高張葡萄糖溶液の靜脈内注射を行ひ何等グルタチオン(GSH)を注射せざりし陽性對照家兎に於ては糖注射後,發熱すると共に血糖量を増加し尚ほ1時間に亘りて最高體温を經續し,實驗開始後5時間にして解糖, 6時間にして解熱を完了した.此際該糖溶液を與へず多量のGSHのみを靜脈内に注射したる陰性對照動物に於てはGSHの注射後微に體温降下したるを認めた.而して高張葡萄糖溶液と共にGSHを靜脈内に注射せし場合,體重Ikg當り0.1mgのGSHを給與するも陽性對照に比し大差なく稍々解熱所要時間を短縮したるに過ぎなかつた.體重1kg當り0.5mgのGSHを注射したるものに於ては實驗開始後3時間30分にして解糖し4時間以後に於て解熱した.尚ほ體重1kg當り1.5mgを與へしものに於ては實驗開始後3時間にして解糖し, 4時間にして解熱し又,體重1kg當り5.0mg GSHを與へたるものに於ては實驗開始後2時間30分にして解糖, 3時間にして解熱した.即ち高張葡萄糖溶液と共にGSHを靜脈内に注射したるものに於ては然らざる陽性對照に比し發熱著るしからず,又最高體温の經續時間數も短く且,解糖竝びに解熱の著るしく促進せられる事を觀察し尚ほ何れの場合に於ても解糖後始めて解熱した.即ち之等は體重1kg當り0.5mg以上のGSH(當時最低必要量として記載した.)を與へたる際に於て顯著にして曩に報告したる所に一致したが本報に於ては尚ほGSH給與量の増加に從ひ稍々之等の傾向の増加する事を認めこの點嚴密なる意味に於いて最低必要量の存在を決定する事は困難であらうと考へられた.尚ほ本實驗に於ては解糖,解熱經過中KIO
3消費量に基く血液グルタチオン量(GSH. GS・SG, Total)には殆ど何等注目すべき變化を示さなかつた.
以上總括せる所に從ひ茲に之を要約すれば次の如くである.
(1) 高張葡萄糖溶液の靜脈内多量注射法に基き體温上昇し同時に血糖増加を招致せし正常家兎に於てGSHの注射給與により解熱解糖作用の促進せられるを見た.
(2) 此際GSH給與量多き程解糖を促進し解熱も亦之に從ひ促進せられた.
(3) 然れ共解糖と解熱とは同時に完了する事なく,常に解糖完了後若干時間を經過せし後始めて解熱を完了した.
(4) 解糖,解熱の經過に於てKIO
3消費量に基く血液グルタチオン量は何等の變化をも示さゞるものゝ如くであつた.
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