日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
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学会長講演
特別講演1
  • 農山村僻地における地域医療再構築の戦略形成に向けて
    山根 洋右
    セッションID: tokubetu1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 2004年4月1日、全国89の「国立大学法人」が誕生した。法人化による大学改革の方向性は、1.大学ごとの法人化による自律的研究・教育発展、2.「民間的発想」による大学経営マネージメント、3.「学外者」の大学経営参画、4.学長選考手続きの改善、5.「非公務員型」能力・業績主義人事システム、6.国民への透明性と社会貢献を志向した「情報公開と評価の徹底」に集約される。 
     医療人の教育・育成、医学研究と応用開発、医療・健康福祉による社会・国際貢献の拠点であった大学医学部の法人化は、21世紀の日本、とりわけ、農山村僻地に何をもたらすのだろうか、農山村医療福祉に永年貢献してきた日本農村医学会の新たなミッション(使命)は何か。
    <大学法人化の光と影> 国際的高等教育(大学教育)の構造改革は、1990年初頭から先進諸外国で開始された。科学技術開発、教育の質的保障に加えて、国際化社会における持続的社会発展、技術開発競争、高等教育の質保障、地球環境・エネルギー問題、爆発的人口増加、南北格差拡大、感染症の国際的席巻などの諸問題に対する大学の社会機能の開発も追求されている。 
     日本におけるアカデミックコミュニティの中枢である日本学術会議でも、1.教育改革、2.民主社会の実現、3.共生社会の実現、4.国の安全保障の確保と安全・安心社会、5.健やかに生きる社会基盤、6.産業、経済、労働と雇用政策、7.自然との共生、自然の再生、8.国土と地域の再生、9.情報・通信システム整備、10.エネルギーと環境への10大課題を提起している。このような国内外の動向を背景に、日本の大学法人化は、次のような具体的課題を遂行しつつある。1.教学と経営の分離、2.大学のステークホルダーへのアカウンタビリティの拡大、3.大学財務会計の透明化、4.教職員の意識改革とコストマインド・チャレンジ・コミュニケーションの強化、5.文部教育行政からの離脱と社会からの支持・協働、6.経営の独立と財政基盤の拡大、7.高校までの義務教育の拡大、8.教員資格基準の明確化、9.教員の雇用契約の近代化と教育組織再編、10.国・公立大学と私立大学との公平な競争。日本における高等教育改革、「法人化」は、将来、どの様な光と影をもたらすのだろうか。
    <農山村地域医療の戦略的再構築> 第55回日本農村医学会学術総会では、久野邦義学会長により「地域医療の展望」が学会テーマとして掲げられた。折しも、医師養成の質的向上と国際的標準化を志向した医学教育と研修制度の改革は、大学医局講座制の崩壊、地域医療現場における人材払底、医療人材市場における流動化をもたらし、結果として農山村僻地に深刻な影を落としている。農業・農村問題、少子高齢化、市町村合併と地方分権など、農山村僻地を取り巻く諸問題と地域医療問題が絡まり、全国的な社会問題となっている。医学教育、地域医療のドラスティクな改革と将来像を見すえた日本農村医学会の地域医療再構築の戦略を、どのように展望すればよいのだろうか。
特別講演2
  • 次世代との協同を求めて
    細江 詢次
    セッションID: tokubetu2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    協同組合医療の発生を今一度見直すことの重要性について最初に触れてみたい。 
     殊にその中で後の大正デモクラシーにつらなる物言わぬ民衆の率直な感情に触れ、核心部分たる私の問題から私達の問題へ、国の課題解決と人々の幸福追求のどちらを優先させるべきなのか等を捉えてみたい。  
     そしてその後の歴史を踏まえ、光と影の部分をしっかりと理解する中で、どこから物を見るべきなのか、更には皆保険制度下で本義を問うべきであったのかどうかに触れ、思想とか意識性と現実の存在との距離について考えてみたい。  
     最後に、供給力育成から抑制、更には削減という改革の中で協同組合医療とは何であるのか、そして地域医療とは進んで地域とは何なのかについて日頃考えている点を述べさせていただきたい。
特別講演3
公開講座
  • 日野原 重明
    セッションID: kokai
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     日本人の平均寿命は男女平均78歳となり、65歳以上の老人は総人口の20%を越えつつある。 
     特に農村にあっては現在すでに人口の30%以上が65歳以上のところが増す一方である。  
     そのような中で農村の老人はどのような生き方をすれば人生の最後のステージに耀いて生き続けられるのか、そのテーマについて私の見解を述べたいと思う。  
     私は農村の人々の人生の第一期を成長期(23歳まで)、最終教育を終わってから74歳までを第二期、75歳以上を第三期と呼びたい。
     都会では、第二期の社会の生産に関係して仕事をする人々は60歳または64歳での定年で活動が終わるが、農村で生産農業や林業に従事する老人は、74歳までは体力または労働力は多少衰えても、多年の経験による知恵が働いて労働の量的レベルは下がりながらも、なお生産人口として働きが続けられことが多い。しかし、75歳以上になると、さすが体力が落ち、何らかの病気をもち、医師から労働の制限を忠告される方が多いと思う。  
     しかし、75歳以上となり、たとえいくつかの病気はもっても、なおかつ精神は旺盛で人生の第三期としての社会的貢献を続けたいとの意欲をもつ人は少なくない。そのような層の老人に呼びかけた「新老人の会」は、今では日本ばかりでなく、一部の外国に住む日本人や日系人にも賛同者を得て、現在、会員数は4千5百人を超えているのが現状である。  
     農村における老人には定年制度はないので、65歳以上でも現役を続けられる体力をもつ人は多く、そのような老人ではその人生の第二期は長く74歳を越えてはじめて老齢を意識する方が多いように思う。  
     「新老人の会」で新老人運動に参加する老人は精神力の旺盛な人が多く、夫婦が揃っている人も、また配偶者が亡くなっている人も立ち直って、元気を出して今までできなかったことをやろうとする仲間とともに、新鮮な気持ちで人生の最後のステージを生きようとする方が多いように私は感じている。  
     たとえ子どもたちは故郷を去り、外国にまで行き、孫もいなくなったりしても、新しい友と共に行動できる人は多く、また土地の子どもらと共になってやれることは数多くあるのである。  
     私は、この第三のステージにある農村のこれらの層の老人が輝いて生きる人生の生き方を体得して、この運動を展開していっていただきたいと思う。  
     農村の人たちは、今までの人生は自分のため、家庭のため、部落のために働いてきたと思っているが、次の時代を作る子どものためにはもっと大切な時間を自分に取り入れて活躍されることを望んでやまない次第である。
シンポジウム1
  • 大淵 宏道, 八百坂 透
    セッションID: sympo1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     医師不足は日本のいたるところにおいて益々深刻になり社会問題化している。
     地域医療を守り日夜奮闘している日本農村医学会会員にとって、またその活動拠点であり地域医療を担う立場の厚生連病院にとって、地域医療を守る仲間である医師の確保は病院開設以来続く最大の課題であり、永遠のテーマと言って良いが、その解決は困難を極めている。
     急激な高齢過疎化が進み変貌する地域社会では、平成の大合併と言われる市町村合併も進み、地域医療を取り巻く環境は激変している。制度的にも卒後臨床研修医制度の導入や医療法改正、医療費抑制のための医療保険法改正など医療制度改革が進められ、これらの影響による病院経営収支の悪化と医師不足により、病院勤務医師は劣悪過酷な労働環境を強いられ、現場からは悲痛な叫び声があがり心の休まる間もなく疲弊しきっている。中には耐え切れず病院をやめ、開業してゆく医師も多く見られるようになり、救急医療など地域医療の根幹の維持すら難しくなっている。
     各県一医大が実現しいわゆる新設医大も増えて、医師不足は解消したとされ、むしろ医師過剰が問題視されるようになり、医学部の入学定員が削減されてきたが、医療現場の実態とはあまりにかけ離れた現状認識であり、国民の健康を守るための国の基本的な方向性に大きな疑問と憤りを感じる。
     医療現場では医療の高度化に伴い専門性を持ったより多くの医師が必要になっており、医師不足の状態は以前よりむしろ悪化している。また若い医師は夜間救急診療や多忙な診療科、医療訴訟の多い診療科を敬遠する傾向にあり、医学部進学の女子学生の増加がこの傾向に拍車をかけている。居住環境においても大都市志向が定着している。
     結果として診療科偏在・地域偏在は深刻であり、麻酔科・小児科・産婦人科では医師不足で特に危機的状態にあり、診療科閉鎖に追い込まれる病院も数多く出てきており、地域医療は崩壊しつつあると言っても過言ではない。
     一方、マスコミの医療バッシングが続く中、地域住民の医療に対する期待・要望は多岐にわたり、医療安全はもとより益々高度・最新の医療が求められている。我々はこれらの期待に応えて最新のあるべき地域医療を行っていかなければならないが、そのためには医師のマンパワーアップは絶対条件である。
     このように医療を取り巻く近年の急激な環境変化が、医師確保に与えている実態を踏まえたうえで、この解決に向けて地域医療を志す医師の育成、入学定員の見直し、地域枠の拡大、診療報酬上の優遇、女性医師の働ける職場作り、地域医療ネットワークの構築など現状を打破するための具体策について、住民・行政・病院管理者・研修病院・医育機関・厚生行政などそれぞれの立場から提言していただき、地域医療確保のための方向性を探りたい。
     多くの会員から参加していただき活発で実りあるシンポジウムになることを期待する。
  • 荻野 孝子
    セッションID: sympo1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 昨年10月3市町村が合併し、人口5万3千人の新城市が誕生しました。市長戦の最大の争点は、市民病院再建問題でした。当時新城市民病院は、一部で存亡の危機が囁かれていました。愛知県の二割の面積を占める奥三河の基幹病院として住民の医療を担って来た同病院は、今全国各地で起きている医師不足による病院の機能縮小の縮図のような状態に陥っているのです。医師数は、平成16年4月に34名でしたが、18年4月には24名になり、17年度中に病院全体で常勤医の25%が減少する異常事態が起こっています。
    <現状> その結果、18年4月からの診療体制の状況は、産婦人科は休診、内科は初診外来は開設しない、他医療機関からの紹介のみ、消化器内科医は欠員、消化器外科で対応、呼吸器、内分泌の診察は非常勤医師が行う、入院診療は制限される、小児科は、5月以降常勤医師が一人になるため、外来診療のみとなり入院診療は出来ない、精神科は、常勤医師欠員のため金曜午前中に非常勤医師による外来診療のみ、リハビリ治療の縮小と見直し、さらに追い打ちをかけるように、?緊急お知らせ?として4月1日より、時間外診療、時間外救急医療が対応困難、平日時間内の救急医療は2次救急医療体制で診療、ただし心筋梗塞、脳出血、多発外傷など高度医療を必要とする場合は、3次救急医療施設への受診を誘導する。まさに総合病院としての機能は瀕死の状態で、少子化はさらに進み、若者の都市流出はますます増え、急病の場合は、遠くの病院をタライ廻しにされかねないなど、住民の不安はつのる一方です。こうした背景に、この数年間に病院長を含む相次ぐ勤務医の開業、公立病院特有の機構が、病院の運営を阻害し、責任の所在を不明確にしてきたこと、新しい臨床研修医制度が導入されて以降、大学病院への医師引き揚げがあるようです。
    <今後> こうした状況のなか、病院再建を唱え、新市長として期待をよせられた穂積市長は、前院長の退職にともない、4月以降の新院長就任に奔走し、総務省を始め、各関係機関に出向き、市民病院改革委員会を設置、委員会からの報告書を受け、市民、患者も参加した再建支援委員会の立ち上げ、病院経営のプロを事務管理監としておくなど、大きく3点の方針を打ち出しております。 
     いずれにしても、私たち住民にとって安心して生活できる医療体制の確保と地震対策上からも、災害拠点病院として機能の回復に期待したいところです。 
     多くの人が望んでいるのにもかかわらず、自宅の畳の上で最後を迎えることが困難な時代になった今、せめて故郷の山や風景の見える場所で最後を迎えたいと思うのは贅沢な望みなのでしょうか。
  • 河上 敢二
    セッションID: sympo1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    三重県最南部の紀南地域は、県内でも最も過疎・高齢化の進む地域である。地域の市町村によって開設された紀南病院は病床数288床の紀南地域唯一の総合病院であるが、新臨床研修制度が要因となり、17年3月末に派遣内科医師全員がM大学に引き上げられ、診療体制が8人から4人となる医師不足問題が発生した。
    これに対し、紀南病院・市町村では、医師確保に向けて、医師の給与増額、インターネット等を通じた医師の公募、M大学以外の大学への派遣要請などを行った。一方、残る医師の負担軽減を図るために、地元医師会有志による病院内での日曜診療が実施されるとともに、病院は、通院患者を各診療所に逆紹介し、外来初診は、紹介状を有する者に限定した。住民には広報等を通じて理解を求めた。この他、県、M大学、他病院などの支援・協力もあり、必要な医療が提供され、インターネットを通じた公募により医師が確保されてゆき、大きな混乱もなく、医師不足問題について一応その危機を乗り越えることができた。
    しかしながら、インターネットを通じて医師が確保されたことは僥倖であり、自治体・病院としては、大学派遣に頼ることから「自ら確保する」との考えに改め、今後、医師確保に向けて奨学金制度創設、魅力ある病院勤務環境の整備や、病院医師の負担軽減のためにも地元医師会との協力による病診連携等の取り組みを進めていく必要があると考えている。また、過疎化の進行を考えれば将来総合病院として単独存立は難しく、隣接地域の病院との間での専門診療科を集約・機能分担するなど病病連携が必要である。
    各々の市町村で医師確保への努力は払われるべきであるが、地方の市町村、特に過疎地域の小規模自治体での取り組みには財政面などで問題がある。地方自治体としては、地域偏在、さらに大きな問題である診療科偏在の解決に向けて、国を中心に、県、大学など関係諸機関・団体による「新医師確保総合対策」などの早期かつ実効性ある取り組みを望むところである。その際、特に国には県による対策の実行に大きな制約や支障の無いよう配慮を求めたい。対策の他にも、診療所及び病院の管理者になる要件としての地域医療従事経験の義務化や地域医療に関する教育や研修プログラム等の拡充・必修化や、産科、小児科等に配慮した診療報酬の設定、無過失補償制度などについて前向きな検討を望みたい。    
    今回の医師不足問題の発生を通じて、医療の地域格差、言いかえれば「命の地域格差」の存在を再確認させられるとともに、その格差拡大の進行を強く認識したところである。住民の安心、安全の確保への責務を負う地方自治体として、これまで以上にその役割を果していかなければならないのは当然である。しかしながら、過疎地域の小さな自治体ではその成し得ることには限界があり、命の地域格差がこれ以上に広がることのないよう、重ねて国、県など関係機関による一層有効な取り組みを求めるものである。
  • 藤永 明
    セッションID: sympo1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     はじめに:医師はどこへ行ったのか。全国26万人の医師、人口10万人あたり200名を越す医師、各県一医大設置が決まり確実に医師数の増加が見られたにもかかわらず、なぜ医師不足で診療科を閉鎖、あるいは標準数に満たない残留医師が、朝から晩まで走り回って働かなければならない現実があるのか。
     医療環境:経済財政諮問会議における聖域なき構造改革に後押しされた診療報酬改正、臨床研修に関する医療法の改正。科学立国を目指し、研究を優先する政策として大学院大学化の結果、医学部卒業生が7700人の中で大学院の定員が5000人を占め、その定員を若手医師で半強制的に埋めようとした結果、若手から中堅医師の地方からの撤退。独立行政法人化の結果、大学の運営交付金が毎年2%ずつ削減されるため、人的充実によって大学病院の経営改善と黒字化を図るためやはり中堅医師の引き上げ。その状況の中で、平成16年度より卒後臨床研修制度が始まった。一つ一つの政策は時代の流れと世界情勢から否定されるものではないが、その全てがこの5年の中で同時に実行されてしまった。誰もが全体と将来を見通せない中で、誰も制御できない中で実施されてしまった。その結果、地方(都会の地域ではない)では悲劇的な医師不足が展開されている。
     厚生連の現況:全国厚生連の病院数は122病院あり、そのうち55%が人口5万以下の市町村地域で運営されている。全国厚生連院長会が18年4月に行った臨床研修体制に関するアンケート調査によると、(105/122病院、86.1%回答)医師標準数を満たしている病院はわずか62病院、59%であるにもかかわらず救急告示病院は99病院、92.4%であった。前期臨床研修に関してみると、研修病院指定は管理型あるいは独立型50病院、協力型49病院(17病院は重複)、参加してないのが12病院(11.4%)であった。独自の後期研修体制ができているのは独立型33病院(31.4%)、大学との協同で36病院(34.3%)、受け入れないは39病院(37.1%)であった。受け入れられない理由に人的、施設的問題がそれぞれ23病院、20病院あり、中小病院の悲哀が感じられた。医師確保対策として、後期研修体制は86病院(82%)が有効であると回答し、対応の仕方では、全厚連として対応するが40病院(38%)、各厚生連が対応は62病院(59%)であった。一方、今後の医師確保体制としては独立型が34病院(32.4%)、大学との関連を強めるが57病院(54.3%)(重複10病院)であり、地域に多く存在する厚生連病院としては、やはり大学との関連を無視する状況にはない内容であった。
