日本農村医学会学術総会抄録集
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第57回日本農村医学会学術総会
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一般講演
  • 永美 大志, 大谷津 恭之, 前島 文夫, 西垣 良夫, 夏川 周介
    セッションID: 1F003
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>
    石灰硫黄合剤は、春先に果樹の殺虫、殺菌に使用される農薬である。製剤は、強アルカリであり、アルカリ腐食を本体とする深達性の潰瘍を引き起こし、しばしば難治性を呈する。2000年以降でも、症例報告が散見されている。我々も重症化してデブリードマンおよび植皮術の施行を必要とした症例を経験したので、本剤について考察してみる。
    <症例>
    50才代後半の男性が、庭木に本剤を散布した。予備知識に乏しく、防水性の防護具を着用していなかったため、ズボンなどに付着したが、そのまま作業を続行した。夕方より、疼痛が生起し、翌朝になっても継続したため、受診した。
    初診時、両下腿後面に白色潰瘍をともなう3度の熱傷を認めた。手、腕にも軽度の熱傷があった。第6病日デブリードマン術を施した。切除は、真皮層、脂肪層に及び、一部は筋膜にまで達していた。人工真皮を貼付後、第20病日に植皮術を施行した。経過は順調で、第28病日退院となった。
    <考察>
    本剤による化学熱傷は、深達性のアルカリ熱傷を本体とする。症例報告においても、治療の難渋を報告するものが多く、デブリードマン、植皮術を要する症例が報告されている。アルカリによる腐食は、速やかに吸収され組織を腐食しながら深達してゆくと言われており、第一に付着直後の洗浄が肝要であり、一時間以上経過した後の洗浄は、効果を期待できないとする報告が多い。加えて、散布濃度が皮膚に付着した初期は、むしろ麻酔作用があり、洗浄が遅れがちになることも指摘されている。
    本剤による化学熱傷は、2000年代に入ってから、毎年に近い頻度で症例報告が行われている。日本全国での発生頻度を悉皆的に調査した報告は見当たらないが、本学会の会員である施設を対象とした西垣ら(2005)の1998-2003年の調査では、8例の報告を受けており、その内訳は化学熱傷7例、眼障害1例であった。この調査の対象となった医療機関の診療の規模は、日本全体の2%程度と推測され、全国では、本剤による化学熱傷の症例が相当数あるものと推察される。また、Horiuchi et al.(2008)は、農薬による皮膚障害により、佐久病院を受診した症例の集積を行なったところ、1975-2000年の間に、本剤による皮膚障害の発生頻度は、横這いに近いことを報告した。
    <まとめ>
    石灰硫黄合剤による化学熱傷は、アルカリ腐食を本体として、しばしば、深達性、難治性を呈する。その歴史は古く、障害防止のための啓発活動もあったものと思われる。しかし、症例報告は2000年代に入ってむしろ多くなっており、障害防止のためのさらなる啓発活動が必要であると考えられる。
    <文献>
    西垣良夫他(2005) 日農医誌 54(2):107-117
    Horiuchi N et al(2008) Int J Occup Environ Health 14(1):25-34
  • 菊地 俊秋, 三廻部 眞己
    セッションID: 1F004
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    1.農林業は事故発生率が最高、建設業よりも危険な業種に陥った
    農林業の事故発生率は業種別に労働者1000人の事業場に換算して、1年間に39人が事故を起こし、全業種平均の3人を大きく上回り全産業の中で最高となっている。
    農作業事故の主な要因は(1)就農者の高齢化による不安全行動(2)傾斜地等の農作業現場の不安全状態及び酷暑等の環境(3)一人作業による安全管理の欠陥などの農業構造要因が関与している。しかも、これらの構造改善は不可能であるため、今後とも事故発生率が高まることが懸念される。
    2.農作業事故死だけが増え続ける
    この35年間、農作業事故死だけが減らないことは重大な問題である。年平均386人が農作業の犠牲となっている。他産業の労災事故死は行政指導や企業、地域の事故を防ぐ安全管理活動の効果により年々急ピッチで減少してきており、農作業事故死だけが減らない現状は農業政策的にも、農業者を組織しているJAにとっても放置できない事態となっている。
    3.農作業事故発生メカニズムの検討
      農作業事故はなぜ、どうして起きるのか。主な事故要因は(1)経営者の安全管理の欠陥(2)農業者の不安全行動(3)作業現場における不安全状態(4)欠陥機械の4つが挙げられる。
    事故発生原因を究明する上で1995年に公布された製造物責任法(PL法)の存在は大きい。事故が起きたら、先ずこの機械・施設の構造設計上に欠陥がなかったかを追求することが必要である。欠陥機械を稼動させれば事故発生は必至であり、事故を防ぐことは不可能である。米国における農業事故は既に「訴訟社会」を形成している。日本でも自動車や各種機械の欠陥が世間を脅かしている。欠陥機械は重大な事故原因と指摘せざるを得ない。
    4.農家でも人を雇えば安全配慮義務がある
      パートやアルバイトなど人を雇えば、安全だけでなく、快適に働かせなければならない安全配慮義務を負っていることは、これまでの裁判で判例が確定している。
    個別農家のみならず、農業法人、集落営農組織の代表者は安全配慮義務を具体的に尽くす必要がある。同義務を怠り、人身事故が起きた場合には、債務不履行責任(民法第415条)によって損害賠償責任が問われることになる。
    5.結論
    日本の全産業の中で農林業の事故発生率が最高であることを実証した。この対策は、先ず全農家が農業のリスクマネジメントに取り組むべきである。具体的には、事故補償を確保する労災保険やJAの農作業中傷害共済に全農家が加入することである。
    事故対策は、農家個人任せでは減少しない。健康管理活動が集団検診を組織的に推進して成功しているように、農作業事故防止対策も安全を作り出す地域農業の安全管理活動の組織的な展開が必要である。今後、産学官の連携とJAのリーダーシップにより、事故防止の現地モデル地区を設定し、農業の安全文化を築くべきである。
  • 臼田 誠, 広澤 三和子, 佐々木 眞爾, 前島 文夫, 浅沼 信治, 夏川 周介
    セッションID: 1F005
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    〈はじめに〉
    我が国の農作業事故死亡者数が毎年400人前後あり、これが過去30数年間変わらずに続いている悲惨な状況を農林水産省農作業事故調査報告書は知らせている。しかし、本報告書にはその基となる各都道府県別の事故発生状況についての記載はない。各県により農業内容が異なり、発生する事故には自ずと違いがある。事故防止に当たっては県個別の情報に基づいた対策が必要となる。本学会への県別の状況報告は多くはない。そこで、長野県における死亡事故の状況について検討を行うとともに、その事故の情報収集方法についても調査した。
    〈方法〉
    長野県農政部農村振興課からの農作業事故(死亡)発生状況報告書17年分(平成2年から平成平成18年まで)に記載された死亡例について分析した。また、農作業事故の情報収集方法については、県農政部への問い合わせとその出先機関である改良普及センターからの聞き取りによる調査を実施した。
    〈結果〉
    (1)長野県における17年間の農作業死亡事故発生状況の概要を以下に示す。
    死亡事故数は計211件で、年平均12.4件であった。被害者の職業は8割が農業で、その他は会社員、無職、公務員などであった。性別では男188人(89.1%)、女23人(10.9%)で、男が圧倒的に多かった。年齢では60歳以上が159人(75.4%)、65歳以上の高齢者が139人と65.9%を占めていた。最年少は2歳、最高齢者は92歳であった。
      月別発生状況では、春の農繁期に当たる5月と4月がもっとも多く、その後は8月から11月に多く発生し、特に10月が多かった。発生時間帯では、11時と16時にピークが認められた。事故発生場所は畑がもっとも多く46件(21.8%)、道路44件、農道37件、果樹園26件、水田20件と続く。作業内容は移動86件(40.8%)、耕耘46件、運搬23件、防除13件の順であった。農業機械に関わる事故は全体の9割に当たる190件あり、そのうち乗用型トラクターによるものがもっとも多く72件(37.9%)、ついで歩行型トラクター45件、スピードスプレア22件、運搬車11件の順であった。
    事故の原因では、乗用型トラクターなどの下敷きになるがもっとも多く83件(39.3%)、ついで歩行型トラクターなどの機械と物との間に挟まれるが43件、機械や物からの転落が29件、移動中などで交通事故にあう21件、機械に巻き込まれる16件の順となっていた。
    死因については、頚部・胸部の圧迫が74件(35.1%)でもっとも多く、次いで脳挫傷21件、外傷性ショック20件、頸椎骨折・損傷13件、水死・溺死12件などであった。
    (2)県内の農作業死亡事故の情報収集方法は県農政部によると、県農作業事故調査要領に基づいて行われ、調査対象は受傷者が24時間以内に死亡した事故と受傷者が24時間経過後に死亡した事故及び1ヶ月以上入院または通院を必要とした重症事故とする。調査実施主体は農業改良普及センターで、死亡事故及び重症事故について、管内の関係機関・団体の協力を得て調査を実施するという。地元管内農業改良普及センターの事故担当者によると、関係機関の統廃合から地域に密着した事故情報が入りにくくなっているという。事実、地元新聞に掲載された農作業事故が県報告書から漏れている場合があった。地元新聞では管内警察署に日に3回の電話問い合わせで、情報を収集している。実際の農作業死亡事故数は県農政部の報告より多いと考えられる。
  • 佐藤 栄一, 岡田 邦彦, 渡部 修
    セッションID: 1F006
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    【緒言】
     日本国内では農業災害により毎年平均397名が命を落としている。他の労働災害による死亡者が急激に減少している中で、農業災害は増加傾向である。また、農業災害自体も事故の発生年千人率が建設業8.5に対して、13.5で危険業種に属している。この原因として、就農者の高齢化や単身業務、農作業現場の傾斜や悪路などの不安定状態、農業機械の高性能化と大型化に反して安全対策がなかなか進まない点などが挙げられている。
     農家の数が全国一を誇る長野県において、佐久総合病院(以下、当院)は1次~3次救急医療を担ってきている。今回、当院の対応した重症農業災害症例に注目して、それらに検討を加え今後を展望した。
    【目的】
     重症農業災害症例を検討し、その原因分析や、救命の予後改善のために必要な要素について考察した。
    【対象】
     2005年~2007年の3年間に当院に搬送され、重症と診断された農業災害26症例。
    【方法】
     当院の診療録を後ろ向きに検索し、症例、受傷機転、搬送方法、治療内容、予後、死亡原因などについて検討を加えた。
    【結果】
     症例は全て男性で、平均年齢は64.1歳(6歳~86歳)であった。受傷機転では、農業機械関連が16症例(61.5%)で、それ以外は、高所からの転落や木材の衝突、家畜関連などが原因として挙げられた。搬送方法では、当院を基地病院として2005年から運航している信州ドクターヘリによる搬送が15症例(57.7%)であった。予後は、生存例が22症例であったが、4症例は死亡された。
    【考察】
     高齢就農者の割合が多いのは当院の症例でも明らかであった。受傷機転は大型機械関連が半数以上であり、機械の安全設計などといった対策が重要であることが伺えた。また、それ以外の受傷機転では高所からの転落などの場合でも傷病者が発見されるまでに長時間を要する場合もあり、例えば複数名での作業や作業者の身体に衝撃が加わった際にアラーム機能や自動通報機能が作動するなどの工夫が必要であると推測された。4名の死亡例に注目すると、受傷機転は高所からの転落1例の他は大型機械に挟まれたり下敷きになったりすることで死亡した症例が3例であった。傾斜や悪路などといった農作業現場の問題と大型機械の安全対策、更に高齢者の運動機能の低下などの原因が絡んだ結果と推測され、救命のためにはこれらへの具体的かつ早急な対策が必要であることが、強く示唆される結果となった。ドクターヘリは、初療開始時間の短縮などにより救命率と予後改善効果が期待される最新の救急システムである。今回の26症例での救命効果についての具体的な検討を行っていきたい。
  • 楳田 雄大, 後藤 博, 中西 茂樹, 鷹津 久登, 田中 孜
    セッションID: 1F007
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    【はじめに】脳ドックは、無症状の人を対象に、無症候あるいは未発症の脳および脳血管疾患あるいはその危険因子を発見し、それらの発症あるいは進行を防止しようとするものである。発見の対象は、無症候性脳梗塞、未破裂性脳動脈瘤、頭頚部血管閉塞・狭窄、無症候性脳腫瘍および腫瘍様病変などがある。近年、認知症への関心が高まり当院においても脳ドック検査項目に心理テストも行なっている。また、早期アルツハイマー型痴呆診断支援システムとして、MRIで撮像された3DT1強調画像から海馬の萎縮程度を数値解析するソフトウェア(Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer’s Disease以下VSRAD)が松田博史らにより開発されたことにより、認知症診断の一助となっている。そこで今回、当院脳ドックにおけるMRI検査について報告する。 【使用MRI装置】PHILIPS社製 Intera Achiva Nova 1.5T 【撮像プロトコール】T2強調横断像・T1強調横断像・FLAIR横断像・DWI横断像・T2強調矢状断像・T2強調冠状断像・頭頚部MRA・(3DT1強調矢状断像:VSRAD用) 【要旨】当院脳ドックにおいて、現在MRI、MRA、頸動脈エコー、心電図、血液検査、胸部X線撮影、心理テスト、診察を一連の検査としている。平成19年7月よりVSRADが可能となった。VSRADは早期アルツハイマー型認知症に特徴的に見られる海馬傍回付近の萎縮の程度(関心領域における正のZスコアの平均値)を自動解析して表示するソフトウェアである。同ソフトは、50歳以上の被験者が対象で、明確な脳梗塞のみられる画像や顎が上がって撮像された画像では正常に解析ができないとされている。無症状の人を対象にした脳ドックにおいて梗塞巣による解析エラーは少ないが、受診者の年齢が50歳未満の方も少なくなく、全員に検査可能ではない。その為、現在50歳以上を対象に試験的に検査を行なっている。 【まとめ】MRI、MRAによる画像検査を主体とする一連の検査により、無症候あるいは未発症の脳および脳血管疾患の早期発見が脳ドックの普及に至っている。VSRADは現在すべての受診者に可能ではないが、国民の関心の高い認知症の診断の一助となり、予防医学の脳ドックにおいて有
  • 永沼 晃和
    セッションID: 1F008
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉 近年、死亡原因の1位は悪性新生物であり、早期発見のため、精度の高い検査が求められている。そのような中で、JA北海道厚生連放射線技師会では、平成15年度より「超音波検診の精度向上に関する委員会」を会内に設置し、集検の精度向上に向け、活動を開始した。 主な活動内容を以下に示す。 ・ 施設内ドック超音波検査成績調査 ・ 各施設超音波検査実態調査   装置・走査方法 ・ トピックス配信 ・ 頚動脈検査マニュアルの作成 ・ 腹部超音波検査の代表的疾患マニュアル作成  今回我々は、活動の主眼としている超音波検査成績について、院内施設ドックを行っている6施設を対象に、検査成績をまとめたので報告する。 〈検討項目〉 1)平成18年度における病院ごとの腹部超音波検査成績について調査した。 2) 平成18年度における一次有所見内訳について臓器ごとに調査した。 3)平成10年度~平成18年度までの発見がん内訳について臓器ごとに調査した。 〈結果及び考察〉 1)ドック受診者数50,603人中、腹部超音波検査受診者数は46,208人(受診率91.3%)であった。有所見率については68.1%、要精検率4.5%、精検受診率74.5%、がん発見率0.048%であった。病院間での結果では、要精検率、がん発見率において、バラツキが見られた。要因として、要精検率については各病院における要精検の基準が異なることが考えられた。がん発見率については、超音波受診者数の違いや精検受診率の違いが影響していると考えられた。 2)一次所見の結果、脂肪肝(27.4%)、肝嚢胞(18.65%)、胆嚢ポリープ(15.74%)、左腎嚢胞(9.51%)、右腎嚢胞(9.11%)、胆石症(3.61%)が上位となり、脂肪肝や胆石症などの生活習慣病に対する検査としての位置づけもできると考えられた。 3) 平成18年度の発見がん内訳は、肝臓4例、胆嚢1例、膵臓7例、腎臓8例、脾臓0例、その他2例、合計22例で、がん発見率は0.048%であった。経年では、肝臓35例、胆嚢23例、膵臓30例、腎臓72例、脾臓0例、その他7例であった。がん発見率は0.03~0.05の間で推移しており、ガン検診の役割を果たしていると考えられた。 この結果は、北海道厚生連生活習慣病読影委員会のデータを一部参照した。 北海道厚生連生活習慣病読影委員会に深謝するとともに、今後も「超音波検診の精度向上に関する委員会」として検診精度向上の取り組みを行い、がん発見の向上を目指したい
  • 佐野 貴子, 川井 知恵美, 辻 昌寛, 守屋 律子, 宮崎 弘二, 飯沼 全司, 戸倉 和彦, 加藤 淳也, 依田 芳起
    セッションID: 1F009
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    メタボリックシンドロームは自覚症状が乏しいため、現在の健康状態から生活改善の必要性を認識し、行動変容するのは難しい。また、4月よりスタートした特定保健指導は、支援計画の立案に始まり、積極的支援者には6ヶ月間にわたる多様な支援を提供しながらポイントとデータを管理し、6ヶ月後の評価につなげるなど管理業務も複雑で、多大な労力を要することが予想される。
    そこで、当センターでは、特定保健指導に携わる保健師・管理栄養士が中心となり、限られた指導時間の中で効果的な支援ができ、初回面接から評価・報告までを一括管理できる当センター独自の「特定保健指導支援システム」を地元ベンダーと共に開発したので報告する。

    【システムの要点】
    1)対象者が現在の健康状態や、今後起こりうる健康上の問題点を認識できる。
    (動画や画像の活用、10年間に起こりうる疾患の危険予測表示)。
    2)対象者が楽しみながら、生活習慣の見直しができる。
    (指導担当者をモデルにした肥満シミュレーション画面の作成・活用)。
