日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
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学会長講演
  • 椎貝 達夫
    セッションID: gakkaichou
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    1.日本の透析療法
    透析療法は画期的な長寿命を約束する治療法ですが,同時に患者さんにとって精神的・肉体的に苦痛を伴う治療手段であることは、医療人なら誰でも知っています。しかし「日本の透析事情」が世界でかなり特異であることは、あまり知られていません。欧米では透析に入っても透析後の生活の3分の1は腎移植により,「透析なしの生活」を送れます。ところが日本では提供される腎臓が少ないため、移植を受けられる機会は皆無に近く、一度透析に入ったら生涯透析から離れることはできません。
    2.CKD保存療法
    私は1985年に東京医科歯科大学から取手協同病院に移り、2年後の1987年から慢性腎臓病(CKD)から透析への移行を防ぐ保存療法を始めました。内科のみならず、看護部、栄養部、中央検査部、放射線部などによるチーム医療でした。CKDの進行原因は主なものだけで20近く、疑いが持たれているものを含めると40近くになります。これらが複合して進行を促しているので、主治医は治療に大変気を遣い、診察時間がかかります。これが保存療法が広まってゆかない最大の理由です。しかし時間・手間がかかり、「引き合わないからやらない」では医療の進歩ありません。
    何回か私たちの治療法は改定され、現在は1.血圧は家庭血圧中心、2.食事因子、尿蛋白排泄量は家庭で1~2ヵ月に1度行なう24時間蓄尿の成績による、3.「患者さんも自らの治療に参加する」ために、腎臓病手帳、家庭血圧記録表、などで自らのデータに熟知し、薬についても十分勉強してもらう、などが治療の柱となっています。現在私と4人の腎臓内科医で、450人の透析に至らないCKD患者さんを診療しています。
    3.CKD対策協議会
    2006年に日本腎臓学会など6学会により「CKD対策協議会」が発足し、透析への移行阻止への努力を宣言しました(しかしこれは透析医療費削減に主目的があるようで、透析のある生活が気の毒だからそれに入らないようにするという患者さん中心の視点には力点が置かれていないように思います)。また学会が提唱する24時間蓄尿を行なわない治療法で本当に透析移行を阻止できるのか、大変心配しています。私も治療法の簡素化、診療時間の短縮は大切だと思っていますが、24時間蓄尿法にとって代る良い方法は見つからないのです。
    4.前向き対照研究
    コホート研究の傍ら2つの無作為化対照研究を行ってきました。慢性腎炎などのCKDを対象としたJAPAN-KD試験(23施設)、糖尿病性腎症を対象としたDN-ARB試験(2施設)で、間もなくまとめの段階に入ります。対照研究ではありませんが、取手市を含む4市町村の透析導入数を一定の介入で減らそうとする、D3-30プロジェクトも進行中です。
    5.究極の目標「生涯の透析回避」
    参加している患者さんは秘かに「生涯の透析回避」を願っています。しかしその達成が明らかになるのは、現在60歳の人で30年後、70歳の人で20年後あるいはもっと先になります。今流行している「医学的エビデンス」の尺度には合ません。
    しかし腎機能低下が完全に停まっている「停止例」,あるいは腎機能が改善している「寛解例」では、生涯の透析回避に至る可能性があります。停止例、寛解例は1992年には0例だったのが2008年には停止例3例、寛解例13例と増加しています。これは診療毎にピンポイントで修正する「多面的介入法」の成果によると思います。ゲーム感覚で主治医が発行する「行先:透析回避駅」の切符の発行枚数はこれから増えてゆくと思っています。
    6.宿題
    私とその仲間が行ってきたコホート研究は前向き研究でなく、エビデンス・レベルは2ないし3の観察研究です。しかし10-20年に及ぶ長い観察期間がもたらす優れた信頼性、正確性があります。このコホートから血圧コントロール、食事の蛋白・食塩摂取量がCKD進行にどう関わるのかの回答を出さなければなりません。またチェック項目を10項目程度とした「通常療法」と20項目程度とした「強化療法」のどちらが優れているのかも知る必要があります。
    7.謝辞
    私の就任当時病院は赤字財政のなかにありました。保存療法の医療費は透析医療費の10~15分の1です。医療費が少なくなる治療法の展開を見守っていてくれた、茨城県厚生連には本当に感謝しています。チーム医療に参加した人々、直接参加しなくてもいろいろ協力していただいた人々に感謝いたします。
特別講演1
  • 北原 保雄
    セッションID: tokubetsu1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    (1)「問題な日本語」の氾濫
    (2)日本語ブーム
    『明鏡国語辞典』『問題な日本語』『明鏡ことわざ成句使い方辞典』『KY式日本語』
    (3)日本語の「乱れ」の原因
    どんな時に、日本語が乱れていると思うか
    若者や子供の会話を聞いて 1716人
    テレビを見て 1710
    飲食店などで対応されて 881
    ネットを見て 131
    雑誌や漫画を読んで 68
    新聞を読んで 48
    最大の原因は?
    テレビ 1080人
    活字離れ 441
    家庭のしつけ 403
    タレント 255
    学校教育 125
    チェーン店のマニュアル 121
    (4)「問題な日本語」と思われている言葉遣い
    すぐに直してもらいたいと思う言葉遣いは?
    ・私ってすごく忘れっぽい人じゃないですか 1055人
    ・千円からお預かりします 1040
    ・わたし的にはOKです 1036
    ・コーヒーのほうお持ちしました 781
    ・ご注文は以上でよろしかったでしょうか 654
    ・全然いい 616
    ・おタバコはご遠慮させていただきます 360
    ・記念品を受付でいただいてください 340
    ・コーヒーで大丈夫ですか 276
    ・ご住所書いてもらっていいですか 243
    ・歌わさせていただきます 181
    ・これってどうよ 178
    ・ご負担いただくようなかたちになっています 176
    ・一緒にやろうよ、みたいな話だった 176
    ・すごいおいしい 148
    朝日新聞2005年12月10日(土)
    (5)「問題な日本語」追加
    ・患者様    ・お陰様をもちまして  ・お名前をいただけますか
    (6)KY語の流行
    IT KD GOT BM  DD JK 3M  MMK FFK GHQ
    (7)日本語力向上の必要性 日本語能力検定の動き
    (8)今どきの子供の名
    「人名用漢字」の改定
    (9)ことわざ成句の誤用
    1病膏肓(こうもう)に入る(こうこう)
    2怒り心頭に達する(発する)
    3熱にうなされる(浮かされる)
    4目鼻が利く(目端)
    5手も口も出ない(足)
    6顔を突っ込む(首)
    7耳を合わせる(揃える)
    8顔に火が付く(から火が出る)
    9腹が煮えくりかえる(腸)
    10毒を盛って毒を制す(以て)
特別講演2
  • 納 光弘
    セッションID: tokubetsu2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
     椎貝学会長から『この学会に全国から参集する医師・看護師の皆さん方に、あなたがこれまで実践してきた「医学する姿勢」、「未知の病気」にせまる姿勢、「医師・看護師」にとって基本となる姿勢について話してほしい』との依頼を受け、身に余る光栄と感動してお引き受けした。 タイトルは、夢を追い続けてきたこれまでの私の歩みを語る中から何かをお伝えできればと考え、『夢追って生きる』とさせていただいた。
     私は、昨年3月、鹿児島大学を定年退職し、現在66歳になるので、24歳で医学部を卒業して以来、今日までの42年間の私の夢追いの歩みを語りたい。私が医学部を卒業した1966年当時は、学園紛争の火が全国で燃え広がっていた時期にあたり、私達同期生は、医療は如何にあるべきかという問題に、好むと好まざるに関わらず真剣に向き合いながら、毎日を過ごしたのであった。やがて、学園には百人を超える機動隊が常駐し、紛争は鎮圧されたが、あの時、『いい医療を提供する、いい医師になろう』と心に誓ったその思いは、その後の私の人生を導く灯明となってくれたように思う。3年間在籍した内科の医局を辞し、ECFMG(米国臨床研修資格試験)を取得し、米国でのレジデント研修先をさがした。その過程で、縁あって、聖路加国際病院のシニアレジデントの立場で研修する機会を得た。ここで、内科の日野原重明先生にお会いし、先生の医療に対する姿勢に心をうたれ、以後、日野原先生のような医療人になりたい、というのが私の人生の目標となった。先生の推薦のお陰で米国のアルバート・アインシュタイン メディカルセンターへの留学も決定し、星雲の志に燃えたのであったが、運命はそれを許してくれなかった。鹿児島の郷里で開業していた父親が脳卒中で倒れ、私は、留学を断念して、郷里に帰ることとなった。やがて、父親も診療を再開できるまでに回復し、私は再び自分の研修先を探さねばならなくなった。丁度、この時、鹿児島大学に新しい講座・第3内科が新設され、初代教授として井形昭弘先生が赴任して来られた。そして、縁あって、井形先生にお会いし、先生の医療に対する姿勢に感銘をうけ、弟子入りをお願いした。私の医療人としてのこれまでの人生を振り返って考えると、日野原重明先生ならびに井形昭弘先生との出会いにより、それぞれの生き様に感動し、それを目標に生きてきたように思う。このたびの講演では、私がお二人の何に感動し、何を学び、そして私の人生にそれをどの様に生かしてきたかについて具体的にお話しする。それに加えて、もう一つ、ぜひお話したいことがあり、私自身が病気で倒れた体験の中から、とても大切なことを学んだので、このことについても話したい。6年前、2002年8月末、私が鹿児島大学病院の病院長の時、過労で倒れ、入院を余儀なくされたのであった。病院長も辞し、将来の展望も見えないままでの入院生活を過ごす中で、これまでの人生を振り返り、自分を見つめなおし、4ヵ月後に退院してから後は、全くあたらしい生き方を模索しながら今日を迎えるに至っている。何を考え、どの様な生き方をしてきたかについても、この講演でぜひとも語りたいと考えている。これらの詳細は私のHP(納 光弘のキーワードで検索していただくと出てきます)にも掲載してあるのでご覧いただければと思う。
教育講演
  • 上田 実
    セッションID: kyoiku
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    再生医療はかつてない追い風の中にある。昨年、暮れに発表された人工多能性細胞(IPS細胞)、乳歯幹細胞のニュース報道は一般の社会的な関心をあつめた。3月に開催された第7回日本再生医療学会(名古屋市、大会長上田実)は2000名を超える参加者(過去最高)がつめかけ熱心な討論が繰り広げられた。
    研究方向にも明らかな変化がみられた。このところの再生医療のトレンドはいわゆるテッシュエンジニアリング(組織再生)から、臓器再生に向かっていた。骨、軟骨、皮膚の再生医療は、産業化、製品化のステージにあり、臓器再生が次のターゲットとみなされている。当面の目標は、心血管領域、脳中枢神経である。臓器再生は体性幹細胞だけでは臨床応用につながるだけの細胞数が入手できない。やはり万能細胞がなくては成らないというのが学会の共通認識である。そこにIPS細胞が登場し俄然、臓器再生の現実味がましたというわけである。IPS細胞はESのもつ倫理問題を回避したうえに、ESと同等の万能性をもつ。IPS細胞があれば、臓器再生が一気にすすむ可能性は高い。しかしES研究で見られた、法的インフラの不備が、研究者の足を引っ張りはしないかという懸念は残る。一方、産業化のステージにあるといわれる骨軟骨皮膚の再生医療は、ジャパンテッシュエンジニアリングの孤軍奮闘でようやく培養表皮が製造販売承認をえた。しかし適応症例は重症熱傷に限られ、保険には収載されなかったのは残念なことである。
    こうしたマスコミの華やかな報道とは裏腹に、依然として再生医療の実現までの道は平坦ではない。ただ悲観的な状況の話ばかりでは夢がないので、筆者の専門領域から、すこし希望のもてる話題を提供したい。乳歯幹細胞の話である。
    再生医療の実現でもっとも重要な要素は「幹細胞」である。したがって世界中の研究者が血眼で優れた幹細胞をさがしている。こうした努力のなかで、間葉系幹細胞、ES細胞、IPS細胞が発見された。しかし優れた幹細胞とはどのような細胞であろうか?筆者の理解では1)安全であること、2)増殖能が高いこと、3)分化能が高いこと、4)採取が容易であることが挙げられる。こうした条件を、乳歯幹細胞はすべてそなえている。1)の安全性は、あらゆる先端医療の実用化のまず求められる絶対条件である。細胞移植でパーキンソン病は治ったが、脳腫瘍になってしまった、というのでは悪い冗談にもならない。この点、乳歯幹細胞は自己の細胞であり、ESやIPSの腫瘍化のリスクはない。次に2)3)の増殖能、分化能であるが、これは乳歯幹細胞はESやIPSには叶わない。しかし、既存の骨髄や脂肪由来の間葉系幹細胞にはまさっている。4)の採取に際しての負担であるが、乳歯は歯の交換期に自然脱落する一種の医療廃棄物であり、この再利用は患者の負担はゼロである。
    われわれはこうした好条件をそなえた乳歯幹細胞を脳神経の再生や、心血管の再生に活用しようと計画している。また乳歯幹細胞は少なくとも親子間の同種移植が可能であることがわかった。子犬の乳歯歯髄より採取した幹細胞を骨芽細胞に分化させ、親犬に作った骨欠損に移植したところ、歯槽骨の再生がみられたのである。
    また乳歯幹細胞は、骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)の表面マーカーとほぼ同一であり、キャラクターはMSCに限りなく近似している。
    したがってこの研究を発展させれば、すでに確立している各分野のMSCをつかった再生医療あるいは今後開発されるであろうMSC再生医療がすべて乳歯幹細胞で実現できることを意味している(図1)。また乳歯幹細胞バンクができれば、あらかじめ必要量まで幹細胞を増殖しておき、急性期の心筋梗塞や脳梗塞に使用するレデイメイド再生医療できる。実際、発症直後に体性幹細胞を使おうとしても、患者自身から細胞を採取し、必要量の細胞まで増殖させるには1-2ヶ月をかかり、結果的には細胞移植のタイミングを逸してしまうということある。
    乳歯の歯髄という意外なところに優れた幹細胞が存在したとうのは医科、歯科の両分野の研究者にとって幸運であった。この幸運な発見が再生医療の実現化の新たな活路になることを期待したい。本講演では再生医療をとりまく最新の状況を報告したい。
公開講座
  • 宮脇 昭
    セッションID: kokai
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    今、私たちは人類がかつて夢にも見なかったほど物質的に豊かな生活をしています。しかし、どれほど科学、技術、医学を発展させても、この地球上に生かされているかぎり、人間も含めたすべての地球上の生物は地域から地球規模までつながっている生態系:ecosystemの消費者、正しくは寄生者の立場でしか生きてゆけません。その基盤であり、寄主の立場の緑が、濃縮している森も、今我々が見ているものはほとんど土地本来の本物の森とは、はるかにかけ離れています。ほんものとはきびしい条件にも耐えて長持ちするものです。
    我々日本人も4000年このかた、新しい集落、まちつくりには森を伐採し、畑や水田をつくってきました。まわりは新炭林、下草刈場として、定期的な伐採、草刈りによって持続してきた里山の雑木林(二次林)で囲まれていました。しかし新しい集落、村や町づくりでは必ず“ふるさとの木によるふるさとの森”を残し、守り、つくってきました。それが世界に誇る鎮守の森です。
    都市、工場地帯に住んでいる人たちの食糧、緑環境を支えているのは農村地帯です。その農村が疲弊しているようにいわれている現在、実は都市部こそ刹那的な経済主義に陥って、いのちと心と30数億年つづいた遺伝子を守る生存環境が、危機に陥っています。地球のいのちのドラマの最後の幕間に出てきた人類が主役の地球上のいのちのドラマは、決して悲劇に終わらせることはできません。今こそ我々は後ろ向きや、引き算をやめて、希望をもって前向きに何としても健全な明日をきづくためにすべての欲望の満足できる最高条件から少し厳しい我慢を強いられる生態学的な最適条件で確実に生き、発展してゆかなくてはなりません。
    鉄やセメント、石油化学製品などの死んだ材料でつくられている人工環境の中に生かされて、あらゆる欲望を満足させられているように見える都市の人たちこそ実はもっとも危険な破滅の危機に直面しています。今最も大事にしなければならないところは日本人のかけがいのない遺伝子を守ってきた地方や農村です。しかし、そこでも本物とにせものが正しく理解されないで過疎化の厳しさだけでなく、そこで働いている人たち、そのおかげで生きている都市の人も含めて未来に対して確たる希望も見失い、心も体も疲れているのではないでしょうか。
    医学が発展、進歩して個別な病気の対応は十分できますが、心も体も病にならないための対策は、限られた要因とのかかわりを主に診断、加療する予防医学だけでは不十分です。健全な体と心と遺伝子を守るためには、どんなに我々が科学・技術・医学を発展させても地球上に生かされている限り、緑の寄生者の立場でしか生きていけない。その緑が濃縮している森が失われ、劣化しています。バーチャルな世界に没頭して都市部に生かされている人たちも農村と連帯し、地方や農村と交流しながら、大地に触れてなまのいのちの尊さ、儚さ、素晴らしさを体得しながら潜在自然植生にもとずいて共に木を植え、土地本来の本物の“ふるさとの木によるふるさとの森”を地方から町、都市につくりましょう。ローカルには防災・環境保全林、地球規模ではカーボン(CO2)の吸収、固定機能を果たすそのいのちの森つくりを今日と明日を健全に生きてゆくために積極的につくりましょう。
    農村医学学会の皆さん、予防医学として本物のいのちと心と遺伝子を守る森つくりのリーダー、舞台監督となり、地域の人たちを主役として足元から世界に向かっていのちの森つくりにもがんばっていただきたい。移動能力のない植物の社会では互いに競争しながら少し我慢し、共生して生きています。
    すべての欲望が満足できる最高条件は危険な状態です。エコロジカルな最適条件とは少し厳しい、少し我慢を求められる状態であることを、動く力のない植物社会が示しています。我々は木を植えながら植物社会の厳しいおきてを習い性となるまで体得し、ともに前向きに日本から世界に医学とエコロジーの共生した新しい共同プロジェクトを日本のすべての人たちの生活を支えている農村の皆さんの食と健康とを支える活動と共に進めていきたいと願っています。
シンポジウム 「農村医学とは何か」
  • 椎貝 達夫, 早川 富博
    セッションID: symposium
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    農村・農業は第二次大戦後ずっと変貌し続けてきましたが、特に2001年の小泉内閣発足以来の改革は農村部を直撃し、わずか7年に於ける変貌はいちじるしいものがあります。医学も改革路線に直撃され、「医療危機」「医療崩壊」といわれる事態に至り、危機はとくに厚生連病院や自治体が支えてきたへき地で強く起こっています。大きく変動する農村・医療の交点にある「農村医学」についてここでしっかりと見据えておく必要があります。農村・農業と地域医療についての視点が定まらないと命題の「農村医学とは何か」の答えは出ないのです。
    農村・農業の論点といっても無数にあり、ここでは日本の現状を象徴する「低い食料自給率」について論じたいと思います。
    エネルギーベース39%の食料自給率の容認が農村の衰退・空洞化と結びついています。食料安全保障の観点からはどこまで上げるべきか。またどのようにしてでしょうか。食の教育のあり方、コメ食・日本の伝統食についての研究、農業への補助金のあり方、賞味期限の問題、世界的なバイオ燃料を含めた食料需要増加、それに伴う食料価格の高騰、食の安全、食品の表示など、多くの論点があります。食料自給率の低下は日本の原風景である農村・いなかの景観破壊にも結びついています。
    医学としては特に地域医療について論じたいと思います。まず現在の医療危機の源となっている、日本の財政危機にもとづく医療費削減策は本当に必要なのでしょうか。2002年以来の年間2200億円の社会保障費削減は特に地域医療に大きく影響しています。31ある特別会計のなかの道路特別会計の一部が見えただけで多くの杜撰な税金の用途があり、すべての特別会計の内容が明らかになればどれだけの無駄な用途が出てくるのか、はかり知れません。医療福祉はあく迄聖域のなかに置くという国の基本姿勢が必要です。
    地域医療については、日本の財政危機、低医療費政策、新医師臨床研修制度、日本の医師数、開業志向、勤務医開業医間の収入格差、当直体制・勤務医の労働条件、パネリストの方々が体験している医療危機、ある病院の医療縮小が他の病院の負担を増すドミノ倒し現象の10の論点が浮かんできます。これ以外にも多くの論点があり、パネリストの方々には敵宣論点を選んで論じていただきたいと思います。標題の「農村医学とは何か」は、農村・農業についてまた地域医療について論じたあとでないと行きつけない課題と思われます。
    討論時間を40分はいただき、パネリストの方々以外からも多くのご意見をいただきたいと思います。
  • 夏川 周介
    セッションID: symposium