     確保対策:厚生連としては多くの会員病院が全国厚生連、あるいは各厚生連としての組織としての医師確保に期待しており、今後積極的に全国組織化する必要があるのでないかと考えられる。8月に行はれる病院長研修会で更なる話し合いが行われるので、その結果も本シンポジウムに報告したい。
  • 山本 昌弘
    セッションID: sympo1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    安城更生病院は692床の急性期医療を主体とした西三河南部の中核病院である。敷地内に100床の老健施設併設している。2005年度は外来患者1850人/日、入院患者680人/日、平均在院日数13.4日、病床利用率98.5%、外来診療単価15,373円/日、入院診療単価53,070円/日、救急車両搬送数566.7人/月である。2002年4月末新築移転に際し、より高機能化を目指したが、大学からの医師派遣は望めず、また、医療現場は若手医師に頼らざるを得ない現実を考え、優秀な研修医を多く集めることに重点を置いた。定員12名/年を、2002年は16名、2003年以降は20名とした。その結果、麻酔・救急担当部門が4名から8名へ、消化器内科が6名から8名へ、小児科、婦人科もほぼ毎年志望者が出ている。また、指導医層が病棟で外科・内科・循環器・ICU当直を担当できるようになった。当院の対応策をまとめる。
    1.全ての職員が「研修医あっての病院であり、病院あっての研修医である」と認識する。
    2.研修医自身が実力養成できていることを実感する。研修医は見学者ではなく、下請けの小間使いでもな い。指導医の下、実地修練とフィードバックを着実に行う。  
     例1:毎週火曜日午前7時からの救急カンファレンス
        出席するシニア:副院長2名(小児科、放射線科)
        外科部長、呼吸器内科部長、循環器内科部長、神経内科医長、腎臓内科医長、救急担当医
     例2:隔週土曜日午前中の講習会(研修医が望む内容を研修医自らの手で開催)  
     例3:関連大学学生の臨床実習には研修医も屋根瓦の一環として関わる。
    3.大学と緊密に連携する。
     後期研修終了後または途中でも次の病院または大学で引き続き修練を継続できる。
    4.後期研修プログラムを2004年度年から実行し、継続的な研修が明示されている。
    5.厚生労働省の研修指導医資格を7年目以上の医師全員に取得させる(進行中)。
     2001年度と2007年初めを比較すると、医長・部長(卒後8年以降)が60名⇒69名、7年目までの常勤医44名⇒64名、研修医17名⇒40名へ増加している。救急救命センター、集中治療室、健診センター、緩和病棟等の新たな機能があり、指導医層が増えているわけではない。7年目までの医師20名増が病院を支えているといっても過言ではない。問題点は2005年度から指導医層が7名開業あるいは開業を予定していることである。
     医師不足は勤務医不足である。OECD諸国と比較して2/3の医師数を増やすこと、長時間かつ過酷で、経済的に恵まれず、絶えず訴訟に怯える勤務医の労働条件を、保健給付見直しを行って改善すること以外、根本的な解決はない。しかしながら、短期的には、地域住民の理解の下に、地域一丸となって、少ない医療資源を生かして行くことが対応策であろう。
  • 植村 和正, 井口 昭久
    セッションID: sympo1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     地域医療における医師不足がきわめて大きな社会問題となっている。名古屋大学医学部附属病院(以下、名大病院)とその関連病院における医師不足の現状を検討することで、地域医療を担う人材育成に果たす大学病院の役割に関して考察する。
     名大病院とその関連病院は卒後臨床研修のためのネットワークを形成して医師の育成に努めてきた。40年近い「非入局スーパーローテート研修」の歴史に対する信頼からか、新医師臨床研修制度が発足してからネットワーク内の研修医総数はそれ以前より200名ほど増加している。ネットワーク全体の医師数も減少していない。少なくとも内科に関していえば、いわゆる「大学への医師の引き上げ」も生じていない。にもかかわらず、名大病院とその関連病院においても深刻な医師不足が存在する。その実態は何であろうか? 
     確実にあるのは病院間(地域)偏在である。ネットワーク全体で医師数が増えたが、医師数が減少した病院数が増加した病院数の半数以上ある。つまり、特定の病院は研修医数増加の恩恵に与っていない。このような地域では、その増大する業務量に疲弊して勤務医から開業医へのシフトが起こっているのではないかと推測される。診療科間の偏在が言われているが、ネットワーク内ではここ2-3年の医師数の変動において診療科間に大きな異同はない。小児科等の医師不足感の強さは、単に医師数のみならず業務量増加(激務化)も関与しているのではないか。 
     このような事態が生じる背景は何だろうか。上述したように、名大病院と関連病院においては新医師臨床研修制度の影響は新しい問題ではない。40年近い間、研修医獲得に関しては自由競争にあった。それよりも、大学医局の人材派遣機能の低下が大いと思われる。医局権威の衰弱とも言えるが、若手医局員が激務の地域病院への赴任を受け入れなくなっている。 
     受け入れ側についてはどうか。近年の医療構造の変化により慢性多臓器新患を患う高齢患者が増加している。医師数あたりの患者数は増加していなくても、1人の患者が多くの専門診療科を受診するようになっている。病院全体の業務量は相当に増加している。全人的医療を担える総合診療能力を有する医師の減少と多くの若手医師が臓器別高度専門分化型病院でキャリア形成を行っていることがこの背景にあるのではないか。また、地域住民の高度専門医療への希求も相当強い。大事な我が子が病気になれば、たとえ風邪でも小児科専門医に診てもらいたい。それも24時間、365日である。 
     大学医局の人材派遣機能への依存が限界にきている今日、地域医療人育成のための大学医学部および大学病院の役割は、「地域医療を担える人材の養成」と思われる。これは研修医-若手医師の総合診療能力の育成だけでなく、地域医療への熱いまなざしを持った人材の育成、からなる。つまり、義務として地域に赴任するのではなく、「地域で働くことに喜びを感じる医師を育成する」ことである。シンポジウム当日は、まだ端緒についたばかりであるが、名大病院として試行を始めた「地域医療人育成プログラム」について紹介する。
  • 菊岡 修一
    セッションID: sympo1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     現在進められている医療提供体制の改革では、「安心・信頼の医療の確保」という考え方の下「医師不足の問題」、「地域医療の連携体制」、「患者に対する情報提供の推進」、そして「信頼できる医療の確保」(EBM、医療安全対策の充実、医療従事者の資質向上、在宅医療の充実など)などがテーマとして示されている。
     これは、患者が自分の受ける医療に関して必要な情報が得られ、地域で連携体制が確保され、病院を退院した後の在宅医療もしっかりできる体制ができていくような、患者の視点に立った、安全・安心で質の高い医療が受けられる体制を地域、地域で作っていこうという考え方である。そのためのさらなる基盤整備としては、病院等を選択する場面での情報提供だけでなく、診療の段階での文書交付、医療安全の対策、EBMの推進、医師偏在問題への対応、医療従事者の資質向上などを行なうものである。
     このような中で、医師の偏在問題については、約27万人の医師の将来的な需給とは別に、僻地・離島等の特定の地域や小児科・産科等の特定の診療科における医師偏在による医師不足が大きな課題となっており、各都道府県には医療対策協議会があり、都道府県、大学病院や公的医療機関などが参加して、医師の派遣体制、医学部入学の地域枠、あるいは医療機能の集約化・重点化といった議論をした上で、様々な取り組みを行なっていくこととなる。
     また、医師確保の関係では厚生労働省のほかに、自治体病院を担当する総務省と大学病院を担当する文部科学省による地域医療に関する関係省庁連絡会議において、昨年の8月に医師確保総合対策を取りまとめている。本シンポジウムにおいては、医療提供体制の改革に関する厚生労働省の取組を紹介するとともに、今後の医療提供のあり方について議論したい。
シンポジウム2
  • 夏川 周介, 吉川 明
    セッションID: sympo2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     新臨床研修制度が導入されて2年が経過し、第一期生が初期研修を終了した。 
     昭和43年に創設された臨床研修制度が研修は努力義務、ストレート研修中心、プログラムが不明確、施設間格差が著しい、指導体制、研修成果の評価が不十分、処遇・身分が不明確、不十分、研修施設が都市部に集中等の問題点を抱えていたことに対し、新制度のねらいは国際的にも通用する医療教育制度の確立を目指したものであり、その基本的考え方は、1.医師としての人格を涵養、2.プライマリ・ケアへの理解を高め、患者を全人的に診ることができる基本的な診療能力を修得、3.アルバイトせずに研修に専念できる環境を整備、等にある。 
     しかしながら現状は、医療制度の大変革の嵐に翻弄される中、大学医局の医師供給体制が崩れるとともに、日本の医療の矛盾もまた、白日の下にさらされることになった。 
     医師の絶対的不足、労働強化、医師の地域偏在、病院機能分化の促進、病院医師の開業ラッシュ、診療報酬改定による二極分化と経営圧迫、医師の倫理、使命感の変貌等々、これらの諸事情の根元が新臨床研修制度にあるとばかりの論調も跡を絶たない。 
     事実、社会資源に乏しい地域においては、多くの医療機関が、まさに崩壊の瀬戸際に立たされている。公的病院として人口密度の少ない農村地域に立地する施設を多く抱える厚生連においては危急存亡の時期といっても過言ではないだろう。 
     いま、日本の医療が大きく地殻変動をおこしている中で、新制度はどのような医師を育て、どのような医療を展開しようとしているのか、なにより、この制度は果たして患者・住民に恩恵をもたらすのであろうか。これからの医療形態の根幹を形成するともいえる新臨床研修制度を様々の立場から検証し、その課題を探りつつ、今後の医療・医学政策、病院医療、地域医療のあり方を模索してみたい。 
     シンポジストには1.研修医の立場から梅田直人氏(長岡中央綜合病院)、2.指導医の立場から三島信彦氏(海南病院)、3.一般病院の立場から早川富博氏(足助病院)、4.大学病院の立場から森田洋氏(信州大学卒後臨床研修センター)、5.地域住民の立場から佐伯晴子氏(東京SP研究会)、6.行政の立場から井内 努氏(厚生労働省臨床研修推進室)、そして特別発言者として行天良雄氏(医事評論家)の各氏にお引き受けいただいている。行天先生には医師臨床研修マッチング協議会会長としての立場から討論にもご参加いただく。
  • 長岡中央綜合病院でのスーパーローテーション
    梅田 直人
    セッションID: sympo2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     長岡中央綜合病院は新潟県の中央部に位置する病床530床の病院で、常勤医師はおよそ60名です。
     私の初期研修でのローテーションは1年目には循環器・呼吸器内科3ヶ月、一般外科・麻酔科4ヶ月、腎・内分泌・血液・神経内科2ヶ月、消化器内科2ヶ月をまわり、救急科として週1回の当直(副直として)を行ないました。2年目は整形外科(選択)3ヶ月、精神科6週間、地域医療として保健所2週間、診療所(4医院)2週間、療養型病床のある栃尾郷病院2週間、小児科6週間、産婦人科6週間、放射線科2.5ヶ月、皮膚科(選択)2週間をローテーションしました。また、選択科の期間中は月に3から4回の当直を行ないました。 
     新研修医制度の利点としては、広く診療科をまわることにより、将来自分が専門としない領域においてもある程度のfirst aidが出来るようになることがあげられると思います。実際、特に小児科は夜間・救急外来で対応に苦慮することが多いですが、たった6週間でも小児科医から直々に指導を受けることにより幾分自信をもって診療に当たれるようになりました。 
     また、将来の専門分野と関連する科を選択出来たことはとてもよい勉強になりました。私はアレルギー・膠原病・リウマチ内科にすすむ予定ですが、整形外科でリウマチ患者を担当し、助手として手術にも参加したことは今後リウマチの診療を行なっていく上で大きな意義があったと思います。放射線科、皮膚科も膠原病とその合併症、他疾患との鑑別において得るものが大きかったでした。 
     さらに、多くの分野で様々な手技を指導医の指導のもと実際に行なえたことは、臨床能力を上げる大きな力になったと思います。採血、ライン確保、胃管挿入、胸腔穿刺、腹腔穿刺、腰椎穿刺、気管内挿管、中心静脈ライン確保、骨髄穿刺の他、上部消化管内視鏡、気管支鏡、腹部超音波検査、注腸造影検査なども行なうことが出来ました。 
     一方、新研修医制度の欠点や、疑問点も数多く感じました。専門家として着実に育っていくストレート研修と異なり、スーパーローテーションには無駄が多いのではないかという新制度導入前から投げかけられていた疑問になかなか明確な答えが出せないこと。ローテートしている研修医が多くの手技を行ない診療に当たることは、見落としや事故などのリスクが上がることにつながると思われますが、患者の不利益と、幅広い対応能力のある医師を育てることの利益との兼ね合いが難しいことなどです。救急外来などでは常に指導医にコンサルト出来る体制にはなっていても、実際には自分の判断だけで患者を返すことも多く、緊急の疾患を見逃してしまう可能性もありました。 
     2年間の初期研修は自分にとっては、とても得るものが多かったと思います。ただ、より多くの手技、診療行為を研修医が行なうことは研修医にとって利益が大きい分、目の前の患者にとっては不利益を生じる可能性は高く、責任の所在の明確化やバックアップ体制の充実をいかに行なうかが、この制度を充実したものにしていくための大きな鍵になると思われました。
  • 三島 信彦
    セッションID: sympo2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     指導医・プログラム責任者の視点で、新研修医制度の課題をいくつか指摘したい。
     新制度はまず「研修医優遇、指導医過酷」と言えそうだ。研修医が過重労働(研修)にならないような配慮が各病院でなされている。ローテート科を交代するコールのない週末を利用して、研修医はうまく休暇を取れている。一方、指導医は担当患者のコールから年中外れず、研修医指導を終わってから自身の残務をするなど負担が増えている。指導医はリクルート効果も期待して指導しているが、2年次の必須科ローテート時期にはもう進路を決めている場合があり、科によっては指導医のモチベーションが保てない。教えるばかりで自科に進んでくれなければ、指導医にとっては持ち出しである。
     次に、指導医自身の基本的臨床能力(指導力)不足の問題がある。自科に進む研修医の指導には長けるが、他科に進む研修医に何を教えたら良いのか戸惑う指導医もみられる。臓器別専門科での日常診療は後期研修(専門修練)向きであって、初期研修には必ずしもそぐわない。例えば、臓器別内科での先進検査処置の助手や、小児科でのNICU研修、外科手術での鈎引きなどが他科志望者に適切であろうか。医療の専門細分化のため、ローテート研修が専門科巡りの細切れ研修化する傾向がある。指導医が基本的臨床能力を常に意識していないと、研修が各科手技の習得に矮小化され、初期研修として成り立たない。
     高度化した診療科は初期研修の場として適当であろうか。専門科にはCommon diseaseなど、研修医が担当して成功体験に結びつく患者が必ずしも多くない。例えば呼吸器病棟には化学療法をうける肺癌患者ばかりで、市中肺炎がいないなどである。後期研修の充実した病院がそのまま初期研修にも適しているとは言えないのである。
     また、病歴、身体所見を取るスキルやそれらの意義が等閑にされがちである。病歴や身体診察を突き詰めることなく、珍しい検査依頼を高水準な医療と錯覚する傾向が指導医にも研修医にも存在する。実は指導医自身も丁寧に身体診察するトレーニングを十分に受けていないのである。
     多くの患者をこなそうとして、複数の病気を抱えている患者を担当しながら、現時点で当面している病気しか診療しない「うわすべり研修」となるようでは、粗雑で皮相的な診療スタイルを身に付けるという反面研修になってしまう。
     これらの課題にどう対応したら良いだろうか。指導医講習会の実施は各科指導医の意識改革に有用であり、活用すべきである。また、例えば当院の総合内科では、徹底的な病歴と身体所見(History & Physical)を重視した基本的診療能力の獲得を研修医に指導している。技能偏重でなく、思考や患者を診るという診療態度の訓練である。担当医は1日2回以上訪室し、詳しく話を聴き、丁寧に診察するので、研修医にとって医師患者関係構築の良い経験になる。「検査ばかりして、ろくに話を聴いてくれない」「きちっと診察してくれない」「研修医が受け持っている」などの不満は聞かれず、患者満足度が高い。総合内科を有する病院では、総合内科が研修医教育の役割を担うことが期待される。
  • 早川 富博
    セッションID: sympo2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     平成16年から新医師臨床研修制度(新研修医制度と略す)が始まり,勤務医の動向?地域における医師不足,とくに勤務医師の地域格差?に大きな影響を及ぼしている.これが一時的なものか現時点では不明であるが、拡大する医師の地域偏在は,病院医療の後退・撤退をさせている現実がある.研修病院へ医師が集中する現状で,一般病院の中でも,いわゆる田舎の病院における医師不足に対する解決策の1つとして,研修医制度への関わりについて述べたい.