    3)限られた指導時間を有効活用できる。
    (資料はPCへ取り込みペーパーレス化、6ヶ月後の目標や食事・運動の消費calの自動計算)。
    4)対象者が自分のライフスタイルに合った改善計画を立てやすく、食事・運動相互のcal換算がしやすい。
    (食事・運動100kcalカルタ、フリー入力カルタの作成・活用)。
    5)積極的支援者の6ヶ月間のスケジュール作成が簡単にできる。
    (初回面接日から換算して、6ヶ月間の支援スケジュールを自動作成)。
    6)日々の支援予定やスケジュールの予約状況が一目で分かる。
    (電話やメールなどの支援日お知らせ機能、施設内・外のタイムスケジュール表示、支援予定者情報のワンクリック取り出し機能)。
    7)対象者の支援情報をスタッフ間でタイムリーに共有でき、いつでも誰でも個別性を生かした支援が提供できる。
    (対象者の顔写真入りの個人データ画面にて初回面接情報やデータ・支援スケジュールなどを確認)。
    8)データ・ポイントが一括管理できる。
    (自動ポイント加算、データ未改善者・中断者などのお知らせ機能)。
    9)委託元がWEB上で支援内容 をリアルタイムに確認できる。
    10)支援情報を全て電子データ化し、報告できる。

    【結語】
    指導スタッフだけでなく、対象者や委託元などの意見も参考に、随時システム内容を見直し、生活改善へとつながる特定保健指導を提供できるよう改良を重ねていく。
  • 篠原 夏美, 中澤 あけみ, 前島 文夫, 山崎 弘子
    セッションID: 1F010
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    【はじめに】
     H20年度から実施されることになった「特定健診」「特定保健指導」では、生活改善の必要度に応じ支援レベルを階層化し、リスクの重複がある対象者には行動変容につながる保健指導を行うこととされている。特定保健指導を行うに当たり、まず対象者数の割合を把握し、さらに我々の介入が対象者にもたらす変化をみる必要がある。今回上記を明らかにする目的で、モデル事業を行ったので報告する。
    【研究方法】
     対象は、H18年度に健康診断を受診した当院職員計1,106名で、研究期間はH19年2月~H19年8月であった。方法は、(1)H18年度健康診断の結果から、「特定保健指導」の対象者を国の基準に沿って選定し、当院の発生割合と厚生労働省推計値をカイ2乗検定にて比較検討した(有意水準5%未満)。(2)「特定保健指導」の対象となった者に対し、まず生活習慣等をアセスメントするための問診票を配布・回収した。問診票には行動変容ステージの質問(Prochaska,DiClemente)を入れ、生活習慣改善への意識を把握した。その後保健師による40分程度の個別面接を実施した。この時点で保健指導に参加した者(以下、介入群)は45名(23~58歳、平均39.8歳)、対象であるが参加しなかった者(以下、非介入群)は55名(24~58歳、平均37.3歳)だった。なお、面接に当たっては事前にスタッフ間でカンファレンスを行い、指導の流れ・ポイント・教材等を共有し、統一された指導を実施できるようにした。保健指導から2ヵ月後(健康診断から6ヶ月後)、介入群・非介入群に再検査を実施した。この際、再度行動変容ステージの質問を実施した。最終的に有効データは介入群43名分、非介入群28名分となった。保健指導介入の有無により差があったかについては、健診時に比べ再検査時に-1kg以下の体重減少があった者、支援レベルが改善していた者、行動変容ステージが改善していた者それぞれについて、年代・性別・個別面接実施時での支援レベル・個別面接実施時での行動変容ステージ別に介入群と非介入群を比較した。用いたのはカイ2乗検定又はフィッシャーの直接確率検定で、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     特定保健指導対象者の割合だが、特定保健指導の実施義務が40~74歳であることと、当院での年齢構成を考慮し40~64歳の男女別割合をみると、男性26名(26.3%)、女性21名(11.8%)となった。これは厚生労働省の推計値である男性36.4%、女性16.2%に比べ有意に少なかった。保健指導介入の有無により差があったかについて、(1)40歳未満の者の体重減少、(2)40歳未満の者の行動変容ステージの改善、(3)男性の行動変容ステージの改善、(4)関心期ステージにあった者の行動変容ステージの改善、の4項目において介入群の方が有意に高率となっていた。
    【考察・結語】
     当院での特定保健指導対象者割合が少なかった理由は、40歳以上の職員は人間ドックの受診が多いという理由も考えられ、今後それらを含めた対象者割合を調べる必要がある。今回対象となった者の半数は40歳未満であったこと、さらに40歳未満の者は体重減少や行動変容ステージの改善が保健指導の介入によりなされ易かったため、メタボリックシンドロームの予防改善には若い世代への介入が非常に重要であると考える。今回は健診から6ヶ月後の様子を報告したが、1年後どうなったかについて評価することも今後の課題である。
  • 佐保 由美
    セッションID: 1F011
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    睡眠時無呼吸症候群検査における精検受診率向上に向けての検討 佐保由美(さほゆみ)井上裕美子・曽我佳代・佐藤竜吾大分県厚生連健康管理センター・保健事業部 睡眠時無呼吸症候群・精検受診・事後指導 〈緒言〉近年、睡眠時無呼吸症候群(以後SASとする)は生活習慣病や居眠り運転事故、労働災害との関連を指摘されており、社会的な問題になっている。当センターでは平成14年から簡易検査機器morpheusを使用し、希望者にオプション検査としてSAS検査を実施している。日帰り健診受診者には、検査機器の貸し出しを行い、検査結果は、後日郵送を行っている。宿泊人間ドック受診者には、当日検査を実施し、検査結果は医師が直接説明を行っている。検査受診後の精密検査(以後精検とする)指示者に対して、希望者には当施設に併設している病院の専門外来に紹介を行っている。精検受診率の向上は重要課題であるが、当センターでは他の検査項目に比較しSAS検査の精検受診率が低い傾向にある。本研究では、精検受診者と精検未受診者の意識の違いを明らかにし、要精検者への効果的な事後指導のあり方について検討した。   〈対象・方法〉対象者は、平成16年4月から平成19年12月まで、当センターでSAS検査を受診し精検を勧めた269名(要精検率57.9%)とした。平成20年2月に自記式の質問紙表を郵送し、記入後返送してもらった。本検討の解析対象者は返信のあった144名(男性122名、女性22名、平均年齢56.4歳、回収率53.5%)である。精検受診の有無において、現在のSASに関連した症状の有無、現在のSASの不安の有無、無呼吸低呼吸指数(以後AHIとする)結果通知の方法、SAS検査受診の理由、SASと肥満や生活習慣病との関係の知識の有無、SAS検査受診後の生活習慣改善の取り組みの有無を比較検討した。また、精検受診理由、精検未受診理由についても検討を行なった。 〈結果〉AHIの結果は、「軽度」60名(41.7%)「中等度」43名(29.9%)「重度」41名(28.4%)であった。精検受診者は78名(54.2%)精検未受診者は66名(45.8%)であった。精検受診群と精検未受診群で有意な差が認められたものは、現在のSASに関連した症状の有無で、精検受診群が61.5%に対し精検未受診群が81.8%と、明らかに精検未受診群の方に症状のある人が多かった(P<0.01)。現在のSASの不安については、精検受診群の方に不安がない傾向があった(P<0.01)。AHIの程度と精検受診の有無についてみてみると、精検受診群は「軽度」38.4%「中等度」30.8%「重度」30.8%、精検未受診群は「軽度」45.4%「中等度」28.8%「重度」25.8%と精検受診群と精検未受診群では、有意差は認められなかった。また、他の項目についても有意差はなかった。精検受診理由は「当センターから勧められた」62.8%「周囲から指摘された症状が気になった」53.8%「放置するのは好ましくないと思った」50.0%であった。一方、精検未受診理由は、「忙しかった」45.4%「放置しても問題がないと思った」27.3%「受診先がわからなかった」27.3%であった。 〈結語〉精検未受診群の方に、現在SASに関連した症状のある人が多かった。また、精検受診群の方に、現在SASの不安がない傾向があった。また、精検受診群、精検未受診群とも、精検受診理由、未受診理由より、SASの危険性の理解は十分ではないと考える。精検受診率向上の為には、受診の必要性を正しく理解してもらう取り組みが必要であると考える。またAHIの程度と精検受診の有無に差がなかったことから、重症な方の精検受診率向上についても、重要課題であるということがわかった。重症な方を強化したフォロー体制の充実を図ることも必要であると考える。
  • 田畑 奈津子, 久木野 千春, 前田 育子, 草野 健, 前之原 茂穂
    セッションID: 1F012
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    〈緒言〉当センターでは、以前より、特にメタボリックシンドローム(MSと略)を中心とした生活習慣病対策に取り組んできた。
    今回、平成16年度人間ドック受診者のうち、平成19年度に腹囲測定を実施した受診者を対象として、MS関連項目の変化について検討した。さらに飲酒・運動・食事などの生活習慣がMSとどのように関連しているかについても若干の検討・考察を加え報告する。
    〈対象〉性および治療によるバイアスを除去するため、平成16年度に当センター人間ドック受診者中、3年後にも受診した6,042名のうち、糖・脂質異常・高血圧治療中のものを除いた特定保健指導の対象となる40歳から74歳男性(n=2,535)を対象とした。
    〈方法〉平成16年度の結果から、肥満の有無(BMI25で分類)、空腹時血糖4群分類(1群=100未満、2群=100以上110未満、3群=110以上126未満、4群=126以上)し、各群ごとに3年後にMSの基準に基づいた分類(該当群・予備群・肥満のみ・肥満なし)に分け、どのように推移したかを、prospectiveに検討した。さらに、生活習慣の中で、特に飲酒状況、食状況、運動習慣にかんしても、それらの因子がどのように影響しているかについても若干の分析を行った。
    〈結果〉 平成16年度の肥満の有無両群の3年後のMS状況をみると、MS群予備群併せた割合は、肥満なし群では24.9%に対し、肥満群では74.0%と高かった。3年前の血糖分類群から3年後のMS状況をみると、1群からは26.8%、2群からは41.6%、3群からは51.6%、4群からは64.0%がMS群および予備群であった。
    生活習慣をみると、飲酒量とMS状況および糖の状況に有意な差は認めなかった。また、運動習慣の有無も同様に顕著な傾向は認められなかった。食習慣では、欠食および摂取量・咀嚼状況のいずれでも、血糖値およびMS状況に若干の差を認めた。
    〈考察〉肥満なし群でも少なからず耐糖能異常者は存在しており、そうした者は若干の体重増加でMS該当者あるいは予備群となると思われる。肥満なし群から約1/4もがMSおよび予備群となっているが、このことは血糖正常者から3年後にはほぼ同率の高血糖者がでていることと符合する。
    一方、飲酒や運動では明確な傾向を認めず、食習慣で若干の関連を認めている。以前にも腹八分と咀嚼がもっとも糖と関連が深いことを報告したが、MSに関しても同様のことが指摘できた。経時的変化をみる限り、成果を得るための保健指導の中心は食習慣であると考えられる。
    〈まとめ〉MS予防としては、何よりも食習慣の改善が重要であるが、食習慣改善は強力な生活介入を要求する活動である。この3年間の受診者への保健指導の状況も加えて考察して報告する。
  • 大浦 栄次, 澁谷 直美
    セッションID: 1F013
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
    慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)が心血管イベントのリスクファクターとして関連し、さらに生活習慣と密接に関連しているとことが明らかにされつつある。
     今回、富山県厚生連の高岡・滑川の健康管理センターを平成18年度に受診した者を対象に、改定MDRD簡易式による推定糸球体濾過値(eGFR)を推算し、GFRとメタボリックシンドロームに取り上げられている、腹囲、血圧、脂質、血糖、並びにメタボリックシンドローム(MetS)の関係について検討した。また、10年前の平成8年度にも受診した者について、この間のMetS関連項目の変化とCKDの発症との関連について検討したので以下に報告する。
    方  法
     平成18年度に厚生連健康管理センターを受診した約15000人を対象に、改定MDRD簡易式により推定GFRを計算し、腹囲、血圧、脂質、血糖についてMetSの基準に基づいて正常者と異常者を分類し、GFRによるCKDのステージ分類(90以上(_I_)、60~89(_II_)、60未満(_III_))に基づき区分し、慢性腎臓病と定義されるGFR_III_の者の比率を比較し、生活習慣病との関係について検討した。
     また、10年前にも受診した約5500人について、肥満の指標としてBMI(25以上を肥満とする)、血圧、脂質、血糖値の正常値を保ち続けた者、正常値から異常値となった者、異常値が継続した者におけるGFRを比較した。
    結果と考察
     年齢別では高齢になるに従い、男女ともGFRが低下しCKD分類_III_の者の比率は。39才未満の者が2%前後に対して、男女とも70才代では約10%であった。
     尿蛋白の定性判定で-、±、+の者に比して、2+、3+の者のGFRの平均値が低かった。特に、男では平均値が59.3と60未満となっていた。これを、慢性腎臓病の基準であるGFRが60未満の者の割合で比較すると、尿蛋白-では10%未満であり、±でも10%わずかに超えたが、+では16~18%、2+では40%と約4割の者がCKD分類_III_であった。
     次に、メタボリックシンドロームの判定基準の腹囲男85cm未満のCKD分類_III_の割合は、6.5%に対して、85cm以上の者では10.9%と多かった。また、MetSの者関連の各項目の正常に分類される者に対して、異常の者のCKD分類_III_の割合が特に高かったのは、男の血圧、脂質、血糖であり、女では、脂質であった。この項目分類に基づいてMetS-とMetS+とのCKD分類_III_の割合は、男で-の者が7.8%、+の者が11.6%であった。女では-が4.3%、+が3.9%と逆転していた。しかし、MetSの基準をBMI25として区分すると男でMetS-が10.4%、+が13.8%、女で-が7.3%、+が12.0%と差があつた。
     次に10年前にも受診した者で肥満をBMI25を基準として血圧、脂質、血糖の10年間の変化が正常、異常の変化を比較すると、各項目およびMetSについて、GFR値は10年間の変化が正常-正常の者の方が、異常-異常の群りGFR値が高かった。
     以上のことから、生活習慣とCKDは密接に関連しており、CKDの予防には、生活習慣改善が重要と考えられた。
  • 澁谷 直美
    セッションID: 1F014
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉平成20年度から特定健診、特定保健指導が始まる。特定健診は40歳以上75歳未満が対象となっており、40歳未満はこの対象から外れている。しかし、悪い生活習慣は40歳から始まるのではない。メタボリックシンドロームは内臓肥満が糖尿病や高血圧、高脂血症を起こしやすいといわれるが、若年層では必ずしも肥満がなくても健診データの異常を示すものがいる。
    今回、40歳未満の健診受診者の運動、食事、ストレス等の問診と健診データを検討したので報告する。
    〈方法・対象〉対象者は平成19年4月から平成20年3月に、厚生連高岡・滑川健康管理センターの日帰りドックや生活習慣病予防健診、巡回検診を受診した者で40歳未満の男1800名、女1730名。
    問診を運動、食事、ストレス、たばこの4つに分類し(表1)、生活習慣がよいものを1点としてその合計点と、それぞれの健診データ(AST、ALT、CHE、<γGTP、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、空腹時血糖、血圧、BMI)との関係を検討した。なお、分類ごとに問診の未記入があれば対象から外した。
    〈結果・考察〉運動については、男性は合計点が高いほどALT・γGTP・総コレステロール・中性脂肪・血糖が低値傾向であった。最高血圧は高値傾向であった。女性は点数が高いほどBMI・AST・HDLコレステロールが高値傾向、中性脂肪が低値傾向であった。
    食事については、男性は合計点が高いほどγGTPは低値傾向であった。女性は点数が高いほどALT・血糖・最高血圧・最低血圧が低値傾向であった。
    ストレスについては、男性は合計点が高いほどγGTP・ HDLコレステロールが高値、総コレステロール・中性脂肪・BMI・が低値傾向であった。
    たばこについては、「たばこを吸う」と「吸わない」では、男女とも「吸う」方がγGTP・中性脂肪が高く、総コレステロール・HDLコレステロールが低かった。
    運動項目の「1回30分以上の運動を週2回以上行う」や「日常生活の中で歩行又は同等の身体活動を1日1時間以上行う」と答えた人は、γGTP・総コレステロール・中性脂肪・血糖・最低血圧が低く、HDLコレステロールが高かった。しかし、「同じ年齢の人より歩く速さが速い」と答えた人はCHEが高く、BMIが高値であることから、歩く速さを速くしても血液データを改善させるまでの効果が得られていないのではないかと考えられる。また、女性では「1回30分以上の運動を週2回以上行う」人の方が、BMIが高かった。これは、「行う」のBMI平均値は21.5、「行わない」は20.8と、「行う」人は標準体重であることから、運動によって筋肉がついているのではないかと考えられる。
    ストレス項目では、男は「睡眠で休養がとれている」「睡眠が7時間以上」の方が、BMIが低かった。女は「ストレスはだいたい解消されている」方が、HDLコレステロールが高かった。
  • 岡本 歩, 杉山 和久, 小林 加代子, 鎌倉 真理子, 横山 梢恵
    セッションID: 1F015
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
