非手術的胆道ドレナージは,経皮経肝ドレナージであるPTBDと内視鏡的ドレナージであるEBDに大別される.EBDは外瘻術であるENBDと内瘻術であるEBSに分けられ,ステントにもプラスチックステントと金属ステントがある.これらのドレナージ法やステントはより安全で確実,そして長期開存を期待して開発されてきたが,それぞれ長所と短所があり病態や閉塞部位,患者の状態などにより最適のものが選択される.さらに近年,内視鏡的アプローチが困難な症例に対してバルーン内視鏡やEUSを用いたアプローチ法も開発されてきた.本稿では,各種胆道ドレナージ法の歴史的変遷と現状について概説する.
急性胆管炎の死亡率は2.7%と報告され,初期対応を誤れば致死的な経過となる可能性がある病態である.急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018(Tokyo Guidelines 18)には重症度別の急性胆管炎治療が記載されているが,中等症もしくは重症と診断される急性胆管炎には,緊急胆道ドレナージが推奨される.ドレナージ方法にはendoscopic biliary drainage,percutaneous transhepatic biliary drainageがあり,症例に応じた選択が求められる.今後デバイスの改良によりEUS-guided biliary drainageが代替え治療になる可能性はあるが,どのドレナージを選択したとしても,それぞれの特徴,長所・短所,手技内容を十分に理解した上で慎重に行うことには変わりはない.
胆囊摘出後,肝移植後,胆管空腸吻合後に見られる術後胆管狭窄において,endoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)を中心とした内視鏡治療が果たす役割は大きい.ERCPによる内視鏡治療では,バルーン拡張単独では狭窄改善率は低く,再発率も高いため,プラスティックステント複数本留置やfully covered self-expandable metallic stent(FCSEMS)留置が選択されることが多い.ERCPによる治療不成功例ではこれまで経皮的治療や外科治療が選択されてきたが,最近では超音波内視鏡を用いたアプローチが選択される機会も増えている.本稿では,術後胆管狭窄に対するERCPを中心とした内視鏡治療について概説する.
悪性遠位胆道閉塞に対する術前胆道ドレナージとして,内視鏡的胆道ドレナージが推奨されている.また,術前化学療法を行う症例においては,開存期間が長く,reintervention時に抜去が可能なcovered self-expandable metallic stent(CSEMS)が望ましい.切除不能症例に対する胆道ステントとしてもCSEMSが第一選択として推奨されているが,CSEMSのrecurrent biliary obstruction(RBO)低減,合併症予防は十分ではなく,CSEMSの欠点であるsludge閉塞およびmigration対策が急務とされている.留置したステントはいつか必ず閉塞することを念頭に,各種ステントの特徴を理解し,reinterventionの方針までを踏まえて症例に応じた選択を行うことが重要である.
悪性肝門部領域胆管閉塞に対する胆道ドレナージは,切除の可否にかかわらず経乳頭的が第一選択である.切除例であれば術前に内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;ENBD)を予定残肝側の片葉へ留置する.一方,切除不能例であればプラスチックステントあるいはアンカバードタイプの金属ステントを留置する.片葉あるいは両葉留置の優越性については結論が出ていない.最近,筆者は肝門部領域胆管閉塞用にENBDと胆管内留置用のinsideステントを一体化した2 in 1ステントを開発した.切除あるいは切除不能例や急性胆管炎例に対する新たな方法として注目されつつある.本稿では,悪性肝門部領域胆管閉塞に対する胆道ドレナージの実際について解説する.
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)171例の肝障害について,呼吸不全の有無で層別化して検討した.さらにデキサメタゾン(Dex)単独療法を施行した41例の中等症II症例を対象として,投与前の肝障害の有無で層別化して検討した.171例の検討で,呼吸不全群では肝障害が64%と多く,呼吸不全群の独立危険因子は,高齢,男性,生活習慣病の合併,入院時LDH高値であった.Dex投与前肝障害群では肥満の合併が多く,肝臓CT値が有意に低下していた.Dex投与後の肝障害は,投与前の肝障害の有無で有意な差はなく軽度であった.Dex単独療法は肝障害出現の多いCOVID-19中等症IIに安全な治療法であった.
29歳,男性.24歳からサルコイドーシスを指摘されていた.健診でHb低下を指摘され近医を受診.腹部CTで小腸腫瘍を指摘され精査加療目的に当科紹介となった.小腸内視鏡検査では空腸に30mm大の粘膜下隆起性病変を認めた.小腸部分切除が施行され,摘出された腫瘍は異所性膵が併存したgastrointestinal stromal tumor(GIST)であった.極めてまれな症例であり報告する.
肥満手術は,日本では2014年にスリーブ状胃切除術が保険収載された.それとは術式が異なる胃バイパス術は,本邦では胃癌罹患率が高いこと,術後空置胃の観察が困難であることが危惧され,施行件数は少ない.今回われわれは,12年前に腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術を受け,その空置胃から発生した胃癌の1例を経験したので報告する.肥満手術後の患者に貧血などが生じた際には,同手術の術式を念頭において精査すべきである.
65歳男性,閉塞性黄疸をともなう進行肝内胆管癌に対し内視鏡的にプラスチックステントを挿入し標準化学療法を施行したが急速増大,頻回にステントが閉塞した.超音波内視鏡下生検にて癌組織を採取,高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)との結果より,Pembrolizumabを開始,速やかに腫瘍が縮小,ステント閉塞の頻度も減り,20カ月経過したがpartial responseを維持している.
症例は70歳代男性.膵頭体部の分枝型IPMNの経過観察中に膵炎を繰り返し,囊胞径の増大を認め切除した.囊胞性病変はすべて病理学的に低異型IPMNであり,病変間に連続性はなく,これらと離れた膵切除断端に上皮内癌を認めた.遺伝子解析の結果,上皮内癌はIPMNとは異なるクローンに由来する併存癌の初期像と考えられた.併存癌の早期診断のためには,病理学的解析に加えゲノム異常を明らかにすることが重要と考えられた.
原発性胆汁性胆管炎による肝硬変と心不全を併存する70歳女性の呼吸困難.右片側性漏出性乳糜胸水を認め,外傷や悪性疾患は否定的であり,原因として肝硬変が挙げられた.集学的な内科治療で自然軽快を認め,特に非選択的β遮断薬であるカルベジロールによる門脈圧降下作用が胸管内圧を減少させて病態に寄与したことが示唆された.肝硬変に乳糜胸水を併発する症例はまれであり,また保存的加療で奏功し得た1例として報告する.