モミヂノワタカヒガラムシの炭水化物としては其介殻中よりLignin, Cellulose, Galactan, Pentosanを確認せり.これ等の物質はフヂツボカヒガラムシと共通にして未だ昆虫體成分中に記載を認めざる處なり.又虫體水浸出物中よりGalactose, Glucoseを檢出し,煤病菌の培養基ならんと推定し,且つ蟻の誘引に由りて昆虫の運搬せらるゝ理由も此處に存するものと想像せらる.
蝋質物としては大部分はCeryl cerotateより成立することを確め又少量の脂肪屬炭化水素Cerotene (C
26H
52),未知環状炭化水素C
11H
20~C
11H
22,未知環状アルコールC
22H
56O(實驗式),未知樹脂酸C
14H
28O
2を得たり.前報と綜合すればモミヂワタカヒガラムシの介殻の主成分はフヂツボカヒガラムシと同樣無水硅酸,硬蛋白質,木質,纖維素及び蝋質物等が複雜なる混合をなして構成せらるゝことを認めたり.隨つて藥劑に對する抵抗力の大なる所以が推察さる.
稿を終るに當り御指導と御校閲を賜ふ恩師鈴木文助教授に茲に謝意を表すると共に,便宜と激勵を蒙りし工場長伊庭野薫氏,出張所長高橋清氏に感謝す.
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