     胃がん検診検討会を開催して 久美愛厚生病院、農村検診センター 岡本 歩 杉山 和久・小林 加代子・鎌倉 真理子・横山 梢恵 胃がん検診・精度管理・地域連携 〈緒言〉H17年度に第1回胃がん検診検討会を開催した。検討会により、初回受診者の拡大や、各精検機関が精検実施数に比例した胃がんを発見できるよう精度の向上に努める重要性を認識した。今回H19年度に、当検診センターで実施した全ての住民の胃がん検診結果をもとに検討会を開催した。現状の分析と、今後の課題について検討したのでここに報告する。 〈方法〉開催日:平成20年3月14日 参加機関:飛騨保健所、高山市保健センター、精検医療機関(当院を含めた8施設)内容:_丸1_飛騨地域の胃がん登録・死亡状況、_丸2_検診実績及び精検方法の割合、_丸3_各精検機関の癌発見率・発見癌の病期の割合(H14~18)について各機関が発表し意見交換を行った。 〈結果〉1.胃がん登録・死亡状況の分析: 飛騨地域(高山市・飛騨市・白川村)の胃がん死亡率は、男性はH13年度より増加している(表1)。女性はH13~15年度まで増加していたがH16年度は7.4で、H16年度の全国と比較すると男女ともに全国より低くなっている。検診実績は、H16~18年度にかけて要精検率・癌発見率が上昇し、H18年度は全国を上回った(表2)。精検受診率は平均89.9%で変動はないが、全国より高かった。初回受診率は、3.4~6.5%の間で推移しており、ほとんど変化はなかった。 2.精検方法・精検結果の分析:H18年度に実施された精検は、胃内視鏡検査が94.6%、胃部X線検査は4.4%で、前回の検討会時とほぼ同じ割合であった。各精検機関の、精検実施数に対する癌発見率は、当院が3.30%、T病院が2.18%、その他の医療機関が0.59%であった。その他の医療機関の癌発見率が低い要因として、胃部X線検査を実施していることが考えられた。進行癌で発見された場合に過去の検診フィルムを見直しても、病変が写っていない場合が多く、要精検になった場合は胃内視鏡検査の実施が重要である。精検を実施する場合は、より精度の高い胃内視鏡検査について説明することや、その機関で実施できない場合は胃内視鏡検査が実施できる機関を紹介する必要があることを再認識した。 〈まとめ〉  今回の検討会では、高い精検受診率が得られていることや、胃癌発見率が上昇していることから、検診は有効に実施されているといえた。H20年度からは、がん検診の申込み方法や検診体制が変更されるが、今後もこの会を継続し、有効な検診実施に向けて取り組みたい。
  • 高橋 恵子, 桐原 優子, 今野谷 美名子, 月澤 恵子, 石成 誠子, 佐々木 司郎, 長澤  邦雄, 荻原 忠, 林 雅人
    セッションID: 1F016
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】今回、生活習慣病治療者の健康意識及び食習慣について把握すべく、既往歴及び現在治療中の疾患がない人を健常者とし高血圧症治療者と比較検討したので報告する。
    【対象及び方法】 調査対象は平成16~17年度にJA健康推進協議会の健診と生活習慣及び食習慣調査を実施した1341名の中から、健常者651名、高血圧症治療者322名を選出した。なお、高血圧症治療者の中には糖尿病治療者15名(4.6%)、高脂血症治療者45名(14.0%)、糖尿病+高脂血症治療者8名(2.5%)が含まれている。
    食習慣の調査方法は簡易型自記式食事歴法質問票を用い、最近1ヶ月以内の食習慣について記入してもらった。
    【結果及び考察】対象者の年齢を40~59歳と60~74歳に区分し、BMI25以上の割合を比較してみると、高血圧群は健常者群の2倍前後を占めており、血圧管理に体重コントロールの重要性を再確認する結果であった。
    高血圧群の肥満が多い事から両群間の食べる速さを比較してみると、男女共に高血圧群の方が若干速く食べる傾向が見られ、女性より男性の方が高率であった。
    なお、食品の摂取回数から算出したエネルギー摂取量を比較してみると両群間に差は見られなかった。
    健康意識について、最近食習慣を意識的に変えた人は高血圧群の方が高率であり、40~59歳の男性に有意差が認められた。
    しかし、全体でみると3割以下と少ない結果であった。この事は治療している事で安心し、生活習慣や食習慣を改善しようとする意識が低いためと推察される。
    また、食事のコントロールを医師、栄養士、その他専門家の指導のもとで行っていると答えた人は1割強と低値であり、専門家等からの情報提供や指導を受ける機会が少ないことが推定される。
    次に塩分に関する項目について比較してみると、麺類の汁を全部飲む人では40~59歳男性の健常者群が23.4%に対し高血圧群は7.7%と低値であった。しかし、8割以上飲むと答えた人では男性の約4割から6割近くを占めており、生活習慣病予防の観点から積極的な指導が必要と考えられる。
    みそ汁と漬物の1日摂取量をみると、みそ汁は40~59歳男性の高血圧群が健常者群より有意に少なく、60~74歳では高血圧群に多い傾向がみられた。漬物は60~74歳女性の健常者群は1日38gの摂取で、平成18年県民栄養調査とほぼ同量であったが、高血圧群は約20g上回っていた。高血圧症治療中にもかかわらず長年の生活習慣を変えようとする努力がみられなかった。
    1日の食塩摂取量をみると両群間にほとんど差が見られず、男性で13~15g、女性で10~12.6gの摂取状況であった。
    さらに、食物繊維の摂取量では両群間に差はみられず、1日の摂取量は10~14gと低値であり、1日の目標である20~30gには程遠い摂取状況であった。
    【結語】今後の課題として、健常者の肥満対策、日頃から減塩を心がけ食物繊維やカリウムを多く含む食材を積極的にとるなど生活習慣病予備群へのアプローチが重要である。出来るだけ早い時期の情報提供が望ましいと考えられる。 今回の結果をこれからの特定保健指導の行動変容に結びつけたい  
  • (第3報)女性の内臓脂肪面積・腹囲・アディポネクチンの関連
    今野谷 美名子, 佐々木 司郎, 荻原 忠, 林 雅人
    セッションID: 1F017
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈目的〉日本版メタボリックシンドローム判定基準の腹囲(WC)基準については、90cmという女性の基準が高すぎるとの異論が多く出されている。われわれの検討でもWC測定精度などいくつかの問題点が見いだされた。しかし、平成20年度から始まっている特定健診ではこの数値を使って判定されており、さらにWCの自己測定を厚労省が認めるなど、その数値をめぐる混乱は今後も続くと予想される現実にある。今回、CTを使用した内臓脂肪面積(VFA)測定と同時に血中アディポネクチン(ADIP)濃度測定を行う機会を得たので、WC・VFA・ADHPの関連を中心に検討し、内臓脂肪量を現すゴールデンスタンダードとしてのCTによるVFA測定値の代用としての可能性を検討した。
    〈対象と方法〉対象は当院人間ドック受診者と当院職員の女性110名(年齢40~64才、平均53.1才)で、事前に測定について説明を行い、了承を得た上で実施した。測定方法は腹部CT撮影が日立CT:ROBUSTO4型、管電圧120kVp250mAsec、スライス厚7.5mmで行い、得られた画像からFat Scanシステムを用いて面積計測を行った。WC測定は日本版メタボリックシンドローム基準に従い、事前に測定者の測定精度確認を行った。ADIP測定は第一化学薬品社製品を用い、総ADIP値と高分子(HMW)ADIP値をELISA法で求めた。
    〈結果および考察〉VFAとWCはスピアマンの順位相関係数(rS)が0.501と有意ではあったが低い相関であり、VFAをWCで現すには疑問が残った。また、VFAと総ADIPはrS=-0.273、VFAとHMW-ADIPはrS=-0.201と低い相関であった。さらにVFAとHMW/総ADIP比もrS=-0.068と低い相関であった。また、肥満のもう一つの指標であるBMI値はVFAとrS=0.622とWCよりは若干高い相関係数を示したがADIP値とは全く相関していなかった。次にVFAとWCを4群に分類し、それぞれのADIP値との関連をみた。すなわち、1群はVFA100cm^2以下・WC90cm以下(以下単位略)、2群はVFA100以下・WC90以上、3群はVFA100以上・WC90以下、4群はVFA100以上・WC90以上である。各群間のADIP値を比較すると1,2群と3,4群間には総ADIP、HMW-ADIP共に有意差が認められた(Mann-Whitney:P<0.02)。すなわちVFAが基準(100)以上ではWC値に関わらずADIP値が有意に低値を示していた。年齢で補正した重回帰分析においてもVFAと総ADIP、HMW-ADIP値間には有意の関連が認められた。また、同時に測定した血中インスリン値とHOMA-R値でもほとんど同じく、1,2群と3,4群間に有意差が認められた。さらにメタボリックシンドローム危険因子数とADIP値の関係をみるとリスクが2個以上群は危険因子無し群と比較して総、HMW共にADIP値が有意に低値を示した。
    (結論)少数例ではあるが人間ドック受診者および病院職員の女性110名を対象にVFA・WC・ADIP値の関連をみた。その結果、VFA基準以上と以下群では総ADIP、HMW-ADIP共に有意差が認められた。WCにおいては有意差が認められず、女性のVFAを現す基準としてはADIP値がWC値よりも関連が強いことを示唆した。またADIP値はインスリン抵抗性亢進、メタボリックシンドローム危険因子増加にも関連が認められ、メタボリックシンドローム判定に有用であると思われた。
  • 舟橋 宏樹, 後藤 亮吉, 中井 智博, 後藤 俊介, 杉本 健治, 星田 尚子, 三橋 俊高
    セッションID: 1F018
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
     第55回日本農村医学会学術総会にて、当院診療圏内における中高齢者の生活機能調査について発表した。その中で、地域住民の中で運動習慣や転倒経験によって身体機能に差が生じるのではと検討したが、明らかな差がみられなかった。その原因として参加者の多くが農作業に従事しており、運動習慣の有無にかかわらず、日ごろからある程度活動性が高かったからではないかと考えた。それにより、本来対象となるべき運動に興味が低く、生活機能が低い方の教室への参加が少ないのではないかと推測した。そこで今回は、日ごろから地域住民全体の定期的な体操の実施や健康に関する知識を啓発する方法として、病院で指導や講演を行うのではなく、各地区の代表者に公民館や集会所などで行う婦人会や老人クラブや趣味の会の中で定期的に体操指導を行ってもらい、病院はその代表者の支援を行っていくというコミュニティーエンパワーメントを活用した事業を計画し、その代表者(地域健康マネジメントリーダー)の育成事業を行ったので報告する。
    事業の概要
     平成18年に立ち上がったループの会の代表者と連携をとり、各地域への呼びかけを行ってもらい、参加者を募った。
     平成18年6月から12月までの隔週金曜日の19時から20時30分まで行い、全12回、当院診療圏内の体育館の一室を利用し実施した。内容は理学療法士、作業療法士、内科医、整形外科医、社会福祉士、管理栄養士が各職種の専門分野に関する講演を約50分。当院で考案した体操(元気アップ体操)の指導を約30分行った。それにより、20名の足助地区地域健康マネジメントリーダーを育成した。
    考察
     当院は高齢者体操教室や高齢者生活機能調査などを通じて地域住民へ体操の普及や健康・運動に関する知識の啓発を行ってきたが、思うような結果が得られなかった。財団法人 健康・体力づくり財団の高齢者の運動実践者と非実践者における生活意識と生活行動の相違に関する研究において、運動教室や健康行事に参加することから運動を始めたり継続している群は5年以上の継続者が5年以下の継続者に比べて優位に少ない。それに対して、楽しみや気晴らしのためや友人がふえるためといった趣味や周りとの交流があることから運動を始めたり継続している群は5年以上の継続者が5年以下の継続者に比べて有意差はみられなかったが多かったという結果から健康意識の低い地域住民に対して、今回育成した地域健康マネジメントリーダーが婦人会や老人クラブ、各趣味の会などの内容の一部として体操の実施や健康に関する講演を行うことは運動開始の一歩となりそれを継続していくことに対してより有効だと考える。
     また、当院では各地区の代表者が講演依頼等を簡便に行えるように講演・実地指導依頼書を作成しており、それを通じて地域健康マネジメントリーダーから各会での講演の依頼を受けることでその後のフォローを行っていく。
    今後の課題
     育成した地域健康マネジメントリーダーの事業参加後、実際に各地区でどのような活動をしているのか把握のため、アンケート調査を実施し、事業の効果の判定を行っていく。
  • ?「佐久地域保健福祉大学」20年の活動を検証する?
    津金 民人, 小林 栄子, 矢島 伸樹, 和田 沙緒理, 新津 亜希子, 水澤 美芳, 井出 真一, 前島 文夫, 杉山 章子
    セッションID: 1F019
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉
    佐久地域保健福祉大学講座は、1990年に一般住民の中に地域で活動する保健・福祉のリーダーを育成することを目標に始まった。冬期間を利用して1期10講座を開講。19期まで終了した現在、修了者は692名、同窓会員は475名になっている。同窓会は修了者によって組織され、「種子をまく人になろう」をモットーに、全体活動、9つの旧行政単位に分かれた支部活動、テーマや趣味を共有する7つの班(演劇、高齢社会、食と環境、機関紙、音楽、人形劇、リフォーム)による活動を行い、健康な地域づくりに取り組んでいる。20年目を迎えるにあたり、講座・同窓会のあゆみを振り返り、住民の組織化とその支援のあり方について検討を試みたので報告する。
    〈方法〉
     本講座設立当初の目的―(A)住民にとって役立つ保健・医療・福祉の学習、(B)同窓会の組織化によるリーダー育成と地域活動の展開―の達成について、講座修了者(退会者を含む)を対象にアンケート調査を実施した。併せて、地域保健活動における職員の支援について機関紙や活動記録などの資料を基に検討した。
     アンケート調査は同窓会と共に企画・実施し、講座や同窓会活動に関する評価や地域活動への参加状況などについて無記名で回答する方法をとった。また、回答を拒否する権利を留保し、封入し回収するなど倫理的配慮を行った。
    〈結果〉
     会員アンケート対象475名の内、回答があったのは409名、回答率は86.1%であった。
     89.2%が「知識を学べた」、66.5%が「自分や家族周囲の生活に活かせた」、と答えており、目的(A)については達成できたと考えられる。
     「地域の保健福祉活動に関心が高くなった」80.7%、「人との交流や出会いが広がった」74.1%の結果から、この講座が地域活動を開始するきっかけの一つになった可能性がある。また、講座修了者は、趣味の会、学習会への参加など個人レベルの活動のみならず、ボランティア活動や保育園での人形劇、地区高齢者への食事サービスといった社会的活動を実践している方もいた。「同窓会の名前が知られるようになった」47.2%、「地域の保健・福祉活動への参加要請がある」43.8%のように、同窓会の認知度も上がってきており、目的(B)に掲げたリーダー育成と地域活動の展開がなされてきた状況がうかがわれた。ただし、アンケートの自由記載欄には、同窓会活動が負担になっているという意見もあった。
     住民主体の活動を支援するため、病院として事務局を健康管理部におき、同窓会の代表、行政、JAなど地域の関係者と病院職員から構成される講座運営委員会を設置した。事務局として支部や班の担当スタッフを決め、講座運営の他、地区の集会にも参加・協力している。同窓会活動において住民や地域関係者と連携して活動を進める中で、会員の自主的な活動が定着した地域もあり、職員が地域から学ぶ機会も維持されてきた。
    〈考察〉
     講座開設から19年を経て、設立目的について一定の要件を得ることはできた。
     また、職員が地域活動を実践的に学ぶ場としても機能してきた。ただし、会員の高齢化や価値観の多様化、市町村合併に伴う地域の変化など新たな問題が浮上してきている。現在の課題について同窓会や地域の関係者と共に考えながら、住民主体の活動を継続していくことが健康な地域づくりには不可欠と考える。
  • 全国厚生連病院MSWへのアンケート調査報告
    矢野 裕基, 鈴木 悠子, 安本 和正, 原田 和彦, 玉内 登志雄
    セッションID: 1F020
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉近年地方の医療を取り巻く問題に患者の医療費負担増・地域間格差の拡大などがある。今回,医療福祉制度面での地域間格差を検証することと医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)や病院が用いる制度改善の最も有効な手段を検討することを目的に,全国の市町村が実施する重度心身障害者医療費助成制度(以下,助成制度)の現状とその改善手段についてのアンケート調査を2007年11月に実施した。その結果,今後検討するべき課題が明確となったので報告する。
    〈調査方法〉1,対象 全国120の厚生連病院MSW 2,調査方法 郵送によるアンケート調査 設問(1)から(7)助成制度の内容,設問(8)から(13)制度改善の手段
    〈結果〉76病院(病院所在地14町56市)より回答(回収率63%)
    (1)対象障害の範囲
     1)身体障害 「2級まで対象」 23(33%),「3級まで対象」 38(54%),「心臓や肺,腎臓などの内部障害について対象拡大あり」 20(29%) 2)知的障害 「A判定(IQ35以下)」 38(54%) 3)複合障害その他の対象 「対象範囲あり」 23(32%)
    (2)助成方法 「現物給付」 45(64%)
    (3)所得制限 「あり」 53(76%)
    (4)年齢制限 「あり」 6(9%)
    (5)自己負担 「あり」 36(52%)
    (6)助成の時効 「あり」 40(63%)〈BR>   時効期限 最短6ヶ月 1 最長5年 4 最多2年 9
    (7)助成制度の問題 「あり」 40(68%)
      助成制度のどこが問題か(複数回答)
      「対象障害の範囲」 28(34%)
      「所得制限」 18(22%)
      「助成方法」 17(21%)
    (8)MSWの問題解決の実践 「実践あり」 26(63%)
      実際にMSWが多く用いた手段(複数回答)
      「行政担当との直接交渉」 18(32%)
      「個別ケース援助」 17(30%)
    (9)MSWの採る最も有効と思う手段
     「地域の患者団体との連携」 9(17%)
     「行政担当との直接交渉」 8(15%)
     「地域の福祉関係者との連携」 7(13%)
    (10)病院の問題解決の実践 「実践あり」 8(11%)
      実際に病院が行った手段(複数回答)
      「行政機関への直接交渉」 5(41%)
    (11)病院の採る最も有効と思う手段
     「地域の医療関係団体との連携」 21(39%)
     「行政機関への直接交渉」 11(20%)
    (12)各県MSW協会の実践 「実践あり」 4(6%)
    (13)各県MSW協会の採る最も有効と思う手段
     「制度改正の提言」 19(37%)