    <新研修医制度におけるへき地医療支援機構の関わり>
     愛知県にもへき地・離島医療は現存し,その医師不足は現実的問題であり,へき地医療支援機構が中心となって,その解決に取り組んでおり,新研修医制度発足に伴い,へき地医療の現場を研修医に体験してもらうことが,へき地医療に関する理解を広げ,将来的に,へき地医療における医師確保の布石になると基本的に考えた.平成17年からへき地医療拠点病院と関連するへき地診療所が,協力型臨床研修病院および研修協力施設となり,新制度における地域保健・医療研修の必須枠として,へき地医療臨床研修プログラムを提供してきた.研修医受け入れ窓口はへき地医療支援機構が中心となって調整を行なっている.
    <足助病院におけるへき地医療臨床研修プログラムと研修実態>
     へき地の特徴を知る目的で,へき地診療(検診主体)の実施,訪問診察・看護・訪問リハビリへの同行と実施,通所サービスの利用者送迎,療養型病床での患者様担当を中心に,1週間単位のプログラムを導入,実施内容の報告と意見交換を毎日指導医と行い,研修終了日には指導医が直接研修医本人に評価を伝えている.当院でのへき地医療臨床研修の希望は1週間単位,2週間単位,1ヶ月単位に分かれており,連携する臨床研修病院の意向に沿っている.平成17年度の実績では,1週間の研修が32名,2週間が9名,1ヶ月が4名であり,合計45名の2年目研修医が当院のプログラムに参加した.研修医に,当院における研修の満足度,新研修医制度に関する満足度,今後当院に勤務する意思があるかどうか,などのアンケートをお願いした.
    <今後の方向>
     へき地医療の将来にわたる人材確保を目的に,新制度における地域保健・医療研修の必須枠として,へき地医療研修プログラムを提供してきた.平成17年度は45名であったが,平成18年度は愛知県全体で99名(当院が57名),平成19年度は全体が121名(当院が65名),平成20年度は全体が131名(当院68名)の予定であり,このプログラムが県下の臨床研修病院に認知され始めていると考えられるが,へき地医療臨床研修が遠い将来の医師確保に貢献できるかどうか心もとない.しかし,研修経験者の1%でも将来的に勤務を希望してくれれば2年に1人の医師を確保できることになると夢想しながら,情報発信を続けることが必要と考える.
  • 大学の目指す医師教育の過去と未来
    森田 洋
    セッションID: sympo2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    大学における人材育成はごく狭い領域の専門医を育成することではなく,教育職・基幹病院の指導医・地域の医師・開業など適材適所各人の希望と特性を生かす進路を考え,それぞれにみあった教育を行うことである.これは大学のみで出来るものではなく,多くの病院で先輩医師の指導を受ける中で長い年月をかけ行われる,大学と市中病院の共同作業であった.この教育こそが大学と市中病院に勤務する医師達の同門組織である医局の本質であり,多くの人材を輩出し地域医療を安定的に発展させる原動力となっていた.しかし,一部の大学で長年のマンネリズムと倫理観の欠除のために自浄作用を失い,排他的な活動や健全な地域医療の発展と自由な診療を阻害した事例が報道された.これは他の健全な関係を構築していた大多数の医局の機能をも矮小化させた.一方,厚生労働省からも医師の就職における自由意思の尊重が,平成14年の厚生労働大臣国会答弁以降,特に強く求められている.いわゆる医局に所属している医師の勤務先の選択にも個人の自由意思が最大限尊重されるように変化している.従って,医師に不人気な病院では,地域に必要とされる医療機関であっても診療に必要な医師を確保することは不可能となり,人気のある病院に人材が集中する傾向が出現した.そのような状況下で新卒後臨床研修制度がスタートした. 
     医師の教育には,人間的な成熟,理論的な思考に基づく治療計画の立案と実行,その結果の吟味が必要である.学会発表や論文作成も,臨床能力の向上と過去の報告を吟味して治療を行う上では欠かすことの出来ない訓練である.その一方で多数の基本的疾患を経験し的確は手技も身につけなければならない.従来の研修システムではともすれば教育上の役割が施設間で完全に分担され,有機的に高められない関係であった病院や医局も存在していたことは事実である.今回の臨床研修制度では,大学病院・市中病院ともにこれまで自分たちが未熟であった点を克服することが求められた.これまで卒後1年目を教育した経験のない管理型病院では実務的側面の教育に偏り(研修医としては手技が獲得され満足度は高い),大学では高度な医療が主体となりcommon diseaseに対するアプローチ,手技の早期習得が手薄になっていた(研修医には自分で何かが出来るという満足度が低い).
     新制度以降,信州大学では研修医と研修センター教員との個別の面談は最低でも3ヶ月毎に行っている.その中で,教育上改善を要する問題点がいくつか明らかとなった.なかには徒弟制の悪しき伝統も含まれるが,多くの問題は共通の認識を持つ中で改善することが出来た.その結果,大学単独でも新制度の趣旨を十分に組み込み,且つ,大学ならではの特色を出した研修プログラムを新たに用意することも可能となった.初期2年間の教育は医師としての研修のごく初歩であり,今後は本来の目的である地域に貢献できる真のプロフェッショナルを育成することに地域の医療機関とともに邁進していきたい.
  • 佐伯 晴子
    セッションID: sympo2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     風が吹けば桶屋が儲かるが,研修医制度が新しくなれば病院の医師が減る!? 
     「病院から医師が消える」新聞やテレビの報道で最近よく目にするニュースです.この背景にどのような問題があるのか,どうしてこの問題が急にクローズアップされるようになったのか,私たち一般国民には詳しい事情はわかりません.ただ,命を授かり,産み育て,共に生き,そして看取るという人生の営みを普通に行なうということが,どうやら私たちの国では難しくなっているようです.  
     しかし,何もかもが便利に豊かになったはずのこの国で,どうして基本的な命の営みの支えが揺るいでしまうのでしょう.戦争をしているわけでもなく,災害で国中が壊滅的な被害を受けたわけでもなく,野球もサッカーもドラマもお笑いも,平和にテレビを賑わせているというのに,経済も少し持ち直して新卒者の就職もよくなったといわれるのに,なぜ医療は利用者にとって不便で不安が募るものになっていくのでしょうか.  
     地域病院から医師が消える背景には,大学病院の研修医が従来の人数から激減していて,労働力として不足しているために大学が派遣先から医師を引き戻すからだ,と報道されます.産科に限ったことではありません.外科,麻酔科,小児救急以外に,内科もごっそり医師が抜けてしまい,規模を縮小したり閉鎖に追い込まれているということです.地域住民としては,この結果をもっぱら「受ける」しかありません.「○科はなくなりましたので他をさがしてください」と「なくなった」という報告を受けるしかないのです.  
     そもそも地域住民と病院の関係が一方的でよいのでしょうか.医師がごっそり辞めるというのが地域住民の了解を得ずに可能であっていいのでしょうか.大学や病院の事情,医師個人の事情もあるでしょうが,大事なものが置き去りにされてはいませんか?  
     確かに研修医が一定の能力を身につけるために,大学に限定されずに修練の機会を増やすには新研修医制度は役立っているのかも知れません(そう期待せざるを得ません).しかし,この研修先を自分で選ぶマッチングという仕組みが,パブリックな人材としての医療者を,よりプライベートな個人の自由に任された職業にとらえるよう促したと私は思っています.私は数年前まで新しい研修医向けの講演で「皆さんにとって学生時代に大学は利用するところだったかもしれませんが,病院は患者さんが利用するところです.患者さんにとって利用しやすい,利用してよかったと思えるような医師になってください」と話していました.しかし,この新研修医制度になってから,白々しくて言えなくなりました.患者や地域住民および病院は,若い彼らに利用されるところでしかないと感じるからです.  
     彼らにとって利用価値のあるところには誰もが行きたがり,利用価値がないと判断するところは見向きもしない,その結果が最近の医療の姿「住民不在」であるのなら,地域住民と病院が築いてきた信頼は崩れて当然です.そして,研修医がこの国の人の幸せを願いパブリックな人材として働くように育ててこなかった,大学教育の責任は重いと言えます.
  • 新医師臨床研修制度の検証と課題
    井内 努
    セッションID: sympo2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    新しく必修化となった医師臨床研修制度は、昭和43年以来、36年ぶりの抜本的な改正として平成16年4月からスタートした。平成6年12月の医療関係者審議会臨床研修部会の中間まとめとして「基本的には必修とするとともに、その内容等の改善を図ることが望ましい」との意見がとりまとめられて以来約10年にも及ぶ議論を踏まえてのスタートとなった。 
    これまで研修医の研修先を決めるマッチングも順調に行われ、過去3回の結果も95%台という高いマッチ率であった。スタート前には地域における医師の確保が困難になるといった地域医療への影響も懸念されたが、東京、大阪等で減少傾向、北海道、沖縄等で増加傾向になるなど、むしろ研修医が都市から地方へ流れる傾向が見られた。また、旧制度において約「7対3」であった大学附属病院と臨床研修病院の研修医数割合が、新制度第3期生においては、「44.7対55.3」と、臨床研修病院が上回った。プライマリ・ケアを研修する場所として、大学附属病院よりも臨床研修病院を求める流れが表れていると思われる。  
    平成17年3月に実施した研修医に対するアンケート調査によれば、研修先に応募した動機について、「症例が多い」、「研修プログラムが充実」との回答が多く、臨床研修の内容を求める傾向が顕著に表れていた。また、研修体制やプログラムの満足度については、4割以上が満足としているが、約3割が満足しておらず、約2割が不明としている。その満足していない理由については、これまで問題となっていた「待遇・処遇」への不満だけでなく、「症例の経験が不十分」、「指導医から十分に教えてもらえない」などといった内容面の不満も出ており、大学を含む全ての臨床研修病院に、さらなるプログラムの充実が求められている。  
    新医師臨床研修制度の検証のため、平成18年3月に各臨床研修病院と1年次、2年次の各臨床研修医に対し、アンケート調査を実施した。研修修了後の進路については、平成18年5月に中間報告を行い、将来専門としたい診療科については、ほぼ従前に近い進路選択が行われたことが示された。また、臨床研修修了後の研修をどこで行うかについては、大学院を含む大学での勤務・研修が約5割、市中病院での勤務・研修が約4割となっていた。この他、臨床研修での経験や身につけた技術なども調査を行っており、順次集計・分析を行う予定である。  
    本シンポジウムでは、発表時点における調査の分析などを踏まえ、臨床研修の今後の方向性などについて概説したい。
シンポジウム3
  • 明石 光伸, 山瀬 裕彦
    セッションID: sympo3
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     医療といえどもその時々の社会状況と無縁ではありえない。むしろ表裏一体、密接な関連を有している。とすれば、現状を認識し将来の社会状況を正しく認識する必要がある。加速する少子高齢化、やがて訪れる多死時代、将来の人口の減少。避けられない医療費の伸び、それを支える人口の減少。それらに対し、国は世界に冠たる国民皆保険制度を維持すべく医療の一層の効率化と医療費を抑制(国は適正化というが)するための政策を打ち出している。しかし、あくまでも医療は人の命と健康を守るという理念の基に、人間の尊厳を守る総括的医療が求められている中、このような流れでは、病院の機能分化が押し進み、ますます都市部へと偏った医療が促されることになる。紹介率による急性期加算や手術例数による算定などは、今回の改定により中止となり、患者にとって説明のつかない負担であり、何のメリットもなく当然であるが、DPCの導入や医療機関の差別化は人口密度の低い地方における地域医療の将来展望に影をおとしている。このような背景のなかで当シンポジウムで地域医療の将来を語り、日本農村医学会に何ができるのか、何をしなければならないのかを語ることは誠に時宜を得た取り組みであると考える。
     シンポジストには次の5人の方に登場してもらう。 まず、診療所医師の立場から佐久総合病院地域ケア科の長 純一先生に実際に農村の診療所活動を通して語ってもらいついで、農村医学会の中心的構成メンバーである厚生連病院の立場から厚生連病院長会長でもある高橋正彦先生に地域医療に貢献する厚生連病院の展望と行動計画をお話いただく。
     また地域医療を担う地方大学の立場からは、次の2名の先生にお願いした。長崎県は離島診療所の医師確保のため離島僻地医療支援センターを設立し、ドクターバンクとしての支援を行っている。1年半診療所に勤務すればあとの半年間は自主研修をすることができる他、五島中央病院に設立された長崎大学離島医療研究所との連携により離島診療所に勤務しながら大学院に入学し、医学博士の学位を習得することができる。今回、その所長である前田隆浩教授から離島をかかえた地方大学における医療人の育成などの現状を、ついで、文部科学省のGPに採用されている過疎農山村をかかえた、地域の医療を担う医師造りの取り組みを実践され、さらにアメリカの地域医療医師造りのプロジェクトWWAAMIと連携し日本版作りを開始された島根大学医学部病院長である小林祥泰教授に話題を提供してもらうことにしている。
     最後に、昨年初めて病院代表として中医協委員となり、新しい中医協総会に参加され、日本の医療政策に積極的に提言され、ご自身も赤穂市民病院長として地域医療を実践されている邉見公雄先生に21世紀の地域医療の将来展望と農村医学会への期待をずばり提言していただくことになっている。
     農村医学会における“農村”には重大な意味がある。農村地区における全日本的規模の普遍的な医療に関する問題点が出現したときに、機能的に迅速に対応できる組織は恐らく農村医学会が最も適切と思われる。以前は農村といえば医療に関して貧困であるとのイメージが強かったが、今や都会において医療の荒廃、医療の砂漠化が心配されている状況の中で農村医学会の果す役割と責任は大きくなってきていると言える。本シンポジウムが農村医学会を更に発展させ充実させ地域医療の将来展望に資することがきれば幸いである。会場の皆様からの活発な討論を期待している。
  • 農村の診療所活動と地域医療の展望
    長 純一
    セッションID: sympo3
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     佐久病院から派遣され、本院より40km離れた農村部の国保診療所長として昨春まで6年間勤務した。村では、複合施設をつくり医療・保健・福祉の連携に力を入れようとしていた。農村部の大きな課題である地域の高齢化・過疎化に対して、住民参加型での地域福祉の充実が不可欠であると考えていたが、村の体制では在宅医療が即在宅ケアにつながる状況であった。診療所長として様々な医療ニーズに応えることはもちろんであるが、介護保険導入時期と重なったこともあり、在宅ケアに力を入れ、地域福祉の充実の必要性を行政や社協に認識してもらうことが最重要であると考え実践した。特に地域での看取りには力を入れ、多くの方(約4割)を自宅で看取らせて頂いた。看取りまでを行うことで、地域に一定の訪問看護やヘルパーの需要が発生することになり、行政や社協に村の在宅サービスを充実させていく必要性をわかってもらうことと、その経営を守ることが一つの目的であった。家族や地域の知り合いといった方が関わることが亡くなる方にとって非常に重要であることを実感してもらうことで、村の良さを再認識してもらうこと、そのために充実した地域福祉が必要なことを住民が認識することを目指した。村にあった地域福祉をと考え、全国の先駆的実践が行われている地域や施設を数多く視察し村に持ち帰り提言した。「しょうがい者」の支援は、個人的に大きなテーマであり積極的に取り組んだ。
     また農村医療の立場では、人と人が支え合う力、老いを支える力を持ち合わせる地域としての「農村」の価値や、生きがいとしての「農業」など、食料生産基地としての役割だけではない、新たな意味付けをすることが重要と感じ発信した。また地域での研修が重視される流れの中で、地域で学ぶ意味を示すために、学生や研修医を多く引き受けた。地域からみえる病院医療の問題点や役割を知るといった以外に、農村医療の歴史教育もした。また様々な学会等にその活動を報告した。経営を好転させると共に、医師交代後の後任医師の負担軽減と、地域に早い時期に医師が出る機会をつくるべく医師体制を二人に徐々に近づけた。
     いずれの取り組みもうまくいったとは言い難いが、農民と農村の暮らしが良くなることが農村医療の目的(第1回の若月会長挨拶)であると考え、実践してきた中で見えたことは以下である。診療所で学べるもの・実践できるもの 
    1. 農村地域の諸問題の存在に気付く 福祉の重要性や過疎化・雇用の問題など
    2. 経営・マネージメント・医療や社会保障情勢に対する視点が身に付く
    3. くらしをみる・ふれることで、農村・農業のもつ新たな価値に気付き発信できる
    4. 行政や地域社会とのつきあいの重要性を知り、付き合い方を学ぶ
    若月の農村医科大学構想では、農村の社会学・経済学・福祉を重視し教育する、とあるが同じ農村医学会に期待すること
    1. 農村の疲弊に対しどのように関われるのか 在宅医療から地域福祉そして地域づくりへ
    2. スタッフの確保を全国レベルで考える農村医科大学?
