2025年4月に第111回日本消化器病学会総会を東京で開催させていただきました.テーマは「臓器がつなぐ消化器病学」とし,消化管・肝胆膵の相互連関や神経・免疫・代謝系を介したクロストークの重要性を強調しました.私自身は腸内細菌と腸管制御性T細胞による免疫恒常性機構に加え,腸―肝臓―脳―腸の軸を介する新たな迷走神経反射による制御を発見し,報告してきました.研究人生を振り返ると,恩師故土屋雅春教授との出会いに始まり,たくさんの恩師のご指導のおかげで,クローン病におけるIL-18研究,さらに腸内細菌研究を経て腸脳相関研究へと至りました.すべては出会いの連続であり,仲間とともに世界に挑んできた時間はかけがえのない宝でありました.今後も臓器横断的な視点で消化器病学を発展させ,後進が大きく羽ばたくことを願っています.
門脈圧亢進症とは,肝硬変などを背景として門脈圧の上昇をきたす病態の総称であり,腹水,肝性脳症,食道胃静脈瘤などを合併し,患者の予後やQOLを悪化させる.門脈圧亢進症の診断には,血管造影による門脈圧や肝静脈圧格差の測定が重要だが,超音波やMRIを用いた肝硬度の評価(エラストグラフィ)によって,臨床的に有意な門脈圧亢進症を診断する取り組みが進んでいる.門脈圧亢進症の診療・研究のglobal standardはBavenoコンセンサスであるが,本邦の実臨床とは差違を認める部分も多い.本邦の肝硬変診療のアドバンテージを十分に理解した上で,世界基準の門脈圧亢進症の診療・研究を実践していく必要がある.
本邦の門脈圧亢進症に対するIVR(Interventional Radiology)は,欧米のTIPS(transjugular intrahepatic portosystemic shunt)中心の戦略と異なり,BRTO(balloon occluded retrograde transvenous obliteration)系治療が中心となってきた.BRTO系治療は胃穹隆部静脈瘤や難治性肝性脳症に対し高い有効率を示す.TIPSは再出血抑制や生存改善に寄与するが,肝性脳症やシャント不全が課題である.難治性腹水にはTIPSが選択される.血小板減少症にはPSE(partial splenic embolization)が有効である.
門脈圧亢進症治療において,内視鏡治療やInterventional Radiologyが普及する以前は手術が中心であったが,低侵襲治療の発達にともない外科治療は顕著に減少した.現在では門脈圧亢進症の難治例を中心に外科治療が施行されている.門脈圧亢進症による消化管静脈瘤などの側副血行路は,門脈圧減圧のための門脈大循環シャントである.シャント手術や直達手術は,治療効果と同時に門脈血行動態を大きく改変し全身に影響を及ぼすため,個々の門脈血行動態の評価と治療後の変化の予測に基づいた適切な治療選択が求められる.本稿では,門脈血行動態の観点から外科治療の術式とその変遷を解説する.
門脈圧亢進症は,肝硬変の主要な合併症であり,低栄養,サルコペニアの合併率が高い.肝内血管抵抗の上昇や腸間膜血流の上昇で門脈圧が亢進し,門脈大循環シャントが形成され,食道静脈瘤,肝性脳症,サルコペニアが発症してくる.従来は肝性脳症には低蛋白食,腹水貯留時には減塩食とされていたが,その位置づけも変わりつつある.門脈圧亢進症の栄養療法においては分岐鎖アミノ酸製剤はkey drugであり,肝性脳症改善には亜鉛,カルニチン製剤の有用性も明らかになりつつある.一方で,門脈圧亢進症の原因治療であるIVR治療などの介入も考慮し,長期予後につなげていく必要がある.
これまでの肝疾患に対する内視鏡診療は,主に消化管静脈瘤に重点が置かれてきた.近年ではInterventional EUSの進歩とともにその範囲は急速に拡大し,現在では“Endo-Hepatology”という新しい概念のもと,さまざまな肝関連病態に対しEUSを用いた内視鏡診療が施行されている.門脈圧亢進症に関連するEndo-Hepatologyとしては,肝腫瘍診断,肝硬度測定,静脈瘤評価,肝生検,門脈圧測定などの診断,静脈瘤や難治性肝性脳症に対する血管治療や肝腫瘍焼灼などが施行されている.Endo-Hepatologyは,内視鏡専門医と肝臓専門医を繋ぐ新しい領域であり,今後の発展が大きく期待される.
症例は67歳の男性.暗赤色便を認め,入院となった.カプセル内視鏡,アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液によるCT enterographyで回腸憩室が検出され,経肛門的ダブルバルーン内視鏡検査を施行したところ憩室近傍に潰瘍をともなっていた.同時に施行した消化管造影では憩室は腸管膜付着側に存在しており,重複腸管を疑った.腹腔鏡下回腸部分切除術を施行し,術中所見・病理所見より重複腸管と最終診断した.
症例は72歳男性.前医で肝門部領域胆管の狭窄を認め,胆管癌を疑われた.当院での胆管造影では胆管狭窄は改善し壁肥厚を認めるのみで,血清IgG4値の上昇,他臓器病変からIgG4関連硬化性胆管炎を疑った.2カ月後に急性胆囊炎を発症し,超音波内視鏡で総胆管~胆囊管に全周性の壁肥厚と胆囊管の狭窄を認めた.IgG4-SCを背景とした胆囊管狭窄にともなう胆汁鬱滞による急性胆囊炎と判断し,ステロイド治療が奏功した.
症例は74歳男性,主訴は上腹部痛,CT検査で膵腫大と周囲脂肪織濃度上昇,後腹膜気腫を認め,気腫性膵炎と診断された.内視鏡検査では消化管穿孔を認めなかった.絶食補液,抗菌薬投与,中心静脈栄養で加療,一時被包化を認めたが改善した.後腹膜気腫をきたす急性膵炎は気腫性膵炎とも表現され,壊死性膵炎の亜型とされる.まれではあるが予後不良な疾患であり,早期の診断,治療方針の検討が必要である.