    〈考察〉今回の結果から,全国の助成制度に地域間格差が存在することは明らかである。制度に問題があると感じているMSWも多く,何らかの制度改善に向けたアクションが必要である。しかし,実際にはMSWや病院は制度を改善するために最も有効と思う手段を実践できていない。何故なのか,その理由を探る必要がある。実践を難しくしている要素を明らかにし,今後は地域の患者団体や医療・福祉の関係団体と連携を強化し,共に制度改善を図ることが必要である。各県MSW協会には制度改正の提言など目に見える活動が求められている。各地域の制度はそれぞれの地域の病院や団体が行動を起こさなければ改善は実現しないものと考える。
  • 松井 聖純, 倉知 保之, 後藤 継一郎
    セッションID: 1F021
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院は愛知県豊田市東部の中山間地域の医療を担う病床数203床の中規模施設である。へき地においての通院手段は重要な問題となっている。平成17年4月の市町村合併を見据え、平成16年に、運行されている公共バスについてどのように利用されているか、また利用者の満足度についてアンケート調査を実施した。今回、合併4年目を迎え、各地域での公共バス路線が整備され細やかなサービスが提供されている現状で、新バス路線の運行について改めて利用状況と満足度を調査し、前回と比較し考察したので報告する。<BR> 【期間・対象・方法】平成20年2月18日~3月21日の合計26日間。<BR> 午前中の外来患者、2049人。聞き取りでアンケート調査実施。<BR> 【結果】<BR> _丸1_来院患者は豊田市(旧東西加茂及び旧豊田市)で前回とほぼ同様で来院患者の95%を占め、典型的な地域密着型の病院である。<BR> _丸2_80歳以上の患者は、前回が全体の22.5%であったのに対して今回は30.6%と約1.3倍に増えていた。また、70歳台以下の患者についてはどの年代でも減っていた。<BR> _丸3_来院手段については、自家用車及び同乗での来院が前回より4.7%減の73.6%、公共交通機関の利用は4.6%増の19.2%であった。自家用車で自分の運転で通院される方の割合に変化はなかったが、同乗で通院されている方の割合は来院でも帰院でも約5%の減少がみられた。これは公共交通機関が充実したことにより、車の免許がなく家族等に頼っていた方が、自分の足で通院できるようになったことによるものと思われる。<BR> _丸4_行政により公共交通機関の充実が図られているが、交通手段についての満足度は「満足している」という意見に「がまん」や「あきらめ」を含むと4年前と同じ94%であった。<BR> _丸5_公共バスが国道を走る稲武地区では、1日の本数を増やすことによって満足度は「満足している」という意見が前回の59.7%から82.5%へ増えたのに対し、1日の本数を増やしたが病院までの直行便が減ってしまったという旭地区では満足度が67.5%から55.8%まで減少した。<BR> 【考察・まとめ】当地区では、益々高齢化は進行するものと思われ、当然、病院へかかられる高齢の住民も増えると考えられる。<BR> 足助病院は、この地域の責任ある病院として、住民の方々が安心して、安全に暮らせる地域作りを目指している。行政も市町村合併から2年半かけて当地区の公共交通機関の充実を図ってきた。しかし、今回再びアンケート調査を実施してわかったことは、当地区全ての住民が満足できる整備にはならなかったことである。1日の便数を増やすなどの整備を行ったことにより受診しやすくなった地区と、逆に受診しにくくなった地区もでてきた。今回の調査全体としては、中山間地域では、公共交通機関を利用する数は若干増えてきたが、3年前と同じく大半が自家用車、同乗での来院・帰宅であった。来院される方は口々に「今は良いが、2年先、3年先に運転できるか心配」という、加齢による不安を言われ、「公共のバスでは、バス停までが遠く年寄りには利用出来ない」という事をよく耳にした。これらがこの地区で生活される方々の本当の気持ちではないかと思う。<BR>  安心して暮らせる地域作りには、これらの将来的な不安を解消する事が最も大切である。
  • 処置方法の改善とティッシュこよりの効果
    桐山 千加子, 宇佐美 小夜子, 米村 ひろ子
    セッションID: 1F022
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    PEGは患者の不快感が少なく、比較的管理しやすいため急速に広まったが、その認識に関する誤解も少なくない。当病棟は療養病棟であり、看護師の絶対数が少なく、CWが半数を占めている。しかも、常にほぼ半数(3ヶ月平均28人/日)がPEG患者であるため、多くの患者の栄養剤を準備、注入、回収、洗浄するには、ケアワーカーとの連携が不可欠である。しかし、瘻孔周囲のケアは十分とはいえない状態であった。<BR>個々のトラブルの原因を追究し、状態に応じた処置方法を統一化することで、トラブルを予防、かつ解消して患者負担を軽減させることが出来た為、報告する。<BR>評価表に基づき瘻孔周囲の皮膚を観察し評価した。同時にCWを含むスタッフ全員を対象に清潔保持、圧迫除去の方法について勉強会を行い、第1期として1ヶ月間実施した。次に洗浄だけでは解決できないトラブルに対する処置方法について、材料の使用方法と選択基準について勉強会を施行し、第2期として1ヶ月間実施した。第3期として1ヶ月間実施した。<BR>その結果、第1期の段階で約7割が清拭と微温湯の洗浄だけで清潔を保つことが出来、石鹸による洗浄は1割程度の人が必要であった。第2期にはティッシュこよりと医療材料を症状に合わせて使用してみたが、頻回に交換する必要があったため、コストがかからず、使いやすいこよりを使用することが増えた。第3期になると殆どの人がトラブルを解消でき、ほぼ全員にこよりを使用するようになった。こよりは一旦濡れてもすぐ乾き通気性が良く安価で身近にあり、惜しみなく使えるので頻繁に交換することでドレナージ効果が期待できる。又ちょっとした瘻孔感染ならストッパーを緩めて遊びを作り、瘻孔部に掛かる圧を緩和し、浸出液は流水で洗浄するだけで殆ど治してしまえることが実証できた。<BR>PEGの不必要な圧迫固定を無くすことでトラブルは激減し、こよりを使用したことで毎日のスキンケアが安易に行えるようになった。尚、評価のために使用した写真は部分的に使用するだけで、調査内容は研究以外には使用しないことを説明し、患者の個人を特定されないよう配慮した。
  • 第1報 レーダーチャート作成の試み
    宮原 伸二, 塚原 貴子, 樽井 恵美子, 山下 幸恵
    セッションID: 1F023
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>中重度の認知症の人を最期まで在宅で支えるケアのあり方や援助方法について検討したので2報に分けて報告する。
    <研究方法>都市郊外と農村部に居住する認知症者のうち「認知症高齢者の日常生活自立度判定II以上」であり、かつ、在宅で6か月以上療養している29人(以後在宅療養者)と6カ月以上在宅療養後に施設入所した60人(以後施設入所者)を対象者とした。在宅療養者は調査時の状態やケア状況、施設入所者は入所直前の状態やケアの状況について研究者、ケアマネジャーなどが個別に介護者からアンケート調査用紙を用いて聞きとった。調査期間は平成19年8月~12月。補充調査を平成20年1月に行った。
    <レーダーチャートの作成>レーダーチャート作成のための項目選択に関しては、入所理由や在宅療養者と施設入所者間で有意差のあるものなど10項目を選定した。各項目の配点は、認知症の状態とケアのあり方(副介護者の有無、問題行動の有無、通所サービスの利用状況、介護保険の利用状況、地域の支援の状況、医師やケアマネジャーの熱意、介護者の健康や熱意)について1点、2点、3点と3段階(訪問看護のみ1点、3点に2段階)に分けてレーダーチャートを作成した。満点は30点になる。
    <結果と考察>在宅療養者と施設入所者を比較したレーダーチャートを下図に示した。長期在宅療養、在宅死はレーダーチャートの図形が在宅療養者と類似するか、それを上回る場合、あるいは、介護者や副介護者の条件が整っている、または、医師、ケアマネジャー、訪問看護師などの専門職の熱意が強ければ、他の条件にいささか課題はあっても可能と思われた。問題行動については、急激な悪化がみられなければ在宅療養を否定する条件にはならない。総合点の平均点は在宅療養者20.5±3.1、施設入所者16.45±2.6であり、両者間には有意差(P<0.01)を認めた。さらに、レーダーチャートを検証した在宅死3例からも、本レーダーチャートの活用は有用と思われた。(本研究は平成19年度全共連委託研究として行った)
  • 神藤 仁己, 市川 芳枝, 青木 朱実, 河合 さとみ
    セッションID: 1F024
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
    在院日数の短縮化、病診連携による医療依存度の高い患者が在宅に帰る傾向にあり、訪問看護に対し期待と多様な対応が求められている。平成16年度に協力病院の看護師を対象に訪問看護に対する意識調査を行った結果、認知度が低いことが明らかになった。現在もなお、病院から在宅に帰る際に不安を抱えたまま退院されたケースや利用者・家族から「訪問看護をもっと早く知っていたらよかった」など聞かれることがあり、病院看護師への啓蒙活動が十分ではないと感じていた。また、末期癌などターミナル期の利用者が増加し継続看護の必要性が高まっているため、再度訪問看護に対する意識調査を実施し、今まで行ってきた啓蒙活動の評価と今後の課題を明らかにする必要性を感じたので報告する。
    I 活動内容
    ・「訪問看護ステーションのご案内」の見直しと「情報提供書」の活用
    ・「訪問看護ステーションニュース」の発行
    ・平成19年12月、協力病院看護師219名を対象に意識調査を実施
    II 結果
    あつみの郷訪問看護ステーションがあること知っているという割合は高いが、訪問看護の申し込み方法や業務内容などの具体的内容までになると平成16年度と同様に認知度が低いことがわかった。「訪問看護ステーションニュース」を発行した効果については、「役に立つ」と答えた人が約4割であり「どちらともいえない」が5割であった。看看連携の必要性を感じている人は、前回8割であったが今回5割と減少している。また、患者に対し訪問看護を受けた方が良いと思ったにも関わらず、実際に勧めていないことが明らかになった。具体的意見として「退院相談員に任せている」という現状がわかった。合同カンファレンスの必要性については、必要と感じている割合が8割と高いが、実際に実施したのは3割と少ない。
    III 考察
    今回の調査で、看看連携の必要性を感じている人の割合は、数字的には前回に比べ減少しているが、「処置が多い患者には連携の必要性を感じる」「病院と訪問が情報を共有することは患者の不安軽減に繋がると思う」「情報交換が必要」など具体的意見が多く記入されており、連携に対しての関心が高いと評価して良いのではないかと考える。
    また、訪問看護を勧める割合は、前回に比べ減少した。その理由として「実際に勧めてよいか迷った」や「説明できない」などの意見があり、病院看護師への周知が十分ではないことが原因と考えられる。
    このことから、身近にいる看護師が、訪問看護の必要性を感じ退院相談員に情報を提供することが必要であり、今後は、病院看護師への周知活動と退院相談員との連携を強化していきたい。
    IV おわりに
    今後の課題として、「訪問看護ステーションニュース」の充実化と病院看護師が訪問看護の役割を理解し、必要性を感じ取れるように退院相談員を通して退院支援委員会などに積極的に働きかける。また退院前合同カンファレンスへ積極的に参加していきたい。
  • 重症認知症患者の在宅介護が継続できた要因?在宅介護した家族からの聞き取り調査から?
    塚原 貴子, 宮原 伸二, 山下 幸恵, 樽井 恵美子
    セッションID: 1F025
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    認知症患者を在宅において看取るためのケアのあり方 重度認知症患者の在宅介護が継続できた要因 ―在宅介護した家族からの聞き取り調査から―               川崎医療福祉大学  塚原貴子               NPO総合ケアシーザル 宮原伸二                           山下幸恵 島根大学        樽井恵美子       認知症・在宅介護・家族 〈緒言〉認知症のある人を在宅においてケアし、看取ることは容易なことではない。しかし、病院の入院期間の短縮、療養型病床群の減少という医療政策、さらに、入所施設の長期間の待機や価値観の多様性などにより、在宅療養を希望するか否かにかかわらず在宅療養者は増加する。認知症患者の介護者の介護負担に関する報告や、虐待の問題など、認知症患者の在宅介護の課題の多さがうかがえる。  そこで、認知症と診断され、現在、要介護2以上と判定され在宅介護を1年以上継続できた要因を聞き取り調査から明らかにした。 〈方法〉A県、B県、C県の介護支援センター、訪問看護ステーションに認知症と診断され、在宅で介護している要介護度2以上の対象の抽出を依頼し、研究の目的を説明し同意の得られた5人の介護者を対象とした。面接内容は_丸1_認知症と診断された時のお気持ちをお聞かせください。_丸2_在宅での介護をしようと思われたきっかけは何ですか。_丸3_在宅介護をして、要介護者、介護者にとってよかったことは何ですか。_丸4_在宅介護中困った出来事は何ですか。どんなささいな出来事でもお聞かせください。_丸5_困難な出来  事に対して、どの様な対処をしましたか。_丸6_在宅介護を継続するのに、どの様なサービスや支援があると要介護者、介護者のQOLはよくなると思われますか。_丸7_在宅介護を継続できた要因は何だと思われますか。の7項目であった。データの分析方法は、半構成的な面接によるインタビューで得られたデータをグランデットセオリー・アプローチに基づき分析を行った。 〈結果〉認知症のある家族を介護している介護者が、面接で語った125コード から在宅介護を継続に関わる要因として見出された中核概念は『要介護者から得た介護意欲』『本人の要望に添える予感』『サポートの質と量』『周辺症状の介護技術の向上』『認知症の受容』『予測困難な反応』『介護の対処困難』『介護者の急変』『サポートの不足』の9つであった。在宅介護の継続に関わる要因には図1に示した「在宅介護を継続する要因」と「在宅介護の継続を阻害する要因」があり、継続要因を増強させることと阻害要因を克服していく力が必要と考えられる。専門職者のサポートの質が在宅介護の継続の要因に強くかかわっていた。地域住民、専門職及び身内からの必要なサポートを受けることで、在宅介護が継続できていた。『周辺症状の介護技術の向上』は、介護に自信を持つ事が出来、介護の肯定的側面を強化できる。在宅介護を介護者が決断する場合に介護が出来そうだという見通しの保持が必要であった。 本研究は19年度全共連調査委託研究により行った。
  • 過去3年間のデータ分析より
    原田 真由美, 鎌上 明日香, 横井 由美子
    セッションID: 1F026
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに
     介護保険等の整備や法改正を受け、在宅医療・訪問看護への社会的な期待はますます高まっている。特に在宅での看取り(以後在宅看取り)を40%に増やそうとの目標を厚労省が打ち出している。今回当訪問看護ステーションでの過去3年間のがん患者のターミナル看護に関してデータを整理分析し、在宅看取り率は28%であった。そこでこのデータをさらに分析して、在宅看取りが実現できた要因について明らかにしたいと考えた。
    2. 目的
    (1) 当訪問看護ステーションでのがん患者の在宅看取りの現状を明らかにする
    (2) 在宅看取りの実現に関連した要因と今後の課題について明らかにする
    3. 方法
    <対象>
       2004年1月1日から2006年12月31日までに当ステーションに登録したがん患者で、調査開始の2006年4月までに死亡した症例。
    <方法>
    (1) 登録者名簿より、その死亡場所が在宅とそれ以外でその数を拾いだす
    (2) 在宅看取りができた事例と希望していたができなかった事例に関して、訪問看護指示書や日々の看護記録等より患者背景や経過を抽出して、在宅看取りが実現した要因を分析する   
    4. 結果 
    在宅看取りができたのは25事例、漠然とながら希望していたが病院で死亡したのは15事例あった。それらの内訳を次の表に示す。                
    5. 考察
     当訪問看護ステーションのがん患者の在宅看取り率は28.1%と、全国平均5%に比べ高かったのは、同法人病院の医師が主治医であるケースが多く、また往診専門医師が関わり、往診の体制や症状コントロール等医師との連携が密に取れたことが大きな要因と思われる。 在宅看取り例では10例は最初から希望があったが、4例は医師が往診で勧めており、11例は介護をする中で自信と決心を強めていった。この11例中8例が30日以上の訪問期間があり、看護介入の効果の結果といえよう。
     一方漠然とながら看取りの希望があったが実現しなかった事例では、看取り事例よりかなり訪問期間が短く、80%が訪問期間20日以内で、10日以内は9例もあり、うち7例は希望があいまいな上に、疼痛の増強や状態の急変で家族がパニックとなり病院搬送した。短い訪問期間では症状の予測やその指導、症状コントロールや訪問頻度も十分に考慮できず、看取りへのサポートは不可能といえる。また介護協力者がなく不安が増強したり、主介護者の就労事例もあり、家族の介護力の正しい評価も必要である。
     がんの極終末期は状態の変化が大きく、家族の適応は難しく、医療職も対応が間に合わないこともある。本人と家族の望むような最期を実現するためには、できる限り早い時期に、在宅療養に向けてや最期の過ごし方について、本人・家族、各職種間の調整と連携が是非必要である。
  • 長 純一
    セッションID: 1F027
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉
    長野県は男性1位、女性3位と長寿ながら、老人医療費が全国平均の約8割と最低であり、見習うべきモデルとされてきた。97年には厚生省が国保中央会に委託し、全国の統計調査と長野の調査がおこなわれ「市町村における医療費の背景要因に関する報告書」にまとめられた。報告書を一般書にした「PPKのすすめ」(水野肇・青山英康編・紀伊国屋書店)でも分析されているが、病床数など医療供給体制以上に医療費が抑制されているのが最大の特徴である。その要因分析では、ベッド数が少ない・平均在院日数が短い・在宅死が多い・保健師の数が多い・などから、地域医療が充実している・医療従事者の専門職としての自立性が高いなどがあげられている。しかしこの報告書は統計上の数値のみに注目し、いわば現象論のみの分析で、長野に特徴的な活動の歴史的社会的分析が科欠けている。またここ数年長野においても、『医療崩壊』とも表現される状況は深刻になっており、上記の報告書で分析された時点から大きく状況が変化している。これらの点をふまえ、新しい『健康長寿・低医療費の長野』の解釈を提示する。
    〈方法〉
