音波内視鏡像の改善が期待できる.アルコール性の早期慢性膵炎患者もしくは非アルコール性早期慢性膵炎患者においても,dilated side branchesなどの超音波内視鏡所見をともなう患者に対しては慎重な経過観察が必要である.
慢性膵炎の進展予防には,急性増悪の頻度を抑えることが有効と考えられており,急性増悪の原因となる膵石・膵管狭窄の再発を減らす工夫が必要である.内視鏡による早期治療介入,遺残膵石を減らすために開発された膵石治療専用バスケット,膵管狭窄に対する内視鏡的ステント治療での試み,これらの工夫により急性増悪の抑制が期待される.一方,慢性膵炎にともなう膵外分泌機能不全に対して膵酵素補充療法が有用だが,直接的な進展抑制のエビデンスはほとんどない.しかし膵酵素補充療法による消化不良の改善によって,サルコペニア・予後の改善が得られることが期待されている.慢性膵炎の進展予防をめぐる現状・課題,ならびに展望について述べた.
慢性膵炎治療における外科治療は,内科的治療に抵抗性の難治性疼痛に適応がある.主膵管に狭窄があり膵管内に膵石が貯留しているような症例では,まず内視鏡治療と結石破砕を組み合わせる内科的治療が第一選択であるが,奏功しなかった場合には躊躇せず外科治療を考慮する.奏功しない内視鏡治療を長期に継続すると,手術の除痛効果にも悪影響が生じる可能性があり,1年程度または内視鏡治療5回までを目安に外科治療に移行する.外科治療は,症状出現後3年以内で麻薬使用前に施行すると,術後疼痛緩解率が良好で,膵機能保持や再手術の回避にもつながることが明らかとなっており,内視鏡医と外科医の緊密な連携が重要である.
症例は72歳男性.3年前に潰瘍性大腸炎と診断され,メサラジンで寛解を維持していた.肺腺癌の再発で,ペムブロリズマブを開始したが,投与5カ月後より大腸炎を発症した.ステロイドおよびインフリキシマブを開始したが改善せず,肺腺癌に対する加療も中断のまま死亡となった.潰瘍性大腸炎を有するがん患者に対してペムブロリズマブを投与し,重篤な腸炎が誘発された症例の詳細な報告はほとんどなく,貴重な症例と考える.
70歳男性.精索腫瘍,限局性腹膜播種に対し,腫瘍摘出術および播種巣切除を施行し,遺伝子検査で精索原発滑膜肉腫と診断された.術後7年目に突然の腹部膨満感と腹痛で救急搬送され,内部に出血をともなう17cm大の腫瘍を網囊内に認めた.緊急で腫瘍摘出術および結腸部分切除を施行し,遺伝子検査で精索原発滑膜肉腫の腹腔内再発と診断された.これまで精索原発滑膜肉腫の本邦報告例はなく,文献的考察を加えて報告する.
症例は38歳の女性.持続する心窩部違和感の精査で受診した.腹部造影CT検査にて,十二指腸水平部の著明な壁肥厚および一部に含気をともなう腫瘤様病変を認めた.小腸鏡を用いた十二指腸水平部の観察にて,食物残渣の貯留した憩室と周囲粘膜の炎症性変化を認め,十二指腸憩室炎と診断した.腸管安静と内視鏡による残渣の除去にて症状は改善し,退院した.十二指腸憩室炎はまれであり,特に水平部における報告は少ない.
症例は40歳代,女性.既往歴に双極性障害がある.嘔吐,上腹部痛を主訴に救急外来を受診した.高カルシウム血症(18.6mg/dl)を呈し,腹部CTでは胃壁肥厚,胃内に高吸収物質を認めた.上部消化管内視鏡検査では胃体部より前庭部にかけて粘膜壊死を認めた.塩化カルシウム含有飲料を意図的に飲用したことによる腐食性胃炎と診断した.保存的加療を継続していたが,胃内腔高度狭窄,穿通をきたしたため胃全摘術を施行した.
症例1は39歳男性.CTで膵腫大,EUS-FNAでgranulocytic epithelial lesion(GEL)を認め,2型自己免疫性膵炎(AIP)と考えられた.下部内視鏡(CS)を施行し,潰瘍性大腸炎(UC)の診断となった.症例2は47歳女性.CTで膵腫大,CSでUCの診断となった.EUS-FNAでGELは認めなかったが,2型AIPを疑った.UCを合併した2型AIP 2症例の検討を行った.
67歳男性,Budd-Chiari症候群とIgG4関連硬化性胆管炎で通院中,また,食道・胃静脈瘤に対して内視鏡治療歴がある.フォローアップの上部消化管内視鏡検査で,十二指腸下行脚にF2形態の静脈瘤を認めた.CTで排血路は静脈叢を形成し,血管内治療は困難と考え,内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)を施行した.現在まで再発を認めていない.十二指腸静脈瘤に対してEISが有用であった症例を経験したので,報告する.