Artificial intelligence(以下AI)技術の医療応用が急速に進んでいる.AI技術の医療応用は,医療者や国民へのメリットが大きく,政府も推進のための方策をとっている.診断・治療・予防に使用されるプログラムは医療機器に該当し,企業が薬事承認を得る必要がある.承認された医療機器が広く医療現場に普及するには,保険収載される必要がある.診療で得られた情報を学術研究に用いる場合はオプトアウトでの利用が可能であるが,製品開発に用いる場合は改めて個々の患者から同意を得る必要がある.AI機器開発の推進には,次世代医療基盤法の活用が期待されるが,学術研究で収集したデータの二次利用ができる仕組み作りも必要と思われる.
上部消化管領域においても,人工知能(artificial intelligence;AI)の臨床応用は内視鏡診断を中心に増加傾向にある.食道,胃,十二指腸の各臓器で,AIによる病変の指摘,質的診断(良悪性の鑑別),量的診断(範囲・深達度診断)などが報告され,いずれも高い精度である.当初は静止画での検討であったが,動画での検証へ進み,さらにAIと医師との比較,AIの使用の有無による医師間の成績の比較が行われ,中国では大規模なランダム化比較試験も行われている.現在は,研究から臨床導入のフェーズに入ってきており,今後どのようにAIが臨床現場で使われ,医療が変化していくかが注目されている.医師がAIの利点と欠点を理解して使用すれば,AIは医師のよいサポートツールとなるであろう.
胆膵疾患は膵管癌や自己免疫性膵炎,胆管癌など多彩な疾患が存在し,その治療方針は異なる.人工知能(AI)アルゴリズムの1つであるdeep learningは,特徴量を抽出することなく直接画像を解析することが可能である.今回われわれはTORIPOD声明などを参考にAI文献の評価チェックリストを作成し,胆膵領域のAI文献を評価した.胆膵領域AIの報告は膵腫瘍・膵囊胞・膵炎診断や検出,予後予測や病理グレード予測など多岐にわたる報告を認めたが,evidenceが高い外的検証を行った報告は少なかった.AIを日常臨床で使用するために薬事承認が必要であるが,それを得るためには前向きに大規模な多施設データを収集する必要がある.
医療は複雑化しており,医療情報の誤認識は重大な結果を招く.この認知ステップを人工知能(AI)が提示する情報で補うことで,ヒューマンエラーを回避できる.現在,さまざまな医療データを学習させたAIの開発が進められ,肝臓病分野においても肝炎,脂肪性肝疾患,肝硬変,肝腫瘍の診断,あるいは疾患の転帰予測や治療法選択に関するAIの報告が認められる.本稿では,肝疾患に関するAIを取り上げ,さらに筆者らが中心となり開発している肝腫瘤の超音波診断支援AIについても紹介する.これらのAIの一部は専門医を凌駕するパフォーマンスが報告され,出力が秒単位であることを考えると,診療をサポートする十分なポテンシャルを持つ.
より知的な推論を行うことのできる深層学習技術の登場により,人工知能(AI)が内視鏡画像から病変の検知や鑑別診断を自動的に行えることが,世界中の研究者から報告されている.DESIGN AI-01試験の結果から,大腸内視鏡検査の経験が浅い医師がAIを併用することで,表面型の病変の検出率が約6%高くなることが明らかになり,DESIGNAI-02試験の結果から,AI併用大腸内視鏡検査が高い腺腫発見割合と患者の高い受容性を有することが明らかになった.さらなる前向きランダム化比較試験によりエビデンスが蓄積され,本邦においても大腸内視鏡AIが広く普及し,大腸癌の見逃しが回避されることを期待したい.
症例は48歳,女性.15歳頃より慢性的な鉄欠乏性貧血を認め,上下部消化管内視鏡検査で出血性病変を認めず,当院紹介となった.カプセル小腸内視鏡検査で回腸に輪状潰瘍の多発があり,SLCO2A1遺伝子のc.940+1G>Aホモ接合変異が確認され,非特異性多発性小腸潰瘍症と診断した.貧血は鉄剤の内服で改善しなかったが,カルボキシマルトース第二鉄を週1回,計3回投与したところ,貧血および関連する症状は改善した.
症例は80歳,男性.2年前に食道胃接合部腺癌に対して胸部中下部食道・噴門側胃切除術を施行した.術後病理組織学的病期はpStage Iと診断され,術後補助化学療法なしで2年以上再発なく経過したが,術後28カ月目に縦隔リンパ節再発と左眼脈絡膜を含めた全身への転移を認めた.左眼への局所放射線療法とSOX療法の早期導入により視力回復が得られ,血管新生阻害剤を併用した化学療法が奏効した1例を経験した.
74歳男性.膵尾部癌・多発肝転移のため化学療法を施行するも病勢進行し,症状緩和の方針となっていた.腹痛増悪のため救急受診し,入院となった.第5病日,腎障害の進行と高尿酸血症・高カリウム血症・高リン血症を認め,腫瘍崩壊症候群と診断した.大量補液や高尿酸血症治療を行うも全身状態は急速に悪化し,第7病日に死亡した.剖検の結果,腫瘍は広範に壊死しており,腫瘍崩壊症候群として矛盾ないと考えられた.
症例は65歳,男性.Caroli病の経過観察中にCA19-9の急激な上昇があり,造影CTで肝S8に遅延性濃染を呈する約3cm大の腫瘤を認めた.PET-CTでは肝腫瘤と前縦隔の結節にFDG集積が認められた.横隔膜上リンパ節転移をともなう肝内胆管癌と診断し,肝部分切除術と同リンパ節摘出術を施行した.Caroli病は肝内胆管癌の高危険群であり,腫瘍マーカーや画像検査による厳重な経過観察が重要と考えられた.
52歳,女性.胆道閉鎖症にて生後120日で胆囊十二指腸吻合術が行われた.反復する胆管炎に対して内視鏡治療を行った際の胆汁細胞診でClass Vが検出された.マッピング生検で胆囊管肝管合流部に癌を確認し,肝外胆管切除術,胆管空腸吻合術を行った.胆管癌はBilIN-3までの粘膜内癌でR0切除であった.胆道閉鎖症に対する胆囊十二指腸吻合術はまれで,術後長期の胆管癌合併の報告はなく,文献的考察を加えて報告する.