     97年の報告書と書籍を再検証すると共に、そこで取り上げられなかった長野県の医療特性を確認する。現状と医療史をたどると『厚生連農村医療』と『国保地域医療』が長野県医療の特徴と考えられるため、この活動を文献等から検証する。特に報告書等で低医療費の要因とされ『長野県は在宅医療・地域医療が充実しており、在宅死が多く、そのために医療費が低い』との在宅医療・死の神話ついて再検証する。
    〈結果〉
     医療供給体制では民間医療機関が全国45位と少なく、県立や国立も少なく、一方公的医療機関(厚生連が病床数で18%強)が多い。これは厚生連が故若月俊一氏の下、戦後まもなくの時期に殆ど県立などに移管しなかったためと考えられる。また国保医療機関も多く、全国の国保地域医療を牽引してきた。厚生連と国保の活動は、保健活動や生活環境や食生活の改善等、病院の中での治療医学だけではなく、地域活動・予防医学を重視するなどの点で共通点を持つ。このような地域・患者にとって必要な活動は不採算でも積極的に取り組んできた事が、低医療費で健康長寿に貢献した可能性が高い。この姿勢と、それを公的及び公立医療機関が提供してきた事から、長野では高邁な理念のもと医療を『社会的共通資本』として捉え、実践してきた医療者の姿が読み取れる。この結果の一つが、高い在宅死率であったと考えられるが、近年極端に減少している。92年には32.4%と全国平均19.9%を大きく上回って全国一であったが、06年には13.7%と全国の12.2%と大差がないところまで低下した。特に94年以降極端に低下している。これは医療の機能分けが進められ、診療所が在宅医療を担い、一方で特に地方病院を窮地に追いやった医療政策が展開された時期に一致する。長野の在宅医療は実は国の描くような診療所ではなく、地域医療を実践する病院が不採算でも支えていたことが推定される。病院に厳しい医療情勢の上、在宅は診療所という方針により、長野の在宅死は激減した可能性が高い。このように長野を見習えと言ってきた国により、長野の医療神話は崩壊の危機に瀕している可能性が高く、再度長野の医療特性を検証し、歴史を踏まえた上で実情にあった医療政策を提言する必要がある。
  • 渡 正伸, 茶谷 成
    セッションID: 1F028
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉近年、日本はたばこ規制枠組条約を批准し、たばこ規制に対して国際レベルの行動が求められるようになった。喫煙の有害性が認められるようになり、禁煙運動も社会的に大きな流れとなっている。このような中で我々医師は人々の健康を守る専門家として広く地域の人々に喫煙の有害性を啓蒙していかなければならない。この度、2008年4月より、地域の医師会の内部組織として禁煙推進部会を設置し、防煙教育、喫煙対策、禁煙支援の三つの観点から包括的にタバコの問題を取り上げ地域に貢献する活動を行なっていくこととなった。 〈方法〉呼吸器疾患をはじめ循環器疾患など多くの疾病に喫煙の有害性が大きく関与している。喫煙患者の禁煙指導が必要な反面、健康者に対する禁煙教育、さらには防煙教育が重要と考え、未だたばこを吸ったことのない小学生時代に喫煙の有害性を知っておくことが重要であり喫煙防止効果も期待できると考えた。そこで我々は個人的活動として、地域の小学校に喫煙防止授業を行ってきた。その後、防煙教育に限らず、喫煙対策や禁煙支援治療においても医師の積極的な活動が地域にとって重要と考えるようになった。そこで地域の医師会に働き掛け、医師会内部に禁煙推進部会を立ち上げた。そして防煙教育、喫煙対策、禁煙支援を三本柱として活動を開始している。 〈結果、考察〉防煙教育については、2002年度から地域の小学校を中心に喫煙防止教室を行ってきた実績を踏まえ、医師会の組織的活動に移行した。今後は我々だけでなく医師会会員に防煙授業実施のボランティア医師を募りマンパワーを確保していく。喫煙対策に関しては主に喫煙の有害性の啓蒙、公的な場所での分煙、禁煙の推進等である。禁煙支援に関しては現在保健医療として行われている禁煙支援治療について、広く市民へ周知させること、禁煙支援治療を行なえる医療施設の紹介や医師の増加を図ることなどを行なう予定である。 〈結語〉喫煙の有害性について、人々の認識はまだ十分とは言えない。禁煙支援治療が保健適応で行なえるのは世界中で日本だけである。我々医師が中心的役割を担って、医師会活動の一環として地域ぐるみの喫煙防止活動を行なうことが求められている。
  • 濱野 香苗
    セッションID: 1F029
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉佐賀県の海上にあるA島は、交通手段は船のみであり、歴史的史実が残されており、宗教的には仏教とカトリックが住み分けているという特徴をもつ。また老年人口割合は28.8%で、全国19.5%、佐賀県22.1%を大きく上回っており、さらに増加が予測される。高齢者が社会における役割や社会との接点を保持していることが、高齢者の健康維持や向上へよりよい影響を与えると言われている1)。そこで、離島在住高齢者が社会とのかかわりを保持するにはどのようなサポートシステムを構築すれば良いかを考える基礎資料として、A島の高齢者の社会関連性の実態を調査した。
    〈研究方法〉A島の65歳以上の高齢者154名のうち、調査に同意の得られた118名を対象とした。構成的質問紙を用いた面接調査を、平成17年6月~11月に行った。調査内容は属性および社会関連性である。社会関連性は安梅らが開発し信頼性・妥当性を検証した社会関連性指標1)を用いた。社会関連性指標は5領域(生活の主体性、社会への関心、他者とのかかわり、身近な社会参加、生活の安心感)、18の質問項目からなり、社会とのかかわりに関する頻度を4つの選択肢から選ぶものである。分析方法はχ検定を用い、5%を有意水準とした。
    〈結果〉性別は男性50名、女性68名であり、年齢は65歳から97歳、平均年齢76.1歳であった。世帯構成は、配偶者と二人暮らし31.3%、配偶者・子供家族と同居27.1%、子供家族と同居22.9%、独居16.1%であった。宗教はカトリック51.7%、仏教47.4%、神道0.8%であった。主観的健康状態は大変良い11.9%、良い33.9%、普通24.6%、悪い28.8%、大変悪い0.8%であった。
    社会関連性は、生活の主体性(4項目、4点満点)は、1~4点、平均値3.2点、社会への関心(5項目、5点満点)は、0~5点、平均値1.6点であった。他者とのかかわり(3項目、3点満点)は、0~3点、平均値2.7点、身近な社会参加(4項目、4点満点)は、0~4点、平均値3.2点、生活の安心感(2項目、2点満点)は、0~2点、平均値1.9点であった。
    社会関連性と属性との関連をみると、生活の主体性は性別、他者とのかかわりは年齢、身近な社会参加は性別や年齢および宗教、生活の安心感は家族構成で有意差がみられた。女性では生活の主体性や身近な社会参加が高く、仏教徒は身近な社会参加が高かった。年齢が高くなると他者とのかかわりや身近な社会参加が少なくなり、独居では生活の安心感が低かった。
    〈考察〉A島の65歳以上の高齢者の社会関連性は、生活の主体性や他者とのかかわり、身近な社会参加、生活の安心感は高いが、社会への関心は低いという特徴がみられた。A島の在住者は血縁や宗教を中心とした結束力があり、その基盤が高齢者の生活上の安心感や他者とのかかわり、身近な社会参加を高めていると思われる。今後は、A島の高齢者の健康維持や向上のために、男性や後期高齢者、独居の高齢者に対して社会とのかかわりを保持するような働きかけを工夫する必要性がある。  
    1) 安梅勅江:エイジングのケア科学、川島書店、2000
  • 島根スタディの研究デザイン
    塩飽 邦憲, 池西 瑠美, 山崎 雅之, 米山 敏美, 高松 道生, 今井 泰平, 藤原 秀臣
    セッションID: 1F030
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    〈緒言〉日本では動脈硬化性疾患(脳梗塞と心筋梗塞)は、死因および疾病として重要である。厚生労働省は平成20年度より生活習慣病、特に動脈硬化疾患や糖尿病の前段階として重要なメタボリックシンドロームの予防に重点を置いた政策を採用し、特定健診・保健指導を開始した。世界保健機構(2003)も先進国での死亡に寄与する危険因子として喫煙、血圧、飲酒、コレステロール、過体重、低身体活動など生活習慣に係わる要因を挙げている。しかし、動脈硬化疾患の危険因子は、生活習慣や医療技術の発展に伴って変化している。現在でも、動脈硬化疾患の危険因子としては高血圧が最も重要ではあるが、20年前に比べるとその相対危険度は低下し、新たに脂質異常症や炎症マーカーなどが危険因子として重みを増している。  農村は、都市と比較して生活習慣の欧米化が緩徐であり、定住性、豊かな自然、新鮮な農作物の摂取など動脈硬化疾患に予防的な要因が多い反面、モータリゼーションなどにより低身体活動となっており、農村地域においてバイアスを考慮した前向き疫学(コホート)研究が重要となっている。 〈方法〉  日本農村医学会では農村における生活習慣病の現状を把握し、生活習慣病の予知予防と関連疾患の発症予防を推進する目的で、その危険因子や代謝症候群因子について地域またはドックの生活・健康データを収集・解析・評価するコホート研究を多施設で展開する。人間ドック、健診、検診受診者を対象としたコホート研究を立ち上げることになった。 本発表では、この一環として実施している島根コホートの研究デザインを検討した。 〈結果〉 1.目的  生活習慣病、特に動脈硬化疾患と呼吸器疾患の危険因子(遺伝、生活習慣、社会要因)の解明と対策樹立 2.組織  島根大学重点プロジェクト研究によりH17-19年に「中山間地域における住民福祉の向上のための地域マネジメントシステムの構築」を行った。H20-23年は文部科学省特別教育研究事業(地域融合)により島根大学疾病予知予防研究拠点(仮称、H21年設立予定)に、疫学・検査解析・教育・予防診療部門を設置する。疫学部門に専任教員・事務員と兼任教員を置き、10年間調査を行う。国内では農村医学会の農村医学研究グループ、静岡県立大学などの社会疫学研究グループ、韓国、中国、モンゴル、アメリカ等の大学・研究機関との共同研究を行う。 3.ベースライン調査 約20年前に第1次ベースライン調査(主に健康調査)が実施されている。今回は第2次コホートとして島根県中山間地域に居住する30歳以上の住民5,000人を目標に調査する。H19-20年には雲南市にて約1200人の調査を実施した。H20には出雲市佐田町、その後、島根県西部と隠岐にて調査を行う予定である。学際的な研究グループによって遺伝、生活習慣、社会要因を総合的に解析することが特徴である。 4.追跡調査  地域の医療機関、保健所、市町などの協力のもとに、10年間にわたり、頸動脈の硬化状態、糖尿病、脳卒中および心筋梗塞・突然死の発症と死亡を追跡する。また、要介護状態も追跡を行う。
  • 遠西 智津子, 田中 美幸, 黒沢 美千代, 会沢 理恵
    セッションID: 1F031
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>
    成人男性の自立には、経済的・健康的・精神的自立の三要素が含まれる。今回、左恥骨軟骨肉腫術後の癒着で、会陰部に膀胱皮膚瘻を造設したが、皮膚に段差があるため尿漏れをおこし易く、10kg減量すれば腎瘻造設出来ると言われていた患者に関わった。患者はケアも日常生活全般についても母親に依存し、社会的自立に対し意欲的でなかった。不規則な生活と過食、食事と運動に関する知識不足、現状の生活に満足していることが原因で減量出来ずにいると考えた。訪問時にコーチングを行い、運動療法については行動変容プログラムのセルフモニタリング表を用いた結果、減量できたので報告する。
    <倫理的配慮>
    個人が特定出来ないように配慮し、発表に関し本人・家族の同意を得た。
    <事例紹介>
    A氏27歳男性、身長173.0cm,体重65.0kg,BMI25.3,腹部皮下脂肪厚54mm 左骨盤半裁後人工肛門、膀胱皮膚造設瘻造設
    母親:日常生活全般に介入し、それを自分の使命と認識している。
    生活スタイル:午前11時の起床と深夜1時の就寝、1日中テレビやゲームをして家の中で過ごす。
    <看護問題>現状の生活に満足している為、将来の自己設計が出来ない。
    <看護目標>将来の自己設計の為の第一段階として腎瘻造設が出来る。
    <具体策>
    1.食生活、生活スタイルの指導
    2.腎瘻造設に向けて減量対策の実施
    3.セルフモニタリング表を用いてコーチング技法で関わる。
    <結果>
    本人が現在の食生活を客観的に把握できるよう母親に食事内容を記録してもらい食事指導を行った結果、バランスのとれた食生活に変わり一日3食摂る事で夜間の間食が無くなった。本人も母親が作る食事について意見を言うようになった。運動に関しては、体重の変化がみられなかった時期は松葉杖を使用し自宅の廊下、庭先を歩行するだけだった。8月中旬、本人より「どの筋肉を使うと良くて何回位やれば減量出来るかというパンフレットがあれば出来そうだ。」と初めて本人の意思により専門的な運動指導の希望があった。そこで、ヒップアップ・下肢挙上・手すりにつかまりながらのスクワット・シャドウボクシングなど理学療法士から指導を受けた運動を開始した。当初は全身筋肉痛になり決められた回数が出来なかったが、体が慣れる迄辛いけど頑張ってみようと励ますと、徐々に運動量が増え、一日2セットが3セット出来るようになった。自ら減量が確認されると生活リズムも改善され、その結果体重4.5kg、腹囲3.0cm腹部脂肪厚16mm減少した。母親も一緒に体重測定したことで、食事作りに対する意識が変化し本人と一緒に減量に取り組むことが出来た。
    <考察>
    セルフモニタリング導入時、自分に対する満足度が低く、体重の変化がみられなかったのは、意欲的に取り組むことが出来なかった運動内容であったと考えられる。患者の言葉から、患者の身体的特徴に合わせた運動メニューを専門家である理学療法士に依頼し、紹介したことで自分に無理なく続けられる内容になったことが意欲の引き金となり、実行出来、自信が自己効力を強化したことで結果が得られたと考えられる。
     <結語>
    患者の自立を目標に行動変容する場合、最も大事なのは本人の意思であり、その意思を引き出すことが出来る方法を見出し、支えるコーチンク゛技法が自立支援に繋がる。
  • 百瀬 義人, 末永 隆次郎
    セッションID: 1F032
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉農村住民は、昨今の経済事情により収入が上がらないというジレンマや、混住社会における地域の人との人間関係を構築しようとして種々のストレスにさらされていると考えられる。職業性ストレスと関連疾患の研究では、虚血性心疾患やうつ病の発症を高めるとの報告がある。こうした人的・社会的損失を減らす上で、ストレス対策ならびに心身の健康に関する研究は、大きな重要性と緊急性を持つ。本研究では、農村住民のストレスとストレス解消法を明らかにし、健康対策を考察する。
    〈方法〉福岡県内3ヵ所の農村住民を対象に2006年11月、JA福岡中央会を通して質問紙を12,502名分配布した。回収できたのは8,166名分だった(回収率65.3%)。職業分類は、専農、兼農、非農、および無職とした。調査内容は、現在の健康状態と持病、将来の健康状態に対する不安、自分のためにふだん実施している健康法、日頃の悩みやストレスの原因、ストレス解消法、および職業性ストレスとした。職業性ストレスは、簡易調査表を用いた。ただし、職場の支援に関する質問では、農業従事者の周囲の人を農業者用に変更した(上司⇒農協職員・普及センター職員等、仕事仲間⇒農業仲間)。有意差検定はカイ二乗検定と分散分析法を用いた。
    〈結果〉解析対象者の属性:男女比は4対6。年齢構成は、専農・兼農では50~60歳代が多かった。非農は40~50歳代、無職は60~70歳代が多かった。
    現在の健康状態と持病:健康である割合は専農・兼農ともに70%を超えていた。これに比べ、非農は年齢構成が若いため高く、無職は高齢のため低かった。持病ありの割合は専農・兼農が50~60%で、健康状態と同じ理由により、非農は低く、無職は高かった。最も多い病気は高血圧、次いで腰痛だった。腰痛と心臓病は職業で差がみられ、無職>専農>兼農>非農の順に多かった。
    将来の健康状態に対する不安:不安を持っている割合は80%前後だった。女では専農・兼農の不安が非農・無職より多かった。
    健康のために実施していること:食事に気をつける、睡眠をよくとる割合が多かった。専農は運動、食後の歯磨きの割合が低かった。
    日頃の悩みやストレスの有無と原因:80%前後が悩みやストレスを持っていた。その原因の特徴をみると、専農の男は家計・ローン返済、女は自由にできる時間がない・働きがいがないが多かった。兼農の男は仕事上の人間関係、女は家計・ローン返済が多かった。非農の男は仕事上の人間関係、女は子どもの教育が多かった。無職は自分の健康・病気、自分の老後が多かった。
    ストレス解消法:男は酒を飲む割合が最も多く、女は友達とおしゃべりして話を聞いてもらう・買い物をする割合が多かった。一方で、特に何もしていない専農が多く、ストレス解消する余裕の少なさがうかがわれた。
    職業性ストレス:専農は仕事の負担度が高く、非農は心理的ストレス反応が高かった。
    心身の健康を規定する重要な要素はストレスへの対応と社会的支援である。今後、農村住民が心身の健康を保持していくためには、高血圧・腰痛の治療・予防とともに健康行動を見直してストレスへの対応能力を高めることが大切と考える。農業に対する社会的支援については、農業経営の安定化をどう推進するか、女性の働きを評価して働きがいのある環境づくりをどうサポートするかなど、サポート体制の整備が重要と考えられた。
  • 「職員相談」3年間の取り組み
    五艘 香, 別所 隆, 小宮 進
    セッションID: 1F033