    3. 農村部における厚生連の役割を認めさせるなおいっそうの努力を
    4. 農村・農業の新しい意味づけを(介護予防などで)
  • 地域医療に貢献する厚生連病院の展望と行動計画
    高橋 正彦
    セッションID: sympo3
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     地域医療にとって重要な要素は地域医療の確保であり、地域医療完結である。そのためには地域中核病院の存在が必要である。厚生連は、22県にわたって122病院を有し、それぞれが地域医療の中核病院的な存在となっている。厚生連病院の立地的特徴として、人口30万以上の都市には11%で少なく、一方、人口5万人未満の市町村には55%、半数以上である。
     厚生連病院は、地域によってその役割は異なるものの、公的病院として、公益性の高い医療を提供している。公益性の高い医療として、“救急医療”、“小児救急医療”、“周産期救急医療”、“災害医療”、“がん医療中核”、“へき地医療”、“エイズ・感染症医療”、“農村健診”などが挙げられるが、厚生連病院はこれらの分野で、地域医療に貢献している。また、臨床研修や看護学校併設などによって、医師・看護師の育成にも貢献している。
     公益性の高い医療とは、時代により、地域により、医療技術の進歩により、疾病構造の変化により、人口動態により、医療制度や医療環境により、変わるものである。すなわち社会の医療ニーズが変われば、公益性も変わりうる。
     自民党の公的病院等のあり方に関する小委員会が2002年に『今後の公的病院等のあり方について』を発表した。「公的病院については、その機能・役割を明確化し、見直しを行なうべきである」、「経営責任の所在を明確にすること」、「民間にできることは民間に」、「各公的病院の役割やあり方については、それぞれの設立目的を念頭におきつつ、地域の問題として、地域の医療関係者間で十分な協議、検討を行なうことを基本にすべきである」、「公的病院はそれぞれの病院を独立採算的な考えの下に運営し、経営効率化、見直しを図ることが必要である」、などが織り込まれている。これを機に公的病院のあり方が厳しく問われるようになった。
     厚生連病院は、各々に、“救急医療”、“健診事業”、“不採算医療”、“へき地医療”などを使命とし、地域医療の中心的な役割を担っている。厚生連各病院が独自に理念を検討したうえで、公的病院としての厚生連病院グループ全体の理念や設立目的を主張していくことも必要である。また、病院経営の改善や責任所在の明確化をする努力も必要である。
     地域医療の問題として、1.医療資源(人的、資金的)の地域偏在、2.医療機関の機能分担と連携のあり方、3.地域医療支援病院のあり方、4.地域医療圏枠のあり方、5.医学的最適性と経済的最適性の乖離、などが挙げられる。これらの実態を詳細に調査した上で、関係機関に提言することも厚生連としての役割と考える。
  • 地域と連携した教育と研究の新たな展開
    前田 隆浩, 大園 恵幸, 青柳 潔
    セッションID: sympo3
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     長崎県は有人島約60を含む大小600余の離島を有する全国一の多島県で、県土面積の約4割を占める島嶼部には、県人口の約11.3%にあたる約17万人(平成12年国勢調査)が暮らしている。こうした島嶼部においては、慢性的な医師不足が深刻な問題となっており、昭和43年に設立された長崎県離島医療圏組合、昭和45年に開始された長崎県医学修学資金貸与制度、昭和47年に全国的な制度として発足した自治医科大学派遣制度、そして大学からの医療支援など離島医療の充実に向けた様々な取り組みが行われている。こうしたこれまでの取り組みに加え、新たにへき地医療支援機構推進事業が創設されたことによって、平成16年4月に長崎県離島・へき地医療支援センターが開設し、同年5月には長崎大学に離島・へき地医療学講座が開講した。さらに平成17年度には医師不足に悩む県北部をステージにした地域医療人の育成プロジェクトがスタートし、地域医療の向上に向けて国、県、大学、そして地域が連携した新たな取り組みが始まっている。
     近年、生命科学研究や創薬などの基礎医学や高度先進医療の開発はもちろん、地域医療、福祉・介護、地域保健、社会医学、国際医療協力など医学や医療に対する社会ニーズは実に多様化している。こうした中、これまでの大学あるいは大学病院中心の医学教育に加え、地域社会や国際社会の場において医療人を育成することの重要性が唱えられている。長崎大学では地域医療に貢献する医療人の育成を目的に、医学生全員を対象とした臨床教育を五島列島において開始した。島嶼部など遠隔地の比較的小さなコミュニティでは、地域に密着した保健・医療・福祉体制がコンパクトにまとまっており、相互の有機的な連携が保たれている。積み重ねられた様々な工夫は地域医療を目指す医療人のための豊富な教育資源となり、離島やへき地社会は良好な教育フィールドになり得る。この臨床教育によって、地域医療に対する学生の意識が変化し興味を持つ学生が増えた他、指導者側においても施設の活性化や実習施設同士の横の連携強化など、良い意味での影響が生じている。
     卒後教育においては、長崎大学病院群の初期研修プログラムに離島医療総合コースを設け、地域医療を目指す医師の育成を目的に島嶼部の基幹病院での研修体制を整えた。また、昨年度の文部科学省企画「地域医療等社会的ニーズに対応した医療人教育支援プログラム」に採択されたプログラム「大学発“病院再生”による地域医療人育成」によって、へき地病院再生支援・教育機構が発足し、県北部の医療機関と連携することで地域医療を目指す後期研修医の研修体制が整った。
     これまでの様々な離島・へき地医療支援体制に加えて、教育と研究をキーワードとした新たな取り組みが動き出した。多方面との連携を基盤とした学生から社会人に至る一貫した地域医療の教育体制、すなわち地域で学び地域で育てる体制を充実させることで地域医療の活性化と向上に向けた展望が開けることが期待される。
  • 過疎農山村の地域医療を支援する大学の戦略
    小林 祥泰
    セッションID: sympo3
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     いま、全国のへき地医療機関から産婦人科を始めとした医師不足の悲鳴があがっている。この傾向がとみに顕在化したのは平成16年度から施行されたマッチングシステムを取り入れた新卒後臨床研修制度以降であるが、このシステムだけが元凶ではない。へき地の自治体が大学医局に医師派遣を頼り切って医師育成の努力をしてこなかったこと、大学自体も地域医療人育成を念頭に置いていなかったことにも一因がある。マッチング制度は研修医に選択の自由を与え、病院には臨床教育の充実を求めている。大学医学部が本来最も重視されるべき臨床教育を見直さなくてはならない時が来ている。日本の臨床教育は欧米に比して実践的でなく、英国視察団の「卒業時の臨床力不足」指摘が新臨床研修制度のきっかけとも言われている。日本では今まで臨床教育に対する熱意は研究、臨床の次であり、まして臨床医を育成するのに必要な患者や家族とのコミュニケーション教育の機会も乏しかった。このような教育は大学病院だけでは出来ない。大学病院でも実践的な米国式のクリニカルクラークシップ(CC)への移行が必要である。さらに地元の地域医療に熱意を持つ学生を入学させることも重要であり、我々は2006年度から独自の地域枠推薦入試を開始した。これは県内へき地出身者対象で、地域医療機関で体験学習して評価を受け、さらに市町村長等の面接も受けるというものである。文科省特別教育研究経費で専任助手を採用し、地域を巡回して啓蒙した結果、優秀な人材を確保することが出来、来年度定員を倍増した。実践的臨床教育のためCCの実践化、シミュレーター活用、WEB登録評価方式を導入したが、さらに指導医の意識改革のため、2005年度地域医療人育成GPでのべ46名の指導医等を米国医学教育の現場体験視察に派遣した。シアトルのワシントン大学では医学部のない周囲の4州のために約70名の地域医療人育成プログラム(州の頭文字をとって通称WWAMI programと呼ばれる)を30年前から実施し、通算帰州率70%という効果をあげている。我々はWWAMI siteの診療所等まで訪問し、へき地における臨床教育の実際、地域医療人育成にかける彼等の熱意を目の当たりにしてきた。また、コロラド大学とセントルイス大学の家庭医学コースの臨床教育も見学体験してきた。これだけ多くの指導医が早朝からレジデントや学生と一緒に回診やカンファレンスに参加したのも珍しいが、まさに「百聞は一見にしかず」で実践的臨床教育とは何かを全員が実感して帰国した。帰国後、WWAMI program指導者を招いてのFDを兼ねた研修報告会は盛況で他の教員や学生の啓蒙に貢献した。さらに1年生から、現場で活躍している地域医療人の講義を組み込み、6年次には3週間の地域医療実習を開始した。研修担当専任講師も採用し、遠隔医療システムも導入、中長期的な地域医療人育成に取り組んでいる。
  • 安全で快適な地域医療を目指して
    邉見 公雄
    セッションID: sympo3
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     今、地域医療は危機的な状況にある。一つは人的資源の欠乏、つまり医療職の地域偏在、都市集中である。また、小児科や産婦人科、麻酔科などの診療科偏在もある。看護師は救急車の来ない、手術のない病院を目指しビル診療所や介護老人保健施設を選ぶ。地域の中核病院に残るのは馬鹿かロマンチストだけ、と揶揄されるほどの状況である。お産や手術の出来ない地域がどんどん増え、まるで明治初期に逆戻りである。医育制度や医療行政の失敗あるいは不作為の結果と言われても仕方あるまい。 
     もう一つは医療費抑制という誤った政策を、ここ10年とり続けていることである。医療は教育と並んで我が国の二大基幹産業である。明治維新以来、歴代政府はどんなに財政が苦しくとも、これだけは守り続けて来た。何の地下資源にも恵まれず、狭い耕地しかない東洋の島国が欧米列強に互するには優秀な人材を育てるしかない、と暗黙知していたからである。つまり、医療で健康な心身をつくり、教育で道徳や学問を身につけ、優秀な国民「日本株式会社」の社員を育ててきたのである。もし今の医療政策が、あと10年続けば地域医療、特に地域の急性期医療は壊滅するのであろう。今回の診療報酬改定に関わった者として「これ以上、地方の急性期病院を傷めつけないで」と訴えてきた。「急性期は泣かせません。メリハリを付けます」というのが当局の答えであった。しかし当院の試算ではメリメリであり、最悪4%以上もあり得る。DPCへの高等追い込み作戦か?とも疑いたくなる今回の改定について、少し詳しく報告したい。  
     次に、私達自治体病院と同じ目的で同じ活動をしている日本農村医学会員の皆様方にエールを送りたい。「病院と学校は、朝に自宅を出たら遅い昼御飯が自宅で食べれる距離になければならない」というのが私の持論である。そうでなければ、ハンディキャップのある病気の方は勿論、学童は悪者に襲われる危険性も増える。先日、テレビで旧山越村の仮設住宅の住民が村の診療所の先生に診察を受けている番組が放映された。この先生に会うだけで安心し、血圧も下がる?程とか。これぞ地域医療の真髄であり、都会のビル診療所との違いである。地域で産まれ、地域で育ち、地域で病み、治し、地域で死ぬ。これこそ我々日本国民の望むライフスタイルであり、基本的な権利である。農村医学会が我々自治体病院協議会や国保診療所協議会と力を併せ、前進していただくことを願っている。  
    最後に、国や厚生労働省、都道府県が余りアテに出来ない現在、病院自身が自助努力しなければ病院は衰退する。当院のささやかな努力を紹介させていただき、参考になれば幸いである。キーワードは「全員参加」。職員や利用者は勿論、ボランティアなどの地域住民、実習学生や見学者、行政なども巻き込んでの病院づくりである。今、当院のボランティアは犬8頭、鳩2羽を含めて 200人弱である。利用者、見舞い客、職員、業者、その他を加えると1日に約 3,500人の方々が病院を訪れる。18世紀までは大学や協会、寺院が地域のコミュニティセンターであった。19_から_20世紀は市民会館や銀行、生保などのホールが担っていた。「病院こそ今世紀のコミュニティセンター」というのが私の考えである。  
     “良い医療を効率的に地域住民とともに”皆様方と同じ目線で頑張りましょう!!                                