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    終戦前年の昭和19年に創立された佐久総合病院はまさに戦後の歴史と共に歩んできた。設立当時は日本のチベットとも称された人口5千人に満たない貧しい、寒冷の地にあって、医師2人、20床の規模からスタートし、現在は老健までを含む全病床数1,190床、職員総数1,800余名、常勤医師数200余名を数えている。発展の過程を規模だけからみると、まさに戦後の復興から高度成長への道をひた走ってきた我が国の姿と生き写しの感があるのは否めない。しかし、経済復興と高度成長の波に乗り、時流におもねって規模の拡大が図られて来たわけでは断じてない。むしろ、困窮劣悪な農村地域にあって、戦後の工業社会の実現と生産優先の政策から取り残され、そのひずみを様々な形で受けた農村の環境、産業としての農業そして農民の健康を守るため、昭和20年に赴任し、50年間にわたり院長を努めた故若月俊一の指導のもと、地域に根ざした地道な包括的医療活動の結果であると考えている。そして、その過程はまさに農村医学の実践の歴史といえるのではないか。
    創立期は有史以来大きく変わることの無かった日本の農村・農民の劣悪な生活環境、作業内容からくる健康障害に医療のみならず、社会環境、行政的視点から問題を浮き彫りにし、医学的・社会的・科学的手法により、その解明と改善をはかった農村医学と予防医学創生の時期であった。経済的、時間的、距離的そして何よりも医学的無知から病院にかかることの出来ない人々に対し出張診療班を編成し、無医村に出かけ、保健・予防活動に力を注いだ。その後の高度経済成長時代は、生産優先政策から生じる農薬中毒、農機具災害などの環境汚染や健康障害から農民の健康を守るたたかいの時期であり、同時に急速に発展する医学、医療の修得と提供をめざして最先端の医療技術の導入、施設・機器の整備を図って来た。そして、近年は急速に進む高齢化社会に対応し、介護・福祉、ことに在宅医療の実践に力を注いでいる。
    戦後の日本社会は国際情勢とも連動した急速な発展と未曾有の大変動に見舞われているのに対し、国全体として意識、思想、体制が追いつけない状況が今日の混乱を招いているといわざるを得ない。医療の世界も農村・農業をとりまく状況もまた然りである。
    若月はこのような状況を早くから喝破し“食糧自給率を減らし、農業を危機に陥れ、農村の美しい環境を破壊しているのは資本である。それに、政・財・官の癒着が大きく関与している。「協同」の名において、資本との闘いをきちんとやっておかないと、将来はとんでもないことになる。”といみじくも述べている。この言葉の中に重要な農村医学の目的、意義、役割が含まれているものと考える。
    現在、地域医療崩壊が現実のものとなる中、医療関連産業は多くの地方の基幹産業としての役割を担っている。このことは人口減少に悩む地方、ことに農村地域における有力な雇用創出につながるとともに、地域社会の維持に欠くべからざる要素である。そのような地域に依拠する医療機関は、地域の継続性とセイフティーネットを守る役割と機能を持つことが社会的使命であり責任であると任じ、健全な経営を守ると同時に地域住民の命と健康を守ることが“農村医学の原点”ではないだろうか。
  • 末永 隆次郎
    セッションID: symposium
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    最近、中国からの冷凍ギョウザによる食中毒事件を契機に、如何に多くの農産物が中国から日本に輸入されているかが明らかとなった。日本人の食卓は、アメリカ(2002年の農産物輸入額に占める割合:35.8%)と中国(12.1%)でその半分近くを占め、しかも中国の伸びは10年前に比べて倍近くになっているという事実をどのように考えるか。中国からの食料輸入は1997年以降、特に生鮮・加工野菜で大幅に増えているが、これは日本の企業が中国で合弁会社をつくって、現地で農作物を生産させ、それを日本に輸出するかたちでやられている。この影響で日本の野菜農家の多くが離農に追い込まれている。まさに日本人による日本の農家潰しが平然と行われていることに愕然とさせられる。値段さえ安ければ、利潤さえ上がれば、それを購入して食べる人の健康はどうなってもよいということなのか。企業意識とは何なのか、大いに疑問を持つところである。
    日本では経済発展をする中で、工業製品の輸出の見返りとして農産物の輸入を余儀なくされるようになり、経済界をはじめとしてマスコミも一緒になって“農家叩き”、ないしは“農業潰し”があからさまになってきた。日本の農産物は高過ぎて農家は儲け過ぎている、輸入すれば一般消費者はもっと安く買うことができる、といったことを実しやかに喧伝すると言った具合である。その結果、確かに一般消費者は安い農産物を購入できるようにはなったが、その見返りとして食の安全性の問題を輸出国任せにしてしまっている。
    さて、つい最近、カロリーベースでみた2006年度の日本の食料自給率が40%を割って39%になったとの発表があった。穀物自給率も27%と低く、1960年度と比べるとカロリー自給率は1/2、穀物自給率は1/3までに減少しており、このような状況で、今後の日本農業をどうするのか、このまま海外依存割合を強めていってよいものかどうか、日本国民の食の安全と安心を守る上で、さらには独立国家としての日本の存在は大きな岐路に立たされているのではないかと思われる。
    日本は、古来より瑞穂の国と言われ、温暖な気候と雨量に恵まれて農業をやるには最適な条件を備えている。ただ唯一の欠点は、広大な土地がないことであるが、先人たちはその土地土地にあった農業生産物を見出すことで地産地消を実践してきて、その欠点を十分に補い、日本農業の発展に尽力をしてきた。しかし、1960年前後からの所得倍増政策を基に著しい経済発展する中で交通網が発達し、遠距離輸送も可能となった。その結果、地域の農産物が都市部へと輸送され、高価格で売れるということで農家も現金収入を得るために、都市向けの売れる農産物の生産に励むようになった。そのために地元で作られた農産物が地元の消費者の口に入らない状況が常態化している現状がある。現在、日本の農業において農家人口の減少、農業従事者の高齢化、さらには農業後継者が少ないことが大きな問題となっている。しかし、物は考えようで、農作業の機械化によりかなりの高齢者でも農業に従事できる状況となっている。超高齢化社会を迎え、今後高齢者が生きがいを持ってやれる仕事としては農業しかないのではないかと考えている。農業をやるのは必ずしも若者でなければならないと言う考えは捨てた方がよいと思う。若いうちは他産業に従事し、退職期を迎える頃にそれまでに他産業で得た技術や知識を持って農業に参入する方が、農業を発展させる上にも役立つと考えられるがどうであろうか。日本人の食生活の変化に伴い、今後とも米消費の減少は続くと考えられる。このような状況の中で、米づくりは必要量に留め、団塊の世代の退職後の仕事として減反のところで野菜等の栽培によって、地産地消に頑張ってもらうことで生きがいにもつながるのではないか。それが延いては生活習慣病を予防することに繋がるのではないかと思っている。また農業、特に田圃の持つ環境保全機能などが強く訴えられているが、農家自身はなにもそれを意識して田圃作業をしているわけではない。生活のために作業をしていることの結果である。田圃を作らなくなれば、大きな環境問題を引き起こすことになるであろう。
  • 吉川 明
    セッションID: symposium
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    1) 近年の農業事情 周知の如く、JAは農業生産物の集約、販売事業の他、保険、金融、医療介護事業等幅広く展開している。これは長年に渡り農民の為に組合組織を作り上げてきた結果である。  近年JAは単協を合併した。これは農村への量販店の進出、大規模生産者のJA離れなどによりJAの市場シェアが低下したことが一因とのことである。専業農家の減少、兼業農家、自給農家、組合離れ農家の増加は農業不振を加速した。農村の少子高齢化傾向も無関係ではない。合併により要員の削減やパート化、賃金抑制、施設の統廃合、赤字部門の切捨て等いわゆるリストラを進めてきたものの、その効果は決して十分とはいえない。国策としての米の生産調整は農家に減反を強い、過剰生産が米価の下落を招いている。  新潟県は農業算出額の2/3を米に依存している為、来年の生産調整では大幅な作付面積の削減が予定されている。  農業は「国の礎」であるにも関わらず、自給率は40%に満たない。BSE牛肉、毒入り餃子、汚染食品など他国に依存する程食の安全は脅かされる。そもそも我が国は戦後の復興は二次産業を中心とし、原料を輸入し製品を輸出する貿易によって経済発展してきた。その傍らガットやWTOなど国際協定により規制され、農産物を大量生産し安価になった小麦、大豆、とうもろこしなどが大量に輸入される。かくして自給率は低下し、近年のバイオ燃料の生産はとうもろこしの輸入が大幅に減るなど外国の動向に影響を受ける。あまりにも食文化が欧米化した為、今まで日本では少なかった生活習慣病及び合併症が増えた。食の安全を考え有機栽培を増やし、減反された田畑の有効な利用法を考えるべきである。農業の良さを見直し、担い手を増やす努力も必要である。社会全体として飽食の時代に幕を引くことも必要である。輸入農産物に頼らず、「地産地消」に心掛けることは自給率向上に寄与すると思われる。 2) 農村部を中心とする地域医療 現在の憂うべき医療情況は衆院選で圧勝した前々内閣の医療費抑制政策をベースとした矢継ぎ早の医療制度改革がもたらしたものである。  介護保険制度創設(5年で見直し)、度重なる診療報酬のマイナス改訂、医療費自己負担増、大学病院独立法人化と同時に施行の新臨床研修制度、DPC導入、病院の機能分担を含めた地域医療計画の変更、後期高齢者制度等々、数の力で短期間に政策が打ち出された。各々の政策は必ずしも否定されるものではないが、医療費抑制を前提とした施策であるため地方において行政の援助なくして存続できない地域病院まで廃止や減少、合併に追い込んでしまった。二次医療圏の中で病院の役割、機能を明確にすることには異論はないが、その前提には医療従事者が充足していなければならない。その地域の病院が一つでも廃止や縮小になれば残った病院の医師、看護師数が増えない限り、救急を含め、負担だけが増強する。負担が大きくなれば開業する医師が増え、残った医師も辞めてゆくドミノ倒し現象が起こる。  新潟県は人口240万人、全国第5位の面積を1大学で賄ってきた。農山村、離島があり従来から医師不足と偏在はあった。新研修制度による2年間の非入局が大学自身の医師不足を招き医師派遣能力を失った。現在、新制度5年目になったがほとんど入局のない教室もあると聞く。ただ、3期生、4期生がかなり大学へ戻ってきているので前後期を終了する来年以降大学からの派遣に期待したい。また、Uターン組の受け皿になれるよう新潟県厚生連16病院が努力したい。 3) 農村医学とは 若月先生を始めとする先人の御努力と農村の近代化により農民に対する医療は飛躍的に向上した。戦後間もない頃は農村の生活習慣に由来する疾病、農薬中毒、農機具災害、農村地域に由来する風土病、放置された為に重症化する多くの疾病など農村特有の病気に対する疫学、予防、治療を研究することが農村医学と言われたものと思う。 現在の農村は都会化され、生活習慣に大きな差は見られなくなってきた為、農村特有の病気が少なくなってきた。近年の日本農村医学会学術総会の演題を見ても、その傾向は明らかである。農村医学の定義は時代とともに変質せざるを得ないのではないか。あえて定義すれば、農村、農業に特有な疾患のみならず農民の罹患する普遍的疾病を疫学、予防、治療の多方面から研究する学問、としたい。
  • 藤原 秀臣
    セッションID: symposium
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    <現在の医療の問題点>
    1)最近では、医療崩壊、すなわち地域医療崩壊、病院医療崩壊が単に医療界だけでなく、社会問題として深刻な課題となっている。医療崩壊は様々な要因が絡み合って複雑であるが、根本的には、国の医療費抑制政策に起因していると考えられる。医療・保健・福祉は安定・充実した国民生活の基本であり国民に保障されるべきものであり、宇沢先生のいう「社会的共通資本」として極めて重要なものである。
    2)医師不足、診療科偏在や地域偏在は、長期的にみて今後の医療の質や地域医療の充実にとっては大きな障害になる可能性がある。これは医療制度のみでなく医師の使命感の衰退や大学医学教育、医局体制の弱体化にも起因していると考えられる。
    3)救急医療は地域医療の根幹であるが、救急医療システムの混迷は今や医療崩壊の象徴である。産科医療や小児科医療を含めて医師の使命感を削ぐような医療制度改革や社会規範の乱れが救急医療体システムを歪めている。
    <現在の日本社会における農業・農村の意義>
    1)食糧自給:国民の健全な生活や生命を保持するための根幹は食の問題であり、食糧の維持と食の安全が喫緊の課題である。現在の日本の食糧自給率は世界の先進国では最低の39%であるとされている。食糧をこれほど輸入に依存している国はないのであるが、国は米作の減反政策、関税保護政策で国内の農業の育成を怠り、農業・農村の活力を低下させてきたのである。諸外国も食糧、農作物の輸出先を中国・アジアへとシフトさせてきている現状に おいては深刻な食糧不足と消費者物価の高騰を招く危険性をはらんでいる。
    2)食の安全:残留農薬や農薬混入等が問題視されているが、単なる社会問題として片付けてはならない。農作物の地産地消の原点にかえり、国内農業の振興や育成政策も見直す必要がある。また、医療の現場においても食のあり方や摂食方法、食の安全は重要な課題である。
    3)農村社会と農業の意義:現在では閉ざされた社会としての農村社会は存在しないと考えられるが、国民の意識の根底には農村社会への回帰観念が根強く残っている。農村に根ざす相互扶助、協同の精神は日本人の特性であり、現代社会で忘れ去られつつある文化である。また、農村・農業は自然の保持、環境保全、生態系の維持に極めて重要で地球温暖化の防止にも貢献するものである。農業は食糧自給のためにも食の安全のためにも環境保全の観点からも再生・再興を促す必要があり、厚生連病院の設立母体でもある農協の役割は極めて重要であると考えられる。
    <農村医学とは>
    1)農村医学は、医療や社会から取り残された農村・農民のための医療・医学の実践と理念を築く中で佐久総合病院の若月先生によって創設され発展してきたものである。農村医学は臨床医学がその根底にあり、医療が農村地域に浸透し医師と地域住民が融和していくことが前提であったと思われる。しかし、現代社会においては、農村・農民が社会の中で特殊なものとして存在するものではなく、それのみが医療・医学の対象とはなり難いと考えられる。現在の農村医学は、広範な地域に亘って包括的地域医療を展開する医学領域であり、臨床医学・医療を厚生連病院が担い、疫学・公衆衛生を大学・保健機関が担って連携しているところに特徴がある。
    2)現在の医療は専門特化の傾向が強く、全人的医療、地域に密着した住民のニーズに応える医療は衰退しつつある。農村医学は包括的地域医療であり、臨床と疫学と保健福祉活動を包括・統合したものである。従って、現代の専門特化し画一化した医療と医療制度の歪に基づく医療崩壊、地域格差の拡大する医療現場を本来の方向に転換する原動力を保有しているものと考えられる。
    3)農村医学における学術研究としては、食の安全や生活習慣病、農薬や農機具災害、健康維持や予防医学への取り組みが重要であるが、地域医療に密着し、社会に貢献できる実学でなければならないと考えられる。
  • 高橋 正彦
    セッションID: symposium
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    まず、農業または農村について述べる。農業は、人々の生存に深く関わる食料等を生産する、自然環境を保全する、などの重要な役割を果たし、社会的共通資本として捉えられている。しかし、我が国は、工業を保護するために、農業を市場経済にゆだね、外国からの輸入にまかせてきた。その結果、低い食料自給率、農業存続危機、自然破壊など、国民にとって最大の危機を向かえている。今回の中国食品の問題は、我が国の農業の再生、食料自給率の上昇、自然環境の保護などにとって絶好のチャンス到来と考える。学校保健に関わり驚いたことに、日本の学童は米国の学童に比べて血中コレステロールの平均値が高いということであった。それ以来学校保健会を通して、児童生徒の食育などの小児生活習慣の予防教育をおこなってきた。
    次に、地域医療について述べる。厚生省は、「医療費亡国論」を掲げ、1987年に診療報酬と医学部学生定員の抑制を基本とする中間報告を発表し、現在に至っており、医療機関にとっては年々厳しくなっている。診療報酬抑制政策により、赤字の病院、診療科を休止した病院、救急などの指定を取り下げた病院、廃院などが増え、病院医療崩壊、ひいては医療崩壊が進行している。病院医療崩壊の大きな原因の一つに、診療報酬抑制と共に、勤務医の激減が挙げられる。病院勤務では、肉体的・精神的・経済的に満たされず、病院から逃避する若い医師が増えている。さらに、新臨床研修制度が医師不足に拍車をかけた。研修指定病院が乱立し、研修医が大都市に集中した。勤務医の供給源であり、地域医療を支えてきた大学では医局崩壊が起こり、勤務医不足を加速させた。しかし、勤務医不足や救急医療から撤退する病院が激増している一番大きな原因は、医師法第21条により、医療過誤が刑事訴訟として扱われることにある。今年度に、厚生労働省より、「医療安全調査委員会(仮称)」の第三試案が公表された。かなり改善されおり評価すべきであるが、多少の問題点もあるので、検討を要する。全国的な調査によれば、救急患者が救急病院に一極集中化する一方で、医師も救急病院に集中している。そのような病院には患者も増加し、経営成績も堅調であることも事実である。若い医師等にとって魅力ある病院づくりは我々に課せられた課題である。OECDの調査によると、加盟国の中で、我が国は、医師・看護師ともに少ない一方、病床数は極めて多く、小規模の病院が乱立している。医師の集中化の問題と合わせて、病院の統廃合は今後の重要な課題と考える。
    最後に、農村医学についてであるが、農村医学は農民が存在する限り不滅であるので、ここでは日本農村医学会について述べる。農民の絶対数が減少し、生活様式も特有のものではなくなり、農民特有の病気も極めて少なくなった。一方、日本農村医学会の会員の90%以上が地域医療の中核を担う厚生連病院の職員であり、農村医学に興味をもつ人は非常に少ない。医師のなかには先端の臨床研究をおこなっている人も少なからずいる。厚生連病院は教育病院でもあるので、医師を日本農村医学会に閉じ込めてはならないし、大学や他の医療機関にも通用する学徒を育てねばならない。「日本農村医学会」のを「全国厚生連病院学会」に改め、農村医学はその特別部会として継続してはどうであろうか。
ワークショップ1
  • 嶋田 幸子, 倉益 直子
    セッションID: workshop1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    2006年診療報酬改定による「7:1入院基本料の新設」以後、大学病院など大病院による看護師大量雇用が続き、地域の病院は看護職の採用が難しい状況が続いている。今や、看護師確保と定着は現場のケアを維持するための最重要課題となった。
    しかし、一方ではマグネットホスピタルのように看護師の増員に成功している病院もある。マグネットホスピタルとは米国の認定制度であるが、看護師をマグネットのように惹きつけ、どんな社会情勢の中でも必要な看護の質と量を確保できる病院のことである。
    マグネットホスピタルの条件は、適切な人員配置、柔軟な勤務体制などとともに、看護職を専門職としての自律性を重んじ、看護職のキャリア開発や継続教育を支援していることがあげられている。わが国においても、2007年日本看護協会の看護職員確保に関する緊急アンケートで、予定の人員を確保できた理由の第1位は「教育研修体制」第2位が「夜勤や人員配置などの勤務体制」となっている。さらに、看護学生が就職を考えるときの選択肢としても「院内教育が充実している」は上位に上げられている。
    千葉大学の舟島氏は、病院にとって魅力ある院内教育を提供する意義として「第一に院内教育の質がその病院の看護の質を決定づけること・・(略)第二に看護師の多くが就職する病院を決定する際、院内教育提供の有無、その内容の充実度を基準とすること・・(略)さらに現在、新卒看護師の早期離職が社会問題となっている。その多くが想像した院内教育と実際が大きく異なっていると感じ、それを理由に退職する看護師もいる」と述べている。このような状況から、看護師の採用には「看護基礎教育」に続く「看護継続教育」の体制を充実させることが不可欠であることがわかる。
    今回のワークショップの目的は、教育や人材育成の重要性を確認するとともに、先進的な教育方法や研修プログラムについて学び、自病院の看護師確保と定着対策のヒントを得ることである。「看護継続教育」は、各病院に任せられているため、それぞれの現場で研修担当者が思い思いに教育計画を立案しており、新卒看護師の研修体制も病院によって異なるのが特徴でもある。新卒看護師の卒後臨床研修制度を実施している病院もあれば、教育体制が整っておらず入職後から能力以上のことを求められ、離職に至る所もある。
    基礎教育終了時の臨床能力が、さまざまな理由で年々低下している現在、経験豊かな看護管理者の方々にどのような新人教育を実施しているのかを発言していただき、また、看護師のキャリア開発については「クリニカルラダー」等によるキャリアプログラムを実施している病院が、具体的にどのように展開されているのかを報告していただく。さらに、看護師のキャリア開発の中で注目されている専門看護師・認定看護師についても考えていきたい。新たに誕生しているスペシャリストについても、その役割と課題について、討論していきたいと考えている。ワークショップ参加者が、自分の病院の看護職が生き生きと働ける日本型マグネットホスピタルにすべく示唆を得られたら幸いである。
  • 山下 美智子
    セッションID: workshop1-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
    マグネットホスピタルとは,「看護職員,患者を磁石のように引きつける魅力的な病院」と定義されている.つまり患者さんや利用者の方々から選ばれるだけではなく,医師や看護師など医療従事者からも選ばれる病院組織であることが重要である.
