1) 菊芋蒸煮液の直接醗酵に對する種々なる窒素物の影響を調べた.其の結果ペプトンは醗酵率を向上する効果あることを知つたが,硫安,大豆粕,米糠,麸,魚粕,メンザイ等はその効果なくメンザイは寧ろ醗酵率を低下した.
2) 硫安,アスパラギン,ペプトンの3種窒素形態に就いて種々なる量に加へて醗酵速度及醗酵率に及ぼす影響を調べた.其の結果何れも初期の醗酵速度を促進する傾向を見られだが醗酵率を明らかに向上したものはペプトン丈けであつた.ペプトン添加の最適量は窒素として醗酵原液の0.01-0.02%である.
要するに菊芋蒸煮液中には酵母の繁殖及び醗酵に對して殆んど十分なる窒素の形態及び量を含むのであつて若し添加するとせばペプトン態窒素を適當とする.但し酵母としてSchizosaccharomyces Pombeを使用した場合なることを附記する.
3) 菊芋蒸煮液の直接醗酵に對す燐酸鹽添加の影響を調べた.其の結果燐酸二加里を醗酵原液に對しP
2O
5として0.08%迄の添加は初期の醗酵速度を促進し,又醗酵率を稍々向上することが認められた.併しその効果は顯著ではない.
4) 酵母の混合培養による菊芋蒸液の直接醗酵試驗を行つた.これによつて從來のSchizosaccharomyces Pombeの單用醗酵が常に最高の醗酵率を與ふるも湧付きが遲いといふ缺點を除去し得ることが知られた.即ちPombeに,湧付きの早い酒精酵母No. 35を混合使用し,No. 35やRasse XIIの湧付成績と略匹敵せしめ得,且つ醗酵率をもPombe單用より稍々増進せしむることを得た.菊芋の蒸煮液のやうに,多糖類と單糖類と共に含むものの醗酵に對しては多糖類醗酵性酵母と單糖類醗酵性酵母の夫々の優秀なる種類を混用すべきである.
5) 滲出法による膠の調製は特に夫れが濃厚醪の調製を目的とする點に於て甚だ有利である.滲出法によつて菊芋炭水化物は損失なく(滲出率約97%)收得され,又窒素灰分等の成分も十分に滲出される.全糖含量20.13%の濃厚醪を調製し夫れを直接醗酵せしめ,醗酵時間88~96時間で酒精含量11.41容%の酒精醪を得,醗酵率88.6%の優秀なる成績を得た.
終りに本研究に對し研究費を援助せられだる財團法人服部報公會に對して厚く感謝の意を表す.
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