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    職場におけるメンタルヘルス支援活動 ~「職員相談」3年間の取り組み~ 五艘 香(ごそうかおり) 別所 隆 小宮 進 伊勢原協同病院 メンタルヘルス・ストレス・カウンセリング 〈はじめに〉心の健康に対する社会的関心が高まる中、職業生活においてストレスを自覚する労働者は年々増加傾向にあるといわれている。労働者健康調査では、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスがある」と答えた労働者の割合は6割を超えている。また2004年に社会経済生産性本部が行った調査でも約6割の企業で、最近3年間で企業内の心の病が増加傾向にあるという結果がでている。           医療現場でも、医学の進歩、医療制度改革、医療ニーズも多様化・複雑化してきており業務量は急増していると思われる。このような状況の中で、職員のストレス要因も複雑化してきておりメンタルヘルス対策の必要性が高まってきていると考える。 当院でも、職場不適応、離職、また心の健康問題による休業者の増加などの問題が見られるようになり、平成17年4月にメンタルヘルス相談を開始した。当院におけるメンタルヘルス支援活動について報告する。 〈対象と方法〉職員のメンタルヘルス相談窓口の名称を「職員相談」とし、当院に勤務する職員、準職員、パート職員を対象に、常勤の臨床心理士1名が臨床業務との兼任でおこなっている。職員相談では、プライバシーに十分に配慮しながらも、所属長、総務管理課、さらには家族、主治医との連携・調整も行った。平成18年4月からは産業医との連携も開始した。 〈結果〉平成17年4月から平成20年3月までの3年間の報告を行う。_丸1_職員相談の対応件数は、開始1年目は、実相談者33名に対し、534件。2年目は40名に対し735件。3年目は49名に対し893件であった。3年間の総対応件数は、実相談者数101名に対し2160件(本人対応851件、院内調整1150件、院外調整159件)であった。_丸2_開始時の相談経路は、直接本人からの相談56.3%、ラインからの相談39.8%、他からの相談3.9%であった。相談の進行過程で、相談者本人の了解の元、所属長などへの院内調整やラインからの相談の中で直接本人にアプローチを行った相談が37.9%であった。_丸3_相談者の内訳は、看護部64.1%、事務部18.4%、医療技術部11.7%、診療部5.8%であった。_丸4_相談内容は、複数の問題を抱えている相談者が多く、心身の不調、職場適応、職場の人間関係、家族の問題、職場体制、自分の性格の問題と続いていた。_丸5_職員相談を行う中で、心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援も行った。平成20年1月に当院における職場復帰支援体制のマニュアルを作成し、サポート体制の強化を図った。_丸6_さらに、職員一人一人に対する気づきを促すための啓発・広報活動、教育活動にも力を入れ始めた。 〈考察〉職員のメンタルヘルス支援として、平成17年4月に「職員相談」が開始した。対応件数は年々増加しており、導入はスムーズであったと考える。「職員相談」を中心として、復職支援、院内・院外での連携調整、啓発活動など当院におけるメンタルヘルス体制が構築しつつあると考える。職員のストレスフルな状況は、さまざまなリスクに影響を及ぼす可能性が考えられる。職場のメンタルヘルスは当院のみならず社会問題になってきており、昨今では職場の安全配慮義務も厳しく問われる時代に変化してきている。院内で行っている利点を生かし、相談者のプライバシーには十分に配慮しながらも早い段階での院内・院外調整がリスクマネジメントにもつながるのではないかと考える。
  • ‐メンタルヘルスチェックにおける「自己価値感尺度」の分析から‐
    横山 孝子
    セッションID: 1F034
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    緒言  社会福祉系大学の授業において、対人援助のための自己認識を促す目的で、メンタルヘルスチェックを実施した。その結果「自分に自信がない」を示す「自己価値感尺度」が低い学生が多く、改善に向けた結果の活用の観点から分析したので報告する。<BR> 研究方法<BR>ヘルスカウンセリング学会(会長:筑波大学宗像恒次教授)の提唱する自己カウンセリングのための「チェックリスト」を使用した。その内容は自己価値感尺度(10問)、不安傾向度尺度(20問)、心の依存度尺度(対人依存15問)、問題解決型行動特性尺度(10問)、自己抑制型行動特性尺度(イイ子度10問)、情緒的支援ネットワーク尺度(家族内10問、家族外10問)、抑うつ尺度(20問)の8項目105問からなる。8項目の各を点数化し、「平均範囲」「やや低い」「低い」の3分類で、各項目との組み合わせから、調査時点の心理傾向を判断する仕組みである。<BR> 研究対象・調査時期<BR> 1次調査:長野大学社会福祉学部 2003年度入学 1年次生267人<BR> 2次調査:1次調査時に自己価値感尺度が低く、かつ特性不安度または抑うつ尺度の高い学生で、面接調査のできた学生33人。面接は1年後の2004年<BR>自己成長:1次調査と2次調査における自己価値感尺度の点数の変化から、「自己成長あり」と「自己成長少」の2区分し、他の尺度と比較して検討した。<BR> 結果と考察<BR>1.1学年267人の中で自己価値感尺度が6点以下の、いわゆる「自分に自信がない」学生は82%にも及んだ。<BR> 2.2次面接調査した33人について1次調査との比較で、自己価値感尺度点数が改善されない学生には、問題解決尺度と家族外支援尺度(友達づきあいなど)に問題が多くみられた。<BR> 3.自己価値感尺度の3点以下に注目し、問題解決尺度6点以下または家族外支援5以下の、いずれかを持つ場合を早期支援する優先基準とし、自己成長できにくい学生を支援する方法を設定した。この基準で全学生をシュミレーションすると、早期支援の該当者は35人(267人中)となり、面接による早期介入の可能な数となり、219人もの自信のない学生のなかから、優先順の絞込みができた。<BR> まとめ<BR>以上の結果から、福祉や看護など対人援助を専門とする分野の学生への、メンタルヘルス「チェックリスト」の活用は自己認識の上で重要であり、「自分に自信がない」など、自己価値感の低い気掛かりな学生の成長を促すために有用であることが判った。1年次のうちの授業の中でのメンタルチェックを活用し、早期フォローによって、学生が自ら自己価値感を高め、自信を持って効果的な対人援助ができるよう、今後も人材育成につとめたい。さらに、チェック基準や他の気掛かり項目、健康や生活との関係についても、検討を続けたい。
  • 病棟主体から患者主体の療養生活への一歩
    小野 誠
    セッションID: 1F035
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    [研究目的]
    患者から「消灯時間が早い」と不満の声が時々聞かれた。不満の理由を聞いてみると、「観たいテレビがある」、「もう少し起きていたい」、「家ではこんなに早く寝ない」など、どれも当たり前の理由が返ってきた。プライバシーを持つことの難しい環境の中、患者個々の就寝時間を消灯時間としても治療環境に影響はないか明らかにすることを目的とした。
    [用語の定義]
    本研究では、治療環境を「朝食遅れ、日中の眠気、入床時間、不眠、中途覚醒、問題行動、日中のレク・作業参加状況」とした。
    [研究方法]
    1.対象
    研究の趣旨を説明し同意が得られ、アンケートに回答できた患者43名と三交代業務に従事する看護師17名を対象とした。
    2.方法
    研究方法:半構成面接法を用いての聞き取り調査。
    3.研究手順
    _丸1_患者・スタッフを対象に消灯時間を検討するための予備調査。
    _丸2_病室21時消灯、ディールーム23時消灯の実施。
    _丸3_実施中の観察(朝食遅れ、日中の眠気、入床時間、不眠、中途覚醒、問題行動、日中のレク・作業参加状況)。
    _丸4_実施後、患者・スタッフへのアンケート調査。
    [結果] 
    病棟消灯時間を、希望消灯時間最長の23時にした。21時までに就寝する患者への配慮は、病室を21時に消灯することで解決できた。21時以降起きている患者への配慮はディールームと喫煙室の使用を23時にすることで解決できた。一律20時に内服していた眠前薬は、個々の就寝時間の30分~1時間前に、自ら内服に来るようになった。
    また、朝食遅れ、日中の眠気、入床時間のズレ、不眠、中途覚醒はごく少数で、問題行動や苦情はなく、日中の活動量(作業・レク参加状況)は増加し、概ね治療環境への影響は認められなかった。不眠時薬の使用状況をみると、実施前に比べて62.5%減少していた。
    [結論] 
    予備調査の段階で、21時消灯を希望した患者65%は、23時消灯後も影響されず就寝されていたと63.5%の結果より窺える。さらに問題行動や苦情と言ったトラブルがなかったことは、自分に合った就寝時間を選択できる機会を得たことで、ニードが満たされたからと考えられる。また、就寝時間と消灯時間のズレが少ないため不眠時薬の使用が減少したと考える。
    以上のことより、その人本来の就寝時間に、病棟の消灯時間を合わせながら、治療環境を提供することは可能であるといえた。
    今回、「消灯時間が早い」と言う一つの訴えから、患者自身によって決めた就寝時間で23時消灯となったわけであるが、患者たちがおのおのの考えで行動し,他患への迷惑行為もなく、病棟スケジュールへの逸脱行為もなく過ごしている姿から、自己決定への責任が、なされていると受け取れた。
  • -Color Cord Plaque による解析-
    藤井 隆, 卜部 洋司, 三玉 敦子, 対馬 浩, 前田 幸治, 辻山 修司, 関口 善孝, 藤川 光一, 山口 裕之, 田丸 隆行
    セッションID: 1F036
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    (緒言)冠動脈プラーク性状評価は、侵襲的な血管内超音波(IVUS)を用いるのが一般的である。64列MDCTを利用した非侵襲的なplaque性状評価の可能性に関して述べる。以前にIB-IVUS診断をgold standardとして非石灰化病変におけるColor Code Plaque TM(CCP)の診断能の適中率はsoft plaque群で84%、intermediate plaque群で88%であることを報告した。
    (方法)冠危険因子をすべて有する冠痙攣性狭心症の61歳女性で、MDCT施行後7日目に胸痛時にII誘導で一過性ST上昇を認め、CAGでRCA#1に50%狭窄を指摘されている。Atorvastatin 10mg投与によるplaqueの経時的変化をMDCTにより投与前、1年、2年後と経過観察を施行した。
    CCPを使用し、1ボクセル毎にCT値に応じてSchroeder分類と対応させプラークをカラー表示させプラーク体積と性状評価を行った.3回の撮影には同一の64列MDCTを使用し、造影剤は同一の条件(210mgI/kg/sec:10秒間)で注入され、計測は範囲を一定に定め、同一の放射線技師により施行された。
    (結果)CCPにおける解析結果を表に示す。薬剤投与前は、約60%がsoft plaqueを主体とするプラークであったが、通常量の投薬で2年後には、血管内腔の変化は認めなかったが、positive remodelingの改善、プラーク体積の減少(soft plaque量の減少)によりプラーク退縮(体積と性状変化)を認めた。薬剤投与前のT.Cho:214mg/dl、LDL-Chol:108mg/dl、HDL-Chol:61mg/dl、TG:444 mg/dlから、投与2年後には各々155 mg/dl、82 mg/dl、52 mg/dl、104 mg/dlとなった。
    (結論)非侵襲的MDCTによりプラーク性状変化を経時的に観察することで、日本人に特化した薬剤治療量の設定を含めた薬剤治療の有効性を判定できる可能性が示唆された。
  • ~A Rare and Impregnable Disease~
    波多野 麻依, 北村 哲也, 森 拓也, 濱田 正行, 馬場 洋一郎, 村田 哲也, 大倉 実紗, 田中 直樹, 小辻 俊通, 岡田 薫
    セッションID: 1F037
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】心筋炎は細菌やウイルスなどの感染、アレルギー、血管炎などによって発症する。特に経過が早く、救命率の低い劇症型心筋炎では未だ確立した治療法がない。中でも巨細胞性心筋炎は非常に稀な原因不明の疾患である。今回われわれは非常に貴重な症例を経験したので、若干の考察を交え報告する。 【症例】64歳男性。(既往歴)アルコール多飲者であり、元来医者嫌いのため病院受診歴なし。大腸ポリープの既往がある。(現病歴)1か月前に感冒に罹患して以来、全身倦怠感、食欲低下など全身状態が悪化していた。(来院時現症)意識清明、体温36.8℃、血圧 105/59mmHg、心拍数 70/分・不整、心肺に異常を認めず、頸静脈怒張なし。心電図はwide QRSの心室リズム。CTR 57%、血液検査上、WBC 5300/μl, CPK 1107IU/L, AST 340 IU/L, ALT 102 IU/L, LDH 868 IU/L, Cre 1.49mg/dl, CRP 10.5mg/dlと多臓器障害の状態であった。心エコー検査ではびまん性の高度壁運動低下を認めた(LVEF 30%)。冠動脈造影上、冠動脈病変を認めず、経過から心筋炎と診断した。(入院後経過)入院後、torsade de pointes (TdP)となり回復後もショック状態続くため、大動脈バルンパンピング(IABP)を挿入したがアミオダロン急速静注にても不整脈等のコントロールができず、TdP、心室頻拍を繰り返すため補助循環下(PCPS)での血行動態管理を行った。急速かつ重篤な経過であることから劇症型心筋炎の診断で免疫グロブリン大量療法(2g/kg/day)を施行したが、ウイルス感染が原因と考え、ステロイドや免疫抑制剤は投与しなかった。 心エコーでは左室後壁のみ軽度の収縮が保たれていたが、第2病日の夜間にはペーシング不全の状態であった。3日間の免疫グロブリンによる治療後、軽度心筋収縮の回復が見られるようになりカテコラミンを併用したが著変はなかった。第7病日、大量下血を認め、乏尿となり、持続的血液濾過透析 (CHDF)を開始した。しかしDICの状態となり、PCPS, IABPの有効な循環も維持できなくなってきた。更に意識状態の悪化を認め、第10病日永眠された。病理解剖の結果、巨細胞性心筋炎と診断された。 【考察】心筋炎の原因として巨細胞性の症例は極めて稀ではある。また劇症の経過をたどることで治療法としても確立したものはなく、難攻不落の疾患である。本例においては迅速な血行動態管理には成功したが原疾患の進行が極めて早く、救命には至らなかった。両心室補助装置の装着も考慮されたが心臓移植の適応がなく、施行しなかった。
  • -パンフレット改訂を試みて-
    大峰  直美, 石井  政子, 櫻井  恵美, 小野  尚美
    セッションID: 1F038
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉
    2005年1月から2007年10月の心不全患者数は年間平均60名であり、再発率は約8%であった。心不全は各種疾患の末期像であり、治療に使用する薬剤や治療内容により、統一性がなく、看護師の退院指導も煩雑になっているのが現状であった。そこで、退院指導の見直しを行い、パンフレットの改訂が必要と考えた。使用していたパンフレットの問題点を抽出し、退院指導の充実や心不全の再発予防につながることを目的とし、本研究に取り組んだ。
    〈方法〉
    期間:2007年10月から2008年4月
    対象:病棟看護師 15名
    方法:看護師へ質問紙調査
       改訂前 9項目の質問法
       改訂後 7項目の5段階評価
    心不全パンフレット改訂
    倫理的配慮:質問紙調査結果はプライバシー保持のため、無記名とし、結果は本研究のみに使用することを説明し、同意を得た。
    〈結果・考察〉
    パンフレット改訂前の看護師への質問紙調査は100%の回収率である。「心不全患者用パンフレットが病棟にあることを知っていましたか」に対し14名(93%)が「はい」と答えた。また、「使用したことがありますか」に対し10名(71%)が「使用した」と答えた。使用しての意見としては、「内容が抽象的」「塩分量の説明が難しい」などがあった。
     このことから、改訂前のパンフレットには、心不全の病態や日常生活の注意点などはあったが、具体性がなく、専門用語が多いなど退院後の患者指導をするには、効果的ではなかったと考える。
     以上の質問紙調査結果を踏まえ、退院後の生活が、入院中の生活習慣に近づくよう心掛けパンフレットを改訂した。まず、心不全の病態生理は絵を入れるなどし、分かりやすく解説した。さらに、水分制限量や体重測定のチェックリストを取り入れたことで、患者・家族への意識づけとなり、自己管理を行いやすくなるよう配慮した。また食事の面では、栄養士と相談し、減塩の方法・具体的な調理方法などを取り入れた。
    パンフレット改訂後の質問紙調査は100%の回収率である。「指導を行いましたか」に対し11名(73%)が「指導した」と答えた。水分チェック表や体重管理表を取り入れたことについて、5段階評価を行った結果、半数以上が効果的だったと答えた。さらに具体化したことで、「自宅での管理について、抜けなく説明できた」「個別性が重視された」「患者の再発予防、患者・家族の意識づけにつながるようになった」という意見が聞かれたことから、改訂したパンフレットは退院指導の向上に有効だったと考える。そして、指導した看護師11名が改訂後のパンフレットが再発予防につながるのではないかと答えた。今回、退院後の日常生活の管理について、改訂後のパンフレットを使用し、指導することで充実した退院指導につながると考えられる。
    しかし、現代社会において在宅の高齢者をとりまく環境は様々であり、大きな問題をかかえたケースも増えてくる為、コメディカルを含めた指導を考えていく必要がある。
     今後は患者への調査も行い、パンフレットが再発予防、退院後の生活について、有効に活用できるか評価し続け、更なる改善に向けて改良するのが課題となる。
  • 小松 文, 木村 沙緒利, 佐々木 亜希子, 佐藤 敬子, 月沢 孝子, 高山 国子
    セッションID: 1F039
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    〈緒言〉慢性疾患を抱えた高齢者の多くは、寝たきり状態となり退院後も継続的な介護や医療が必要となる場合が多い。その中で退院を控えた要介護状態の患者を持つ家族の多くは、再発の不安、介護など知識や技術の不安、介護力に対する不安などがあり、在宅療養への受け入れが困難になっている場合もある。そのため病状が安定し退院の許可が出ても、退院先が決まらず長期の入院に至っている。そこで退院支援の方法として、要介護状態の患者を持つ家族に、退院計画表を活用し、在宅療養の問題を家族や在宅支援スタッフと共有することで、在宅療養への早期移行と継続ができることを目的とし研究に取り組んだので報告する。
    〈方法〉事例研究
    1.対象:気管支炎で在宅療養が継続できず再入院となった80代の女性患者とその家族。
    2.期間:平成19年8月~平成19年10月
    3.方法:
    1)退院計画スクリーニングシートを使用し対象者の在宅支援の問題を明らかにする。
    2)1)で得た結果をもとに作成した退院計画表を家族に提示し、退院支援を開始する。
    4.評価:
    1)家族の在宅支援継続に対する退院前後の不安の有無
    2)社会資源活用までに至った時間
    3)在宅療養に必要な介護技術指導終了時の習得状況
    〈結果〉退院計画スクリーニングシートから、介護者は長男夫婦で他の家族の協力が得られないこと、また前回の退院に対して家族は「寝たきりで食べることもできないで、病気が治ってはいないと思った。こんな状態で帰されては困ると思ったが、退院の許可が出たので仕方がなく連れて帰った」と言っており、家族の言葉から退院に対し不満に思っていたことがわかった。
    そこで退院計画表を提示し、長男夫婦と話し合ったところ、在宅療養で前回と同じサービスを受けたいとの要望があった。担当のケアマネージャーに在宅に帰ることを伝えること、前回と同じサービスが受けられるように相談することなどを長男夫婦に説明した。