    病院運営の中で私達は,「患者さんやご家族のために」ということを第一として活動してきており,内部顧客である職員の満足度を高める努力が十分でなかった.マグネットホスピタルを目ざすためには,外部の顧客はもとより,サービス提供側である内部顧客としての職員の満足度をどのようにして上げるかが重要な課題である.
    今回は,職員の満足度を高める1つの方策として,実際に運用しているツールである「キャリアラダーと目標管理」を活用しての人材育成支援について述べてみたい.
    1 キャリアラダーによる人材育成
    病院という組織が成長・発展するためには,質の高い医療というサービスを提供して顧客である患者さんやご家族の方々にご満足を頂き,選ばれることで明日の成長のための財源を確保していくことである.質の高いサービスも,人員不足の中では長期的に提供することはできず,適正人員の確保が常に課題になる.
    当院も人材の確保に悩みながら試行錯誤の中で,看護師の能力開発を図るために,クリニカルラダーと教育,組織役割を連動させて運用するシステムを構築した.
    クリニカルラダーとは,看護における人的マネジメントの中で,採用,配置,育成,評価,昇格・昇進,キャリア形成等に活用することができるツールである.
    当院で構築したクリニカルラダーは,ジェネラリストだけではなく,専門や管理のコースを設定し「キャリアラダー」という表現を用いて運用している.各ステップに求められる目標を設定し,それを達成できるための教育プログラムを準備し,また外部へ研修に行くことができるような環境やシステムを整備している.またキャリアラダーを教育と連動させるだけでなく,評価結果を処遇にも反映させて人材育成のツールとして運用している.
    それによって外部から「教育がしっかりしている病院」という評価を頂くことを目指している.
    2 目標管理による人材育成
    病院の運営は,使命としての理念達成ために中長期目標としてのビジョン設定し,年度毎の事業目標及び計画を立案・実施していくことが必要である.
    当院では,全部門でバランストスコアカード(BSCと略す)を活用して事業計画を立案し,病院全体から部門,そして部署のBSCを立案して個人の目標につなげている.
    目標管理によって看護師長と年2~3回の面接を実施し,スタッフのキャリア開発支援をしている.また管理者から期待目標を示すことで,スタッフは,自分のチャレンジ目標を明確にした上で日常の実践に取り組むことができるようになる.目標面接後は,目標達成のための研修の選択と課題に対する実践計画・実施の進捗確認,助言を継続的にサポートすることが重要である.
    3 まとめ
    キャリアラダーと目標管理を看護師の能力開発に活用し,それに教育や組織における役割を連動させることで,「期待されている自分」を意識し,「成長の実感」を持てる看護師を育成したいと考えている.
  • 松本 俊子
    セッションID: workshop1-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈はじめに〉 先日、新卒看護師から「認定看護師を目指しているのでキャリアアップの方法を教えて欲しい」という意見があった。1997年、認定看護師が誕生して10年が経過し知名度があがったと実感している。今回は「マグネットホスピタル」において、認定看護師がどのように貢献しているかについて、当院の取り組みを報告する。
    〈現在の取り組み〉 当院では専門看護師1名、認定看護師9名が「リソースナース」として活動している。2007年に8名となったことを機会に、リソースナースの力を集約し組織化する必要性を感じ、1年の準備期間の後、2008年「専門看護師・認定看護師の会」(以下、会とする)を設立した。現在、以下の3点に力を入れて取り組んでいる。
    1. リソースナースの組織化
     会の組織化にあたっては準備期間中、組織化についての研修会に参加し、先駆的に会を設立した施設の運用状況について調査した。これらを元に看護部長と会員で十分に話し合い、院内及び看護部での会の位置付けを決定した。また、会の規約を作成し、同時に、これまでケースごとに対応していた教育講演など、外部の仕事に関する依頼の受け方の運用規約を制定した。そして、これまで個人の裁量に任されていた職務記述書や活動報告書、学会や研修会参加の申請書などの書式化とこれを開示することで、活動の透明性を図った。
    目標管理とこれに伴う育成面接については、病棟や外来に所属する兼任者に対しては、当該所属長が行い、看護部所属の専任者に対しては、所属長でもある会長が行うことにした。しかし、専門分野における活動の幅を広げるための具体的な企画の話し合いなどは、会員が直接、看護部長と話し合う機会をもてるようにした。
    2. リソースナースの広報
    2007年の専門看護師・認定看護師の広告可能に伴い、病院ホームページや病院新聞、院内掲示ポスターなど、様々な媒体を通して広報活動を行った。院内医療スタッフに対しては、会員の顔写真に、主な相談内容や連絡方法を簡潔に記載した「専門・認定看護師コンサルテーションシステム一覧」を作成し、所属の電話の脇に置いてもらい、気軽に相談できる工夫をした。
    また、2008年からは年2回の活動報告会と公開講座を企画している。活動報告会は、院内スタッフを対象に、会員が各々、一番力を入れている取り組みとその成果について発表する。そして、公開講座は、茨城県内の医療施設や看護教育施設にも参加案内をし、会員の専門分野におけるタイムリーなテーマを講演することで、最新知識の普及とともに、会の活動のアピールの場と相互交流を図りたいと考える。
    3. リソースナースのサポート体制
     8年前に認定看護師1名であったときは、孤独と向き合いながら認定看護師として組織に認知してもらうことを目標に試行錯誤を重ねてきた。そして現在ではリソースナースの仲間が増え、周囲から認知されるようになった。しかしその一方で専門分野における膨大な仕事がノルマになり、また組織からも、よりよい変革のためにリーダーシップの役割発揮を期待されるようになった。これに伴い会員の悩みも多様化してきている。
    具体的には、管理部門との交渉、スタッフとの協働、また会員間においても、専任者と兼任者の連携や会員相互の協力体制などにおける意識や考えの違いから、仕事を進めていく上で困難さを感じることも多くなっている。そして会員のジレンマは、管理者やスタッフなど組織全体のジレンマへと発展しかねない危うさがある。このような現状をふまえ、会員が自分の悩みやジレンマをひとりで抱え込むことがないように、会員相互及び管理部門との、報告、連絡、相談をタイムリーに行うことを意識付けている。また、先輩の会員が後輩の会員に対して、管理的な交渉の方法についてアドバイスをするなど、会員間でスーパーバイザーの役割をとることも推奨している。
    〈まとめ〉 認定看護師や専門看護師といったリソースナースの働き方には、従来の看護師の働き方にはなかった「専門分野に特化した看護ケアを所属の枠にとらわれることなく組織横断的、また自律的に展開できる」という特徴がある。この専門職として自律的に活動し、自分の仕事の幅を広げられる可能性があるということは、この資格のもつ大きな魅力のひとつだと考える。
     リソースナースが求めるマグネットホスピタルは、前述した自律的な働き方ができる可能性を信じ、その職場環境を提供する努力を惜しまない組織であると考える。同時に、リソースナースが組織に溶け込み、その力量を十分に発揮できたときに初めて、リソースナースはマグネットホスピタルに貢献できたと言えるのではないかと考える。
  • 山本 千賀子
    セッションID: workshop1-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言>厚生連病院使命として、地域医療に貢献することがある。その中で地域に信頼される病院であることが重要である。当院は第3者評価としてISO9001の認証を受け職員一丸となって「地域から信頼されるチーム医療の提供」に努力している。今回、某雑誌に当院の看護部の活動が掲載されたことが縁でこのような発言の機会を得た。継続教育の充実、専門職としてのキャリア開発が看護の質向上への重要な要素となっている。また、その活動が患者満足、職務満足へと繋がっている。二交代勤務体制は平成13年度に全病棟に導入し、働く人たちから支持を得ている。5年間の取り組みの結果、予想以上の看護職の確保ができ、平成19年5月に7対1入院基本料が取得できた。新卒看護職の1年以内の退職が5年間なかったこと、新規採用者のアンケートの結果でも、上位3項目は、地域の評価・継続教育の充実・2交代制であるとの結果が明らかになった。この結果に繋がった活動を報告する。
    <ISO9001認証にむけての活動>ISO9001の認証を平成16年3月にうけた。認証に至るまでの過程は、工業部門で主に使用されているシステムを、医療用に対応する作業や、チーム研修で日常業務を見直す作業に全職員が取り組んだ。その結果、職種間の相互理解ができ、産みの苦労の共有はその後の活動の糧となっている。看護部継続教育においてもデミングサイクルをまわすことで、実践的なプログラムの改善につなげている。
    <継続教育7コースとクリニカルラダー>クリニカルラダーは、「臨床看護師としての自立と資質・能力の向上を支援する」ことを目的に掲げ、レベル_I_「基礎的段階」レベル_II_「一人前」レベル_III_「中堅ベテラン」レベル_IV_達人」とし目標の明確化を図った。看護基礎コース:3年間で1人前に育成し、技術指導は、リーダーシップ層、主任、師長が責任を持つ。プリセプターコース:(看護基礎コース修了者)プリセプターシップの理解を深め、新規採用者の精神的サポートを行なっている。リーダーシップコース:(看護基礎コース・プリセプターコース修了者)所属部署・病院の委員会・看護部の検討会の活動を通して、リーダーシップの役割、小集団活動、キャリアアップのための研修参加として、主に実践から学ぶことを中心としている。管理コース(主任・師長)管理に必要なマネジメント能力の習得を目標にしている。また、検討課題に取り組むコースとしても機能している。看護研究コース:(看護研究に取り組む人)事例研究から、各部署や検討会等で研究する場合も該当する。准看護師コース・看護補助コース以上の7コースを設けている。
    <キャリア開発>継続教育プログラム、各種検討会の活動のなかから、キャリアアップへの動機付けができた。5年間で感染管理認定看護師、大学院修了者、糖尿病療養士、NST専門療法士、呼吸療法士認定者が誕生し、看護の質向上へ貢献している。
    <結語>以上説明してきた日々の活動は、看護職の生き生きとした働きとなり、患者に選ばれる病院や人材確保に繋がっているように思う。看護部長としては、看護部の活動のあらゆる機会を利用し「実現したい看護」について発信することが必要である。「こんな看護を提供しています。」と各自が、自信を持って発言できることが必要である。新人を丁寧に育てることは、リアリテーショックの予防、離職防止に繋がる。看護基礎コース、プリセプターコースに丁寧に関わることで、リーダーシップコースは自立し成長できる。また、実践の中で学ぶことで、新たな時間を必要とせず、ワーク・ライフ・バランスの実現に繋がると考える。
  • 清水 久美子
    セッションID: workshop1-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    最近よく耳にする言葉にワークライフバランスがあります。今回のワークショップは看護職がいきいきと働き続けるにはどのような環境整備がなされれば良いのかを考える場と思います。正にワークライフバランスを実践して行く為の「知恵」を互いに出し合い実践方法を見つけ出すための場所であると思います。自らの看護職免許を最大限に生かして、働き続ける場所に選んで良かったと思う気持ちを、職員が長く持ち続けられる職場環境を整えるには何をなすべきか、ここでは篠ノ井病院でのチーム医療の実践を紹介します
    _I_.チーム医療の実際
    医療の現場は医師を始めとした様々な専門職業人の集まりです。いきいきと働ける職場環境を作り上げてゆくには究極のチーム医療を求めて日々業務改善に取り組むことだと思います。そのためには、情報の共有が不可欠です。今取り組まなければならない問題を把握するためです。セクショナリズムを排除し足りないところは職種を超えて補いあい、コメディカルが共に他部門へのサービスを意識して、今ある資源人材で保健医療サービスを最良の形で提供するという意識を持ち、状況の変化に対応した業務展開をすることが、働きやすい職場環境に繋がります。今回は「看護師は患者の側に」を合言葉に篠ノ井病院の看護部がコメディカルとの連携を図り、進めているチーム医療の実際を、薬剤部、栄養科、臨床工学科、業務課、臨床検査科、看護助手チームを中心にお話させていただきます。
    _II_.卒後研修と継続教育
     病院の職員教育の目的は、全病院的視野に立ち病院の社会的責任の認識が持てる、主体性、積極性、協調性のある行動できる人材育成にあると思います。篠ノ井病院では小集団活動を取り入れて、集中力、洞察力を磨き、チームワーク能力が育つ教育内容を組み込んでいます。卒後教育の大きな特徴は、医師を含めた総ての新採用職員に一定期間集合教育を行っていることです。看護部の教育も人間性豊かに地域に根ざした患者本位の看護を提供できる看護職の育成を目指しています。専門職業人として、対称に適した看護実践ができて、組織および医療チームの一員としての役割認識が育つ教育内容としています。質を考え看護を研究的に見る目を養い、最新情報を得るためにも看護師、助産師養成施設に臨床実習場所の提供もしています。具体的な院内教育の体系と内容は、病院の特徴を考慮し独自に作り上げたクリニカルラダーを活用して知識、技術、態度の向上と育成を行います。具体的な人材育成は個人が組織の目標を踏まえて、各自の能力やライフスタイルに応じて組織の支援を受けながら、臨床実践能力の向上に自ら取り組むことです。実践能力については、質の高い看護に発展させるため、各階層の目標を明示したクリニカルラダーとしました。臨床実践能力を評価し、動機づけと教育的サポートを基準にして仕事の満足度を高められるよう工夫し、個々のキャリア開発に役立つような教育的ローテーションの資料としても生かされます。長野県厚生連全体で取り組んでいるMB0のひとつの要素ともなります。
    働きやすい職場環境を考えるには、現状をありのままに数値化して示し、感情論で無く総てのスタッフが、互いのギャップを整理し、埋める努力が身につく、教育環境を整えることが重要です。「何をしてもらうか、から、私に何ができるか」を考えるコミュニケーション能力の高い職場の文化が育つと考えます。
ワークショップ2
  • 谷崎 義生, 鶴岡 信
    セッションID: workshop2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    脳卒中は、死亡原因の第3位を占め、寝たきりの原因の3割、介護が必要となる原因の第1位を占めています。脳卒中は救命するだけでなく、後遺症を如何に少なくするかがとても大切な疾患です。2005年10月tPAの脳梗塞への適応拡大により、後遺症軽減を目指す日本の脳卒中治療は新時代を迎えました。しかし、tPAの使用は発症後3時間以内厳守の条件があります。この条件は”time is brain”と言われ、発症後2時間以内に専門的な診療が可能な医療機関に到着できること、患者の来院後1時間以内(発症後3時間以内)に専門的な治療を開始すること、など新たな体制整備を必要とします。
    木村和美先生は、病院前救護体制の構築に熱心に取り組まれ、救急隊用に脳卒中重症度の判定に使用する倉敷病院前脳卒中スケール(KPSS)を開発されました。先生の調査では、日本でのtPA使用率は1〜2%と欧米に比較して圧倒的に低く、人口10万人に対する使用症例数は全国平均3.1人で、東京はそれより低い2.7人であるのに対し、倉敷市では8.7人の高率になっています。この差は、KPSSに代表される病院前と病院到着後のシームレスな体制整備の違いによるものと思われます。先生には、患者教育・救急隊教育を含め発症から治療開始までの「脳卒中救急」体制整備の重要性について、脳卒中病院前救護の標準的手法であるPSLS(Prehospital Stroke Life Support)や病院スタッフの脳卒中初療の標準的手法であるISLS(Immediate Stroke Life Support)などのコースの意義などを交えお話をいただきます。
    国の方針に基付き平成20年度から都道府県が開始した新医療計画では、4疾病(脳卒中対策、急性心筋梗塞対策、がん対策、糖尿病対策)及び5事業(救急医療、災害時医療、僻地医療、周産期医療、小児医療)の医療体制それぞれについて、医療連携ネットワークを組んで、それぞれの施設間を地域連携クリティカルパスで結ぶシームレスな体制整備が開始され始めました。「地域完結型医療時代」の幕開けです。脳卒中対策を担う医療機関は「救急医療」、「回復期リハビリ」、「療養医療」のどの機能を担うのかを明確にし、地域医療ネットワークに参加することが不可欠になります。また、医療機関はホームページなどを使用し、自院の機能を住民に分かり易く説明する必要があります。一方、行政は地域医療ネットワークに必要な医療機能(目標、求められる体制など)及び担う医療機関、施設の具体的な名称を記載した情報を、住民に情報発信する義務を負うことになります。
    国の施策のパイロットスタディー役を果たしているような脳卒中医療連携ネットワーク先進地区の熊本市で、ネットワーク構築の中心的役割を担われている橋本洋一郎先生には、ネットワーク構築に必要なポイントと今後の課題についてお話をいただきます。
    地域救急医療は地場産業に例えられます。「倉敷モデル」、「熊本モデル」などが無条件で各地に当てはまる訳ではありません。各地区の特性を踏まえた病院前救護体制整備をするために、地域メディカルコントロール(MC)体制があります。地域MC体制は病院前救護体制を主な対象にしていますが、医療側の機能分化と連携に基付いた「地域完結型医療」体制整備と不可分に結びついています。新医療計画では、「無いものをどう整備して行くか」から「今あるものをどうつなげいくか」に目標を転換してきています。
    安藤哲朗先生には、地域中核病院の立場から、今ある人材・資機材などを活用して、tPA投与を中心とした脳卒中治療新時代への対応についてお話をいただきます。
    平成18年度の医療費改訂で「SCU加算」が追加されました。平成20年度の改訂では、「超急性期脳卒中加算」が追加されました。両加算共に、医師だけでなくコメディカルの手厚い人員配置が必須の条件になっています。最近、救急医療、小児救急医療、周産期医療などを中心にして病院勤務医不足による「医療崩壊」が急速に進行してきています。その対策として「産科や小児科をはじめとする病院勤務医の負担の軽減」対策も追加されましたが、医師不足解消には「焼け石に水」の感が拭えません。治療実績に基付いた医療現場からの情報発信が喫緊の課題と思われます。
    日野先生には、SCU稼働による治療成績の変化など、脳卒中治療成績を向上させるための院内外の体制整備の現状と課題についてお話をいただきます。
    ワークショップでは、演者の先生方のご講演は、あくまでも問題提議と位置付けています。その後に行われる演者の先生方を含めたフロアーと一体となった討論がとても大切です。フロアーから常日頃抱えている問題積極的に出していただき、脳卒中治療の抱えている問題や解決策を情報共有し、脳卒中地域医療の治療成績の向上に資することが目的になります。多数の方々の参加をお待ちしております。
  • 木村 和美
    セッションID: workshop2-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    わが国でも、発症3時間以内の脳梗塞患者を対象とするtissue plasminogen activator(t-PA)による経静脈的血栓溶解療法(以下t-PA静注療法と略す)の安全性・有効性が証明され、平成17年10月11日保険診療が承認された。脳梗塞超急性期の治療は、「治せない時代」から「治せる時代」大きく変貌した。t-PA静注療法は、発症3時間以内にt-PAを投与しないといけない。より多くの患者にt-PA静注療法を行なうには、まず、発症後3時間以内、できれば2時間以内に-PA静注療法が可能な病院へ来院ことが大切である。ゆえに、プレホスピタルケアからt-PA静注療法が始まると言っても過言でない。来院までの時間を短縮するには、市民が脳卒中の症状を知り、発症時にすみやかに脳卒中と認識し、救急隊に連絡することが大切である。そのためには、市民公開講座、テレビや新聞などのマスコミを使った報道も大切である。病院の脳卒中救急患者の受け入れ体制として、脳卒中ホットラインを用いている。24時間、医師が脳卒中ホットラインを携帯し、すみやかな患者受け入れ体制を構築している。t-PA静注療法を成功させるためには、救急隊員の現場での判断が重要となる。患者が脳卒中と判断される場合は、すみやかにt-PA静注療法が可能な脳卒中専門病院(脳卒中センター)への搬送すること求められる。我々は、平成17年5月より、倉敷消防局と協議し病院前脳卒中スケールとして倉敷プレホスピタル・ストロークスコア(KPSS)を考案し使用している(表)。救急隊員が、患者を脳卒中であると疑わった時に、救急隊員が現場でKPSSの評価を行い、神経重症度を点数化したことである。13点満点で13点が最重症となる。救急隊から、現場で脳卒中を疑った患者のKPSSが10点であると脳卒中専用ホットラインを介して連絡があると、受け入れる医療スタッフは、患者の重症度が高いということを認識し、万全の受け入れ態勢で対応する。もし、NIHSSスコア5-22の患者をt-PA適応患者と仮定するとKPSSスコア3-9であれば、感度84%、特異度93%で、NIHSSスコア5-22の患者をスクリングできる(図1)。搬送手段としては、もちろん救急車を用いる。救急車での搬送が、言うまでもなく来院までの時間を短縮可能である。また、当院ではドクターヘリも使用している。ドクターヘリは岡山県内であればどこでも約25分以内に到着可能である。当院のドクターヘリは、年間約450回出動し、そのうち脳疾患は約10%である。t-PAの使用承認後、ドクターヘリにて搬送された患者11例にt-PA治療を行うことができた。ドクターヘリは、特に、山間部や離島での搬送には威力を発揮する。病院の救急体制の構築も重要である。特に、放射線部、検査部の協力はなくてはならない。以上、市民への啓発、病院の受け入れ体制、救急隊の搬送システムのプレホスピタルケアとホスピタルケアがうまく連携され、初めてt-PA治療が成功する。