    震災12年10月13日
ワークショップ1
  • 嶋田 幸子, 宮入 ひさ枝
    セッションID: workshop1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     1999年3月、「身体拘束禁止規定」の省令改正により、原則、身体拘束は禁止とされ、「身体拘束ゼロの手引き」(厚生労働省)が配布された。これらは「患者本人・他の患者の生命や身体を保護するために、緊急止むを得ない場合を除き」身体拘束、行動制限を行ってはならないとした「人権の尊重」と「質の高いケアの提供」が求められた。
     その後、臨床においては身体拘束に関する基準・手順の作成、そして、抑制の必要性を家族へ説明し、同意を得た上で、やむを得ず、身体拘束をしなければならない場合のみに行うように、変化してきているものの、さまざまな困難や課題を抱えているところも少なくない。
     急性期では人工呼吸器や観血的ルートなど治療上の必要性から、安全保持のための身体拘束を余儀なくされる場合が多く、とくにICUでは 挿管チューブやルートの自己抜去等は生命に関わる事になり、安全を守る責任から、抑制の適応いわゆる安全ベルトとなる現状があるのではないだろうか。
     療養病床では「切迫性」「非代替性」「一時性」「患者本人またはその家族が身体拘束を希望する場合」の要件を満たし、かつその要件の手続きを極めて慎重にしているケースに限られている。しかし、患者の転倒・転落防止等の事故防止のため止むを得ないと決断している現状があるのではないだろうか。
     身体拘束の決定はそのほとんどが看護師に任されている。判断に自信がない場合は非人道的行為として、申し訳なさや罪悪感でジレンマになることが少なくない。また、その行為が患者にとって最良のケアになるかを見極める重大な責任があり、大きなストレスとなっている。抑制の判断基準から、抑制の適応となればストレスも半減するのではないだろうか。また、倫理的側面からの現場教育を行う必要を感じている。 
    身体抑制を行ったために発生した医療事故そして、抑制を行わなかったために発生した医療事故の判例から、看護師の法的責任について学び、専門職として、抑制をするという権限と責任の重さを考えなければならない。
     今回は一般病棟における身体拘束の現状を相模原協同病院の松川寿恵氏、抑制の判断基準を使用し、最終手段としての身体拘束を行っている長野松代総合病院の吉川京子氏、慢性期の立場からの現状を佐久総合病院老人保健施設重田富美子氏、安全と倫理の立場から神奈川県看護協会安全対策課の安井はるみ氏、身体拘束に関わる判例を後藤・太田・立岡法律事務所の服部千鶴弁護士にお願いした。このワークショップではそれぞれの立場から、発言を頂き、身体拘束の現状から、問題点を明らかにし、安全側面、倫理的側面、法的側面から議論を深めることで、「身体拘束」に対する解決策や方向性を見出せればと考えている。
  • 安井 はるみ
    セッションID: workshop1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    1.医療現場の身体拘束の現状
    <生きる援助として>
    ・急性期における治療上の行為としての身体拘束→健康の回復
    ・慢性期における医療事故防止としての身体拘束→疾病(傷害)の予防
    <身体拘束に伴うリスク>
    (1)人権尊重の視点
     尊厳を保つ権利、敬意のこもった看護を受ける権利、平等な看護を受ける権利、自己決定の権利
    (2)人間の生命
     身体拘束による精神的・肉体的ダメージ
    <医療現場におけるリスク>
     多重課題、高齢者増、一般病棟のICU化、死にゆく人々への終末期医療
    2.身体拘束と倫理原則
    ◆倫理とは…
    ・“何をすべきか”ということ
    ・何を行うことが正しいか、間違っているか、人間の行動で何が善で何が悪かを検討すること
    ◆倫理的探求とは…
    ・人間の行いの道徳的側面を理解し、人間にとっての福祉に関する重要な疑問への答えを形成することに役立つこと。(T.Fry,1994)倫理の原則(T.Fry,1987)
    ・善行→善を行い害を避ける
    ・正義→社会における負担と利益をいかに平等・公平に行うかということ
    ・自律→個人自ら選択した計画にそって自分自身の行動を決定する個人的な自由を許されるべきであること
    ・誠実→真実を告げる、他をだまさない義務
    ・忠誠→人の専心したことに対して誠実でありつづける義務
    *倫理的ジレンマ*
    「同じぐらい望ましい選択肢(価値)あるいは望ましくない選択肢(価値)の間でどちらかを選択しなければならない状況のこと」 (ベンジャミン&カーティス、1995)
    ◆身体拘束における倫理的ジレンマ
    ・患者や家族の同意プロセス、身体拘束による人権問題・肉体的問題、身体拘束に関するチーム医療における取り組みの温度差
    ◆身体拘束における倫理的ジレンマを可視化することの重要性
    ・問題は何か、その背後要因は何か、関わる関係者は誰か
    3.倫理問題分析モデル <A.Davis、1997>
    1.何がおこっているのかを明らかにする
    2.患者に関する関連事項を明らかにする
    3.その状況に関わっている人、あるいは意思決定に影響を受ける人々を明らかにする
    4.関連する法的な情報を明らかにする
    5.問題となっている倫理問題を含む現象の価値は何かを明らかにする
    6.可能性として考えられる選択肢とその意図、または結果として起こってくるであろうと考えられることを明らかにする
    7.法律・経済性などの実際的な制約を明らかにする
    8.倫理的に裏付けできるいくつかの行動を列挙する
    9.自分の倫理的立場に基づいて行動をおこす
    10.とった行動の振り返りと評価をし、今後に生かす
    4.グッドプラクティスへ
    ◆ベストプラクティスは困難な現実
    ★倫理的問題を言語化すること
    ★倫理的意思決定プロセスを共有すること
     限られた資源、環境の中で関わる関係者で検討し続けること。
    = 患者・家族への配慮 =
    「責任」を担うということ
     責任→Responsibility(応答すること)
        「応答を期待しにくい時でも、呼びかける努力をやめず、応えきれないと感じても、応えようとする姿勢を崩さないこと」
    〔大場健:「責任」ってなに?、講談社現代新書〕
  • 松川 寿恵, 大塚 孝子, 黒瀬 順子
    セッションID: workshop1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     今、医療の現場は安心・安全で良質なサービスの提供を目指している。患者の声に耳を傾け、更に満足がいく医療を提供する為に取り組んでいる。 
     安心・安全の提供は、医療者側だけの取り組みでは困難な場面もある。一例として療養上の世話の中で挙げられるのが、転倒・転落である。当院において、平成16年度のヒヤリハット・事故報告書においても91件と多い。この転倒・転落を予防する対策としてアセスメントシートがあり、安全を守るために離床センサーの使用・身体拘束をせざる負えない状況がある。この身体拘束に関しては、転倒・転落予防の他に必要な処置を遂行する為であったり自傷行為の予防などの目的がある。患者の安全を守る為に行う行為ではあるが、拘束するという行為への看護師のジレンマも存在すると考える。どのような状況・時期において“倫理”を感じ、ジレンマとして生じるのか。そのような状況の場において、どのように対処しているのであろうか。急性期医療の場においては、ある程度の期間が過ぎれば患者の状況も安定され日々の“拘束の必要性”もなくなる。しかし、一般病棟における患者の状況はまた異なってくる。一般病棟においては、急性期の患者・慢性期の患者・終末期の患者が混在する。終末期の患者の不穏・せん妄の状況に対して、勿論患者の安全を守るためではあるが“拘束”をせざるをえない状況がある。本当に拘束することが正しいことなのか疑問に感じることが多々ある。これは、看護師と医師とではまた安全と倫理という面では捉え方の差があるのではないかと考える。医師も患者の安全といのちを守るために身体拘束は必要であると考えるが、看護師は実際に拘束をする立場であり患者の“声”を聴いている立場にあり患者の人間としての尊厳という点では医師よりも考え悩む比重が大きいと感じる。患者の実際の“声”はいろいろであるが、拘束をせずとも傍にいることで患者の不穏・せん妄状態が落ち着くことはある。しかし、一人の患者にどれだけの時間を費やしていけるのか、急性期医療を必要としている患者が存在する病棟の中で、終末期の患者の精神的看護はあとまわしになる。傍にいたくてもいれない状況の中で、不穏患者に対してやむをえず拘束をせざるをえない状況があるのが現状である。拘束の方法も、患者のその時の状況を看護師が判断し寝衣のみの拘束であったり手袋(ミトン)をせざるをえない状況もある。  
     急性期医療と終末期医療が混在する病棟の中で、身体拘束をどう捉えていくか患者の人間としての尊厳を守り安全を守るということはどういうことなのかということを、常にチームの中で検討していき患者個々に合わせた細やかな配慮をしていく必要がある。
  • 重田 富美子, 若月 健一, 花岡 奈保美, 由井 亜也子, 清水 るり子
    セッションID: workshop1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     当老人保健施設は1987(昭和62)年に開設して以来、「老人保健施設とは、お年寄り自身が自ら変わる“場”、ケアサービスはその“場づくり“」として、「地域に根ざした高齢者ケア施設として、たとえ寝たきりや認知症でも、明るく、精神的に逞しく、前向きなお年寄りになっていただけるようなケアサービスを目指す」ことを基本理念に取り組んできた。
     そのケア方針のひとつとして、「身体拘束をしない」ことを原則としてきた。この身体拘束の素朴な概念は、1.抑制帯・介護服(つなぎ服)等を使用しない、2.強い言葉で行為・行動を制止しない、3.薬物による抑制はできるだけ避ける ことが基本的な考え方であった。当施設はこの方針を実施するために、職員数を基準以上に配置し、利用者とのコミュニケーションを重視しながら、利用者の要望を可能な限り受容するケアサービスに努めてきた。
     ところが、'89年に入所定員を30人から94人に増床した。また'93年頃になると、認知症が全利用者の85-90%を占める一方、重度の運動機能障害や経管栄養などケア負担の重い利用者が漸増してきた。この利用者の急増と心身状態像の変化から、ケア現場では利用者の「安全と身体保護」を目的に抑制を余儀なくされた。
     その抑制行為を具体的にみると、認知症で離設の可能性がある利用者には離設防止センサー(トレースコール)の装着、車椅子やベッドからの転落が予測される利用者にはY字型拘束帯や4本柵の使用、また経管栄養の利用者には注入中にゾンデの自己抜去を防止するために一時的な抑制、おむつはずしや皮膚のかきむしりがある利用者には介護服やミトン型手袋などを使用したこともあった。
     2001(平成11)年、厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」が「身体拘束ゼロへの手引き _から_高齢者ケアに関わるすべての人に_から_」で示唆した内容は、身体拘束の概念と倫理からその行為の解釈も大幅に拡大され、我々高齢者ケアに携わる者に大きな意識の転換が求められた。
     当施設が従来から行っていた抑制は、「当該利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」に該当し、「切迫性」「非代替性」「一時性」を尊重してきたと考えていたものの、この手引きにより利用者主体と尊厳あるケアサービスの倫理観についての意識改革が迫られた。介護保険制度施行に基づき、全国老人保健施設協会は身体拘束ゼロ作戦の啓発事業に力を注いできたが、当施設はその方針に添って改めて身体拘束ゼロを実践してきた。
     今発表は、介護保険施行後、人権・自己決定が尊重されノーマライゼーションを追求していくために、リスクある高齢者に対しても身体拘束の廃止を目指して、全職員が検討し工夫してきたケアサービスの実際をありのままに報告したい。
  • 吉川 京子, 小橋 かおる
    セッションID: workshop1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     長野松代総合病院北3階病棟では、治療及び看護上、身体の抑制が実施されることがある。常に、その必要性や適切性を検討した上で実施することを目的として、2003年に独自の抑制判断基準を作成した。統一した基準の使用を開始し、1年が経過した時点で抑制判断基準の再検討を行ったので報告する。
    〈対象〉 2003年12月1日から2004年2月29日までの入院患者160名中、抑制判断基準を用い評価した抑制実施群26例、及び明らかに抑制不要とし、評価しなかった抑制非実施群134例と抑制判断基準を用いた病棟スタッフ20名から聞き取り調査を行った。
    〈方法〉 看護記録をもとに、両群の危険行動とスコア別危険行動について調査した。研究趣旨を説明し同意を得た病棟スタッフ20名から抑制判断基準を使用しての意見を聞き分析した。なお、抑制判断基準5点以上で「抑制開始」とした。
    〈結果〉 実施群の危険行動は、点滴自己抜去、落ち着きがない、転倒・転落などであった。非実施群では、落ち着きがない、点滴速度を変える、酸素マスクを外すなどであった。危険行動をスコア別でみると、両群ともに6点以上で多くみられた。又、病棟スタッフからの意見では、全員が統一した評価が出来るようになったとの意見が聞かれた。一方、点数の付け方が分かりにくい、合計スコアだけの記載では第三者が評価しにくい、更に鎮静中の抑制についてはどう考えるべきか、はっきりしないなどの意見を認めた。
    〈考察〉 抑制判断基準に照らし合わせ再評価した結果より、実施群26例中14例に点滴自己抜去が見られ、スコア別の危険行動も、点滴自己抜去が最も頻度が高かった。これは、効果的な抑制がなされていなかったと考えられるため、抑制方法及び抑制具の検討が必要である。非実施群134例中8例に危険行動が見られたことは、改良前の抑制判断基準では、一日一回の評価であったため、経時的な観察及び評価が不足していたものと考えられた。今回の研究で我々は抑制の有無に関わらず、予測し得ない危険行動をとる可能性があることを常に認識し、細やかな観察と、経時的な評価をする必要性があると感じた。そこで、新たに作成した抑制判断基準は各勤務帯に於いて患者の状態が評価でき、一日一回医師も含めた評価ができるようにした。また、鎮静中の抑制に対しては、鎮静効果が薄れていく段階に於いて危険行動が見られるため、「鎮静中である」という項目を追加した。急性期病棟において抑制という行為は、今後も検討していかなければならない課題であり、抑制判断基準も定期的に見直していく必要がある。今後は危険行動に対する事例分析を行ない、その患者の何が危険因子となっているかを検討し、安全に治療が継続できるよう看護介入を行なうことが重要であると思われた。
  • 服部 千鶴
    セッションID: workshop1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     抑制は、患者の安全を確保するために必要な場面がある一方で、患者の人権やQOL等に制約を加えるという弊害を有するため、具体的症例について抑制の実施や解除を決定することは、困難な問題であることが少なくないと思われる。
     抑制をせずに転倒・転落等の事故が発生した場合、医療事故として損害賠償請求を受けるおそれはある。逆に、抑制したことによる合併症の発生、もしくは抑制の方法の不適切を原因とする障害の発生により、損害賠償請求を受けるおそれもある。
     前者については、抑制の適応の有無、当該患者に転倒・転落等の事故が発生すると具体的に予測できたか、転倒・転落等の事故防止にむけて適切な対策が取られていたか、などが法的に問題となる。この場面においては、抑制は転倒・転落等の事故防止のために取るべき対策の一つとして位置づけられることから、単に抑制の適応の有無のみならず、当該患者の事故防止対策全体が検討されることとなる。
     後者については、抑制の方法の適切性に加えて、抑制の適応の有無も問題となる。
     両者に共通する法的な問題として、家族等に対する抑制に関する事前の説明、事故発生後の対処の適切性が挙げられる。
     また、訴訟でこれらの法的問題が検討される場合には、抑制の利点と弊害が考慮される。
     ワークショップでは、これらの点につき具体的に紹介する予定である。
ワークショップ2
  • 森田 眞知子, 森川 友子
    セッションID: workshop2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     国民の医療への関心が高まるなか、日本の医療を取り巻く状況は日々厳しいものになっている。経営上の限られた資源をいかに適切に配分し、感染対策の効果をいかに上げるかは病院にとって重要な課題である。病院感染の発生は患者転帰の悪化、在院日数の延長に加えて、本来なら不要な医療費も発生させる。
     特にDPC(診断群分類別包括評価支払制度)に基づく診療報酬体系では、病院感染に関連する検査や投薬にかかる医療費の大部分は包括部分に含まれるため、病院にとって大きなマイナス要因になる。その反面、DPCでは病院感染による経済的な影響の算出が容易になり、医療機関における感染対策の推進にとってはプラスの要因になるともいえる。
     また、感染予防策として安全器材等を導入することは、病院の経費削減と収益の維持という経営面を考えた時、直ちに採用することが困難な場合もあるが、必要な対策は病院経営に一時的に負担になっても実施すべきであろう。なぜなら、導入によるその後の様々な効果を考えた時、最終的には病院の経費削減になると思われることと、一方で、必要な対策を怠ったために、医療事故にまでつながってしまった場合は、さらに不幸な状況になるからである。
     このように私達は「医療の質、職員の安全確保、倫理的問題等」と「病院経営」の二面性を併せ持つ感染対策に試行錯誤しながら取り組んでいる。昨今多くの病院でICTなどの組織化が進み、これまで慣習的に行われてきた感染対策の見直しが浸透しつつある。経済的・定量的な算定が難しかった感染対策の効果についても、数々の検証がなされており、実際に経費の節約につながったという報告も多い。
     以上のような背景を踏まえて、今回のワークショップでは、5人の方々に発言していただく。