    介護技術については在宅中心静脈栄養法で退院となったため、その技術を指導した。長男が不在時の点滴管理について、不安があったが訪問看護師に相談することで退院を迎えた。
    退院計画表を使用したことにより家族は、入院中から在宅療養の問題をケアマネージャー、訪問看護師などの在宅支援スタッフと相談する機会を得たことで、必要なサービスを選択するなど、前回より主体的に在宅療養に向けた準備に取り組むことができた。このことから退院支援は患者、家族が退院後どのような生活を送りたいのか自己決定を促し、退院後の生活の確保、ケアの継続ができるよう設定することが必要だと考えられる。その手段として退院計画表を使用した退院支援は、家族が在宅療養の問題を在宅支援スタッフと共有することで、退院後の生活に必要なケアが引き続き受けられることがわかり、安心して退院を迎えるために効果的ではないかと考えられる。
    〈結論〉退院計画表を使用することにより、在宅療養の問題が統合され、退院後の環境を整える動機付けとなった。よって在宅療養への移行に効果的であることがわかった
  • 檀 瑠 影, 松崎 淳, 井関 治 和
    セッションID: 1F040
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    蛸壺型心筋症は脳出血や外科侵襲のような強いストレスが心臓に加わることによりまれに発症する。心筋基底部以外の壁運動が極度に低下し左室拡大を伴うためあたかも蛸壺のようにみえる。心不全の急性期を乗り超えれば通常一週間から数週間で左室壁運度の改善を認める。今回蛸壺型心筋症2例を経験したので報告する。 症例1: 84才女性、既往歴:高血圧・高脂血症。2007年12月12日に自宅で倒れ救急車搬送来院した。頭部CTにて右後頭皮質に小さな出血巣が認められ、心電図にてV1-2 ST上昇・陰性T波および心筋逸脱酵素上昇を認めたため急性心筋梗塞が疑われ循環器入院となった。心エコー上では心室基部収縮以外左心室は動かず、たこつぼ様運動ようにみえるため蛸壺型心筋症・心不全と診断された。入院後利尿・降圧などの対症治療を行い、入院1日目より心筋逸脱酵素は徐々に下降し、入院5日目より心エコー上、心室壁運動は改善した。入院3週間後 頭部CTにて右後頭部の出血巣は認められなくなった。その後ADLをUPするため他院へ転院した。症例2: 68才女性、既往歴:2007年10月に大腸癌手術、高血圧15年。2008年1月10日、呼吸苦が生じ当院外来受診した。血液検査上では、WBC 18100/μl  AST 43 IU/l  CK 286 IU/l トロポニンT1.9 ng/ ml、胸部Xpでは右胸側には少量胸水を認めた。ECG上では、全誘導ST上昇。心エコー上では蛸壺様な心室壁運動、緊急心カテーテルを施行し冠状動脈に有意な狭窄を認めず、蛸壺心筋症・心不全と診断された。入院後、心不全に対して利尿剤などの対症治療を行い、心機能を改善しつつあったが、入院1週間後施行した心エコーでは左心室心尖部に新たに心内血栓を認めたため、ワーファリンの内服を開始。入院3週間後、心エコー上では心内血栓消失し心壁運度も改善した。 蛸壺型心筋症は男性より高齢女性に多く(男女比 1:7)、原因は精神的ストレスは一番多く30-40%、心臓以外疾患25-30%、肉体ストレス 10-15%、事故などの外傷 10-15%に発生することが多いと報告されている。息苦しい、全身だるい、持続胸痛などとの主訴。心電図上のST上昇および陰性T波、血液検査上心筋逸脱酵素の上昇などの急性心筋梗塞様変化が認められるが、冠動脈には狭窄や閉塞などの異常は認めない。心室心尖部を中心とする広汎なバルーン状拡張と心室基底部の過収縮はよく見るパターンである。不整脈による突然死、ショック死、心破裂死の症例が存在するが、心室収縮、心電図、心筋逸脱酵素などの所見はすみやかな正常化、再発はまれで、予後は良好な疾患である。
  • 三宅 範明, 宮本 忠幸
    セッションID: 1F041
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    <緒言>:  回腸膀胱瘻は比較的稀な疾患である。原因は腸管の炎症によるものが多いと報告されている。今回、我々は保存的処置によって瘻孔を閉鎖し得た回腸膀胱瘻症例を経験したので報告する。 <症例提示>: 患者: 65歳、女性 家族歴: 特記すべきことなし 既往歴: 1980年に子宮癌のため当院産婦人科で子宮全摘術および放射線治療を受ける。1991年、両側水腎症、膀胱尿管逆流症を生じたためカテーテル留置となる。1997年5月より患者の要望で近医紹介となり以後、定期的カテーテル交換を同医にて受けていた。 現病歴: 2007年7月3日下腹部痛、尿混濁を訴え紹介医を受診。糞尿を認めたため消化管膀胱瘻を疑い、膀胱造影を実施され造影剤の消化管内への漏出が確認された。7月12日、精査加療目的にて当科紹介され受診となる。 現症: 下腹部に子宮全摘術の手術瘢痕を認めるも圧痛は認めず。体格は中等度で全身状態は良好であった。 臨床経過: 受診時の検尿では糞便の混入、桿菌を認めた。尿中赤血球は強視野に1-4個、白血球は5-9個程度であった。膀胱鏡検査にて膀胱後壁ほぼ中央部に周囲粘膜の発赤、腫脹を伴う瘻孔と思われる病変を確認。消化管膀胱瘻の存在の可能性が高いため上部尿路および消化管の精査の必要性を説明し検査を受けるように勧めるも同意を得られず。その後も検査を受けるように繰り返し説得しMRI検査実施の承諾を得た。8月2日MRI実施し瘻孔と推定される部位を確認。瘻孔部と腸管の位置関係、S状結腸の走行所見などより回腸膀胱瘻と診断。 経過: 外科的治療を勧めたが了解を得られず、止む無く留置カテーテルをバルーン部分よりカテーテル先端部分までの距離が短い腎盂バルーンカテーテルに変更し経過観察とした。その後2ヶ月程度で糞尿の混入は消失した。12月10日膀胱造影実施するも造影剤の回腸への流入は認めず、瘻孔は閉鎖したものと判断した。 <考察>  膀胱腸瘻の原因として炎症性、腫瘍性、先天性などに分類されるが半数以上は炎症性疾患(Crohn病や憩室炎)が占める。膀胱回腸瘻の原因としてもCrohn病が最も多く報告されている。自験例のように長期留置カテーテルが原因と推定される症例は稀である。症状としては糞尿、気尿、肛門からの尿の排出などがある。診断のために膀胱造影、消化管造影、膀胱鏡検査などが行われる。ほとんど症例で外科的治療がなされている。Crohn病に起因する症例で抗TNF-α抗体(infliximab 商品名:レミケード)療法で回腸膀胱瘻が閉鎖したとの報告がある。S状結腸膀胱瘻症例では抗菌剤投与のみで良好な経過を得たとの報告もあるが、本例のように保存的処置で瘻孔閉鎖を得られたとするCrohn病由来以外の回腸膀胱瘻症例はわれわれの調べ得た範囲ではなかった。自験例では萎縮膀胱となっておりカテーテル先端部の慢性刺激が瘻孔形成に関連していたのではないかと推測している。自験例では幸いにも瘻孔の閉鎖を得ることができたが類似症例においてどのような症例が同様の対応で良好な結果を得ることが出来るか事前に推定することは困難である。
  • 岡野 学, 高田 俊彦, 河田 幸道
    セッションID: 1F042
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    <緒言>近年、前立腺癌の頻度は検診活動の普及もあり増加が著しいが原発巣が腹部から触知するようないわゆる巨大前立腺癌はまれである。今回、内分泌療法により良好な近接効果が得られた症例を経験したので報告する。<症例>85歳、男性。  (主訴)頻尿  (家族暦)特になし  (既往歴)高血圧症 (現病歴)平成18年3月ころより頻尿、残尿感が続くため平成18年6月29日に当科を受診した。  (現症)身長150cm、体重52kg。胸部に異常を認めぬものの、腹部では臍下部右側から骨盤にかけて硬い腫瘤を蝕知した。直腸診では前立腺は鵞卵大、石様硬、表面不整であった。 (検査所見)尿検査はSG1010, pH5.5、prot(+)、sugar(-)、urobil(±)、bil(-)、OB(++)、RBC30-49/HPF、WBC5-9/HPF、Bact(-)であった。血液検査はWBC5640/mm3、RBC225×104/mm3、Hb7.4g/dl、Ht22.1%、Plet13.5×104/mm3で、生化学検査はGOT14Iu/l、 GPT9Iu/l、 LDH338Iu/l、 Alp188Iu/l、 T.P5.4mg/dl、 Alb3.2mg/dl、 BUN58.7mg/dl、 Cr3.1mg/dl、 Na140mEq/l、 K5.6mEq/l、 Cl109mEq/l、 T.chol109mg/dl、 CRP0.19mg/dl、BS140mg/dl、PSA13500ng/mlであった。 (画像所見)超音波検査では全体に不均一な低エコーで辺縁は不整であった。尿道造影では前立腺部はさほど延長が見られないものの膀胱は右側よりひどく圧迫され細長く変形していた。CTでは不均一な低吸収域を呈する大きな腫瘤が骨盤内を占拠し膀胱を左方に圧排していた。MRI検査ではT2強調画像にて骨盤内に大きな低信号部を認め、拡散強調画像でも同部位は高信号を呈し、ADC値も低値であった。リンパ節の腫大もみられ、ADC値が低下しており転移と考えられた。骨シンチグラフィーでは2週間ほど前の転倒による肋骨骨折を認めたが明らかな転移は認めなかった。また膀胱は変形し左側に偏移していた。 (経過)平成20年7月11日に前立腺生検を行ったところ低分化型(Gleason score10)の前立腺癌でありT4N1M0と診断し7月15日より内分泌治療を開始した。治療後半年のCTでは腫瘍は著明に縮小し明らかなリンパ節転移も見られなくなった。平成20年1月23日のPSAも0.79と低下し現在のところ経過は良好である。 <考察>原発巣が腹部から触知されるほど大きな前立腺癌は巨大前立腺癌として報告されており、調べえた限りでは海外では1966年のChaitら、本邦では1984年の藤本らの報告以来21例の報告があり、本症例は22例目である。年齢は55~89歳、平均71.4歳であった。主訴としては排尿困難が最も多く9例であり、排便障害なども5例にみられている。PSAは170~27000と全例高値であった。原発巣が巨大にもかかわらず記載のあった21例中10例は転移を認めなかった。分化度については中分化型が9例ともっとも多かった。全例内分泌療法が行われており、近接効化は良好なものが多いものの、予後については長期間観察されている症例が少なく不明であるが5例は1年以内に死亡しており近接効果ほどは良好ではない印象である。 <結語>内分泌療法が極めて有効であった巨大前立腺癌の1例を報告した。
  • 速水 慎介
    セッションID: 1F043
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    〈緒言〉前立腺肥大症の主たる病態は、前立腺が腫大することにより前立腺部尿道が圧迫され、膀胱より尿の排出障害をきたすことにある。前立腺肥大症の治療の最大目標は、膀胱機能温存にあり、膀胱に過度の負荷をかけないことである。つまりは、尿道圧を下げ膀胱の仕事量を軽減することである。ガイドラインに推奨される薬物療法には、腫大した前立腺を萎縮させる抗男性ホルモン剤と、前立腺内平滑筋の緊張によりもたらされる尿道圧上昇の改善を目的とするα1遮断薬がある。抗男性ホルモン剤はその副作用や、前立腺が萎縮するまでには最低3ヶ月かかるという問題から、即効性のあるα1遮断薬が第一選択として用いられることが多い。現在前立腺内平滑筋に発現されるα1受容体はα1Aとα1Dとされており、そのためα1A選択性が高い塩酸タムスロシンとさらにα1A選択性の高いシロドシン、またα1Dに選択性の高いナフトピジルが遮断薬として用いられる。しかしながら、これらの薬剤を個々の患者に使い分けているとは思えない。そこで、塩酸タムロシンおよびナフトピジルで効果の無いと思われる症例に、シロドシンに変更し、その有用性を検討することで、α1遮断薬の使い分けが可能であるかを検討した。 〈対象および方法〉塩酸タムスロシンおよびナフトピジルにて効果がない前立腺肥大症患者23名。神経因性膀胱が関与している可能性がある患者は除外した。併用薬は変えず、塩酸タムスロシン2mg/日ないしナフトピジル50mg/日をシロドシン8mg/日に変更。変更前後に国際前立腺症状スコアー(IPSS)、QOLスコアー、尿流速残尿測定を用いて効果を判定した。 〈結果〉タムスロシンから変更した症例が14名。ナフトピジルから変更したのが9名。塩酸タムスロシンが前投薬の場合は有意にIPSSスコアーは改善したが、QOLスコアーや尿流速残尿測定には差は認められなかった。一方ナフトピジルより変更した場合は、両スコアーの改善は認めないものの、尿流速残尿測定において、最大尿流率や平均尿流率で有意に改善を認めた。 〈考察〉塩酸タムスロシンからシロドシンに変更した際に症状スコアーの改善は認めるが、尿流速残尿測定において改善を認めないため、症状スコアーはプラセボにても改善することがあることを考慮すると、両薬剤はα1A選択性であり効果は同等かと思われた。ナフトピジルから変更した際は尿流速残尿測定において改善し、膀胱仕事量が減少したこが予測される。ナフトピジルがα1D選択性高く、シロドシンがα1A選択性であるため、個々患者の前立腺内α1受容体サブタイプ発現量の差が効果の有無につながっている可能性があるものと思われた。現在治療前に前立腺のα1受容体の発現量を推測するには、前立腺生検後その検体をもちいて測るしかなく、その侵襲性を考えると実用的ではない。そのため、α1A選択性の高い遮断薬で効果がないことが判明次第、α1D選択性の高い遮断薬に変更する意義はあると思われるが、同じα1A選択性の高い遮断薬を変更する意義は低いのかもしれない。 〈まとめ〉α1遮断薬投薬前にその効果を予測することは不可能で、α1A遮断薬である塩酸タムスロシンとシロドシンの効果は同等かと思われた。またα1D遮断薬であるナフトピジルが無効の際は、α1A遮断薬に変更することは意義があるものと思われた。
  • 華井 頼子, 勝村 直樹, 森野 浩太郎, 三原 昌弘, 山崎 健路, 尾辻 健太郎, 河内 隆宏, 森 良雄
    セッションID: 1F044
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    化学療法によりネフローゼ症候群も治癒した原発不明癌の1例を経験したので報告する。【症例】50歳女性。2002年11月より心窩部痛、背部痛が出現し前医で精査、傍大動脈リンパ節腫脹を認めた。その後頚部リンパ節腫脹も出現しこれを生検、腺癌と診断された。全身検索を行うも原発は不明。精査中にリンパ節は増大しネフローゼ症候群となった。同医で余命1~2ヶ月、化学療法の適応なしとされ、ターミナルケアを目的に2003年1月に当院に転院。【入院時現症】全身浮腫著明で胸腹水を認め、PSは4。【入院時検査】TP 4.7g/dl、Alb 1.4g/dl、T-Cho 651mg/dl、BUN 35.3mg/dl、Cr 1.5mg/dl、AFP 3430ng/ml(L3分画88.2%)、シフラ 80.9ng/ml、尿蛋白 1248mg/dl【経過】CBDCA+CPT-11療法でリンパ節の縮小を認めたが3月末に再度増大傾向となり、4月よりTHP-ADM+VCR+CPM療法を6コース施行しCRに至った。腫瘍マーカーも正常化しこれに伴いネフローゼ症候群も治癒した。以後UFTの3週内服1~2週休薬を継続し2008年4月現在寛解を維持している。【考察】本症例は原発不明癌に併発したネフローゼ症候群である。化学療法による現疾患の改善とともにネフローゼも改善がみられており、腎生検は行っていないが、がんの産生する何らかの蛋白が糸球体に沈着してネフローゼをきたしたものと考えられた。
  • 岡田 かずき, 二村 雪子, 新名 康, 深澤 基, 丹後 和彦, 都竹 隆治, 中嶋 正樹
    セッションID: 1F045
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    〈緒言〉乳房の大きさや含有乳腺量には個人差があることが知られている。今回当施設にてマンモグラフィを撮影した受診者を対象に乳房構成の調査・検討を行った。
    〈方法〉2007年4月から9月までの6ヶ月間に当施設を受診した(精密検査、検診含む)合計843名を対象に、1.授乳経験の有無、2.乳房の構成、3.MMG上の所見の有無を確認し、またUS検査も行った受診者に関してはその診断結果を含め検討した。
    〈対象・結果〉調査対象の年齢の内訳:受診者の年齢は20歳から88歳で、40代、50代が大半を占めた。
    年代別の乳房構成:年代別に乳房構成を比較すると(図1参照)、若年層ほど高濃度乳腺の割合が多く、高齢になるほど脂肪性の乳房構成を示した。
    図1:乳房構成(年代別)
    授乳経験別の乳房構成:図2に示す通り授乳経験の無い群は授乳経験の有る群と比べて高濃度・不均一高濃度の割合が多く、乳腺の萎縮の度合いに授乳経験の有無が関係しているといえる。
    また、全体の367名にUS検査を施行したところ、悪性の疑い・良性腫瘤と診断された割合はほぼ同率で、授乳経験の有無との相関性は認められなかった。(図3参照)
    図2:乳房構成(授乳経験別)
    図3:US検査結果
    〈考察〉授乳経験の有無は乳腺の萎縮に関係し、乳房構成に関与するといえる。一般的に、授乳経験が有る女性に比べて授乳経験の無い女性は乳癌発生のリスクが高いといわれているが、今回の調査で授乳経験の有無は乳癌起因の因子とする関係性はみられなかった。乳癌の危険要因は他にも数多く報告されているため、今後も調査を継続していきたい。
  • -マンモグラフィ併用の意義も含めて-
    三原 修一, 木場 博幸, 田中 信次, 平尾 真一, 高本 さや, 小山 慶子, 本藤 和子, 丸林 徹
    セッションID: 1F046