  • 安藤 哲朗, 川上 治, 杉浦 真, 加藤 博子, 土方 靖浩, 坪井 崇, 鈴木 将史
    セッションID: workshop2-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉
    脳梗塞超急性期のt-PA静注療法は、発症から3時間以内のみに適応があり、また3時間以内であったとしても早ければ早いほど有効性が高いので、病院に到着してから治療開始までを1時間以内にすることが推奨されている。その一方でこの治療は出血性合併症の危険が高いため、厳密な除外規定がある。治療担当医にとっては、極めて短時間のうちに的確に適応を判断してインフォームドコンセントをとる必要がある。当院では平成20年4月までに23例のt-PA静注療法を施行した。その中で経験したヒヤリ・ハット例、アクシデント例、医療紛争例のいくつかを報告し、t-PA静注療法のリスクマネジメントについて考察する。
    〈症例〉
    1.既往に慢性硬膜下血腫がありt-PA治療をせず、後で解離性大動脈瘤と判明した症例
    54歳女性。左上下肢麻痺発症後1時間で来院。胸痛なし。NIHSS 2点。胸部XPで縦隔の拡大なし。入院後の心エコーで大動脈解離と判明。
    2.右片麻痺発症1時間後にt-PA静注したが、その後四肢麻痺となり頚椎硬膜外出血と判明した症例
    71歳男性。突然の右肩の痛み。救急搬送されて診察中に急に右片麻痺。NIHSS8点、禁忌項目なし。t-PA静注の2時間後に左片麻痺も出現し、頚椎MRIにて頚椎硬膜外出血と判明。静注の11時間後に緊急血腫摘出術を施行。
    3.片麻痺を呈したヒステリー症例
    81歳男性。造影CT検査中に気分不快、左片麻痺が急性発症。顔面には麻痺はなく、構音障害はなかった。発症30分後のNIHSS5点。神経内科医診察により、ヒステリーと診断。t-PA施行せず。
    4.意識障害の鑑別に手間取り、来院後からt-PA静注までに2時間を要した椎骨系梗塞
    62歳男性。突然の気分不快と意識障害で発症53分後に救急搬送。当初意識障害の鑑別診断に時間がかかり、脳MRI、MRAにて脳底動脈の途絶と小脳の多発性のdiffusion高信号を認めて脳梗塞と診断がつくのまでに時間がかかり、来院からt-PA静注までに2時間を要した。
    5.受診時の症状が失語のみでt-PAを施行しなかったが入院2日後に麻痺が悪化したアテローム血栓性脳梗塞
    59歳男性。発症2時間の時点で麻痺はなく失語のみでNIHSS6点。CT、MRIにて左MCA領域に同時多発梗塞。入院後に悪化して重い後遺症を残したため、家族からt-PAを使用しなかったことに対するクレームがあった。
    〈考察〉
    短時間のうちに脳梗塞の診断をして、解離性大動脈瘤や頚椎硬膜外血腫を確実に鑑別することが困難な場合がある。疼痛がある場合には動脈解離や出血性疾患を疑う必要があるが、疼痛のない大動脈解離もある。NIHSSは脳血管障害の重症度の指標ではあるが、脳梗塞の診断を保障するものではないことに留意する必要がある。
    脳梗塞の診断精度を上げるためには、急性期のdiffusion MRIとMRAを撮影することが有用である。特に椎骨系の脳梗塞では、意識障害の鑑別に手間取る可能性があり、確実な診断のためにはMRI、MRAの必要性が高い。さらに普段から脳梗塞の診療をしており、t-PA治療しない症例も含めて多数例を経験している専門医が対応する必要がある。
    また症例5のように、t-PAが社会に認知されるに伴って今後はt-PAを施行しない場合の家族説明も重要となると考えられる。
  • 日野 太郎, 水谷 真之, 石原 正一郎, 新谷 周三, 井上  俊之, 富永 勉, 鶴岡 信
    セッションID: workshop2-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    当院は茨城県県南部に位置し、東京への通勤者も多い地域である。病床414床と中規模ではあるが、平均在院日数12.7日、年間救急車対応台数4870台と救急医療を中心とした地域基幹病院となっている。
    そのため脳卒中においても、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血併せて年間400人程度の入院があり神経内科・脳神経外科が協力して診療にあたっている。
    2005年10月からのアルテプラーゼ静脈投与(tPA)による血栓溶解療法の認可に合わせて、2005年11月より当院でもtPA投与に対応する体制を作った。また、2006年5月より6床のSCUを開設した。
    具体的な変更点としては、これまで脳出血は脳神経外科、脳梗塞は神経内科としており別の病棟で担当していたがSCUを神経内科病棟の一部を改修し、共同で運営することとした。また、SCU設置基準に合わせて二科合同で脳卒中当直を開始した。看護師についてもSCU担当看護チームを編成し、特に夜間において、開設前は一般病室と併せて担当していたものが独立することにより、看護体制も強化できた。リハビリテーションについても理学療法士・作業療法士を専任とし、入院当日から急性期リハビリテーションを開始することが可能となった。
    これまでも二科で脳卒中カンファレンスなどを通して協力してきたが、一部とはいえ病棟が共有利用となり入院患者カンファレンスも共同で行うようにしたことで、脳卒中全体を互いに担当している意識と、意思の疎通がよりスムースに行えるようになった。
    また看護師やリハビリ担当者がSCU専門となったことで、職種間でのコミュニケーションがしやすくなり、また各人の意識の向上につながっていると思われる。
    これまでtPA投与した脳梗塞患者は27症例となり、毎月約1例のペースとなっている。SCUの稼働率は平均90%であり、脳卒中患者の83.3%を収容している。また、脳梗塞に限定しての患者数であるが、SCU開設前の2005年の入院患者が277人であったのに対して、2007年も277人と数では変化はない。
    ただし、脳梗塞患者の平均在院日数は27日から24日に減少した。今後、SCU開設における効果の検証としてアウトカムとして、在院日数やNIHSSSの改善、回復期病院転院を含めた最終予後、自宅退院率で検証していくことが必要であろう。
    SCU開設後の問題点としては、病院前の問題として、入院患者数は季節や日によって変動するため満床となることが毎月1~2日あり、救急患者の受入れを断らざるを得ないことがある。また、地域の救急隊には当院への脳卒中の搬送は以前にくらべ速やかに行えるようになっているが、地域住民への周知が不十分のためか通報自体が急性期脳硬塞のゴールデンタイムを超えてしまっていることがしばしばあり、tPA投与対象患者も増えない一因となっている。
    次に入院後の問題として、SCUからの退室先である一般病棟が患者の高齢化や病室の回転率があがっていることなどから介護度が高くなり、看護師の負担が以前よりも高くなっていることがある。また、転院先として回復期リハビリテーション病院については、当院の近隣に受け入れ先となる病院があるが、療養型病床や老健などの施設は不足しているため転院が遅れてしまうことが増えてきている。この点に関しては、昨年から脳卒中地域連携パスの作成を通して地域の医療機関との連携を深めていくことで弾力的な運営ができるように努力しているところである。
  • 橋本 洋一郎
    セッションID: workshop2-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉1990年代に脳卒中急性期医療に関して、2つの可能性が現れた。第一に、stroke unit(SU、脳卒中専門病棟)の有効性がメタアナリシスによって明らかにされ、WHOと欧州脳卒中評議会がHelsingborg宣言においてその必要性を指摘し、欧州を中心にSUの導入が開始された。なお欧州のacute SUとは普通、発症後1週間以内の症例を診療し、1〜2週以降を診療するのがrehabilitation SUという。第二に、1996年、米国において発症3時間以内の脳梗塞に対する経静脈的血栓溶解療法(遺伝子組み換え型組織プラスミノーゲンアクチベータ:rt-PA、アルテプラーゼ)が一般診療として開始され、発症3時間以内に脳卒中患者の入院治療を開始できる診療態勢の整備が開始された。Acute SUが、急性期に特化するためにはリハ専門病院との医療連携を強化した脳卒中診療ネットワークの構築が必要である。
    〈方法〉1993年に当院に赴任した時の熊本における脳卒中医療の問題点として、_丸1_1つの施設に多くの脳卒中患者が集まらないため大きなチームが組めない零細な診療態勢である、_丸2_脳卒中専門医、特に内科医が少ない、_丸3_病院完結型(急性期から回復期まで同一施設で治療)が多く急性期治療ベッドが不足する、_丸4_脳卒中専門施設にリハ専門医がいない、リハスタッフが少ないことから十分な急性期リハが行われていない、_丸5_救急部、集中治療部、脳神経外科、神経内科、リハ科、循環器内科などの多くの科を持ち、多数の脳卒中患者を24時間いつでも受け入れて高度先進医療を提供できる急性期入院治療が少ない、などがあった。1995年に急性期病院とリハ専門病院との連携の会を立ち上げ、患者・家族とともに医療従者の両者にメリットのある連携を行うように討論を開始した。また同年、脳卒中パスの原型となる脳梗塞安静度拡大マニュアルを作成し、医療の標準化とともに院内連携の強化も行った。
    〈結果〉急性期病院とリハ専門病院との連携強化により急性期病院の在院日数が急速に低下し始めた。神経内科の平均在院日数は、連携を開始した1995年23.3日、1998年15.3日、1999年14.9日、2000年13.9日となった。1995年に移転したときに神経内科が開設された済生会熊本病院では、1998年にはすでに14日を割っていた。連携先のリハ専門病院である熊本回生会病院では発症から入院までの期間は、1992年43.5日、連携開始後の1996年28.1日、1998年23.5日で、ほとんどの症例が1ヵ月以内に急性期病院から転院してきていた。アウトカムに差がなく、平均在院日数が、260日、164日、117日と急速に低下し、さらに多くの脳卒中患者を受け入れることができるようになった。Acute SUとrehabilitation SUが地域で連携していると考えている。なお当院ではstroke care unitはなく、mobile stroke team(unit)である。その問題点としては、1.導線が長く主治医の負担が大きい、2.病棟ごとで脳卒中患者に対する対応が若干かわってくる。一方、1.早期離床・早期リハ、栄養管理、感染対策、深部静脈血栓症対策などで死亡率の低下、2早期の退院・転院が可能、患者・家族とのトラブルも激減、3若手医師の教育が多職種で可能となったなどが挙げられる。なお重傷例は救急病棟やICUで治療を行っている。
    〈結語〉急性期病院のacute SUと回復期リハ病院のrehabilitation SUの連携により、多くの脳卒中患者がより専門的な急性期医療と回復期リハが受けられるようになった。
ワークショップ3
  • 戸村 成男, 木澤 義之
    セッションID: workshop3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    高齢社会の到来、がんをはじめとする生活習慣病(成人病)の増加、医療や福祉を必要とするいわゆる脆弱高齢者の増加により、終末期医療および緩和ケアの在り方が重要視されてきている。緩和ケアというと、がんに対する終末期医療ととらえられがちだが、緩和ケアはその姿を大きく変えつつあり、がんからその他の慢性疾患へ、終末期だけでなく病気の初期から提供されるようになってきている。
    WHOは2002年に、緩和ケアを以下のように定義している。 『生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する患者と家族に対し、疼痛や身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を早期から正確にアセスメントし解決することにより、苦痛の予防と軽減を図り、生活の質(QOL)を向上させるためのアプローチである。』
    つまり、緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に伴う痛みをはじめとする体のつらさ、気持ちのつらさ、療養場所や医療費のことなど患者や家族が直面するさまざまな問題に対し援助する医療のことである。また緩和ケアは、病気の時期や療養の場所を問わず、いつでもどこでも提供されることが必要である。従来緩和ケアは『看取りの医療』と取られがちであったが、可能な限り療養生活を快適にするために、がんの痛みをはじめ、さまざまな症状を和らげる治療(緩和ケア)が、早期から行われることが重要であると考えられてきている。
    日本政府も2007年にがん対策基本法の中で、療養生活の維持向上のために、早期から緩和ケアが適切に導入されることの重要性を述べている。 また、平成20年度の診療報酬改定では緩和ケア病棟にがんとAIDS以外の疾患を持つ患者に関しても出来高払い制を使用すれば診療報酬を請求できる(公式に入院できる)ように制度改革がなされた。日本でも今後緩和ケアはがん以外の疾患にも広く適用されること、また地域において患者家族のニードに応じていつでもどこでも提供されることが重要視されてきている。
    このワークショップでは、地域における緩和ケア・終末期医療の現状を緩和ケア病棟、緩和ケアチーム、診療所、特別養護老人ホームそれぞれの実践の場から報告していただくとともに、以下の点について討論を行っていく。
    (1) それぞれの場での緩和ケアと看取り
    (2) 診療所と訪問看護ステーションの連携
    (3) 診療所と病院の連携
    (4) 特別養護老人ホームと病院・診療所の連携
    (5) 専門緩和ケアサービスと医療・福祉の連携
    第1線の現場で働く演者と聴衆の討論により「いつでも、どこでも、とぎれないケアを提供できるよう」今後の課題を明らかにし、聴衆に明日からの診療に活かせる『何か』を持ち帰っていただけるようなワークショップにしたいと考えている。
  • 木澤 義之
    セッションID: workshop3-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉WHOは2002年に、緩和ケアを以下のように定義している。
    生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する患者と家族に対し、疼痛や身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を早期から正確にアセスメントし解決することにより、苦痛の予防と軽減を図り、生活の質(QOL)を向上させるためのアプローチである。
    つまり、緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に伴う痛みをはじめとする体のつらさ、気持ちのつらさ、療養場所や医療費のことなど患者や家族が直面するさまざまな問題に対し援助する医療のことである。また緩和ケアは、病気の時期や療養の場所を問わず、いつでもどこでも提供されることが必要である。従来緩和ケアは『看取りの医療』と取られがちであったが、可能な限り療養生活を快適にするために、がんの痛みをはじめ、さまざまな症状を和らげる治療(緩和ケア)が、早期から行われることが重要であると考えられてきている。日本政府も2007年にがん対策基本法の中で、療養生活の維持向上のために、早期から緩和ケアが適切に導入されることの重要性を述べている。
    体や心のつらさは、進行したがん患者だけではなく、がんと診断された早期の患者や慢性疾患も抱えていることがまれではない。そのため、可能な限り早期から上手に緩和ケアを利用することが重要であり、欧米では広く浸透している。
    〈方法〉
    国内外の様々な調査及び統計資料をレビューし、我が国の緩和ケアの現状と問題を明らかにする。
    〈結果〉
    緩和ケアに対する国民のニードと現実のギャップには以下のようなものがあることが明らかとなっている。
    (1)高齢化に伴いがんをはじめとする生命の危険を伴う疾患を持つ患者が増加の一途をたどっている
    (2)「安心して治療を受けられる」と考えている人は半数以下<BR> 緩和ケア普及のための地域プロジェクト(http://gankanwa.jp)に先立って行った一般市民への調査では、がんになったときに、「安心して治療を受けられる」と答えた方は約40~60%、「苦痛や心配に十分対処してもらえる」と答えた方は約20~60%、「安心して自宅で療養できる」と答えた方は約10%であった。これは、がんになった時に、苦痛や心配に対処してもらえること、自宅で安心して療養できると感じる市民は少ないことを意味している。<BR> (3)緩和ケアを行っている医療サービスが少ない
    緩和ケアを行う形態としては、緩和ケアチームやホスピス・緩和ケア病棟などがある。日本ではこのようなサービスを利用しているがん患者は10%以下に過ぎない。しかし、イギリスでは70%以上の患者が緩和ケアチームを、米国でも多くの患者が在宅のホスピスケアプログラムを利用している。保険制度が異なるため単純に比較はできないが、十分な緩和ケアを受けている患者が少ないことが推定される。
    (4)痛みの治療で使われる医療用麻薬(オピオイド)の消費量が少ない
    オピオイドは、安全で有効な痛みの治療薬である。しかしながら、ICBN(International Narcotics Control Board)の2007年度版報告書によれば人口当たりのわが国の医療用のオピオイド消費量は、アメリカ合衆国、カナダ、ドイツ、オーストラリア、フランス、イギリスと比較して少なく、最も消費量の多いアメリカ合衆国と比較すると1/50 、イギリスと比較しても1/7と少量である。保険適応や人種差などの影響はあるが、患者の痛みが十分に和らげられていないことが推定される。
    (5) 患者の希望する療養場所と実際に亡くなる場所に差がある
    日本の調査では、がんが進行したときに希望する療養場所は、自宅が約10~40%、緩和ケア病棟が約30%である。一方、実際に患者が亡くなられる場所は、ほとんどが一般の病院で、自宅、緩和ケア病棟は10%以下である。こうしたことから、患者が希望する場所で療養できる体制が十分に整備されていないことが推定され、療養場所にかかわらず苦痛が緩和でき、希望する場所で療養できるシステムをつくっていくことが必要であると考えられる。
    (結語)
    以上のように、我が国の緩和ケアの現状について概説しその課題を明らかにした。今後このような課題を解決するために様々な努力と取り組みを行っていきたい。
  • 山本 亮
    セッションID: workshop3-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    佐久総合病院は長野県東信地区に位置する病床数821床の地域中核病院であり、地域がん診療連携拠点病院に指定されている。地域がん診療連携拠点病院の立場から、まず当院が提供している専門緩和ケアサービスについて紹介し、地域で緩和ケアを展開していくために当地域で行っている活動と将来の展望について報告する。
    (1)専門緩和ケアサービス
    1.緩和ケアチーム
    緩和ケアチームは平成17年度から活動を開始し、1年間に50名程度の新規依頼に対応している。依頼理由は、疼痛コントロールが最多ではあるが、精神症状、患者本人や家族の不安への対処などの依頼も多い。また、緩和ケアチームは、院内への緩和ケアの普及と教育という役割も期待されている。医師だけでなく、看護師や薬剤師をはじめとしたコメディカルスタッフも対象とした緩和ケアセミナーを定期的に開催し、緩和ケアに対する普及・教育活動も行っている。
    2.在宅緩和ケア
    在宅緩和ケアは、当院の特徴の一つである地域ケア活動の一環として行われている。当院を中心とした半径約15km圏内(車で30分程度)を守備範囲とし、末期がん患者の在宅療養を支援している。毎年40名程度の末期がん患者が在宅緩和ケアサービスを利用し、そのうち7〜8割の患者が在宅死を迎えている。在宅緩和ケアというと、在宅死を支えるためのサービスと捉えられがちであるが、私たちは何がなんでも在宅死とは考えていない。最期まで在宅で過ごすことを希望して在宅療養を行う患者・家族だけでなく、良い時間を在宅で過ごし、いざというときには入院したいという希望も尊重して在宅療養を支え、必要に応じて入院での対応も行っている。
    (2)地域での取り組み
