炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020は2016年IBDガイドラインから大きく改訂された.2016年で扱われていたClinical question(CQ)は,エビデンスレベルにより,Background question,CQ,Future research questionに分けられた.「Treat to target」などの治療目標に関する概念,生物学的製剤を含む新規治療法・IBD関連腫瘍に対するアプローチなどに関して,臨床上に必要な内容が網羅されている.このガイドラインをいかにして多くの実地医家の先生方に活用していただくかが,今後の課題である.
2020年11月に改訂された「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020」では,診断基準や診断に至る進め方,病勢評価法について,エビデンスに基づいた最新の知見が盛り込まれた.各種消化管内視鏡検査については,IBDの診断確定や経過観察においてその重要性が確立した.また腹部超音波検査やCT/MRI検査などの低侵襲検査の有用性が示され,特殊撮影法についても言及がなされた.加えて,近年開発の進む各種バイオマーカーを活用して,患者の短期的な症状改善だけでなく,客観的な評価指標を根拠にしてより長期の治療目標を定める,Treat-to-Target(T2T)の概念が提唱された.
IBD診療における内視鏡には正確な診断や病勢把握に加え,治療効果の判定,サーベイランス,バルーン拡張術など,診断から治療に至るまでさまざまな役割がある.近年,IBD患者の長期的な予後の改善が注目され,粘膜治癒の達成や腸管障害の発生・蓄積を防ぐことがIBDの治療目標となっている.今回の改訂ガイドラインでは,目指すべき粘膜治癒とその評価法,サーベイランス内視鏡における生検方法,CDの狭窄病変に対する内視鏡治療など,IBDの内視鏡に関する新たなエビデンスが多数反映されている.しかし,IBD患者の長期予後の改善に果たすべき内視鏡の役割はいまだ多く残されており,今後のさらなるエビデンスの構築が期待される.
2020年にIBD診療ガイドラインが発刊され,新規治療法を中心に多くのClinical QuestionやFuture Research Questionが掲げられている.抗TNFα抗体製剤は中和抗体産生の観点から免疫調節薬の併用が望ましいが,他の生物学的製剤については免疫調節薬併用の有用性を示した報告はない.抗TNFα抗体製剤の休薬は可能であるが,休薬後の再燃もあり慎重に対応すべきである.また新規治療薬の抗TNFα抗体製剤既使用例に対する有用性は確認されているものの,いずれも抗TNFα抗体製剤未使用例より有効性が劣ることや効果発現時期は製剤により異なるため,解釈には注意が必要である.
炎症性腸疾患の外科に関連する,FRQ3-15:回腸囊炎に抗TNFα抗体製剤は有用か?,CQ3-11:UC関連大腸癌のサーベイランスの対象は?,CQ3-12:UCのサーベイランスにおいて,生検をどのように行うか?,FRQ3-13:IBD関連大腸腫瘍に対して内視鏡的治療は推奨されるか?,CQ3-20:CDの内視鏡的狭窄拡張術は外科手術回避につながるか?,FRQ3-7:CDの肛門病変にウステキヌマブは有用か?,FRQ3-14:CDのサーベイランスはどのように行うか?,などについて解説する.UCでのサーベイランスやCDに対する内視鏡的拡張については推奨に言及できたが,その他はエビデンスが十分ではなく今後の検討課題である.
46歳女性.44歳時にクローン病(CD)と診断.45歳時の下部消化管内視鏡検査で回腸末端に隆起性病変を認め,生検で高分化型腺癌の疑いで当科に紹介受診.回腸回盲部切除術を施行した.病理診断はTisN0M0,Stage 0であり,本症例は本邦初のCD合併早期小腸癌症例と考えられた.内視鏡検査が可能な小腸に存在する病変は術前診断が可能な場合があり,CD症例に内視鏡検査を行う際には常に癌合併を念頭に置き,積極的に生検を行うべきである.
Upside down stomach(UDS)は急性と慢性に分かれ,急性UDSは発症時に嘔吐や腹痛などの急激な症状をきたす一方で,慢性UDSは捻転した全胃が縦隔に入り込んだまま無症状から軽症で経過することが多い.今回,穹窿部が慢性UDSの状態から食残の重みによって,ヘルニア口を介し腹腔内に「逆嵌頓」をおこしたことで急性UDS様の急激な症状をきたしたと考えられた2例を経験したので報告する.
60歳代の女性.1日20行以上の水様性下痢が数週間持続し当科紹介となった.上部消化管内視鏡で十二指腸球部に発赤をともなう粗造な粘膜を認め生検を施行し,組織学的に絨毛の萎縮および著明なリンパ球浸潤を認め,セリアック病が疑われた.グルテン除去食を開始し,下痢症状の改善を認めた.血清抗体およびHLA検査は陰性であったが,病理所見とグルテン除去食で臨床症状の改善を認めた経過から,最終的にセリアック病と診断した.
40歳代女性.全大腸炎型潰瘍性大腸炎(UC)の寛解維持中に前胸部痛が出現した.皮膚の視診やCTで所見なく抗菌薬で加療したが,前胸部痛は悪化したためCTを再検し,胸骨前面や臀部などに多発皮下膿瘍を認めた.膿瘍は無菌性でUCの腸管外合併症である壊疽性膿皮症(PG)と診断,ステロイド投与で速やかに軽快した.皮膚所見を呈さず皮下無菌性膿瘍のみで経過したPG報告例は少なく,早期診断と治療が重要と考えて報告する.
症例は73歳,女性.既往に大腸癌と乳癌があり手術を施行している.膵体部に23mm大で内部に囊胞をともなう腫瘤を指摘された.転移性膵腫瘍や変性をともなった膵神経内分泌腫瘍,特殊型膵癌を鑑別に手術を施行した.間質には既往の大腸癌や乳癌とは異なった異型腺管を認め,通常型膵癌と診断した.腫瘤内部の囊胞は間質に存在する腫瘍細胞と同様の細胞で内腔が覆われており,拡張した腫瘍腺管と考えられた.
9歳女児.生後5カ月頃より遷延する肝障害,気管支炎,副鼻腔炎,発育障害あり.胸部CTで気管支壁の肥厚,腹部CTで膵臓の萎縮,肝硬変を認めた.汗中Cl-濃度異常高値,CFTR遺伝子解析でY517H,1540del10の複合ヘテロ変異を認め,囊胞性線維症(cystic fibrosis;CF)と診断.本邦では極めてまれな,CFに門脈圧亢進症状をともなうfocal biliary cirrhosisの1症例を経験した.