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    超音波による乳癌検診の評価 ―マンモグラフィ併用の意義も含めてー 三原修一(みはらしゅういち)・木場博幸・田中信次・ 平尾真一・高本さや・小山慶子・本藤和子・丸林徹 日本赤十字社熊本健康管理センター 乳癌検診、超音波検査、マンモグラフィ 我々は、1992年4月から人間ドックおよび地域・職域集団検診において、超音波(US)による乳癌検診を行ってきた。また、2005年度からは人間ドックに、2006年度からは集団検診にマンモグラフィ(MMG) を導入した。今回、US検診の有用性について検討するとともに、MMG併用の意義について検討し、効果的な乳癌検診のあり方を提言したい。 【方法】我々は現在、施設内では装置8台、集団検診では専用の超音波検診車9台(装置10台)を用いて腹部超音波検診と同時に乳癌検診を行っている。スクリーニングは全て技師が行い(乳腺は全て女性技師)、全員が本学会の超音波検査士取得をノルマとしている(現在消化器31名、体表17名、泌尿器15名)。画像記録はすべて独自のファイリングシステムで行っており、前回の比較読影も可能なシステムを構築している。装置1台あたりの処理人数は、1時間当たり10名程度を基本としている。 【成績】1)2006年3月までのUS検診延べ受診者数は144,611名、有所見者数21,909例(有所見率15.2%)、要精検者数2,488例(要精検率1.7%)、精検受診者数2,363例(精検受診率95%)で、発見された乳癌は205例(発見率0.14%)であった。乳癌発見率は、30歳代0.04%、40歳代・50歳代・60歳代0.15%、70歳以上0.16%で、40歳代でも50歳以上と同じ発見率であった。2)発見された乳癌205例の平均年齢は58.1歳であった。57%(116/202)に乳房温存手術が施行され、76%(126/165)が20mm以下の症例であった。病期(n=185)は0期18例(10%)、1期96例(52%)、2a期58例(31%)、2b期9例(5%)、3期・4期4例(2%)であった。病理組織(n=206病変)では、166例(81%)が浸潤性乳管癌、18例(8%)が非浸潤癌、粘液癌4例、髄様癌5例、小葉癌8例等であった。また、53%79/148)が非触知乳癌であり、超音波は早期乳癌発見に極めて有用であることが示唆された。3)検診受診歴の分析では、初回受診者の乳癌発見率が0.20%(116/59,429)であったのに対し、非初回受診者では0.10%(89/85,182)であり、まずは検診受診を促すことが重要と思われた。また、初回受診例は57%で、逐年検診発見例が高頻度であること、逐年検診発見癌は初回検診発見癌と比較して腫瘍径が小さい、早期癌が多い、非浸潤癌が多い、非触知例が多いという特徴を持つことから、逐年検診の重要性が示唆された。4)2005-6年度に人間ドックにおいてUSとMMGを同時に行なった受診者数は12,840名で、乳癌発見率はUS0.16%(21例)、MMG0.25%(32例), 併用では0.29%(37例)であった。また、触診による発見率は0.08%(10例)であった。USで検出されMMGで検出されなかった癌は5例(腫瘤4例、低エコー域1例)、MMGで検出されUSで検出されなかった癌は16例18病変(石灰化14病変、腫瘤2病変、構築の乱れ2病変)であった。 【まとめ】超音波乳癌検診は、安全かつ簡便で、その精度や費用効果から見ても優れた検診方法であり、普及する意義は大きいと思われる。また、MMGでは、USで発見が困難な石灰化病変が拾い上げられることから、効果的かつ効率の良い乳癌検診を行うためには、USとMMGの適切な併用が不可欠と思われた。
  • 米谷 理沙, 高橋 昌宏, 中野 詩朗, 赤羽 弘充, 柳田 尚之, 正村 裕紀, 北 健吾, 林 健太郎, 櫻井 宏治
    セッションID: 1F047
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    【緒言】
    遺伝子変異を有する家族性乳癌では、卵巣癌を合併する率が高い事が知られている。乳癌の腹膜転移を診断し治療していたが、剖検により原発性卵巣癌を合併した家族性乳癌であったと推測された症例を報告する。

    【症例と経過】
    症例は72歳女性。主訴は腹痛。
    平成17年6月右乳房のしこりを自覚し平成18年3月初診。右乳癌 (T4b N1 M0 Stage_III_B)と診断され同年4月術前化学療法を開始(FEC、TXT)。11月乳房温存手術+腋窩リンパ節郭清施行。
    平成19年8月腹痛が出現し同日入院。
    CTにて、腹水を認め、細胞診では癌細胞を証明した。乳癌の腹膜転移の診断で、化学療法を開始した。Vinorelbine、Paclitaxelいずれも無効のまま入院後、約2ヶ月で永眠した。病理解剖では、卵巣Brenner tumorが癌化、破裂した結果、癌性腹膜炎を発症したと診断された。

    【考察】
    乳癌が家族内に集簇してみられる場合、家族性乳癌と位置付けられる。家族性乳癌は全乳癌の5~15%とされている。家族性乳癌の診断基準は、第一度近親者に発端者を含め3人以上の乳癌患者がいる場合と、第一度近親者に発端者を含めて2人以上の乳癌患者がいて、いずれかの乳癌が40歳未満の若年性乳癌、両側性乳癌、同時性・異時性多臓器重複癌のいずれかを満たす場合と提唱されている。重複癌として、卵巣癌、前立腺癌の発生が報告されている。家族性乳癌の原因遺伝子としてBRCA1とBRCA2が知られており、BRCA1が認められる場合、卵巣癌の合併頻度が高く、BRCA2が認められる場合も卵巣癌を合併すると報告されているが、その頻度はBRCA1よりも低くなる。
    今回の症例は、妹が乳癌で手術歴があることと、本人が乳癌と卵巣癌の両方を発症していることから、家族性乳癌の診断基準を満たしている。
    乳癌に卵巣癌を合併する率は、家族性乳癌では10%と、非家族性の2%と比較し高率である。乳癌に癌性腹膜炎を合併した場合、家族性乳癌を念頭におき、積極的に卵巣癌の合併を疑い精査することが重要と考えられた。
  • 常山 聡, 島 千尋, 田村 裕恵, 小松 良一, 宮川 正明, 櫻井 宏治, 赤羽 弘充, 中野 詩朗, 高橋 昌宏
    セッションID: 1F048
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    〈緒言〉乳腺髄様癌は、本邦では約1~2%と比較的まれな腫瘍であり、明瞭な核小体と豊富な細胞質を持つ大型異型細胞の充実性増殖を特徴とする比較的予後良好な腫瘍である。リンパ球浸潤を伴うことが特徴とされているが、リンパ球浸潤を欠く症例も報告されている。今回我々は、髄様癌における細胞診と組織診の不一致例について、組織診断所見・細胞診断所見・免疫染色所見について比較再検討を行なった。
    〈対象と方法〉1999年から2007年までに当院外科にて穿刺吸引細胞診と組織診を施行した乳癌症例600例中、細胞診で髄様癌とは判定できず、組織診断にて髄様癌と診断された5例について検討した。また、細胞診では髄様癌と判定したが、組織診では他の組織型と診断された3例についても検討をおこなった。
    〈結果〉細胞診で髄様癌と判定できずに、組織診で髄様癌と診断された5例の内訳は、class_V_が3例、class_II_が1例、class_I_が1例であった。class_V_とした3例については、いずれも細胞診では浸潤性乳管癌と判定していた。しかしながら、この3例について再鏡検したところ、背景にリンパ球の出現を確認できるものであり、注意深く観察する必要があったといえた。また、class_II_とされた1例については、泡沫細胞を背景にアポクリン化生を伴う乳管細胞をシート状に認めることから、アポクリン化生との判定を行なっていた。超音波診断上も嚢胞性病変を示す所見であり、髄様癌の特徴とされる異型の強い悪性細胞の出現はみられなかった。また、class_I_とされた1例については、極少数の異型のみられない乳管細胞と中程度数の脂肪細胞を認める症例であった。このclass_I_の症例については、出現細胞数が非常に少なく、検体不適にすべき標本であった。
    また、細胞診では髄様癌と判定し、組織診では他の組織型であった症例は3例であり、乳頭腺管癌1例・充実腺管癌2例であった。いずれの症例についても、核異型は強く、髄様癌を思わせる背景のリンパ球も多数出現していた。
    〈考察〉乳腺髄様癌は背景のリンパ球を特徴とする核異型の強い特殊型の乳癌であり、細胞診での判定では背景のリンパ球をよく観察する必要があるとされている。しかしながら、リンパ球の出現のみにとらわれ過ぎると、リンパ球浸潤を伴う浸潤性乳管癌を誤って髄様癌と判定してしまう可能性がある。また、今回の症例にはなかったが、リンパ球浸潤のない髄様癌を他の組織型と判定してしまう可能性もある。髄様癌の特徴としては、泡沫状の細胞質や核の比較的微細なクロマチン、薄い核縁等があげられる。個々の細胞における細胞質の状態や核クロマチンの性状、核縁の状態も詳細に観察する必要があると考えられた。また、細胞集塊の出現のある場合は管状構造の有無を注意深く観察することで鑑別の補助となると考えられた。
  • 清水 敏夫, 宮川 恭一, 金本 淳, 木村 薫
    セッションID: 1F049
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    はじめに   当院では、平成元年より体外受精・胚移植(以下IVF-ET)を実施している。一連の操作のなかで、検査技師が関与するのは、採取液からの卵の分離、媒精、培養、移植カテーテルへの卵の充填、余剰胚の凍結保存などのラボワークである。体外受精を成功させるには、卵の母体内での培養に相当する臨床と、体外培養を担当するラボとの協調が必須である。  増えている不妊治療でも医師不足は深刻であり、我々のできる診療支援を考えるなかで、胚培養の状況や移植胚の説明を開始した。  方法  「説明シート」を作成して胚移植時に、5~15分程度で、患者に対面で説明と疑問についての回答を行っている。  説明シートの内容は、確認として、氏名・採卵日・治療回数、説明は精液の検査結果、採卵数・有効卵数、受精の状況、分割卵の評価・画像、移植胚数、凍結保存予想胚数、質問・医師への連絡などである。また、必要に応じて、前回との比較も行っている。  結果  受診者の不安・疑問を少しでも解消できたらということで開始したが、説明に対して質問してくることは予想外に少なく、全体で14%と7名に1名の割合である。受診者は、説明を理解することに集中し、説明時に質問することは容易ではないと思われる。  なお、説明に対して、受診者の意見等のアンケートは実施していない。  質問件数は、治療回数が1-3回で多く、25-29回で多い傾向があった。また年齢では、25-29歳で多く、年齢による傾向は明らかではない。  質問の内容は、移植胚の質(グレイド)26%、質の悪い胚移植による奇形児の可能性8%、胚移植で数や胚盤胞について17%、受精率など11%、高年齢者の妊娠率9%、凍結保存の移植9%、Assist- ed hatching 6%、採卵5%などとなっている。 考察  平成17年10月より、「説明シート」を作成して胚移植時に、患者に対面で説明を行っており、今までに延べ500件を越える件数を行ってきた。  検査でIVF-ETを実施することは診療支援そのものとも言えるが、患者に直接接して状況を伝えることは、患者にとって不妊治療への理解が更に深まると思う。ラボワークのみの担当に比べ、説明シートの作成に30分程度を要し、胚移植は時間外になることも多く、患者に対面することで煩わしいこともある。しかし、患者の顔を見ることにより、担当している業務への自信や責任とともに、いかに成功率を高めるかは永遠の課題として、更に研鑽を積む必要があると思われる。  患者からの質問に答えるには、それなりの知識と自施設のデータを把握しておく必要もある。  IVFの頻回実施にもかかわらず成功しない患者や40歳代後半の患者への説明は、対応に苦慮するケースもある。毎回同じ説明をするだけでなく、成功率を高める方策を積極的に実施して、説明に追加することが必要と思われる。   この患者への説明を契機に、看護師の学習会での講話、不妊症患者の集い参加など、スタッフ間や患者とのつながりも広がってきている。
  • 黒土 升蔵, 木野本 智子, 河合 要介, 針山 由美
    セッションID: 1F050
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    (緒言)厚生連系の医療機関は、地域医療の中核として機能をはたしており、地域における日々進歩する高度な医療の普及において重要な役割を担っている。内視鏡下手術は近年、その手術侵襲の少なさから、各診療科において普及し、医療機器の開発と術式の確立により、標準的治療になりつつある。当院は、本年1月に加茂病院から移転し豊田厚生病院として新しいスタートを切った。これに伴い、治療法の選択肢として、内視鏡下手術を積極的に導入している。内視鏡下手術は、創部が小さく目立ちにくいといったコスメティックなメリットだけでなく、術後創部痛が軽いため、離床も進み術後回復も良好である。これにより、早期退院が可能となるため、在院日数が短縮され医療経済にも貢献する。大学病院や一部の高次医療機関だけでなく地域医療としても広く普及されるべきである。これまで、地域医療における内視鏡下手術の実施状況に関する詳細な調査の報告は少ない。今回我々は東海地方の厚生連系の医療機関を対象として、産婦人科における内視鏡下手術の実施状況に関する調査を行ったので報告する。 (方法)東海地方の厚生連系の医療機関を対象に、昨年1年間の手術件数に基づき、アンケート形式で調査を行った。 (結果)愛知、岐阜、三重、静岡の4県の厚生連系の医療機関は26病院であり、産婦人科が設置されているのは18病院であった。内視鏡下手術を実施している病院での患者の満足度は高かったが、一方で、実施していない病院ではセカンドオピニオンのために他院へ紹介するケースが散見され、病院間でも格差がみられた。 (考察)地域医療としての内視鏡下手術の普及はまだ十分なものとはいえないことがわかった。一方、セカンドオピニオンを求めて他の医療機関を受診するケースもあることから、インターネットに代表される情報化社会が地域にも浸透してきていることがいえる。内視鏡下手術は高度な技術を要すため、その習得のために学会や講習会への参加など修練の場が必要だが、地域医療における産婦人科医不足の問題もありそのための機会が作りにくいことも問題である。患者からのニーズの高い内視鏡下手術の一層の普及には、こうした社会的背景の問題の解決に取り組むことも重要であると思われた。
  • 田尻下 怜子, 井上 聖子 , 北野 麻衣子, 津堅  美貴子, 遠藤 誠一 , 坂本  雅恵, 島袋 剛二
    セッションID: 1F051
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
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    Meigs症候群は良性の卵巣腫瘍に伴い、胸水や腹水が出現する疾患のことである。線維腫に多いとされ、腫瘍の摘出により胸腹水が消失するのが特徴である。今回、我々は呼吸苦を主訴に内科を受診し、右胸水貯留、骨盤内腫瘍を認め、左卵巣の莢膜細胞腫に伴うMeigs症候群と診断した1例を経験したので報告する。
    症例は84才女性、4経妊4経産。既往に狭心症があり、近医内科に通院し内服治療中であった。呼吸苦を主訴に同院を受診し心不全と診断され、当院内科へ紹介受診。胸部単純レントゲン検査では右胸水を認めたが、心臓超音波検査では心機能障害はなく心不全は否定された。腹部CT検査にて骨盤内巨大腫瘍を認めたため、精査、加療のため当科へ入院した。MRI検査にて、T1で低信号、T2で高信号、Gdでやや造影される内部不均一な腫瘍を認め、卵巣癌あるいは線維腫、莢膜細胞腫や胚細胞腫などの良性卵巣腫瘍、また他に鑑別として子宮肉腫が考えられた。腫瘍マーカーおよびホルモン値はCA125 356U/ml, E2 25.2pg/mlと軽度上昇を認めた。右胸水については細胞診class_II_、穿刺するが、再度貯留を認めた。腹水も少量認めた。卵巣癌あるいはMeigs症候群を疑ったが、家族が手術を希望されず、胸水の精査およびコントロールのため呼吸器外科に転科した。胸腔持続ドレナージを行うが500ml/dayの胸水貯留あり、CT検査にて胸腔に器質的疾患がないことから、Meigs症候群が強く疑われた。家族に再度手術を勧め同意されたため、全身麻酔下に両側付属器切除術を施行した。腫瘍は2.1kgの左卵巣腫瘍で、内部均一な充実性腫瘍であった。病理組織学的に莢膜細胞腫と診断された。右卵巣には異常所見を認めなかった。術後、胸水は速やかに減少し、術後4日目には胸腔ドレーンを抜去できた。経過良好で術後12日目に退院した。
    本症例では、患者が84歳と高齢であり、狭心症の既往があるため、全身麻酔の手術におけるリスクが高く、治療に苦慮した。しかし胸水のため患者のQuality Of Lifeが著しく損なわれ、また胸水貯留の原因がMeigs症候群以外に考えにくかったため、手術を施行した。本症例のように、胸水あるいは腹水から卵巣腫瘍が見つかることもあり、胸腹水の鑑別診断としてMeigs症候群を挙げる必要を再認識した。本症例につき若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 遠藤 博, 山本 泰三
    セッションID: 1F052
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/02/04
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    三次元動作解析装置を用いた多数歩連続自由歩行にて歩行分析を行い、下腿内旋制限についての歩行特性について検証することである。
    【方法】
    健常者1名(28歳、男性)について、大腿軸、下腿軸を模擬してその間の角度を膝関節外反角と定義し、テーピングを膝関節の他動的完全伸展位にて大腿から下腿へ添付したものを下腿内旋制限(以下、内旋制限)とした。同一被験者にて静止立位の前額面での膝関節外反角と、正常・内旋制限での歩行時の重心および各関節の動きの差について検討した。計測には、静止立位はデジタルカメラ、歩行は三次元動作解析装置VICON-MX(AMTI社製、60Hz)にてDIFF15マーカーをモデルとして使用した。
    【結果】
    1.静止立位について
    静止立位は、正常静止立位で右167.72 度、左169.71度であり、内旋制限静止立位で右170.11度、左171.56度であり、内旋制限の膝関節外反角は大きかった。
    2.歩行について
    重心の左右方向振幅については、正常で0.035mであり、内旋制限では0.017mであり、内旋制限の左右への重心の移動量は少なかった。
    重心上下方向振幅は正常で0.037m、内旋制限で0.035m。重心位置が最高位(片脚支持期)での重心加速度の最低値は、正常-3.756 m/s2、内旋制限-3.614 m/s2。最低位(両脚支持期)では、正常で2.761 m/s2、内旋制限で2.221 m/s2。内旋制限の両脚支持期の重心加速度は小さかった。
    内旋制限には次の特徴が見られた。(1)左足初期接地期に左膝関節屈曲へ大きい(2)左足立脚初期および後期で股関節外転へ大きい(3)左足立脚後期に左足関節底屈へ大きい(4)右足初期接地期に右膝関節屈曲へ大きい(5)右足立脚後期に右足関節底屈へ大きい。
    【考察】
    静止立位で、正常と内旋制限を比較し、膝関節外反角度が大きいことから、今回行ったテーピングは、膝関節外反角度を大きくした可能性を示唆している。また、歩行時の関節角度のグラフより、膝伸展制限を作り出していると考えられる。
    歩行時について、正常と内旋制限を比較すると、内旋制限の方が重心の上下、左右方向振幅を小さくしている。歩行時の関節角度のグラフより左立脚初期、及び後期について股関節外転位になり、また左立脚後期で足関節底屈位に大きくなっていることから、左膝外反が大きくなったことで正常時と同じ高さに重心を保つために立脚初期に股関節外転、立脚後期の股関節外転、足関節底屈で代償していると考えられる。上下方向の重心加速度グラフから片脚支持期での加速度に差はみられないが、両脚支持期間で重心加速度が小さくなっている。これは両下肢支持期による足の接地時間が長くし、力の伝達時間を長くすることで床反力を分散させたと考えられる。
    【まとめ】
    ・ 三次元動作解析装置を使い一人の健常人男性にて正常と内旋制限した際の歩行分析を行った。
    ・ テーピングによる内旋制限は、静止立位時の膝関節外反を大きくする可能性を示唆している。
    ・ 同時に、歩行時の膝関節伸展制限を呈し、両脚支持期の上下方向の重心加速度を小さくし、左右上下の重心移動振幅を小さくする可能性があることを示唆している。
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