    緩和ケアが地域に普及していくためには、当院が緩和ケアを実践していくだけではなく、地域全体で緩和ケアが実践できるような体制を作っていくことが必要であり、その役割が地域がん診療連携拠点病院に求められている。このため当院では、地域の病院、診療所、訪問看護ステーション、保健所を巻き込んだ「東信緩和ケアネットワーク」というネットワークを構築し、本年度より活動を開始することとした。具体的な活動内容としては、メーリングリストを開設し、困ったときに気軽に症例の相談ができる体制を構築すること、事例検討会を含めた緩和ケアに関する勉強会の定期的な開催などを予定している。まだ動き出したばかりであるが、顔の見える関係作りをしていくことで、各医療機関が点として活動するのではなく、地域の緩和ケアが面として広がっていくことが期待できるのではないかと考えている。将来的には、拠点病院の緩和ケアチームが地域の医療機関からのコンサルテーションにも対応し、必要に応じて病院や在宅に出向いてアセスメントを行うことができるようになったり、地域の医療機関からの短期間の研修の受け入れが可能になればと考えている。
  • 佐藤 弘茂
    セッションID: workshop3-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    最近の緩和ケアは、従来のがんに対する終末期医療だけにとどまらず、その他の慢性疾患に対してもより早期の段階からの対応が望まれており、確実にその守備範囲を広げている。より良い療養生活の維持向上のために、患者だけでなく、その家族も含めて諸問題を解決していかなければならない。身体面、心理面、社会的問題、経済的問題などに対して総合的に広い意味での医療行為を提供していかなければならない。私は24時間在宅療養支援診療所の開業医という立場で多くの医療関係者にご協力をいただきながら緩和ケアに関わっている。そして最前線における自分の役割について日々自問自答しながら活動している。以下の項目に分けて当院の診療業務内容を説明し、今後解決すべきと思われる問題点を提示する。
    1.私が開業に至った経緯
    2.地域医療を志した理由
    3.当院の概要
    4.当診療所における緩和ケアの活動
    5.地域における緩和ケアの中で当院の果たす役割について
    6.今後解決すべき問題点
  • 宇都宮 和子
    セッションID: workshop3-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    (はじめに)
    その人らしい、その人の望む介護をどこまで支えていけるか、特養の重要な役割になっています。当施設においても終末看取り介護を希望される方が多くなり、最期まで1人の人間として尊重し、生活の沿線上として、共に支え合う看取り介護に取り組んでいます。他職種間の連携やチームケアの視点から報告します。
    1.チームケアの体制
    チームの柱は施設の理念、看取り介護に対するスタッフの死への思いの共有です。当施設の基本方針は(1)利用者に喜んで仕えるケア(2)抑制のない尊厳のあるケア(3)他職種間の連携です。しかし、20年前は怖いもの知らず、末期ガンの方を看取りました。無知からのスタートは多くの反省点と看取り介護の重要性を教えてくれました。幸い当施設の場合は、隣に診療所があり、昼夜問わず医師が足を運んでくれるので、その都度アドバイスを受けられる環境にあります
    現在、入所契約から看取りまでの流れとして(1)カンファレンスの中で利用者のニーズに沿い誰でも実行できるケアプランを作成し、日々の記録は家族に毎月送付。(2)緊急時の連絡マニュアルを作成し、急変時には医師の指示をもらう。吸引、酸素量、バイタルチエックの確認をします。
    (3)本人又は家族の生前の意思を確認し、希望者には家族の協力の元で看取り介護を実施します。具体的に医師からの説明の中で終末期に入ったことを確認、同意書を頂き、ケアプランに沿った看取り介護を実施します。
    (4)「お別れ会」はチャペルで実施。施設における看取り介護はスタッフだけでなく、そこで生活する利用者、家族との連携を大切にしています。
    2.利用者の家族との連携状況
    昨年、看取り介護に関する事前調査をしました。入所者50名のうち、看取り介護希望者は39名、判断がつかない8名。延命処置を希望しない37名、判断がつかない10名。胃瘻造設を希望しない36名、希望する3名、判断がつかない8名でした。この看取り介護の希望者の特徴は面会の多い家族です。現在利用者の最高齢者は108歳、90歳以上の方が4割を占め、当施設の看取り介護は入所からスタートしている状況です。特に終末期は家族の心の変化も多く出ますので、頻回にカンファレンスを継続します。特に食事摂取が困難になったとき、胃瘻にするかどうか、家族は悩みます。どちらを選択しても最期まで看取ります。看取り介護の事例から学んでいることは家族・本人の思いです。最期まで尊厳のあるケアを受けたい、痛みの軽減と清潔保持・穏やかな環境の中で看取りたいと言う思いです。スタッフも最期まで看取る事によって命の尊さに触れ、介護のすばらしさ、重さを痛感しています。
    3.医師・看護との連携と役割の明確化
    当施設の看取りは年に4人から5人です。職員状況は正看護師1名、准看護師3名、医師週3回夜間対応、ナースはオンコール体制をとっています。管理栄養士1名、調理師9名、介護士30名で対応、その中心で医療・家族の連携とパイプ役をしているのが主任相談員で、そのすべての責任は施設長にあるというシステムをとっています。具体的には医療と介護職のすること、栄養士・調理師のする事など役割分担を明記しています。役割の明確化は、緊急時の対応マニュアルや緊急連絡網にいかされています。終末の看取り介護の基本は医師の指示の元で実施されるので、お互いのインフォームドコンセントも重要と考えています。
    4.ケアの資質向上を目指して(アンケートから)
    職員がどのような思いで看取り介護に取り組んでいるか。19年10月20日アンケート実施。
    _丸1_利用者にどんな最期を迎えてほしいですか
    (アンケートの中から抜粋)
    ・本人、家族の希望を優先にその人らしい最期を迎えてほしい。最後まで後悔しないよう支えていきたい。・穏やかに家族と共に時を持ちながら、ホームで最後を迎えてほしい。医療は苦痛を除く程度。長い生涯の最後の場所です。食事を通して喜んで頂けるようにお手伝いをさせて頂きたい。笑顔が何より、祈り、祈られて最後を迎えてほしい。
    (まとめ)
    看取り介護の基本視点は(1)基本方針の共有(2)利用者の立場に立ったケアプラン作成(3)インフォームドコンセントと職種間の連携です。特に家族の求めていることは、利用者の尊厳と緩和ケアです。緩和ケアは身体・精神の両面からの支援です。利用者、家族の思いを受容し、環境を整え、最期まで、共に看取る姿勢を大切に取り組んでいます。
ワークショップ4
  • 家坂 義人, 青沼 和隆
    セッションID: workshop4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    不整脈治療の最前線における進歩として、従来まで不整脈治療の主役であった抗不整脈薬治療に替わって、高周波カテーテルアブレーション(radiofrequency catheter ablation、CA)や埋め込みデバイスを用いた非薬物治療が主力となったことを挙げることができる。CAは、1990年以降わが国に導入され、高周波カテーテル心筋焼灼術と呼ばれ、近年、広く普及している。専用の電極カテーテルを大腿静脈や動脈から心臓内に挿入し、頻拍発生起源と確認された異常興奮発生部位や興奮旋回路上に先端電極を固定し、電極を通して高周波電流を通電して直径3mm程度の心筋組織壊死巣を形成し、頻拍の発生基盤を消滅させるカテーテル手術治療である。本治療法は外科手術と異なり全身麻酔を必要とせず侵襲が少なく、根治的治療であり治療成功後は投薬や通院などの必要がなくなり、たとえ再発した場合でも再施行が可能であるといった多くの利点を有する。 本治療法は導入以来、15年以上の実績を有し、経験を積んだ施設においては、有効性と安全性は十分に満足できるものであることが明らかとなっている。従って、とくに若年者の発作性上室性頻拍、通常型心房粗動や特発性心室頻拍に対しては、有効性・安全性も高く、第一選択の治療法として既に位置づけられている。さらに、異所性心房頻拍、心房切開手術後心房頻拍その他の非通常型心房粗動や基礎心疾患を有する心室頻拍に対しても、その発生機序については知見の十分な集積があり、3次元マッピング装置などを用いる必要はあるが、CAの高い有効性が認められ必須の治療法となっている。 現在、CAの最前線では、その発生機序が未だ十分に解明されていない、心房細動(atrial fibrillation、AF)や心室細動(ventricular fibrillation、VF)に対して、従来の発生基盤そのものを除去する戦略とは全く異なる、頻拍開始の引きがね(トリガー)を標的とする新たな戦略に基づいたCA法が開発され、その発展が推し進められている。AFにおいては、トリガーの発生起源部位が90%以上の症例において肺静脈(pulmonary vein、PV)であるとの知見から、PV―左房間伝導をブロックする目的で開発された拡大PV隔離アブレーションが、発作性AFに対する基本的CA手技として確立された。経験ある施設においては、発作性AFの根治率は90%を超えている。慢性AFに対しては、トリガーの除去を目的とした拡大PV隔離に、左房内に広く存在するAF開始や持続の基質除去を目的とした、線状アブレーションや電位指標下の領域アブレーションを付加する戦略が行われ、抗不整脈薬併用例を多く含むが、発作性AFに匹敵する有効率が認められている。発作性AFの慢性AFへの進行をくい止め、慢性AFの洞調律化の維持を可能とすることは、AF患者のQOLを改善するのみではなく、脳血栓塞栓症や心不全の発生を予防し生命予後の改善することであり、アブレーション法の確立の意義は大きい。いっぽう、VFに対しても、特発性VFあるいは急性心筋梗塞後のVFにおいて、病的プルキンジ電位を先行電位とするトリガーのマッピングとアブレーションの有効性が報告され、アブレーション治療と埋め込み型除細動器(ICD)とのハイブリッド治療が行われ、患者のQOLのみではなく生命予後の改善をもたらしている。さらにAFやVFに対するトリガーを標的としたアブレーション戦略の成功が、頻発し症状を有する期外収縮即ち、通常の心室性あるいは心房性期外収縮に対するアブレーションの適応拡大を促した。従来はもっぱら薬物治療の対象と考えられていたが、1日に10000~15000発を超える特発性例では薬物治療抵抗性例が多く、アブレーションにより根治できることの意義は大きい。 本ワークショップにおいては、先に述べた最前線における新たなアブレーションを実施しているセンター病院のパイオニアの先生方、および地域中核病院においてアブレーションを立ち上げ、取り組んでおられる先生から現状をお話しいただき、最前線でのアブレーション治療の現況と将来、およびそれら最前線医療を多くの患者へいかに提供できるかなどの諸点についてディスカッションしたい。
  • 藤本 学, 打越 学, 木山 勝, 桶家 一恭, 山本 正和
    セッションID: workshop4-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    当院の所在する富山県は県のほぼ中央に位置する呉羽町を境に、西を呉西、東を呉東と呼び、それぞれの地域の救急医療に関しては、呉西地区は厚生連高岡病院を、呉東地区は富山県立中央病院を3次救急の指定病院として各地区の救急体制が構築されています。当然、循環器疾患をはじめとする救急治療が必要なケースは両病院に集中して来ました。急性心筋梗塞や心不全などは以前より1年と通して24時間体制での対応がとられておりました。しかし、不整脈治療に関しては、4年前までは、アブレーションやICDなどの植え込みに関しては、他病院に依存していました。地方ではありますが、3次救急を担う病院としては、是非、必要とする分野であること、および、ICDの施設基準(主に手術症例数に関してですが)の緩和や、心臓電気生理検査の機器の更新により、3年前よりアブレーション治療を、2年前よりICD植え込み術を始めました。ICDは平成19年1月より開始しましたが、平成19年にはCRTDを含めて12台の植え込みを行いました。アブレーションに関しては平成17年より開始し、平成19年には67例であり、心房細動症例も徐々に増加しています。広く、北陸地方(福井県、石川県、富山県)におけるアブレーションの現状に目を向けると、平成19年度では福井県186例(Af50例)、石川県318例(Af76例)、富山県207例(Af32例)のアブレーションが行われています。各県の人口1万人あたりの治療件数は、福井県2.28人、石川県2.71人、富山県1.87人です。昨今のアブレーション対象例のなかで心房細動例の占める割合を考えると、今後、更に増加していくことが予想されます。ただし、富山県下においても、当院でのアブレーションやICD植え込みなどの不整脈治療は富山県立病院や富山大学病院に比較して知られておらず、広報誌や開業医との勉強会を通しての、紹介を始めています。
  • 鵜野 起久也
    セッションID: workshop4-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】心房細動は、心房―心室の電気的興奮応答の非同期に起因する心臓ポンプ機能の障害と心内凝固機能の亢進による血栓・塞栓症を容易に来たし、さらには心房細動の持続が心不全の増悪の素地を形成することが知られている。心房細動の治療として血栓塞栓症の予防のための抗凝固療法が積極的に行われている反面、その調律の管理に関しては一定の見解が示されていなかったが、2002年には薬物内服治療による心房細動調律に対する、心拍コントロールと調律コントロールの予後に関するAFFIRM研究が発表された。クマリン系抗凝固薬の塞栓症に対する優位性が示されたものの、心拍・調律コントロール群いずれの群においてもそれぞれ洞調律・心房細動持続患者が相当数含まれていたためにその優劣に関しては正当な評価は得られなかった。しかし、その後に発表されたAFFIRMのメタ解析研究で、1)洞調律が死亡のリスクを減弱すること、2)抗不整脈薬の使用が死亡率を増悪すること、が明らかとなった。従って心房細動の治療では洞調律維持が重要であり、低侵襲で安全性・有効性の高い治療を積極的に考慮すべきであると考えられている。
    以上を踏まえ、我々は心房細動に対して積極的な洞調律化を図るべく、カテーテルアブレーションによる心房細動の根治治療をすすめている。本院におけるカテーテルアブレーションの現況を呈示し洞調律維持の治療指針を示す。
    【発作性心房細動に対するカテーテルアブレーション】発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションとして本院にて開発され、現在本邦における心房細動アブレーションのスタンダードとなっている同側両肺静脈拡大隔離術(EEPVI)は、肺静脈と周囲の左房前庭部から前壁部分を焼灼し、心房細動の起源・細動基質を電気的に消失・修飾することにより根治することが可能である。EEPVI原法では、左房―肺静脈間の局所電位を通電指標とするものの左房・肺静脈形態をX線透視下に視覚的に認識することにより焼灼部位を決定しているために、既焼灼熱部位の正確な再同定が困難であることから各焼灼部位の三次元的位置の同定(空間的分解能)の精度が劣っていることが問題であった。我々はEEPVI原法にElectro-anatomical location mappingを併用し、空間的位置の同定が再現性を持って可能となり、さらには総通電エネルギー量・透視被爆量・手術時間のいずれも有意に減少させることが出来た。また、EEPVIによる予後においても洞調律維持率は4年におよぶfollow-upにても92%と良好である。【遷延性および長期持続性心房細動に対するカテーテルアブレーション】遷延性心房細動に対してもEEPVIにより高率に洞調律維持が可能であることが当科の治療結果が示している。一方、心房細動が長期に持続する長期持続性心房細動(>1Y)では、心房の電気的・形態的リモデリングの進展により心房細動の起源・基質として心房筋を巻き込むと考えられるため、EEPVIによる肺静脈とその周囲組織の電気的隔離のみでの心房細動根治は76%以下と低値であることが示された。これは、非肺静脈性trigger・心房筋でのrotorの出現と興奮性の亢進、さらには心房自律神経叢のリモデリングと活性化などが要因とされ、長期持続性心房細動では、心房細動の持続に関与する心房基質に対するアブレーションを付加することが必要である。心房細動持続基質を示す心房心内膜電位指標として、持続性心房破砕電位(continuous fractionated atrial electrogram: CFAE)、AF nest電位などが主に左房筋に認められていることが報告されているが、長期持続性心房細動に対して洞調律化を図るべく、左房におけるCFAEの分布領域を同定して主たるCFAE局在部位を線状に焼灼する、EEPVI付加段階的左房線状アブレーションを考案した。すなわち、EEPVIに加え左房天蓋部・底床部・左房中隔・僧帽弁輪―冠静脈洞・大心静脈基部・僧帽弁輪―左下肺静脈間・左心耳に段階的線状アブレーションを施行し良好な結果を得ている。今まで困難とされてきた長期持続性心房細動の洞調律維持の短期および長期成績とその問題点を明らかにし克服することにより今後の展望に言及する。
  • 野上 昭彦
    セッションID: workshop4-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉 カテーテルアブレーションによって多くの上室性頻拍は根治されるようになり,現在では治療の第一選択にもなっている。しかし,器質的心疾患に伴った心室頻拍(VT)におけるカテーテルアブレーションの成功率はけっして高いものではなく,また心室細動(VF)に至ってはその機序が完全には解明されていないこともあって,そのアブレーションには課題が多かった。埋込型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator; ICD)の出現でVT/VFの予後は著明に改善した。しかしVT/VFはいったん生じるとelectrical stormの状態に陥ることもあり,またQOLの観点からも,VT/VF発生を抑制する治療が必要である。近年,VTやVFに対する新たなカテーテルアブレーション手法が開発されてきている。
    〈瘢痕組織を旋回するVT〉 器質的心疾患に伴うVTは8の字型マクロリエントリーとよばれる回路をその機序とすることがほとんどである。その際,心室内の瘢痕組織間,瘢痕領域内,あるいは瘢痕組織と房室弁輪間の残存障害心筋が緩徐伝導峡部位となり,回路の共通路となっている。血行動態が安定しているならばVT中にマッピングを行い,その回路を同定することも不可能ではないが,器質的心疾患に伴ったVTでは血行動態が不安定なことが多く,またVT回路も単一ではないことが多いため,そのような方法には限界がある。近年,Electroanatomical mappingによるsubstrate mapping法が開発された。この方法は洞調律時に心室内をマッピングし,低電位領域部位および伝導遅延部位を同時に同定し,VT回路の共通路となりうる峡部を順次焼灼してゆく手法である。Hsiaらはvoltage mapにおいて表示スケールを変更することによりVT回路峡部を明らかにする方法を報告した。またOzaらはvoltage map上の瘢痕部周辺を詳細にペースマップすることにより標的とすべきVT exitが明らかになるとした。一方,Bogunらは洞調律時にQRS後方に遅れて記録される孤立性遅延電位(isolated delayed potential; IDP)が回路の同定に重要であるとしている。
    〈心外膜アプローチ〉 心内膜側からのmappingやアブレーションで解決されないVTに対して,心外膜アプローチ法が考案された。従来の心臓マッピング法は経血管的に心腔内をマッピングするものであったが,心内膜側には頻拍の機序となる部位が存在しなかったり,心内膜側からアブレーションを行っても無効であったりした症例では心外膜側に標的とすべきVT基質が存在することが多いことがわかってきた。
    〈心室細動に対するアブレーション〉 近年,特発性VFのトリガーとなる心室性期外収縮(VPC)が注目されてきている。Haissaguerreらは特発性VFの起こり始めに認められる多形性VTの起源が左室あるいは右室の末梢Purkinje組織であり,その部位に対するカテーテルアブレーションでVFが抑制可能なことを報告した。また虚血性心疾患における反復性VFにおいてもカテーテルアブレーションの有効性が報告されている。心虚血治療にてもコントロール不能な反復性VFに対する電気的bail-outに緊急カテーテルアブレーションはきわめて有効である。アブレーションによるVF根治の可能性はVF治療にとって大きな進歩であった。しかし,その慢性効果に関しては未だ不明で,予後の観点から未だICDのバックアップは必須であると考えられる。
    〈まとめ〉 様々なアブレーション手法の出現によって難治性VTやVFに対する治療に大きな突破口が開かれた。致死性心室性不整脈治療においては決してひとつの治療法に固執することなく,アブレーション,ICD,抗不整脈薬治療のすべてを組み合わすことが重要である。
  • 夛田 浩
    セッションID: workshop4-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    近年のカテーテル焼灼術の普及と施行症例数の増加,および焼灼技術・機器の目覚しい進歩により,焼灼術の適応となる不整脈疾患は拡大しつつある.