     感染管理の実践者として、兵道美由紀氏には、MRSA感染に対する隔離対策の見直しから得られた経済効果について、石野弘子氏には、感染対策が全国レベルで統一できないかという見解について、また松井泰子氏には、EBMに基づいた感染対策と、サーベイランスの実施から得られた成果についてお話していただく。
     江幡恵子氏には、管理職の立場からICNの活動の支援について、田仲曜氏には、医師の立場から衛生材料・医療材料の見直しによる感染対策と経済効果についてお話していただく。
     会場の皆様にも討議に加わっていただき、活発なワークショップが行われることを願っている。
  • 兵道 美由紀
    セッションID: workshop2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     院内感染や医療事故への患者の関心は高く、現場における安全確保は質の保証とともに、満足のいく医療を提供する上での絶対条件となっている。
     感染対策を行なうには、人・もの・時間やその他の費用がかかり、効率的な資源配分を達成しなければ、現状の厳しい医療情勢下での実現は難しい。
     しかし,過剰な感染防止によるコスト削減額が、新規対策への投資を上回る場合においては、患者側、医療提供者側、支払者側の立場を同時に満足させる関係を生み出す。
     当院の感染対策への取り組みは、1993年に委員会を設置・感染マニュアルに沿った運用を行ってきが、院内には必要性の不明瞭な感染対策を数多く採用している現状がある。そこで病院移転を機に2002年よりICTを自主的に立ち上げ、院内感染対策の活動拠点とした。ICT活動は、科学的根拠に基づいた対策を提言し、非合理的な対策の廃止と、合理性のある対策導入を可能にする努力をおしまないことは周知の事実であり、院内にアピールする戦略となる。
     院内で発生する感染の多くは接触感染対策によってコントロールできるといっても過言ではない。接触感染の代表ともいえるMRSA感染は医療者のみならず、患者もことのほか神経質になっている。
     今回、当院が取り組んだ接触感染対策の実践として、MRSA感染症患者、保菌患者に対する必要以上の隔離対策の見直しをおこなった経過について、対費用効果を含めて報告する。以前の対策の考え方はMRSAが検出された時点で全てを隔離扱いにしていた。このためMRSA新規発生に伴うコストは個室代免除・資材費を含め1日約5千円の費用発生があった。平均在院日数(15日)で対患者にかかる費用は7万5千円となる。
     新規対策の導入では、ハイリスク患者の入院時スクリーニング検査を実施し、入院時持込患者と院内接触感染による発生患者の区別化、検出部位および病状別に隔離の必要性を検討することで、必要以上の隔離患者を減少できるようICT介入を実施した。また対策の充実としてガウン・マスクのディスポ化と徹底した手洗い・手袋の着用を啓蒙するとこでのコストは資材費のみで1日約2千円費用発生となり、平均在院日数(15日)で対患者にかかる費用は3万円となるため1患者あたり半分以下のコストとなった。
     徹底した標準予防策とする手洗いの励行によりMRSA患者数も減少すると、よりコスト削減効果は高くなると考えられる。しかし経済評価という行為は簡単にできることではなく、どの基準軸をもとに計算すべきか模索状態である。
     未来永劫的な感染対策はなく、豊富な情報を的確に判断・吟味し、経済評価を伴うその施設にあった感染対策を実施しなければならなく、また一人でも感染対策を怠ってしまうと、さらなる院内感染アウトブレイクに発展する危険性を含んでいる。
     このためにも、接触感染対策のサーベイランスとして、耐性菌検出状況・新規発生MRSAの院内発生と持込(市中感染)の区別化・速乾性手指消毒剤使用量のデータをエビデンス提供し、協力者を院内に増やすことであると思う。感染対策は1人ではできない、チーム(ICT)を介して院内全体で取り組むことが重要である。
  • 石野 弘子
    セッションID: workshop2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     一般的に経済性は比較する対象がないと語れないが、今回「経済性を前提とした感染対策の工夫」という演題をいただき、メインテーマの「岐路に立つ地域医療?新たなる展開をめざして」の視点から、地域(どこまでが地域かという疑問は残るが)医療に関してなんらかの新たな工夫がないか考えてみたい。 
     まず明らかなのは、感染対策が不十分で医療事故を起こした場合、計り知れない損失が病院と個人に発生することである。このため日頃から十分な感染対策をしなければいけないということについては、異論のないところであると思う。しかし、その万一起こしてしまった医療事故にかかわる経費について、賠償金や訴訟費用、これに携わる職員その他の人件費などを試算して、この金額より少なければ経済性が高いことになるのだろうか。 
     医療事故は毎年あるいは二、三年に一度発生することを前提とするのだろうか。又は、現在各施設で実施している、感染対策に係る費用を前提として、その経費より安価であれば経済性が高くなるのだろうか。この考えも、日頃から熱心に感染対策に取り組んでいる施設ではもともとの経費が高いため、なんらかの工夫で経費が下がれば高い経済性を示すようになる。しかし、日頃から下限すれすれの感染対策を実施している施設(たぶん全国で皆無だと信じているが)では経費が増大してしまうから、経済性が低いと判断できるのだろうか。疑問が残るところである。 
     感染対策はガイドラインに沿って各施設がマニュアルを制定している。手技レベルだけでなく、実際の実施レベルまで全国で統一できないだろうか。このことは各施設の独自性や特殊性から反論の来るところでもあると思われるが、それはスタンダード規格の上乗せ基準と考えて見てはどうであろうか。 
     例えば中心静脈カテーテルの挿入時にマキシマルバリアプリコーションが推奨されていることは周知の事実であるが、日本全国公立民間を問わず全ての病院で挿入時に使用される消耗品のキット化を、それぞれに専門的知識を持ったメーカーと医療側が協働することにより統一し、共同購入することができたとしたらそれこそ経済効果は計り知れないものがある。関係する物品、消耗品等のランニングコストは一度に大量の発注を行えることで、現状より安価になることが考えられ、業者の管理も容易となるため、必要なとき必要なだけ随時発注できると考えられる。なお、製品については同一規格であれば各病院の好みにより選択できるようにしておくようにすることにより、メーカー間の競争原理も働くと考えられる。どこの施設でも同規格の物を使用し手技が同じであれば、新任の医師も看護師も戸惑いは少なくなるであろう。実施している感染対策に不都合があれば情報を共有し、同様のトラブルを未然に防ぐことも可能となる。 
     感染対策が具体的に全国レベルで統一されるとなれば、教育は浸透し、情報が共有され、職員の意識も変革し、最大の経済効果である患者の安全が高まるといえないだろうか。
  • 松井 泰子, 矢野 邦夫, 堀内 智子, 名倉 美恵子, 松本 里佳, 柴田 佳子
    セッションID: workshop2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     当院では平成5年に感染対策を専門とする衛生管理室を設置した。当院の感染対策の戦略は、根拠が乏しいと考えられる対策を中止して、そこで得られたコストを根拠のある感染対策に割り当てることである。
     設置当初は感染対策の根拠も確立されておらず、スリッパの履き替え、環境消毒、環境調査などに多くの時間と労力を費やしていた。また、新規の感染対策はコスト増加の心配があり導入も進まなかった。しかし、EBM(Evidence Based Medicine)を導入することで、経験的、習慣的な対策を中止するなど、感染対策は一変した。そして、無駄な対策を中止することで得られた費用を必要な対策に用いる「費用の再配分」が可能となった。しかし、一言で無駄な対策といっても、今まで永年正しいと信じておこなってきた対策を中止することは、病院感染を増加させてしまうという危惧がつきまとう。その不安を克服する有効な手段がEBMである。質の高い数多くのエビデンスが「その対策は不要である。」と言えば、自信を持って対策を変更することができる。当院の感染対策の根拠はCDCガイドラインである。CDCは数多くのガイドラインや勧告を世界に向けて発信しており、その内容は科学的、かつ、実際的であり臨床現場で活用しやすくできている。そしてもう一つ重要なことは、病院感染症サーベイランスを実践することである。サーベイランスを実践することで取り組むべき感染対策の必要性が明確になり、かつ、導入した感染対策の評価が可能になる。そして、サーベイランス結果を現場にフィードバックすることで、導入前後の様々な障壁を打破するために強力な説得材料になる。当院では平成6年からサーベイランスを継続しており、感染率の推移を把握し、感染対策の評価を行っている。
     今回、平成5年から17年までに当院に導入した主な感染対策とそれにかかるコストを述べる。粘着マットの廃止、完全閉鎖式導尿システムの導入、安全装置付き器材の導入、N95マスクの導入、輸液セットの三方活栓廃止と閉鎖式システムの導入、ガーゼカストとセッシ立ての廃止、万能つぼの廃止、手術室のスリッパ廃止、呼吸器回路の定期的交換の廃止、手術前の手指消毒用滅菌水を水道水に切り替えなどである。これらはCDCのガイドラインに基づいて導入したが、その背景にある根拠を十分に理解した上で慎重におこなった。また、サーベイランスで感染率の上昇は認めなかった。かかるコストについては、会計課用度係が計算した。感染対策を導入したその年から平成18年まで継続して行なっていた場合のコストの累積を算出した。その結果、約1億円以上の莫大なコストが削減されたことがわかった。ここで明らかになったことは、今までの経験的な感染対策には多額なコストがかかっており、一方コストが嵩むとばかり思っていた新たな感染対策が、コスト削減であったことである。
     これからの感染対策は根拠に基づいた対策とサーベイランスの実施、そして病院経営を十分考慮し、「費用対効果」を視野に入れた感染対策が重要である。
  • 看護管理者の立場から
    江幡 恵子, 湯原 里美
    セッションID: workshop2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     土浦協同病院の感染管理に関する組織は、全職種で構成される感染症委員会とその下部組織である感染管理チーム(Infection Control Team 以下ICT)から構成され、専門性の高い感染管理活動を行っている。
     ICTメンバーは感染管理医師(委員長 Infection Control Doctor ICD)、感染管理看護師(副委員長 Infection Control Nurse 以下ICN)をはじめ、合計18名で構成されている。さらに各部署に1名リンクナースを置き、ICTと連携し臨床現場に対応じたきめ細かい感染管理活動を行っている。ICTの活動は感染管理組織の再構築、月2回のミーティング、週1回の院内巡視、コンサルテーションおよび解決に向けての支援、院内感染サーベイランス、感染防止技術実践の推進、感染対策マニュアルの整備、感染防止教育、職業感染防止対策、ファシリティマネジメント、アウトブレイク発生時の速やかな対応、データ管理、広報活動、インフェクション コントロールウィークの開催などを行い、感染管理に関する権限・決定権を持つ。
     当院のICNは感染管理認定看護師の資格を持ち、感染管理室に専任として配置、感染管理の専門家としてICT活動の中心的役割を担っている。リアルタイムかつ組織横断的な活動、報告体制の確立、情報収集・発信地として活動するため院内の感染症に関する窓口を感染管理室に一本化した。平成18年4月現在、感染管理認定看護師は全国で247名、茨城県においては3名であり、23%が専任、23%が兼任、54%がスタッフとして従事しているという報告があり、専任化への課題は多いものと思われる。
     ICNが組織横断的に活動する上で他部門や他職種との協働が求められ、特に感染管理活動には費用が発生することや、直接患者の診療に責任を持つ医師の理解と協力が不可欠であり、これらに障害が生じたとき、折衝や交渉の過程でチームや委員会活動をバックアップすることは組織運営する管理者の役割でもある。
     看護管理者としてはICNのモチベーションの向上により実力を発揮し生き生きと働ける環境を整えることが目標であり、そのことによって組織全体の安全管理意識の高揚や職員の知識・技術の向上、職務満足に繋がるものと考える。
     医療経済の立場からは費用対効果を視野に入れた検討を行い、不必要な対策の排除や現状を考慮した器材の導入が必要である。しかし安全確保による顧客満足度の向上と医療の質は比例するものであり、感染管理を実践するうえで投資もまた必要である。昨今感染管理に興味を持ち各種感染管理研修会を受講する者や認定看護師を目指す者が続いてきたことはうれしいかぎりであり、これらの経費は質の高い人材を確保し安全を保証する上で必要な投資である。
     目先にとらわれず、患者そして組織全体の利益を目指し質の高い感染管理体制の構築を目指していきたいと考える。
  • 田仲 曜
    セッションID: workshop2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     病院感染対策を行うにあたり,病院経済(コスト)を考える事は非常に重要である。病院感染対策には,お金がかかることもあるが,直接大きな節約が出来る事も多くある。術後創感染予防対策として包交物品の見直しを行い,ガーゼを不織布で1回分を企業で個別包装したものを使用する。処置用の鑷子は1本ずつ個別包装にする。カップ入り綿球は1回分の3-4個のものを採用する。こうする事でガーゼの使用量購入金額ともに大きな節約になるだけでなく,中央材料室の負担が減る。処置用の鑷子は79%減少し,カップ入り綿球により消毒薬は19-27%減少した。ガーゼの購入費は2400万円/年節約される。これらに伴い光熱費・水道代・人件費なども節約される。さらにはガラス製品の滅菌を極力減らし,縫合針など滅菌済みのものを購入,鋼製器械セットの見直しを行うことで,一次洗浄・一次消毒の廃止を実施していく。これにより一次消毒に使用されている高水準消毒薬の購入費が節約される。
     血流感染防止には,まず単包の滅菌アルコール不織布を導入した.これにより1200万円/年の削減となる。アルコール綿の単包化前後で比較すると,中心静脈カテーテルの培養,血液培養ともにMRSAの検出件数が半減した。現在closed & no-dead-space typeの活栓を用いた輸液ルートを導入は,作業性の向上,可塑剤問題,インシデント・アクシデント対策を含めた輸液ルートのあり方を検討し,開発したものが現在病院内で徐々に使用されている。段階的に病院全体がこの輸液システムに移行する。三方活栓のフタ代,フィルターなどの削減により経費削減と作業性の効率化が可能になると思われる。
     このようなコンセプトで輸液ルートを設計し,2005年10月から病院全体の輸液システム作りを行った。
     衛生材料・医療材料から変えていくことで,病院感染対策とコスト削減が両立される。
金井賞受賞講演
アジア農村医学会学会長挨拶
  • Rajendra Vikhe Patil, Ashok Vikhe Patil
    p. 395
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    India has more than one billion population; however the rate of people who live in urban area are still only 3%. As many as 97% of India’s population is the subject of rural health. According to the census in 2003, life expectancy rate at birth in India was 63.3 years, and adult literacy rate was 61%. This is the result from the situation in India has been remarkably improved during these 20-30 years. People in India had been struggling with poverty, illiteracy and inertia. In 1972, Dr. Vithalrao Vikhe Patil worried about such a situation and founded the Pravara Medical Trust with the objectives, to provide health care to the people in rural areas, to train medical and paramedical manpower in formal education, to demystify medicine through training community groups to cope with their health problems, and to conduct research leading to improving “quality of life” of the people. Pravara Medical Trust has been devoting to develop rural health in India.The 11th Asian Congress of Rural Health will be held in Aurangabad, located in the middle of India in December 2008. Aurangabad is one of the best ancient and historical city. It is also the place of interest for tourists. There are famous caves, forts and palaces such as Ajanta Caves, Ellora Caves, Daulatabad Fort, Bibi-ka-Maqbara, Baradari and so on. December is the most comfortable season in India, so the congress is planed in this month. We look forward to having a lot of people visit such a wonderful historical city in 2008.
