脂肪性肝疾患(SLD)は世界中で最も有病率の高い肝臓病である.非飲酒者の脂肪性肝疾患は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と分類されてきたが,その大半は代謝病態を基盤に発症・進展することから,代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の新規概念が提起された.また,進行性の肝病態を呈する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に相当する概念は代謝関連障害関連脂肪肝炎(MASH)と命名された.これらの新概念・名称は国際的コンセンサスとして急速に普及してきており,創薬競争の激化も相まって極めて注目度の高い領域になっている.わが国でも疾患概念の刷新と診療ガイドラインの改訂を含む対応が急務である.
MASLD/MASHには,常に全身疾患としての広い視野に立った診療を行う必要がある.消化器専門家は肝癌ハイリスク症例を非侵襲的診断で拾い上げることが重要である.プライマリーケアではFIB-4 index,専門医ではエラストグラフィーやELF testで評価する.推奨されている食事運動療法では,BMIを基準にした体重減量目標が設定された.更に初のMASLD治療薬が米国食品医薬品局で承認されるなど,新薬開発が期待される.一方メタボリック症候群を背景にした心血管系イベントや肝外悪性疾患にも常に気を配る必要があり,年齢に応じたスクリーニングの啓発が必要となる.心血管イベント抑制作用を有する糖尿病薬の併用を視野に入れた治療戦略も,今後期待される.
MASLD肝癌では,脂肪毒性や酸化ストレスを介した肝細胞死を起点として慢性炎症から線維化,発癌に至る古典的経路と,酸化ストレスなどによる直接的な癌化促進の,2つの経路が想定されている.また,炎症発癌の過程におけるMASLDの特徴として,持続的なmetabolic stressによる選択圧が,生存に適した代謝変化をともなう肝細胞のクローン選択を促し,その結果として発癌に至る可能性が示唆されている.さらに,免疫微小環境の変化や多臓器連関も発癌に関与しており,MASLD肝癌は多因子が複雑に絡み合う病態である.本稿では,最近の代表的なエビデンスを紹介しつつ,MASLDからの発癌機序について概説する.
MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)の予後改善のためには,肝線維化や炎症だけでなく,治療効果,合併疾患,予後予測が可能な非侵襲的な診断法(non-invasive test;NIT)の開発が重要である.近年保険収載されたenhanced liver fibrosis test(ELF)およびcytokeratin 18 fragment(CK18F),また新しく測定法がCLEIA法になったIV型コラーゲン7Sや定量的アッセイが開発中のM2BPGiを用いて,バイオマーカーや画像診断を組み合わせて使用していくことが重要である.
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の主な成因は不適切な食習慣や身体活動量の低下であり,食事・運動療法はMASLDの基本治療である.また,MASLD患者に併発する疾患の治療には,MASLDの改善効果が期待できるものも存在する.さらに現在,MASLDに対してさまざまな作用機序の治験薬開発が進行している.本稿では,MASLDに対する食事・運動療法について最新の知見を含めて概説するとともに,MASLDの改善効果が期待できる2型糖尿病・脂質異常症・肥満症の治療についても論述する.また,MASLDを対象とした臨床試験の最近の動向についても紹介する.
症例は65歳女性.肝動脈化学塞栓療法不応の肝細胞癌に対し,20XX年2月Y日アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法を導入された.Y+15日には呼吸困難感と低酸素血症を認め,前医入院.Y+16日に甲状腺中毒症にともなううっ血性心不全にて当院転院となった.甲状腺中毒症はヨウ化カリウム内服で改善し,Y+40日に自宅退院となった.臨床試験ではCTCAE Grade 3以上の甲状腺機能障害は0.3%と極めてまれであり,報告する.
81歳女性.原発性胆汁性胆管炎による肝硬変にて通院中,肝性脳症が反復していた.血便があり,直腸静脈瘤からの出血と診断した.肝性脳症の既往もあり,経皮的に直腸静脈瘤塞栓術を施行した.治療後の下部消化管内視鏡検査で直腸静脈瘤は縮小し,ブロンズ化を認めた.造影CT検査では直腸静脈瘤の濃染は消失し,下腸間膜静脈は血栓閉塞を認めた.退院後は直腸静脈瘤からの出血は認めず,肝性脳症の再発も認めず経過した.