    心室性期外収縮はたとえ単形性であっても時に重篤な症状を呈し,仕事の従事・継続が困難となる,あるいは運動やスポーツ競技への参加等が困難となり,結果として日常生活のQOLを著しく低下させる可能性がある.従来,このような有症候性心室性期外収縮に対しては,抗不整脈剤による薬物療法がおこなわれてきた.しかしながら,薬物療法には,1)有効性は必ずしも高くない,2)催不整脈作用を含めた副作用発現の可能性がある,3)妊娠・出産を希望する症例では継続投与が困難である,4)長期服用の場合にはお金がかかる,5)投与した薬剤をいつ漸減するか,あるいは中止して良いかの判定が困難である等の種々の問題点がある.近年,有症候性の単形性心室性期外収縮に対する根治療法として高周波カテーテル焼灼術の有用性が報告された(Zhu DW, et al. J Am Coll Cardiol 1995;26:843, Lauck G, et al. PACE 1999; 22 [Pt.I]: 5, Lauribe P, et al. PACE 1999; 22: 783).その後,頻回の単形性心室性期外収縮によって頻拍誘発性心筋症(Tachycardia-induced cardiomyopathy)が惹起されること,そして,カテーテル焼灼術による心室性期外収縮の根治により心機能が著明に改善することが報告された(Yarlagadda RK, et al. Circulation 2005;112:1092, Takemoto M, et al. J Am Coll Cardiol 2005;45:1259).さらには心不全などの心機能低下のマーカーである血清BNP濃度が頻回の単形性心室性期外収縮により上昇し,カテーテル焼灼術により期外収縮が著減,あるいは消失した場合には上昇した血清BNP濃度が改善,あるいは正常化することも報告された(Sekiguchi M, et al. J Cardiovasc Electrophysiol 2005;16:1057, Tada H, et al. PACE 2006;29:1395).現在,日本循環器学会のカテーテル焼灼術のガイドラインでは頻発性単源性心室性期外収縮に対するカテーテル焼灼術はクラスIIa,あるいはクラスIIbに分類されているが,今後症例数の増加,焼灼後の有用性のエビデンスの増加と安全性の確立によりクラスIになる可能性がある.
    心臓には交感系・副交感系双方の自律神経線維が豊富に分布しており,焼灼に伴い心筋だけでなく分布している自律神経系にも傷害が起こりその機能に変化が起こりうる.近年,カテーテル焼灼術により神経調節性失神,洞機能不全,あるいは房室ブロックが改善すること事が報告された(Hocini M, et al. Circulation 2003;108:1172, Pachon JC, et al. Europace 2005;7:1, Pachon JC, et al. PACE 2006;29:318).従来から洞結節,あるいは房室結節近傍の焼灼後の合併症として知られていた洞機能不全や房室ブロックが,逆に焼灼術により改善するということで本法は注目されているが,未だその手技は確立されていない.また,焼灼術後の長期予後は不明であり,今後のさらなる進展と治療結果の報告が待たれる.
ワークショップ5
  • 玉置 久雄, 谷畑 英一
    セッションID: workshop5
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    診断群分類(DPC:Diagnosis Procedure Combination)に基づく医療費包括評価は平成15年特定機能病院82施設、平成20年731施設が対象となり、21年度には1400施設にも達することが見込まれております。厚生連の病院でも、平成18年6施設、平成20年18施設がDPC対象病院となり、平成19年の準備病院が34施設あります。平成20年に準備病院が2施設加わり、全国厚生連122病院のうち、60病院がDPCに何らかの関わりを持っております。DPCの計算方式は「1日当たりの包括評価」=「診断分類ごとの1日当たりの点数」×「医療機関別係数」×「入院日数」ですが、医療機関別係数は調整係数と機能係数よりなり、調整係数により対象病院の前年度の収益が担保されるように調整されております。導入病院の当初の実績が増収増益であったため、日本中の病院が興味を示し、参加することが一種のブームとなってきております。また、医療の質の改善として在院日数の短縮、医療の透明化、クリティカルパスの活用など経済性のみならず医療面にも有効な効率化がみられております。
    他方では、在院日数の短縮が病床利用率の低下や過渡な退院促進による再入院率の上昇を招き、減収や質の低下を危惧する向きもあります。不適切なコーディングによる減収や増収にも神経を払わねばなりません。2年後には調整係数が廃止されることが示されております。このような制度下ではたして中・長期的な計画が組めるのでしょうか。
    以上のように、DPC医療には「光と影」といったような面があり、その狭間にありながら私達は揺れ動くことなく、この制度をよく理解し運営すれば包括制度の良さが発揮できるのではないでしょうか。
    このワークショップではDPC病院の目指すべき方向を探るべく、「光と影」について討論していただき、更なる理解を深めたいと願っております。
  • 西澤 延宏
    セッションID: workshop5-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    佐久総合病院は、平成18年4月にDPC対象病院となった。DPCは、医療の質の向上を第一義として導入したが、この2年間の成果と問題点について考察する。
    DPCを導入するに当たり、まず、一番のポイントは、診療情報管理体制の強化にある。適切なDPCを決定し、それに基づいて診療報酬を請求することになるが、DPCを決定すべき医師たちが、必ずしもDPCに精通していない上に多忙なので、正確なDPCの決定を期待することは難しい。そのために診療情報管理課と医事課を同一フロアとして連携を強化し、医師のDPC決定の補完体制を構築した。これは正確なデータを得て、適切な診療報酬を請求する上でも極めて重要なことであり、ここで得られたデータを元に様々な面での分析やベンチマーキングを行うことができた。
    第二のポイントとしては、標準化の推進である。特にクリニカルパスの充実には重点を置き、クリニカルパス専任師長を配置し、パスの作成・見直しを精力的に行った。また、日帰り手術センターに併設する形で術前検査センターを設置し、術前検査を可能な範囲で外来で行うと共に説明の標準化を行った。また、平成17年度より、地域医療連携室に専任師長を配置し、後方連携を中心に活動し、地域連携パスも発展していった。
    第三のポイントとしてのコスト削減である。特に医療の質を担保した上での医薬品費の削減が必要であり、十分な準備をした上での後発医薬品の導入や血液製剤の使用方法の見直しなどを行った。
    以上のような従業員全体としての取り組みを行った中で、平成19年度より7:1看護体制加算を算定できたこともあり、DPC導入は経営的に大きくプラスに働いた。また、DPC導入により、当初目指したように標準化が徐々に進み、医療の質が向上する傾向にある。
    しかしながら、問題点もいくつか認められる。データの作成・新しい診療報酬体系への対応など事務職員にかかる負荷は大きくなり、増員や院内体制の見直しが必要となった。また、システムの導入や院内の施設整備などにもかなりのコストが必要となった。一方、DPC制度の欠陥による減収も看過できない問題である。多発外傷や癌の化学療法などではマイナスになりやすく、ターミナル期にある患者において、麻薬や症状を緩和する薬を使用することでも大きなマイナスになることもある。特に超短期の入院でマイナスになるのは大きな問題であろう。
    データに基づいた改善を行ううえで、医師の協力は欠かせないが、当院では、分析ソフトを全医師にオープンとして自主的な改善を促してきた。全体としては協力的であるが、問題のある部門もある。そういった部門の担当医師は多忙すぎて診療スタイルの変化を行う余裕がない場合が少なくない。その場合、管理側からの適切なアプローチや介入を行うことが必要である。
    DPCは医療の「ものさし」としてベンチマーキングできることが最も大きな利点であり、今後、様々な病院とベンチマーキングできる体制を構築していきたい。現在、長野県厚生連病院全体としての体制整備を検討している。DPC環境下では、農村地域は標準化しにくい患者さんが多いことや高齢者が多いことなど都市に比べて経営的に不利なので、今後、より一層の努力をしたいと考えている。
  • 高野 靖悟, 本間 和夫, 丸田 美保子, 諸星 敏廣
    セッションID: workshop5-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    当院にDPCが導入されて以来、2年が経過し、その光と影が見えてきた。光の面として医療の質の向上につながった。平均在院日数においては導入前の平成17年度は14.7日、平成19年度は13.8日となった。ヒラソルによるベンチマーク指標により、抗生剤の使用日数、検査項目等において当院の問題点、各診療科の問題点、しいては主治医の問題点までをリアルに洗い出すことにより、医療の質の向上につながった。
    特に、クリニカルパスとの連動により、よりEBMに基づいての医療を展開できるようになった。2ヶ月に1回の院内パス大会でもDPCの分析、ヒラソルの分析から、当院の標準医療が確率されつつある。医療への全職種参加の面から、特に医事課が目に見える形で参加できるのも大きな光の部分と考える。パス大会でも、もちろん、各診療科と個別に、その分析結果をもとに治療内容に提言できるようになった。医療経営上は対出来高比率を見ると、平成18年度は104%、平成19年度は107%となり、その比率は大きくなっている。
    一方影の面では、医師の裁量が、特に研修医教育にややもすると薄れてくる場面もでてくる。また、当院のように緊急入院、緊急手術、緊急カテが多い施設では、このような症例では対出来高比が100を切ることになり、経営上問題になる。しかしながら、全体として捉えると光の面が多いと考える。今年度の診療報酬改定では調整係数により、前年度分は担保されたが、今後、厚労省は係数1の時代に突入させ、DRGへの変換も出てくると考える。このような情勢になっても、今のDPCによる医療の質の維持の考え方は役立つと考える。
  • 鷹津 久登, 田中 孜
    セッションID: workshop5-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉 Diagnosis Procedure Combination (DPC)と名づけられた新しい診療評価制度を当院に導入してからおおよそ2年が経過しようとしている。本制度は、一入院一病名のもと、入院一日あたりの定額で支払額を決めようとする制度である。入院診療のコストを抑制あるいは制限しようと意図した制度であるが、われわれが危惧したのはこの制度の導入により医師の診療に対するモチベーションが下がったり、診療態度が変化するのではないかということであった。たとえば、複数の疾患を抱えた患者の診療を単純化し不十分な結果に終わったり、薬剤の使用に当たって選択の幅が狭くなったりすることが起きてくるのではないかという恐れである。また、DPC制度導入によるいくつかの事務手続きの増加が医師に対して新たな負荷となっていないかという懸念もあった。そこで、この制度の導入が医師の診療にどのように影響しているかを調査するために、当院に勤務する医師にアンケート調査を行い若干の分析を試みたので報告する。
    〈方法〉当院では2006年5月よりDPC制度が導入された。2008年3月に以下のような項目について当院常勤の医師にアンケート調査を行った。アンケートは記名式で設問に対し、予め設定された回答のうち該当するものを選択する方式にて行った。DPC診療の経験、9月から12月に行われた調査や退院時の病名づけの手間について、またDPC病名のつけ方、DPC診療報酬と出来高診療の比較に関する印象について、次に今後の診療体系の予想、医療に対するモチベーションの変化などである。全回答者数48名であった。
    〈結果〉DPC診療の事務作業における印象としては、調査記入に関してはやや面倒であるが、退院時のDPC病名をつけることはそれほど苦痛になっていない模様で以前の「診療行為詳述書」を書く件数が減った点については評価しているようであった。また病名をつける際には「事務方と相談する」や「きまりきった疾病については事務方任せ」の場合もあるようであった。また、複数疾病があるときはDPCの診療報酬も参考にして病名の選択をする医師が多いようであった。また、診療の仕方については「出来高よりもプラスになるよう気をつけている」や「入院期間をIIにおさまるようにしている」「治療薬や検査の選択のときにある程度制限するようになった」などの回答もあったが約半数は「あまり気にせずやっている」の回答であった。また、診療管理会議などで提示しているにもかかわらずベンチマーキング手法による比較資料は十分浸透していないようであった。また、診療評価方法として現在のDPCの方式とPay for performanceがよいかの問いには後者を支持する意見のほうが若干多かったが、「わからない」とする例も多かった。今後の医療行政については「最初は報酬を厚くしておいて、後で厳しくなる」との回答が多かった。最後にDPCの導入により医療に対するモチベーションが変化したかを問うたところ「変わらない」が大多数を占め、今のところこの点についてはそれほど心配のないことがわかった。しかし、「DPCがもっと多くの病院に適応されると医療の質はどうなるか」の問いには「上がると思う」は少数で「変わらない」や「下がると思う」が多数を占めた。
    (まとめ)DPC導入後の医師の診療に関する印象や診療方針についてアンケート調査した。事務処理の変化に関しては、おおむね以前と変わらない印象であった。また、診療の仕方もあまり多くの変化はなくどちらかというと、医師の良心に沿った診療を続けている印象であった。しかし、将来この制度がもたらす影響については、不安を持っているという内容であった。
  • 佐藤 尚武, 谷畑 英一, 岩渕 規男, 山口 悦男
    セッションID: workshop5-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈はじめに〉診断群分類包括評価、いわゆるDPCに基づく入院医療費の定額払い制度は、2003年4月より全国82の特定機能病院等において開始されました。その後2004年に62病院、2006年に216病院が導入し、360病院となりました。病床数では約18万床であります。今年度は更に多くの参加が見込まれており、仮に19年度までのすべてのDPC準備病院がこの制度を導入した場合、全国で約45万床ほどが入院医療費の定額払い制度の病床、いわゆるDPC対象病院の病床に変わると思われます。
    取手協同病院も、2005年7月よりDPC準備病院となり、2006年6月に対象病院となって厚生労働省へデータ提出を行っておりますが、DPC制度は定額払い制度ゆえのさまざまな問題点を内包しております。病名コーディングの正確さの問題もその一つであり、当院においてのコーディング精度の取り組みについて事務の立場から述べてみたいと思います。
    (方法と結果)病名コーディングの正確さは、厚生労働省側も重要視しており、昨年度にはコーディング誤りで数病院がヒアリング調査を受けております。
    DPC導入当初における当院の病名コーディングの流れを説明させてもらいますと、まず患者が入院した次の日以降に主治医のほうから入院契機の病名を書いたDPC連絡表が入院係に届きます。この原本は事務で複写したのち、速やかに病棟へ戻されます。主治医側で何か追加の情報があった場合にすぐに書き加えることが出来るようにするためです。医事課入院係は、診療内容を電算入力しながらDPC連絡表のコーディング病名と、診療情報を比較検討していきます。診療内容から病名コードの変更がありそうな場合は、事務側より主治医へ直接連絡をして確認をとります。このため当院においては入院係に診療情報管理士の資格をもった事務員を配置し、日々の業務中にリアルタイムで病名コーディングについて主治医と意見交換が出来る体制にしております。そして退院時に連絡表の原本が入院係に届き、事務で病名コードを確認してコスト計算をします。この一連の行為を入院患者ごとに繰り返すことにより、自然とコーディングの精度が上がってきております。
    昨年DPC分析ソフトを導入し、院内における出来高点数と包括点数の比較でも極端な差はありませんでした。更なる正確さを求めて、曖昧な病名に対して各医師へ注意を促しております。徐々にではありますが、コーディングも正確になってきております。
    (結論)DPCにおいてはレセプト診療内容チェックの困難さや過小診療傾向への危惧があり、病名コーディングの正確性を上げなければなりません。
    DPCの利点であろうクリティカルパスの利用促進においても、コーディングの正確さは重要です。パスの平均入院日数等に深く影響するためです。
    コーディングの精度を上げるとともに、医療情勢を見通すことが出来るスペシャリストの育成に取り組んでいくことが、これからの病院経営の鍵となることでしょう。 
ワークショップ6
  • 石渡 勇, 染川 可明
    セッションID: workshop6
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    最近妊婦を乗せた救急車が多くの病院で受け入れを拒否された事例が度々報告され、某市では多くの病院が一斉に産科の2次救急の受け入れの返上を申し出たりと、産科救急はパニック的な状況に陥りつつあります。行政側も厚生労働省を中心に調査を行ったり、様々な解決策を打ち出したりしていますが、安易に解決されるような問題ではありません。
    この問題は根本に産婦人科医の急激な減少があります。さらに正確にいうと産科救急の主たる担い手である病院勤務の産婦人科勤務医の減少が最大の原因といえます。以前より産婦人科医は昼も夜もなくリスクの高い分娩を行ってきました。このため、本来勤務時間に数えられない時間にも昼間と同様な仕事を行い、翌日も休みなしという他の勤務では考えられない勤務形態が常態化し、産科の医師は過酷な労働環境に置かれてきたのです。しかし、患者側では24時間同じレベルの安全な分娩管理が行われるのが当たり前のことという認識があります。これまで、産科はそれが当然のことのように考えられ、それほど表面化しなかったわけです。ところがこの医療ニーズに対する医療従事者の実情と患者側の期待のギャップが限界を超えて広がったため病院の勤務医を中心に産科から手を引く傾向が顕著になりました。このため、2次救急を扱う規模の病院がまず人員不足をきたし、産科救急から撤退するようになりました。また助産師法の厳格な解釈を厚労省が押し進めたため、開業医レベルの助産師不足の問題が生じ、さらに産科訴訟の増加などが加わり、開業医でもお産をやめる施設がふえ、残った病院にさらに負担がかかるという悪循環が繰り返されています。また、患者側から見ると、経済状況の悪化による収入減が若い世代を襲い、このための生活苦から、陣痛がくるまでどこの病院も受診したことのない妊婦が増え、救急時受け入れを断られるという事例が一種の社会問題化し、状況は改善より悪化の様相を呈しています。誰もが何とかしないといけないと思ってはいても、将来に向かって有効な解決策をなかなか提示できない状態です。
    現在提唱されている解決策の例を挙げますと問題の根源が病院勤務医の減少であるため、少ない医師を大きな病院に集中させ、ネットワークシステムを構築して、勤務医の夜間の負担を軽減させようという試みがあります。しかし、どの病院に集中させるかという問題は産科を失うことになる病院にとっては死活問題でもあるため、各自治体や病院の思惑が交錯し必ずしもうまくいかないようですし、大都市部では可能でも地方では不可能なのではという問題があります。
    勤務の過酷さに加え医療訴訟が多く若い医師が産婦人科を敬遠し、他の科を選ぶという問題については増え続ける産科医療訴訟の多くが新生児の脳性麻痺に関係するため無過失補償制度が本邦でもまもなく実現しようとしていますが、米国に比べ補償の金額がかなり低いという問題があります。
    他にも産婦人科の若手勤務医の大半が女医であることから、出産子育てのための離職を防ぎ、少しでも産科医療の担い手として働いてもらうように、育児休暇や勤務時間の短縮、保育所の充実など各病院や社会的にも力をいれ、それなりに後果が現れていますが、子育て中の女医の場合多くが非常勤や日勤で常勤の補助的役割が主で常勤的活躍を期待することは無理があると思われます。
    さらに産婦人科を少しでも魅力のある科にするため、産婦人科の存続を第一に考える中核病院では、都立病院で実施されたように産婦人科医師だけ給与を上げたり、当直料を大幅に上げたりして待遇の改善を行い、懸命に医師の確保に努力している所もあります。最近みられるように厚生労働省も保険点数の改善でハイリスク妊婦管理を中心に産科の収入を上げ、産婦人科の医師の増加を誘導しようとしていますが、病院の収入の増加が直接産科の現場の医師の給与の上昇に直ちには結びつかない等の問題もあり、現状では産婦人科医の増加には結びついていないようです。