一般演題
  • 倉持  龍彦, 中澤 寿人, 高久 雅孝, 高野 真史, 久松 学, 関 貴弘, 堀井 京子, 寺田 紀子, 上野 信一
    セッションID: 1C01
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <背景>当院過去2年間で毎月約24件ほどの転倒転落事故が報告されている。特にベッドからの転落事故は致命傷になることも少なくない。これらの背景も踏まえ、現在クリップ式のスイッチや画像処理センサなどの転落防止手段が数多く開発され市販されているが、安全性の問題、患者拘束やプライバシー問題もあり普及までには至っていない。生活の監視を極力さけることができ、安全性の高い特徴を有した転落防止センサを試作した。
    <方法>
    1. センサを採用する上で次の二点を要点とした。まず、患者に非接触であること。このことは、拘束感軽減はさることながら電気的接触を避けることで安全性が高いことを意味する。次に安価であること。単純な動作でシステムが簡単であることは、信頼性向上だけでなくランニングコストなど長期的に見ても経済性が良いことを意味する。以上の点から、赤外線(IR)センサを採用した。
    2. 転落防止処理ができるかの確認をする。本来ベッド両側の処理で一つの装置であるが、試作であるため片側のみとした。なお、患者が「起き上がり」、「ベッド端への移行」する二つの動作が重なった場合を「転落危険状態」と仮定した。
    <使用器具>イーケイジャパン社製、赤外線式遮光センサユニット「PU-2205R」を2個使用した。
    <原理>IR受信中はセンサのリレーが開放状態、障害物が受信妨害した場合リレーは通電状態となる「PU-2205R」2個を、直列接続(論理積動作)にすることで、2つのセンサを同時に遮ったときナースコール信号が通電状態になる。
    <設置方法>ベッド頭側中央部と端に受光部を配置し、ベッド足側端に発光部に配置する。ベッド頭側中央部の受光部は「起き上がり」を検知し、ベッド端の受光部が「ベッド端への移行」を検知する。これら二つの動作が重なった時、原理に従いナースコールが鳴動する。
    <まとめ>赤外線遮光センサは安価で安全なセンサであり、通過する人体の感知センサとしては有用であった。転落危険状態にナースコールも鳴動し、大きな誤作動も無く動作確認ができた。
     今後の課題として次の5点を挙げた。
    1. 転落パターンの分析。
     今後、院内調査を行い様々な転落パターンのデータを分析する。センサ位置の変更も含め検討していきたい。
    2. 遮断時間の設定。
     任意の遮断時間によって出力を選択できれば、更なる誤作動の防止に繋がる。
    3. 出力の応用。
     ナースコール端子の応用が可能であれば頭上センサの出力で「起き上がり」も報知できる。
    4. 電源スイッチの検討。
     例えば、光導電セルを電源に使えば夜間のみ作動し、回診時はライトがつくので休止される。赤外線人体感知センサを使えば近くに人が接近した時のみ休止できる。
    5. センサの設置。
     小型であるため将来的にベッド柵内蔵も可能になる。
    <結論>転落防止センサとしてIRセンサの有用性はあると考えられたが、転落パターンの検討や出力処理などは今後の課題とされた。
  • 写真付きシートの有用性
    宮地 恵美, 中内 涼子, 鈴木 弘美, 高橋 佐智子, 宮島 雄二
    セッションID: 1C02
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>病院における小児の事故としてはベッドからの転落が圧倒的に多く、転落防止指導は非常に重要である。当病棟では、小児病棟の安全管理として、成人用ベッドとは異なる、四方に柵のついたサークルベッド(以下、高サークルベッドとする)を使用し転落防止に努めている。入院時のオリエンテーションでは、付き添い者に口頭で指導を行い、転落注意の警告文を表示したり呼びかけているが、転落は絶えず発生している状況である。今まで以上に具体的な対策を立案し、実施する必要性を感じた。
    <目的>転落防止対策としての写真付きシートを作成し、それを用いて付き添い者への指導を行うことで、付き添い者の意識向上を図り、転落件数を減らす。
    <方法>高サークルベッドの使用が必要な、付き添い者のいる0-4歳の入院患児を対象に、従来の指導方法:A群と、写真付きシートを使用した指導方法:B群での転落件数の比較検討と、アンケートによる付き添い者の意識調査を行った。写真付きシートは、乳児の人形を用いて、ベッド柵を正しく使用しないことで今にも転落しそうになっている状況や実際に転落してしまった場面の写真を載せた。入院時に持参して説明後、ベッド柵にかけ、退院時に回収した。付き添い者へのアンケートは、自由意志でありプライバシーは守られる事、同意を頂けなかった場合でも治療に影響しない事を記載し、倫理的配慮に努めた。各120例ずつ回収した。
    <結果>転落件数は、A群延入院患者数3003人中9件(1件/334人)から、B群延入院患者数2968人中2件(1件/1484人)と有意に減少した。意識調査に関する質問内容については、「入院中注意してベッド柵を一番上まで上げていましたか」に対して、A群:できた39例(33%)・中段までしか上げていなかった21例(18%)・できなかった60例(49%)、B群:できた41例(34%)・中段までしか上げていなかった27例(23%)・できなかった52例(43%)で、有意差は認めなかった。「入院中、何を見て(聞いて)ベッド柵を一番上まで上げておこうと思いましたか(複数回答可)」については、A群:看護師の説明41%・柵についている警告文33%・掲示板に貼ってある警告文11%・看護師の声かけ8%、B群:看護師の説明31%・写真付きシート24%・柵についている警告文23%・掲示板に貼ってある警告文7%・看護師の声かけ9%であった。
    <考察>写真付きシートを用いた転落防止指導で、小児の転落事故が有意に減少した。付き添い者が、実際に転落する場面の写真を見ることで、視覚的に危険性をイメージすることができたと考える。また、入院中常にベッド柵に写真付きシートを掲げ、付き添い者の目に留まるようにしたことで、転落防止について常に意識を持つことができ、付き添い者が代わった場合も転落防止の意識付けになったと考える。意識調査から「柵についている警告文」「看護師の説明」も有効であることが伺え、視覚的な指導方法と組み合わせ、看護師が声かけを繰り返すことも事故防止に有効であった。今後の課題として、今回の取り組みのような視覚的に効果のある説明や指導を十分に行っていくと同時に、小児病棟の入院患児の幅広い年齢層に対応できるような具体的な指導を考えていきたい。
  • 近藤 澄子, 神谷 千代, 宮木 晴美, 鳥山 夕子, 三村 恵美, 土田 文子
    セッションID: 1C03
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉 現代社会は高齢社会であり、当病院も老年者の入院患者が増加している。入院患者は様々な機能障害と老化による骨や筋肉の萎縮などの特質を持っている。入院中の医療事故の中で転倒・転落事故の割合は高く、事故が疾患の回復の遅れやADLの低下を招き、患者の退院の延期にも結びつく。そのため看護者は入院患者の転倒・転落予防のためのリスクマネージメントを行い、有効な対策を考える必要がある。当院でも入院患者の転倒・転落を大きな問題と捉え、その対策として平成18年1月から離床センサーマット(以後センサーマットとする)を導入した。その結果、転倒・転落者数の減少につながったのでその有効性について報告する。
    〈調査方法〉
     調査期間:センサーマット使用前後
     使用前 平成17年8月1日から10月31日
     使用後 平成18年1月1日から3月31日(平成17年11月から12月まではセンサーマットのデモを使用していたため調査から除外した)
     調査内容:センサーマット使用前・後各3ヶ月間の転倒・転落者数の比較を行いセンサーマットの有効性について調査した。
    〈結果と考察〉 平成17年8月1日から10月31日までの3ヶ月間の平均入院者数は188.3名で転倒・転落者数は33名で転倒率は17.5%であった。当院でも転倒者の中には大腿骨頚部骨折や上腕骨骨折者も見られた。その対策としてセンサーマットを購入することとし、転倒・転落予防に取り組んだ。平成17年11・12月にセンサーマットのデモを使用し、ある程度効果があったので平成18年1月からセンサーマットを徐々に増加購入した。しかし担送・護送者は79%あり、ほとんどの患者にセンサーマットが必要となる。平成18年2月時点のアセスメントスコアを分析すると、入院患者総数193名中危険度III以上の患者は44名で、転倒・転落者数は3名であった。また認識力・運動機能障害・感覚機能障害からみると8点中7点以上の患者が49名あった。本来該当患者全てにセンサーマットを使用すべきだが、マンパワー対策可能な枚数を考慮に入れ、センサーマット購入枚数を20枚とし、センサーマット使用対象基準を認識力・運動機能障害ともある患者には原則的に、運動障害のある患者には優先的に使用することとした。センサーマット使用後は1月の平均入院患者数190.6名に対し転倒・転落者数は8名、2月は203.7名中3名、3月は198.5名中8名と減少した。センサーマット使用後の3ヶ月間の平均患者数は197.6名で転倒・転落者は19名で転倒・転落率は9.6%で、使用前に比べて7.9%減少した。センサーマット使用患者にも転倒者は4名あったが、センサーが鳴ると同時に訪室することで早期発見することができたため、大きなリスクに至らなかった。また患者一覧表にマット使用者を明示することにより訪室回数も増え、より転倒予防につながった。
    〈終わりに〉 今回の調査でセンサーマット使用前後の転倒・転落者数を比較することで、センサーマットの有効性が確かめられた。しかしセンサーマットを使用して3ヶ月しか経過していないため、マット使用による患者の負担や最適なセンサーマットの種類などを調査しておらず、今後さらに検討を加え転倒・転落の可能性のある患者のアセスメントを行い、安全に入院生活を送れるよう事故防止に取り組んでいきたい。
  • 加藤 和子, 大谷 優子
    セッションID: 1C04
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> 当病棟におけるH16年6月-17年3月までの転倒・転落アセスメントスケールによる危険度2は1日当たり平均8.1件、危険度3は、19.9件見られ、危険度の占める割合は56.7%を示した。この期間の転倒・転落は47件であった。スタッフがそれぞれ注意し行動していても転倒・転落事故の減少には至っていなかった。そこで、転倒・転落の事例を3つの要因で分析、アセスメントし改善策を検討、有効な対策が実践できること、また、スタッフのアセスメント能力を高めることを目的に取り組んだので報告する。
    <病棟紹介> 脳神経外科・内分泌代謝内科
    病床数:54床
    (脳神経外科28床・内分泌代謝内科26床)
    病床稼働率: 99.1% (H.18.3月現在)
    看護度: 3.5点 
    看護スタッフ数:26名 
    看護方式:固定チームナーシング 
    勤務体制:均等割3交替 
    <方法>期間:H17年4月-12月 
    H17年度事故対策委員及び小チームの協力を得て施行。実際の事例を患者側の要因・スタッフ側の要因・環境要因に分け全員で分析、それぞれの要因に対する対策を検討し実践。その後、各チームで事例検討を繰り返し、12月にアンケート調査を行った。
    <結果> 期間中の転倒・転落アセスメントスケールによる危険度2は1日当たり平均9.8件、危険度3は19.6件見られ、危険度の占める割合は61.6%を示した。この期間の転倒・転落は51件であった。転倒6事例に対し転倒事故直後事例検討を行うことができた。3つの要因から事例を分析、対策を検討し実践、評価を行った。アンケート結果より要因分析の取り組みについて全員が有効との回答が得られた。中でも一番効果が見られたのは、看護計画への危険度2・3の明示と転倒・転落の既往の入力であった。このことにより、患者把握ができ転倒・転落への認識を深めることができた。2つめの効果として、安全確保に必要な物品の購入や環境整備などスタッフが関心をより深め環境因子対策を立てることができた。3つめの効果としては、アセスメント能力の向上である。以前は担当看護師がリスクレポートとして一人で事例をアセスメントし対策を検討していた。しかし、全員で事例を振り返る事によりお互いのアセスメント不足を補い学習の機会となった。そして、事例を検討していく中で全員の意識が向上し行動変容につながることができた。
    これらの結果より、要因分析を取り入れた事例の検討は有効であったといえる。
    <今後の展望>入院大半が脳血管疾患の回復過程にあり、患者の身体的状況とは相反しての行動が生じてしまい転倒・転落には限度があると考えられる。そんな中、患者・家族と情報を共有し一緒に話し合っていく必要性がある。また、患者・家族に不満・後悔が残らないように、納得のいく目標設定が必要である。したがって、日々の患者の状況・欲求を捉え達成可能なことから家族と共に見守りの中で支援していく。また、患者の動きを予測しチーム全体で転倒・転落防止に最大限努力していきたい。
  • 古田 邦彦, 竹中 利尾, 中前 健二, 近藤 裕香理, 山本 康数, 名倉 智美, 安藤 貴昭, 安藤 哲朗, 岡田 京子
    セッションID: 1C05
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>近年、リスクマネージメント制度の導入によりインシデント・アクシデントの報告が多々なされている。我々が関与すべき“ME機器使用時における報告”も決して少なくはない。しかし、現在のところすべてのインシデント・アクシデントに対しての原因究明は不可能と考えられる。今回、看護部より提出されたリスクレポートに基づき検証を行った結果、シリンジポンプ固定位置と患者との落差が主原因と考えられるインシデント事例を2例経験したので若干の考察を加え報告する。
    <事例>事例1:ICUにて多数のシリンジポンプを用いた際、ルートの整理を目的に昇圧剤を持続注入していたシリンジポンプを移動した。シリンジポンプの移動に伴い著しい血圧の変動(血圧上昇)を認めた事例。
     事例2:プレフィルドシリンジを使用中にエックステンションチューブ内にエアーの混入を認めた事例。
    <方法>事例1を正確に検証するため以下の操作を行った。シリンジとエックステンションチューブを繋ぎ、チューブとシリンジ内にエアーが無い事を確認。早送りにてプライミングを行い、流量1ml/hrで注入開始。注入開始後シリンジポンプの高さを移動させ、チューブ先端との落差を作りボーラス注入の有無を観察した。
     事例2を検証するため、初めにプレフィルドシリンジと各種注入ラインとの適合性の確認と評価を行った。その後、締め付け圧と落差(シリンジポンプと注入ライン先端)の影響によるエアー混入の有無を検討した。また、現場でのシリンジと注入ラインの締め付け具合を確認するため、看護師98名の協力を得て締め付け圧も測定した。
    <結果及び考察>事例1の検証では、落差の変化によるサイフォニング現象が観察された。このサイフォニング現象は、シリンジ内筒とスライダーとフックの隙間が原因であると考えられた。この現象により設定流量には関係なく高流量に薬液が流れてしまい、薬の作用が過剰に現れたものと考えられる。実験系ではあるが1-2mlのボーラス注入が観察された。
     事例2の場合は、接続部の締め付け圧と落差に大変影響されることが判明した。また、看護師による締め付け圧の実験では、“しっかりと接続をして下さい”と注意して行ったにも関わらず、適切な圧力で接続されていた物は全体の25%であった。残り75%の接続方法では、シリンジポンプと注入ライン先端とに落差が生じた場合、空気混入など何らかの影響がでると示唆され、これら情報を共有化し現場教育に役立てる必要性もあると考えられた。上記の事例の検証から、シリンジポンプを使用する上で注意しなければならない事としては、1)極力患者とシリンジポンプとの落差を少なくする、2)やむを得ず、シリンジポンプを移動させる場合は、急激な落差の変化を避ける3)ロック式シリンジを使用する際は、締め付け圧の適正化を図る、などがあげられる。
     ただし、集中治療部など多数のシリンジポンプ及び、輸液ポンプを使用する現場では、スペース的に制限がある。従って使用者が上記の特性をよく理解し注意して使用することが必要であり、これら特性を理解する事が医療事故の減少に繋がると考える。
  • 事故減少につながった要因と安全担当専従者の関わり
    加藤 久美子
    セッションID: 1C06
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>平成15年度から、チューブドレーンに関する事故防止対策を検討してきた。事故の大半は、自己抜去など患者要因が主であったが、接続はずれや接続間違いなど職員が要因となっているものがあり報告が続いていた。これらの事故を減らすための安全対策やシステム作りが必要であることから、安全担当専従者が中心となり、輸液ライン検討小委員会を設け、輸液ラインシステムと管理全般の見直しを行った結果、セーフテイレポートの減少が見られた。事故防止対策立案の経過をまとめ、事故減少の要因を分析したので報告する。
    <方法>調査期間:平成15年4月1日から平成18年3月31日。調査対象:平成15年度から17年度に提出されたチューブドレーンに関するセーフテイレポートと当事者。
    分析方法:1.チューブドレーンに関するセーフテイレポートの内容を分類する。2.セーフテイレポートから職員が要因となっている内容を読み取る。3.輸液ライン事故防止対策実施前後で内容を比較検討する。4.安全担当専従者の関わりを振り返る
