1) 菊芋土中埋藏貯藏が其の化學的成分の變化に及ぼす影響を試験した.著者の實驗條件に於ける結果は次の如し.
(イ) 水分及び還元糖は漸次増加し,全糖及び非還元糖は漸次減少する.
(ロ) 窒素及び無機成分の含量は僅かづゝ減少する.
(ハ) pH價は貯藏初期には6.5附近を示めすけれども次第に低下して5.9に至る.
(ニ) 上記諸成分のうち還元糖の増加は最も著しいが,他の諸成分も發芽開始期頃より明らかに變化の傾向を示めしてくる.
(ホ) 炭水化物形態の變化に就いて言へば,貯藏の初期には冷水可溶性炭水化物が減じて95%熱酒精可溶炭水化物が増加する.併し還元糖の増加は著しくなく,變化は主として冷水可溶性部より非還元性熱酒精可溶部への轉移である.貯藏末期には還元糖の増加が著しく即ち非還元糖から還元糖への變化が主なるものである.
熱水可溶性炭水化物は貯藏に從つて漸次減少するけれどもその程度は少ない.
(ホ) 窒素形態の變化に就いて言へば可溶性窒素の減少が著しく,そのうち特に非蛋白態窒素の減少が著しい.
以上は新鮮物に對する量的變化であるが,乾物に對する比率の變化は,少なくとも5月18日迄の貯藏では,還元糖を除いては大なる變化が認められなかつた.
2) 貯藏の期間が菊芋の酒精醗酵に及ぼす影響を試驗した.
收穫直後の菊芋は直接醗酵が不適なりと謂はれてゐるが,著者の實驗結果では貯藏末期のものに比べて多少遜色はあるが懸隔著しからず,即ち菊芋炭水化物に適せる酵母を用ふるならば,貯藏による炭水化物形態の變化は醗酵率に著しい差違を及ぼさないと考へられる.
直接醗酵率は全期を通じ79%~84.7%であつた.この比較的低い數値は貯藏による影響よりも一旦乾燥して原料にした爲かと思はれる.
3) 菊芋の貯藏法としての自然乾燥法につき試驗し,又其の製品の酒精醗酵試驗を行つた.
菊芋は馬鈴薯と異なり,水分の蒸散が早い爲に切芋は勿論丸の儘でも短時日に容易に乾燥し得るものである.且加熱乾燥に於て屡々認めらるゝ吸濕性の缺點も殆んど無く安全に貯藏し得られる.
製品の直接醗酵試驗の成績は加熱乾燥製品に劣らない.即ち自然乾燥(風乾)は菊芋の最も經濟的な貯藏法として適せるものである.
終りに本實驗は主として財團法人服部報公會の援助によることを感謝し又その一部を援助せられたる日本學術振興會に對して感謝の意を表する.
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