    今回のワークショップでは、産科救急の現状につき報告していただくと同時にこれらの問題につき、よりよい解決法はないかをみんなで検討してみたいと思います。
  • 宮坂 尚幸, 久保田 俊郎
    セッションID: workshop6-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    産科救急医療の主たる担い手である病院勤務医の著しい減少により、本邦の産科医療が危機に瀕していることは周知の事実である。医師不足の背景には、過酷な勤務、医療訴訟の増加、女性医師の増加などが関係し、各方面において対策が講じられつつあるが、このような状況下で大学医局は何ができるか、また何をしなければならないかについて、現状を分析しつつ今後の対策について検討を行いたい。
    大学病院には、臨床・教育・研究の3つの使命があるが、近年の特徴は臨床の比重が極めて高くなっていることである。当院では2006年に三次救急医療施設としてERセンターを開設したことから救急患者数が増加し、これに伴い産婦人科の手術件数も2007年500件(2005年は355件)と急増した。また近隣の分娩取り扱い施設の相次ぐ閉鎖、縮小などにより分娩件数も2007年に245件(同142件)となり、今年はさらに増加傾向である。我々の教室は、2007年4月に文部科学省医師不足分野推進経費の獲得により2名の増員があり、現在16名(男性11名、女性5名)で運営しており、一見十分な人員を確保しているように見えるが、教育・研究に割く時間、さらに医局関連病院へのhelp(いわゆる外勤や当直)を考えると、まだまだ充足しているとは言いがたい状況である。
    図1は過去20年間の産婦人科入局者数を男女別に示したものであるが、卒後臨床研修制度開始後やや減少している傾向があり、合計では106名(男性38名、女性68名)であった。これらの入局者のうち、現在も大学あるいは医局関連病院(研修協力病院)に勤務している人員は全体の48%(男性63%、女性40%)に過ぎず、図2に示すように卒後5年を経過すると、開業、他診療科への転職、妊娠出産により休業もしくはパート勤務への転職などで医局人事(いわゆるローテート)から外れることが多くなっている。特に卒後臨床研修医制度開始により2年間入局者0が続いたことは医局関連病院への医師派遣人事を直撃し、ここ数年間で3つの病院からの撤退および1つの病院における分娩取り扱い休止を余儀なくされた。
    これらの人員不足に対しては、入局者を増やすことおよび退局者を減らすことが主な対策となるが、後者に関しては、それぞれの医師の家庭的・経済的環境また職業選択の自由を考慮すると、大きな減少は望めない。したがっていかにして産婦人科を志す医師を増やすかが、大学医局に与えられた使命といえよう。卒後臨床研修制度開始以前は、6年生の医学部学生を積極的に勧誘し、4月から大学医局に入局、翌年から教育関連病院に出向するというシステムであった。しかし現行の制度では、学生時代に勧誘されても、2年間の初期研修の間に志望が変わってしまう場合が多い。したがって、学生時代の勧誘ではこれまで以上に強烈な印象を与え、初期研修においても産婦人科を選択科としてより早期からより長期に研修するプログラムを提供することが必要である。
    かつて学生の勧誘では、産婦人科に興味のありそうな学生をピックアップし説明会(飲み会)に連れまわすというのが常套手段であったが、もはやこの様な方法だけで入局する人間は少ない。むしろ産婦人科の学問的および臨床科目としての魅力、および指導医の人間的魅力を積極的にアピールすることが重要で、我々の大学では従来行われていた2週間の臨床実習を4週間に延長し、かつ周産期、生殖内分泌、腫瘍の3つの分野の中から、より興味のある分野を重点的に実習できるシステムに変更し、産婦人科に興味を持つきっかけとなるよう努力している。また医局関連病院においては、産婦人科志望の気持ちがぶれないよう、積極的な勧誘をお願いしているところである。
    大学医局および教育関連病院がそれぞれの特色を生かしつつ協力し合い、より多くの医学生が産婦人科医を志望するよう、さらなる努力をして行きたいと考えている。
    当日は、現在の教育システムに対する学生のアンケート結果なども踏まえ、発表する予定である。
  • 山内 隆治
    セッションID: workshop6-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉福島県は県内を大きく6地域に区分し、総合周産期母子医療センター(福島県立医大)、地域周産期医療センター5施設及びし周産期医療協力機関5施設と共に福島県周産期ネットワークを構築している。当院は周産期医療協力機関であり、当院における母体搬送の現状を分析し、地域のネットワークの問題点を検討した。
    〈方法〉平成15年1月から平成19年12月における当院における当地域分娩施設からの母体搬送例を対象とし、1)搬送依頼の理由、2)分娩様式、3)管理、4)ネットワークの問題点について検討した。
    〈結果〉検討期間のおける母体搬送例は38症例であった。1)搬送依頼の理由:最も多かったものは前期破水を含む切迫早産20例(40%)で、ついに骨盤位6例(12%)、妊娠高血圧症候群4例(8%)、双胎、前置胎盤などその他の理由が16例あった。なお骨盤位などは本来、一次施設で対応すべきと考えられるが、一次施設の多くが緊急帝切に対応できないといった社会的要因により当院に搬送されている。2)分娩様式:搬送母体の58.3%が24時間以内の分娩であり、1週間以内では86.1%であった。搬送母体の帝王切開率は52.6%と、全分娩の帝王切開率24.1%に比して高かった。3)管理:NICU管理を必要とした症例は21例、55.3%であった。4)ネットワークの問題点:円滑に母体搬送を行うためには、症例の適切な状態評価と情報提供および患者家族への搬送にあたっての十分な説明が必要である。そのために福島県では決められた医療情報提供を使用し搬送してくることになっているのだが、決められた医療情報提供書を使用して搬送された症例は14例(37%)と少数であり、正確な医療情報を知りえないという問題点がある。今後、周産期医療ネットワークの啓蒙と一次施設との連携を密にする必要がある。また当院は周産期医療協力機関であり、NICUの規模を考慮し、妊娠30週以降の症例を引き受けるようにしているが、最近では妊娠24週未満の破水例が、患者及び家族への十分な説明がなされないまま搬送を依頼されることがあり、対応に苦慮している。年に1,2回は一時施設との検討会が必要であると思われる。
  • 坂本 雅恵
    セッションID: workshop6-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    茨城県では、早くから周産期救急の搬送システムを構築し、周産期医療の向上につとめてきた。2005年から総合周産期医療センターの指定が行われ、県北・県央、つくば・県西、県南・鹿行の3ブロックに再構成され現在に至っている。当院は1978年の未熟児センター開設、1993年の地域周産期センター開設をへて、県南・鹿行ブロックの総合周産期医療センターとして年間約300-350件のハイリスク症例の搬送、外来紹介を受け入れている。また、近年近隣の産婦人科で分娩取り扱いの中止、里帰り分娩の受け入れ中止が相次ぎ、分娩件数そのものも増加している。
    当院の総分娩数は2002年までは年間700-800件で大きな変動はなかったが、2003年以降漸増し、2007年は1185件であった。母体搬送、ハイリスク外来紹介例、飛び込み分娩をあわせたリスクの高い症例は、同時期において、合計300件前後で特に大きな増加が見られなかったが、里帰りや転居、転院希望の紹介症例は2002年には71例だったのに対し、2007年は237例と著明に増加している。またいわゆる飛び込み分娩は2001年頃から増え始め2007年は年間29件であった。母体搬送数は増加傾向にあったが、2005年以降やや減少している。ハイリスク症例の外来紹介は増加を続けており、より妊娠早期の段階で紹介され転院する傾向がみられた。
    当院の産婦人科病床数は72床だが、2005年8月に一般病床18床をMFICU6床に改築したため、病床不足が生じ、正常分娩、婦人科手術症例の入院に支障をきたす場合が生じている。
    また現在常勤医は9人(男性2人、女性7人)おり、うち2人が2008年4月現在育児休暇中である。今日の産科医療の現状で、2人も育休を取っていられるのは“恵まれている”と言わざるを得ないだろう。しかし、その2人が今後復帰して当院で引き続き働いていくためには改善していかなければならない点がまだ多い。2007年6月に、病院保育所が新築され今まで預けることが出来なかった医師も利用することが出来るようになった。10数年前は育休を取るためには退職せざるを得なかったし、病院保育所はおろか自治体の保育所ですら(地域差はあるだろうが)ありえないくらい保育時間が短く、全く助けにはならなかった。それに比べれば喜ばしい限りだが、まだ最低限の条件が存在するにすぎないのではないだろうか。女性医師が出産後も継続して就労するためには、まずは育児環境の整備すなわち、乳幼児期には保育所が必要となるが、子供の年齢によって必要な援助は次々と変化していくため、育児支援サービスの情報提供も役立つのではないかと思う。また、女性医師に限らない労働環境の整備が急務であるが、ワークシェアリング出来る位にすぐに人数が増えるわけではない。医師間の連絡を密にし、情報を共有することで少しでも「病院から離れられない状態」を減らせないだろうか。10年前から産婦人科医が減ることも女性医師が多くなることも予想されていたのに現在のこの騒ぎである。長期的には、10年20年先の変化を予測し対応していかなくては、女性医師の就業率の低下も産科医の減少も止まらないだろう。しかし、最終的にはモチベーションをいかに維持していくか、にかかっている。女性医師本人はもちろん、魅力ある病院像を作って行くことも必要である。
  • 松澤 克治
    セッションID: workshop6-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>
    「福島県立大野病院の産婦人科医師逮捕」・「奈良大淀町立病院の妊産婦死亡、19施設不需要」等、産婦人科を取り巻く環境は一段と悪化している。とりわけ、小・中規模施設での状況が厳しくなり、「立ち去り型サボタージュ」が発生し、分娩や手術が困難となり、周産期医療機関の集約化・二極分化という医療体制の変動が否応なく、急速に進行している。当院は地域周産期医療センターとして地域周産期医療の最後の砦として昼夜努力しているが、この一局集中化の大波にさらされ、対応に苦慮している。今回は、その現状と対策につき報告する。
    <現状>
    安城更生病院は愛知県西三河に位置し、「日本のデンマーク」と称される近郊農村地域である。しかし北には豊田市があり、関連企業も多く活気があり人口も増加している。それでも地域の出生数は若干減少気味だが、分娩取り扱い機関が減少したことと、平成14年に当院が移転新築したこともあり、平成13年分娩数867例が、14年990例、15年1249例、16年1370例、17年1433例と増加し、病床利用率100 %を超える状況が続いた。その為本来の当病院の役割である母体搬送の受け入れ等が困難となり、移転前には殆んど無かった母体搬送のお断りが徐々に増加し、平成17年には受け入れ110例に対し42例あった。そこで周辺機関からの苦情もあり、Low Risk分娩の制限を開始し、平成18年は分娩数1452例と更に増加したが、 19年には1376例と減少した。病床利用率も100%を超える事は少なくなり、産科要因での母体搬送のお断りは殆んど無くなった。
    しかし、High Risk分娩の割合増加、それに伴い帝切率も移転前の平成13年が 21.0%であったのに比し、平成18年では29.7%、19年には34.9%になった。また、ここ10年間で母体死亡が3例あったが、2例は母体搬送、1例は院内症例であった。AFLP、早剥+頭蓋内出血、羊水塞栓症例で、出来うる限りの手段が尽くされたが、救命は極めて困難な症例であり、遺族の納得も得られた。
    一方、分娩誘発時の子宮不全破裂で子宮摘出が必要であった症例、早剥で対処が若干遅れ、重症仮死になった症例でカルテ開示の手続きがとられているが、現在のところ係争中の症例は無い。
    <今後の対策>
    愛知県の周産期救急システムは、かなり整備されている。平成10年に発足した周産期医療協議会により設置された総合周産母子センター(名古屋第1日赤)を中心に、当院を含む8つの地域周産母子センターが協力し、救急システムを担っている。平成16年~18年の産科搬送に関する消防庁全国調査で、不応需率が全国平均6.67に比し、愛知県は1.38と低く、出生数規模が同じ大阪・東京・神奈川の10.15,12.63,14.18に比し極めて良好な結果であった。しかし、NICUの許容量が限界になっており、一つの総合周産期センターでは担いきれず、複数の地域センターを総合センター化することが計られており、当院も県の補助の下にNICU等の拡充を予定している。
    また、周辺周産期医療機関との連携を強化し、Low Risk分娩を出来る限りお願いし、役割分担の確立を目指すと共に、将来の(セミ)オープンシステムの導入も見据え、治療方針の共有化を計る為、現在年1~2回開いている講習会・症例検討会を更に積極的に開催する予定である。
  • 安水 洸彦
    セッションID: workshop6-5
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    今日の産科医療の危機的状況すなわち産科医師の減少と、それに伴う産科医療施設の相次ぐ閉鎖は、「産科の崩壊」として社会問題にまでなって来た。この経過で重要なことは、産科崩壊が地方自治体病院から始まったという事実である。二次救急施設として地域医療を支えている自治体病院での産科診療の廃絶は、地域住民に与える影響が大きく、医療に対する不安と行政に対する不信を生じる。埼玉県草加・八潮地区の中核病院である草加市立病院も、医師の退職と大学からの医師派遣中止により、平成17年4月に産科診療と婦人科手術を停止した。産科再建の依頼を受けて、私が着任したのは平成19年4月であったが、草加市と病院当局の努力により順調に医師が確保でき、平成19年10月には産科診療を再開できた。現在は月50-60例の分娩を管理している。この経験をもとに本ワークショップでは、自治体病院の産科維持に最優先事項となる医師の確保につき私見を述べたい。
    産科医の雇用:従来、自治体病院の医師派遣は大学の講座(医局)に依存していた。しかし現在では、「大学は地域医療に対し何らの責任を有しない」というのが一般的見解となり、大学が優先的に教室員を派遣するセンター病院以外の病院では、医師の雇用は個人的人脈、人材派遣会社、雑誌やインターネットでの募集広告などに頼らざるを得ない。これらの方法による募集は医局依頼に比べてかなりの手間はかかるが、病院自体の判断で有能で持続性のある医師を雇用できるというメリットはある。ただし、勤務条件の明示は必須なので、自治体・病院当局との綿密な事前検討が肝要となる。
    産科医の維持:稀少職扱いでの産科医の給与増額が話題となっているが、高額な給与設定は、自治体病院ではまず不可能である。むしろ、勤務手当の適正化と労働環境の改善に配慮すべきである。前者の具体例としては、当直手当の増額、分娩手当、オンコール手当の支給、時間外勤務の上限撤廃などが、また後者としては就業、採用における年齢制限の撤廃、個人的事情を考慮した柔軟な勤務体制の設定、当直明け勤務の減免、学会出張や年休の確保、託児所の設営などが挙げられる。
    今後の展望:都立病院での産科医待遇改善、周産期医療費の増額、無過失医療保障制度の導入・異状死届出義務の改定への動きなど、行政面から産科医減少防止のための具体策が提示されているが、産科専攻志望者は増加していない。また産科医養成対策として医学部入学時の稀少科枠や奨学金制度の設置などが検討されているが、これらが実現したとしても、効力を発揮するのは早くて10数年後である。したがって、この10-20年間は乏しい人的資源の有効活用を図るしかない。その妙案として提示されている病院の集約化は、大学間協力の難しさと長距離通勤などの勤務者の負担増のため、未だ成功例は少ない(産科閉鎖による結果的集約は多数あるが、この場合は他病院医師に過剰負荷を与える)。そこで現時点では、医会と学会が協力し、産科診療に従事している医師の負担軽減案を案出するべきである。例として以下の方法が考えられる。
    (1)医会のリーダーシップのもとに、地域の二次医療病院のオープンあるいはセミオープン化を推進し、診療所経営医師の病院診療(当直も含め)への参加を奨励する。
    (2)学会(地方部会)のリーダーシップのもとに、産科診療を行っていない病院の勤務医に地域の産科診療機関での日当直を奨励し、紹介を行う。
ワークショップ7
  • 前田 浩利, 原田 真由美
    セッションID: workshop7
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    近年介護保険法・障害者自立支援法等の施行により、在宅療養支援の政策が明確に打ち出され、さらに医療制度改革により、在宅療養支援診療所の導入・診療報酬の改定等により在宅医療への後押しがされています。また今年4月より、後期高齢者医療制度が開始となり、在宅医療・在宅療養支援への期待がますます高まってきているといえます。
    一方、在院日数の短縮化やDPC導入のなかで、退院調整の問題、病診連携や病看・訪看(病棟看護師と訪問看護師)連携、多職種間連携の問題や、また制度上、人材育成、援助技術等の問題など多くの課題が存在しているのも事実です。しかし何よりも、在宅療養生活、在宅医療、訪問看護の「実態」を十分に知っていただけていないのが一番の問題だと日々感じております。
    そこで今回このワークショップでは、在宅医療や訪問看護、在宅療養に関して多方面でご活躍の方々にお集まりいただき、その「実態」についてお話してもらい、「こんな病気でも、こんな状態でも、こうすることで自分の家で暮らすことができる」「在宅医療や訪問看護はこんなことまでできる」「こうすればよりスムーズに安心して家に帰れる」「在宅療養をするうえでの本人や家族の思い」などをお伝えしていければと思います。その上で、そこにある課題について一緒に考え、在宅療養の門戸を広められればいいと思っています。
    本来、ひとはみな自分の家族とともに暮らしたいと願っています。それは子供からお年寄りまで、どんな健康レベルのひとでも同じです。急性期の集中的な医療が必要でなくなったとき、いつでも家に帰れる、そんな社会を今後私たちは作っていかなければならないと思います。まずは在宅での現状をお伝えして、知っていただき、そして今後のかたちを想い描けたらいいと思います。
  • 山崎 文昭
    セッションID: workshop7-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    がん患者さんにとって終末期の在宅医療は、とても高い関心があります。
    地元でがん患者さんへヒアリングを実施したのですが、自宅で最期を迎えたいとのご意見が大多数を占めました。
    しかし、その方々へ実際はどうなにか追加の質問をすると、最期は病院になるだろうとの答えが殆どです。
    このような問題がある原因は、
    ・在宅の見取りまで出来るドクターの不足
    ・家族の看護力の不足(家などの物理的要因・家族など人的要因・仕事などの社会的要因)
    ・病院などが地元の実態の認識不足
    などが要因がヒアリングより分かりました。
    それを解決し、がん患者さんの満足する在宅医療/訪問看護を目指すには何が必要か、検討してゆきます。
  • 中澤 義明
    セッションID: workshop7-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉潜在的に大きなニーズをもつ在宅医療を、今後はプライマリケアを担う医師が広くカバーしていくことが期待されている。在宅療養支援診療所なる施設基準が生まれ、診療報酬上の優遇がなされているのも、その期待の現れの一つと言える。この場合の在宅医療とは、広い意味での入院医療に対峙するものと考えることができる。従来では入院を要していた状態でも、在宅において医療が提供できるようになった。大まかに分けるならば1番目に終末期医療、2番目に在宅酸素療法や中心静脈栄養といった高度医療が在宅においても管理可能となった場合、3番目に社会的入院の場合などが考えられる。社会的入院を在宅医療に移行させた大きな力は、介護保険制度をはじめとした介護問題の解消であり、高度医療が在宅においても実施可能になったのは医療技術の進歩に他ならない。終末期医療を在宅で可能にしたのは、緩和ケアの発展が大きく寄与していると共に、上記の介護問題の解消と医療技術の進歩があったことも見逃せない。つまり終末期医療においては、在宅医療の様々な要素が見て取れることが多い。そこで標準的なプライマリケア、つまり地域の中の一人医師無床診療所にて実践されている、終末期を中心とした往診・訪問診療についての現状を紹介し、その中からプライマリケアにおける在宅医療の課題・展望について考察する。