    <輸液ライン事故防止対策の立案>輸液ライン検討小委員会は、医師・看護師・薬剤師・臨床工学技士・感染対策委員・事務職員・安全担当専従者からなる。事故防止対策は、医師や薬剤による取り決めの違いを最小限に集約し、物品在庫とコストの削減、安全性の確保を目的に検討し、輸液ラインアイテムを29種類から16種類に削減した。ラインを単純化・標準化し、病棟外来・医師や科による違いを無くした。輸液管理ガイドラインを作成し、輸液ラインに関する考え方を明記し、平成16年5月制定し、実施した。
    <結果>チューブドレーンに関するセーフテイレポートは15年度123件、16年度289件、17年度394件であった。発生内容別で接続間違い、接続外れなど職員が要因となっていたものは、15年度26件(19.5%)、16年度3件(1%)、17年度11件(2.8%)であった。職種別では、医師が1件で他は全て看護職であった。事故防止対策実施前では、医師や薬剤の違いによる取り決め事項が複雑で混乱する状況があり、確認不足・ルールの省略など習慣的な要因と思い込みや知識不足など複数の要因が重なり事故に繋がっていた。事故防止対策実施後では、作業方法やルールが統一され、業務の簡素化・標準化がはかられ事故は減少した。しかし、新人ではルールは知っているが根拠は理解できていず、中途採用者ではルールを知らない・前職場の経験で行っていた等があった。そのため、安全担当専従者が、事故防止対策の周知と教育を医師には集団で、看護職には個別に実施した。
    <考察>事故防止対策は、根拠を明確にし、病棟外来・医師や薬剤による違いを無くし、アイテム数の削減と作業の単純化・標準化を図る事が出来、単純で覚え易く正確な作業実施に繋がった。事故は個人ばかりでなく組織の中でおこるものとの認識から、ルールを根本から見直し、失敗そのものが出来ないシステムや誰でも共通理解できるルールを作った事が大きな成果を得た。しかし、新人は不確実な技術や知識不足があり、中途採用者は職場の受け入れ準備不足でルールなどの情報提供が不十分な状況であった。ルールを周知し安全を担保するため、安全担当専従者が定期的な集団指導と個人指導を繰り返し知識と技術の確認を行ったことは、時間の経過によるルールへの意識低下や職員の入れ替えによる周知不足を補う効果があった。
  • -ベットサイドで行える運動を行って-
    丹羽 あゆみ, 牧野 由梨, 野村 佳代子, 林 有紀, 佐藤 玲子, 寺倉 篤司, 岡村 秀人
    セッションID: 1C07
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉高齢者の転倒は骨粗鬆症などで骨が脆弱化しており骨折などの損傷を受けると、寝たきりの原因となることがある。そのため転倒予防の看護ケアは高齢者の自立を維持しQOLを低下させないために重要であり私たち看護師にとって大きな課題である。
    村上ら)は「転倒防止対策として、病棟内での下肢筋力・平衡機能の維持回復訓練の必要性が示唆される。」と報告している。このことより転倒の原因として下肢筋力の低下・体幹骨盤帯筋の低下・平衡機能の低下に問題があると考え、PTと連携してベッドサイドで行える転倒予防運(以下運動とする)を試みた結果をここに報告する。
    〈方法〉
    1)期間:2005年4月から12月
    2)対象:急性期からリハビリ期の患者10名(復命動作が不可能な患者は除く)
    3)方法(1)運動施行前のADLを機能的自立度評価表(以下FIMとする)を用いて評価。本研究では認知症を除く14項目・98点で評価。採点基準は医療法人和光会が研究報告したADL評価表(DABD)を参考にPTと連携し作成した。(2)運動の実施 本研究の運動内容は、石橋ら2)の推奨するものを参考に検討した。
    1)臥位での運動
     1.両膝を立て殿部を挙上。
     2.殿部を持ち上げ膝と腰を左右に動かす。
     3.片方の足を反対の膝にかけ臀部を挙上。
     4.臀部を持ち上げたまま足踏みをする。
     5.膝関節の等尺性筋力強化運動、これらは骨盤周囲の安定筋を効果的に収縮しながら立位時に必要と
      なる股関節のバランス感覚の向上となる。
    2)座位での運動
     1.両膝を交互に伸ばす。
     2.両手を胸の前で組み両膝を伸ばしバランスを保つ。
     3.足の下のボールを前後左右に動かす、これらは体幹部分の安定性と股・膝・足を連動して操作する能力と大腿・下腿の筋力トレーニングになる。
    3)立位での運動1.踵上げ2.太もも上げ3.椅子だち、これらは下腿三頭筋・大腿四等筋・大腰筋に効果
      があり日常生活の移動の安定性、不意な状況変化に対応する能力の向上となる。(3)運動実施後3週間のADLをFIMにて評価する。
    〈結果〉今回FIMの得点を大項目得点に分類し運動介入の効果を判定する方法として、t検定を用い前後の得点を比較検討した。セルフケア17.0±4.67から28.7±6.43(p<0.01)排泄3.5±1.96から8.5±3.50(p<0.01)移乗3.4±2.50から9.7±2.98(p<0.01)移動4.7±1.06から11.1±3.45(p<0.01)4項目合計は28.5±9.80から57.4±15.65(p<0.01)。
     運動施行にて端座位や立位保持が可能となり車椅子・トイレへの移乗動作に結びついた。移乗動作が可能になることで移動・セルフケアに対し意欲を引き出すよい機会となった。FIMを用いたことで看護師が意識的に患者に関わることができ、今まで見過ごしてきた残存する能力に気づき「できるADL」を「しているADL」に導くことが出来た。
     高齢者は臥床期間が1日でも長ければそれだけ筋力の低下が進む。筋力トレーニング単独では転倒防止対策としては十分とはいえないが、筋力の低下は転倒の主要なリスクでもあるため、入院当初からベッドサイドで行える運動を取り入れていくことは意義がある。
  • 自作のテーブルを試作・使用してみて
    林 伸幸, 長瀬 善一, 横田 由香, 蒲 直人
    セッションID: 1C08
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>現状のベッドサイド・食堂のテーブルの高さで食事しやすいのかという疑問を持ちました。小柄な体格・円背・ギャッジアップにて食べる方など事情は様々です。また住宅改修に関しては、トイレ・風呂や段差に関する数字は良く目にするが、食事に関する数字は比較的乏しい。そこでベッドサイド・食堂で食事をされている方を対象とし、食事負担軽減を目標にて適切なテーブルの高さは差尺を基準に検討してみた。
     差尺とは、坐面_から_机の高さまでの距離のことを指し、理想的な数値とは座高÷3から1センチ引いたものといわれている。
    <対象者>ギャッジアップにて食事をされている方、食堂にて食べている方計8名に対して高さ調節を行った。疾患名は脳梗塞後遺症、腰椎圧迫骨折、パーキンソン病等である。
    <方法>ベッドサイドにてギャッジアップで食事をされている方についてはベッド柵に自作のテーブルを掛けて高さ調整を行った。また食堂にて食事をされる方については、テーブル(スチールパイプでフレームを作ったもの)を使用した。
    差尺(座高÷3-1)を基準に合わせた。食事動作や実際の食事をしていただき、本人の感覚(食事しやすいかどうか)を確認した後、必要であれば本人の希望の高さに再調整した。
    <結果>理想的な数値を最初に合わせたが、決定した数値は必ずしも一致しない傾向があった。本人の希望を考慮すると、坐尺+5センチが多かった。また円背がある方は、食べやすさを考慮すると坐高÷3+5センチくらいを希望される方が多かった。また円背+下肢の可動域制限があるとテーブルの底が膝に当たることがあり、全体的に高くせざるを得ない傾向があった。理想的な数値で了承された方もいたが、座高÷3よりも2センチ以上低い高さを好んだ方は1人も存在しなかった。よって高さについては、座高÷3-1センチを基準とし、本人の好みと実際の動作を勘案し決定することが必要で、好みの高さは少し高い(5センチくらい)傾向にある。
     高さ調整後の変化としては、食事内容が見やすくなり良かったという意見が多く。ついで食事摂取量の平均アップ・食事時間の短縮という効果が得られた。少数であるが、高さ調整にて食事内容を確認しやすくなり食事中に寝てしまう頻度激減という効果もあった。食事しやすくなったので、テーブルが気に入ったといううれしい評価も数多く戴きました。
     実際には理想的数値にはならないが、個別対応をうまく行えば効果は質的・量的ともに現れるという結論に達した。
    <まとめ>差尺は数式があるが、これは90度の坐位を取ったときの肘関節の位置である。
     円背や下肢のROM制限・ギャッジの角度などの条件により、理想のテーブルの高さは変化し得る。そこに本人の主観的要素も考慮して決定すべきである。食事は生命維持だけでなく、楽しみのひとつであるが、毎回の食事が内容確認き、疲労少なく食べられることは当たり前のことであるが重要なことである。環境調整の必要性を再確認したが、最大限に患者様に食事を楽しんでいただくためには、姿勢・体格・ギャッジアップ角度等を考慮したよりきめ細やかな参考基準を今後検討していきたい。
  • 後藤 亮吉, 三橋 俊高, 田上 裕記, 舟橋 宏樹, 後藤 俊介, 鈴本 宜之, 鈴木 ゆき, 余語 鎭治
    セッションID: 1C09
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>介護保険制度施行後5年が経過し、広く社会に認知されるとともに、要介護者に対するサービスの供給も整ってきた。一方で、このまま要介護認定者数が増加し続ければ、財政的に介護保険制度の存続が困難になると懸念されている。高齢者に対する筋力増強運動やバランス訓練は、転倒予防や閉じこもり防止に効果があると報告されている。2006年4月から介護保険制度が改正され、運動機能向上や閉じこもり防止などの予防重視型システムへの転換が成された。
     当院では、高齢者体力増進運動 (一次予防体操、二次予防体操)を考案し、2000年10月より地域住民に保健的リハビリテーションの推進を図り、健康教育や体操教室を開催してきた。しかし、当初の推測とは異なり参加者数は年々減少傾向にあることから、マーケティングの必要性を感じた。そこで、今回『生活機能調査チーム』を結成し、当院診療圏内の地域住民の生活機能(身体機能、活動・参加)を調査し、地域住民の生活機能特性の把握と高齢者体力増進運動の啓発を試みた。
    <対象・方法>対象者は日常生活が自立している中・高齢者とし、身体機能検査の項目全てに参加できた者をデータ集計の対象とした。参加者は各地域の回覧を利用し、対象者がいる家庭にチラシを配布し募集した。生活機能調査は各地区の集会所において、身体機能検査(BMI、ファンクショナル・リーチテスト、つぎ足、握力、10m全力歩行時間、開眼片脚立位時間、40cm台立ち上がり回数、踏み台昇降、最大1歩幅)と、アンケートにて活動・参加状況(家庭内活動状況、家庭外活動状況、運動習慣の有無)、転倒歴を調査した。
    <結果>総数208名(男性75名、女性133名)で平均年齢は、男性74.3±7.8歳、女性72.5±7.9歳であった。身体機能は、BMIを除き各項目において男女共に加齢により低下する傾向がみられたが、特にファンクショナル・リーチテスト、握力、10m全力歩行時間で年齢との相関が認められた。また、各項目についてみると、10m全力歩行時間、最大1歩幅と握力との間にそれぞれ相関が認められた。アンケートの結果、家庭内活動(敷地内での活動)では、男性82.7%、女性91.7%が何らかの役割りをもっており、そのうち最も多かったのが農作業で、男性93.5%、女性53.4%であった。また、家庭外活動は男性45.3%、女性36.8%が行っていた。運動習慣は、男性37.3%、女性54.1%が定期的に何らかの運動を行っていた。そこで、家庭内・外活動の有無、運動習慣の有無によって身体機能に差がみられるのではないかと推測し、それぞれの身体機能の結果を比較したが、男女共に明らかな差は認められなかった。同様に転倒の経験の有無によって身体機能の違いを比較すると男女共に明らかな差を認めなかった。
    <結論>運動習慣や転倒経験の有無で身体機能に明らかな差がなかったのは、今回の参加者の多くは農作業に従事しており、運動習慣がない者でも日ごろから体を動かしているために、ある程度活動性が高かったからではないかと考える。今回の活動から要支援・要介護になる恐れのある者の生活機能全般をとらえたスクリーニングの必要性を感じた。今後さらに長期的な追跡を行い、身体機能と活動・参加状況との関係、また生活機能と環境因子との関係を明らかにしていきたい。
  • 倉橋 俊和, 浦田 士郎, 鈴木 和広, 田中 健司, 小口 武, 吉田 亜紀子, 新井 哲也, 浅井 秀司, 加藤 宗一
    セッションID: 1C10
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <緒言>我々は2003年7月から2005年11月まで大腿骨転子部骨折に対する内固定材料にDYAX-Aネイルを用いており、その治療成績を報告する。
    <対象および方法>2003年7月から2005年11月までに当院で手術治療を行った大腿骨転子部骨折は120例であり、そのうちDYAX-Aネイルで治療した症例は108例であった。そのうち、病的骨折であった2例および術後フォロー中に死亡した3例を除く103例を対象とした。内訳は女性78例、男性25例、手術時平均年齢は80.9歳であった。受傷側は左53例、右50例であり、骨折型はJensen typeI 12例、typeII 43例、typeIII 10例、typeIV 32例、typeV 6例であった。手術待機期間は平均5.9日、経過追跡期間は平均7.2ヵ月であった。手術方法は原則として遠位径10mmのネイルを使用し、極端に髄腔の広い症例には遠位径12mmのネイルを用いた。安定型の症例(Jensen typeI、II)には遠位横止めスクリューは使用せず、不安定型(Jensen typeIII‐V)には遠位ロッキングスクリューを1本使用した。後療法は術後翌日から可及的に全荷重歩行を許可した。
     検討項目は(1)術後6ヵ月での頚体角(健側との差)、(2)受傷前と術後6ヵ月での歩行能力の変化、(3)術後合併症とした。歩行能力についてはランクJ:屋外レベル(独歩、杖歩行)、ランクA:屋内レベル(歩行器歩行、伝い歩き)、ランクB:車椅子生活、ランクC:寝たきり)の4ランクに分類した。
    <結果>
     (1)患側の術後6ヵ月での頚体角は平均131度であり、健側の頚体角の平均132度と比較してその差は‐1度であった。
     (2)術後6ヵ月の時点で受傷前の歩行能力を維持できたのは64例(62.1%)、1ランク低下は28例(27.2%)、2ランク低下が11例(10.7%)であり、3ランク低下した症例はなかった。骨折型別で検討すると、安定型55例で受傷前歩行能力を維持できた症例は31例(56.3%)、1ランク低下は19例(34.5%)、2ランク低下は5例(9.1%)であり、不安定型48例では受傷前歩行能力を維持できた症例は33例(68.8%)、1ランク低下は9例(18.8%)、2ランク低下は6例(12.5%)であった。
     (3)術後合併症はラグスクリューのcut outが2例、ラグスクリューの骨頭穿孔が2例で生じた。術後2次的骨折が3例で生じ、いずれも骨癒合前に転倒(術後29日目、36日目、23日目)して発症していた。
    <考察>DYAX-Aネイルは大腿骨転子部骨折に対して良好な骨癒合を得ることができ、術後頚体角の減少も軽度であった。骨折型に関わらず早期離床が可能であり、不安定型であった症例でも69%で受傷前の歩行能力を維持することができた。
     術後合併症として二次的骨折が3例生じており、術後3‐4週の骨癒合前に転倒すると骨折を起こしやすいと考えられた。遠位横止めスクリューの観点からは一定の見解は得られなかった。術後3‐4週はまだ骨癒合が不完全である一方で、術後リハビリがある程度進んで歩行可能となる時期であるため逆に転倒しやすく、十分な注意が必要である。
  • 整形外科的観点より
    八田 卓久, 松原 吉宏, 舘田 聡
    セッションID: 1C11
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> 当院は650床の病床数を持ち、横手市を中心におおよそ12万人の中核医療機関である。平日17時 から翌8時半まで、土曜(奇数週12時半から、偶数週全日)、日曜祝日(全日)においては時間外診療として救急医療を中心に行っている。数多くの外傷患者が受診し、重傷例に対しては単一診療科による加療だけではなく、複数の診療科による包括的な加療が必要となることも少なくない。当院における時間外診療での外傷による入院患者に対して検討を行ったので報告する。
    <対象と方法> 平成14年4月から平成18年3月までの時間外入院患者6036例のうち、外傷による入院患者568例を対象とした。各症例に対して、加療を受けた診療科および複数診療科加療の有無、傷害部位などについて調査を行った。
    <結果> 単一診療科による加療患者(以下A群)は469例(82.5%)、複数診療科による加療患者(以下B群)は99例(17.5%)であった。A群における診療科は、整形外科272例(58.0%)と最も多く、次いで脳神経外科92例(19.6%)外科48例(10.2%)形成外科43例(9.2%)であった。A群での傷害部位は頭部99例、股関節95例、腰椎58例と多かった。一方、B群における診療科は単一患者において複数診療科となるため延べ210例となり、整形外科76例(36.2%)と最も多く、次いで外科54例(25.7%)脳神経外科47例(22.4%)形成外科13例(6.2%)であった。B群での傷害部位は頭部46例、頸椎32例、肋骨26例と多かった。
    <考察> 日々の時間外診療において特に外傷患者に対しては、迅速に傷害部位を把握し、全身状態の管理、適切な治療を必要とすることが多い。事前に傷害部位の傾向とその疾患に対する理解を深め、適切な対応ができる準備をしておくことが重要と考えられる。また、特に重症例に対して複数の診療科による治療を行うことも多く、各科による迅速な情報の共有、円滑な連携治療を行える体制をもつことが必要と考えられる。
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