    〈方法〉診療圏人口4000人前後、外来1日平均55人程度、往診・訪問診療1日2-4人程度といった利根町国保診療所(一人医師無床診療所、在宅療養支援診療所申請なし)における平成4年6月より平成20年4月までの期間中に単発の往診を除いた訪問診療・往診を行った324人を対象に分析を行う。
    〈結果〉対象者324人の訪問診療の導入理由として、初めより訪問診療依頼で開始83人、当院外来通院しており病状により通院困難となった例が156人、当院より入院などで他院に転院治療後に訪問診療目的に再び当院へ紹介された例18人(うち11人は併診が継続された)、訪問診療目的に当院に初めて紹介された例75人(うち32人は併診継続)となっている。経過中に何らかの入院を要した例113人(急変から死亡8人、終末期の介護不安18人、終末期での本人の不安12人、症状コントロール17人、感染症や新たな脳血管障害など50人)、施設入所した例28人(継続4人、施設での死亡7人、病院に入院して死亡17人)。転帰内訳は、訪問診療継続中32人、入院中4人、施設入所7人、転院5人、在宅での死亡184人、病院での死亡86人、施設での死亡6人となっている。死亡転帰の中の在宅死の割合は66.7%(184/276人)となる。また対象者の55.5%の家族が当院にかかりつけであった。訪問看護は5か所のステーションと連携した。
    〈考察〉診療圏4000人の地域では年間約20人強の人が亡くなるので、仮に半数の人が在宅で亡くなるとすれば年間約10人の人を看取れば、その地域での在宅での終末期医療を満たすことになる。今回の分析では、局地的で大雑把であるが、これに見合う数をプライマリケアでもカバーしていることになる。またプライマリケアならではの在宅医療の特徴も見えてくる。主なものとして、アクセスのしやすさ(距離的に近いばかりでなく家族や地域を通じて情報が入る)、家族の多くが顔見知り(近隣も顔見知り)、複数の病院・訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所との連携などが考えられる。地域での標準的な一人医師無床診療所でも、プライマリケア独自の機能を生かし、地域での社会資源の有効活用と後方病院などとの連携により、その地域での在宅医療のニーズを満たすことは可能である。
  • 奈良間 美保, 村上 泰子, 堀 妙子
    セッションID: workshop7-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】近年、入院期間の短縮化に伴い、医療技術を要するケアを行いながら家庭で生活する子どもが増えている。しかし、子どもを取り巻く環境として、少子社会、小児医療の採算性の低さ、専門医の不足を背景に、小児病棟の閉鎖に踏み切る病院は多い。また、退院した子どもの支援として病院、訪問看護ステーション、保健師らの連携が欠かせない中で、高齢者対策を中心とする従来の地域医療においては小児の在宅ケアに対応できる訪問看護ステーションが少ないなど、活用できる社会資源は必ずしも十分ではない。さらに、子どもの障害を告げられることで親は普通の子どもの喪失と共に、自分自身の価値の喪失をも体験する場合があると報告されている(辻,2003)。子どもの現実を受け止めて在宅ケアに前向きに取り組めるまでに、家族には多くの葛藤が生じることに配慮する必要がある。米国では、医療的ケアを要する子どもと家族の生活上の相談、医療チームの調整等のコーディネーター機能を果たす看護師がいるが(Ito,1999)、国内でそのような看護師の育成は十分に行われていない。そこで、小児在宅ケアの包括的支援を担う人材の育成を目指し平成15年より小児在宅ケアコーディネーター研修会(以下、研修会)を開催している。今回、研修会の教育プログラムの評価と今後の課題を検討したので報告する。
    【方法】〔対象〕病床数300床以上で小児科を標榜する一般病院、および小児専門病院に勤務し、研修会に参加した看護師。
    〔研究方法〕研修会の前・中・後に看護師に対する無記名自記式質問紙による調査を行い、研修会の評価を行った。質問紙は小児在宅ケアの支援に関する理解・実施・気持ちの26項目、小児在宅ケアに関する考え・取組み・同僚からの期待・小児と家族の反応についての研修生の主観的変化4項目で、4段階のリッカート尺度で回答を求めた(奈良間他,2006)。属性として所属部署や実務経験等を含めた。対象に文書と口頭で研究の目的・方法等を説明し、研修会会場に回収箱を設置して質問紙を回収した。
    〔研修会の内容〕小児在宅ケアの包括的支援の実践能力向上を目標に、親子の相互作用や家族機能のアセスメント、発達段階別・経過別看護の基礎知識、家族や行政・医師・臨床心理士・社会福祉士など他職種による講演、事例検討から構成した。第1期研修会は平成15年11月~平成16年11月に5回、第2期研修会は平成17年6月~平成18年2月に4回開催した。
    〔倫理的配慮〕研究参加は自由意志によるもので参加しないことによる不利益は被らないこと、データは本研究以外に使用せず、情報漏洩防止に努めることを対象に伝えた。名古屋大学医学部倫理委員会の承認を得て調査を実施した。
    【結果】〔第1期研修会の評価〕5回の研修会に参加した看護師は9~14名であった。研修会後に包括的支援の自己評価が向上する者が多く、特に、後半の事例検討後に上昇していた。一方、研修前から看護に対する困難感や不安が強い看護師は肯定的変化を来たしにくいことが見出され、精神的サポートの必要性が示唆された。
    〔第2期研修会の評価〕4回の研修会に参加した看護師は47~56名であった。グループ討議を研修内容に加えることでピアポートの向上を図った結果、看護師の包括的支援の理解・実施の能力向上のみならず、ケアに対する肯定的気持ちにつながった。
    〔今後の課題〕その後、本研修会は継続的参加を促進するために6ヶ月間の短期型プログラムに変更し、第4期研修会以降は米国で推奨されている患者・家族中心のケアを基本概念に含めた教育プログラムに改訂し現在まで継続している。研修会の一部は一般公開として、訪問看護ステーション看護師や保健師等の参加を得て、活発な討議を行う機会となっている。今後は、研修会修了後の継続的評価や相談への対応、子どもや家族による評価を通じてより効果的な教育プログラムを検討し、地域で暮らす子どもと家族のQOL向上を目指すことが課題である。
  • 角田  直枝
    セッションID: workshop7-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉訪問看護ステーション(以下、ステーション)は現在約5500箇所であるが、この数年の増加は年間わずか200箇所程度に留まっている。一方、在宅療養者数は増え、健康問題の重度化、生活上の課題の複雑化が指摘されている。本来ならば訪問看護の利用者が増加しても良いところであるが、利用者の伸びは訪問介護利用者と比べて著しく低い。この結果、増加する訪問看護ニーズにサービス提供量が追いつかなくなってきている。このような状況の背景にあるものは訪問看護師不足につきる。とは言え看護師全体が不足している現在、この問題にどう立ち向かうか、今後の訪問看護はどうあるべきなのかを、これまでの実態にとらわれずに考えてみたい。
    <これまでの訪問看護>訪問看護は平成3年度にステーションが設置されてから15年以上、その実施形態は大きな変化をとげなかった。平均の従業員数、利用者数は微増の傾向にあるがほとんど変わっていない。対象となる疾患も脳血管障害を主とする循環器系疾患であり、がん末期は1割以下に留まり、精神疾患・小児は共に5%以下という比率になっている。ステーションの経営収支も赤字が3割にもなり、平成18年診療報酬改定では病院勤務者増を図るため、病院併設のステーションのいくつかが休止となったと聞くが、もしそのステーションが赤字であれば病院管理者から考えれば当然の判断だと言えるだろう。看護師が経営権を初めて持ったステーションではあるが、その15年の歴史は私達訪問看護師を変えたとはいい難い。
    <新しい訪問看護>しかし、平成17年前後から訪問看護には新たな動きがいくつか見られた。第一に訪問看護認定看護師の誕生である。日本看護協会が約20年前に制度化した認定看護師制度であるが、現在病院内では緩和ケアチームなどで活躍し診療報酬にも考慮されてきた。現在では、認定看護師は看護学生にも身近なモデルとして認知されている。中堅看護師にとってもキャリアアップの目標に位置づけられてきた。このような認定看護師が訪問看護に誕生したことは、質の向上はもちろん、現任者の継続意欲の向上や新たな人材確保の道を開くものと考える。第二に、療養通所介護の創設である。これは平成18年介護報酬改定で制度化され、平成20年4月現在50箇所余りと決して開設の動きが活発とは言えない。しかし、19年度調査によると介護保険利用者以外にも、超重症児や成人期の重度障害者も利用し、ここへの通所により入院が回避できたという声もあった。ステーション側からこの事業をみると、現在では収益性が低く看護師不足を助長するという意見もあるが、現状だけで判断してはならない。療養通所介護は街角にある看護のモデルルームと考えてはどうだろうか。病院勤務が長い看護師でも適応しやすく、訪問看護で課題であった新卒教育の場にも応用できる。収益性が低い問題は、利用者とその関係者が我々と共に、このサービスが必要だからと声をあげて解決を図りたい。第三は大規模化である。大規模化により、サテライト設置や専門特化チーム作りが可能になる。そして就労環境も改善し看護師の定着に寄与するに違いない。
    <結論>これからの訪問看護は認定看護師等をリーダーとして質向上を図ると共に、療養通所介護を活用しながら利用者層を拡大し、しかも新卒者の雇用・育成ができる職場として発展したい。国民の期待に応える訪問看護になるには、看護師確保の新たな試みにも挑戦し、これまでの枠組みから一歩出た発展が必要となるだろう。
金井賞受賞講演
  • 高田 真寸子
    セッションID: kanaishou
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    1:JA茨城みなみ管内の概要
    時はさかのぼって平成元年8月1日。県内3番目の広域合併JAとして、組合員の多様化するニ-ズに応えるため、5つの市町村単位JAが広域合併し「JA茨城みなみ」は誕生しました。
    管内は、県最南端(首都圏40km)に位置し、豊かな水と緑があふれ、住宅地や商業地、田園地帯が混住する地域です。利根川や小貝川の水源に恵まれ、県内有数の米の産地としても知られています。
    交通網は、管内を南北に走る「国道6号線」を軸に、「常磐自動車道」の谷和原インタ-をはじめ、取手駅の「JR常磐線・営団地下鉄千代田線・関東鉄道常総線」を拠点に、都心や県内への玄関口になっています。
    また平成17年8月に「首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス」が開業し、管内2カ所に駅が設置され、守谷駅から秋葉原駅間が32分(快速)で結ばれました。新たな交通として、利便さがさらに増しています。
    組合員数は、平成20年1月末現在9462人(正組合員6674人:准組合員2788人)。都市近郊農業や地産池消、食農教育などを積極的に進め、次世代に「農」を伝えるために担い手の育成や支援に取り組んでいます。
    2:助け合い組織の設立
    地域で高齢化が進む中、JA茨城みなみ女性部(部員:平成20年1月末現在870人)は立ち上がりました。地域農業を守り、農業基盤を存続させていく上で、高齢者や女性の担っている役割は、とても大きなものがあるからです。
    このようなことから、高齢者が生活しやすい環境を整備し、生きがいのある生活が送れるよう平成10年5月、助け合い組織「いなほ会」が発足しました。
    介護保険制度の導入が2年後に迫り、高齢者福祉制度がスタートします。しかしながら、問題がすべて解決されたわけではありません。むしろ、制度の外枠では「心の介護(話し相手・ミニデイサービスなど)」ささいで身近な生活の支援が必要だと考えました。
    3:「いなほ会」のこれまでと今後
    設立当初は、組織への理解と協力を呼びかけるため、JA関係組織や組合員に対し、PRを強化してきました。地域の老人ホームを訪れ、施設でのボランティア活動などと共に、数々の介護研修会を開き、目標としていたミニデイサービスの立ち上げに全力を尽くしました。
    努力の甲斐もあり翌年6月、谷和原地区をモデル地区に、おおむね65歳以上のお年寄りを対象に、初のミニデイサービスを開くことができました。しかしながら初回の参加者は12人。決して満足な内容だとはいえない、規模もかなり小さいものでした。
    その後、反省会や企画会議、外部研修などを進め、毎月1回1会場で実施していたミニデイサービスは、現在、毎月3会場で開くまでに大きく成長しました。高まる利用会員の声に応えることができたのも、女性部の熱い想いと、行動力、なんといっても仲間の「輪」の賜物です。
    今では、約150人ものお年寄りが、この日を楽しみに待っていてくれます。お世話をする協力会員は100人(内ホームヘルパー50人)を超えました。送迎から始まり、血圧測定などの健康チェック、手芸や作品作り、ゲームや体操の実施など、月ごとに思考を凝らした充実した内容です。お昼には、同加工部会が心を込めて作る、季節感あふれるお弁当も大好評です
    ここまで定着すると、部員からも色々な発想や可能性について、活発な意見が寄せられるようになりました。ここ最近の傾向は、型にはまらない柔軟さを大切にしています。お年寄りの「これがしたい」というような自主的な意見を取り入れ、自分たちから行動してもらいます。普段の生活の中では、自分から楽しみを見出すという力も大切なことだからです。
    女性部の活動の拠点のひとつに「活き粋きセンター」があります。センターでは、これまでの活動をふまえ、お年寄りが自主的に気軽に立ち寄れ、お茶を飲みながら楽しく交流することのできる「ふれあいの場」のようなものを作ろうと計画が進んでいます。きっと笑顔の絶えない素敵な憩いになることでしょう。
    これからも「ありがとう」の5文字を心の励みに、「人が元気」「組織が元気」「地域が元気」となる助け合いの輪を広げていきます。まずは、自分たちができることから取り掛かり、少しずつ協力しながら、夢は大きく!
一般講演
  • 中崎 美峰子, 大浦 栄次
    セッションID: 1F001
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 有機リン系農薬は種類が多く、主に殺虫剤として、家庭園芸用や街路樹の病害虫防除などにも幅広く使用されている。有機リン系農薬にはアルキルリン酸エステル型のものが多くあり、尿中のジアルキルリン酸はこれらに共通の代謝物であることから、有機リン系農薬一般の曝露指標とされる。
     農業従事者だけでなく、職業的な曝露がない人でも、年間を通して尿中にアルキルリン酸が検出されることを以前報告した。今回、尿中アルキルリン酸検出状況と生活環境要因との関連を探ることを目的に、職域の健康診断受診者を対象とした調査を行った。
    <対象と方法> 厚生連高岡健康管理センターにおける健康診断受診者について、文書による同意に基づいて提供された、検査後の尿を分析に供した。対象は成人男女193名で、男性107名(35~72歳)、女性86名(34~66歳)である。
     測定したアルキルリン酸は、ジメチルリン酸(DMP)、ジメチルチオリン酸(DMTP)、ジエチルリン酸(DEP)、ジエチルチオリン酸(DETP)の4種で、誘導体化後ガスクロマトグラフィーで分析した。
     合わせて、居住環境、殺虫剤等使用状況、果物等の摂取状況に関するアンケート調査を行った。
    <結果と考察> 193件のすべての検体から1種以上のアルキルリン酸が検出された。検出頻度および中央値はDMTP>DMP>DEP>DETPの順に高く、ジメチル型アルキルリン酸はジエチル型アルキルリン酸よりも検出率、濃度レベルともに高かった。
     年間に1日以上農作業をすると答えた者が男性で81.3%、女性で41.9%あり、男性では農作業の有無により尿中アルキルリン酸レベルに差は見られなかった。一方女性では、農作業日数はほとんどが10日以内であったが、「農家」で「農作業あり」群は、「非農家」で「農作業なし」群に比べてDMP+DMTPの濃度が有意に高かった(p<0.01)。
     DDVPを主成分とする吊り下げ型のプレート状殺虫剤について、使用の有無別に尿中アルキルリン酸を比較したところ、男女とも「使用あり」が「使用なし」「わからない」に比べてDMP濃度が高値を示した。DMTP、DEP、DETP濃度ではこのような関連はみられず、DDVPは代謝物のアルキルリン酸としてはDMPのみを生成することから、この殺虫剤の使用が尿中DMPの高値に寄与していると考えられた。
     尿中アルキルリン酸と果物の摂取頻度との関係をみたところ、男性において、摂取頻度が高いほど尿中のDMP+DMTP濃度が高い傾向にあったが、女性では一定の傾向はみられなかった。また、農産物の産地に気をつけて購入するか、農薬使用の少ないものを選ぶよう心がけているかといった意識や行動の違いについて、今回の調査では尿中アルキルリン酸との関連を見出すことはできなかった。
  • 前島 文夫, 西垣 良夫, 永美 大志, 臼田 誠, 松島 松翠, 夏川 周介
    セッションID: 1F002
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉農薬中毒(障害)の発生原因としては自殺企図による服毒が多いが、散布作業など作業に関連したものも存在する。作業に関連した事例の動向を知るためには、農林水産省による実態調査「農薬の使用による事故及び被害の発生状況について」が参考になる。散布中の件数(人数)をみると、2002~2006年において63件(154人)で3人の死亡が含まれていた。作業関連の農薬中毒(障害)に対して効果的に予防や治療を進めるためには、事例の具体的内容を踏まえた対策がなされることが望ましい。今回、日本農村医学会の農薬中毒臨床例全国調査の結果を再検討した。
    〈方法〉日本農村医学会の農薬中毒臨床例全国調査(1998~2003年)で報告された403人について曝露状況からその内訳をみると、自殺企図による服毒284人、作業に関連したもの73人、その他46人であった。この内、作業関連の農薬中毒例73人について発生状況を検討した。
    〈結果〉性別では男性が58人(80%)と多かった。年代では60歳代が19人(26%)と最も多かったが、30~70歳代でそれぞれ10人以上と広い年代で発生していた。診断についてみると、急性・亜急性中毒29人(40%)、皮膚障害38人(52%、その内、化学熱傷12人)、眼障害6人(8%)であった。農薬分類名について、急性・亜急性中毒と皮膚・眼障害に分けてみると、急性・亜急性中毒で多かったのは、除草剤5人、ビピリジニウム系5人、有機リン系3人(多剤の6人を加えると9人)で、皮膚・眼障害で多かったのは、石灰硫黄合剤8人、除草剤6人、殺菌剤6人、混合6人、土壌燻蒸剤5人であった。皮膚障害のうち化学熱傷についてみると、石灰硫黄合剤7人、土壌燻蒸剤3人(ダゾメット1、臭化メチル1、クロルピクリン1)、殺虫剤2人(カーバム)で、石灰硫黄合剤が多かった。転帰については、軽快が63人(86%)と最も多かったが、死亡を1人認めた。この死亡例はパラコート入りの容器を落とした際に、はねた液体を誤飲したと報告されたものであった。入院となったのは、急性・亜急性中毒で多く、15人(1~3日4人、4~6日4人、7~9日7人)であった。化学熱傷の事例の中で、石灰硫黄合剤によって皮膚に深達性の潰瘍を形成し、100日以上の外来治療・経過観察期間を要した例も報告されていた。眼障害では、多剤使用(ミルベメクチン、シペルメトリン、TPN)で角膜炎をきたし8日入院した例があった。農薬曝露状況をみると、農薬散布作業が62人(85%)と最も多く、続いて散布準備・後始末の7人であった。その他、散布された場所での作業2人(皮膚障害)、薫蒸後の倉庫内で作業1人(クロルピクリンによる例)、農薬製造に従事1人(皮膚障害)の報告もあった。
    <考察>今回の検討から、作業に関連した農薬中毒(障害)の報告の中に、パラコートによる死亡例、死亡に至らなくても1週間以上の入院を要した中毒例、石灰硫黄合剤によって化学熱傷をきたし難治性であった例、角膜炎をおこし入院治療を要した例等が確認された。作業に関連した農薬中毒(障害)の中でも特に重症例を減らすためには、まず、農薬使用者が適宜安全使用に関する学習をする場が今後とも必要となる。加えて、日本農村医学会としては、中毒事例の医学的内容を個人情報保護に配慮しながら報告していくことも重要と考える。
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