(1) 實驗室にて調製せる穀類醪(時により結晶糖又は腸内容物を投入せるものあり)を適宜の温度に放置して得たる23株,甘酒よりたる3株,紅曲又は紅酒醪より得たる8株,一酒精工場の酸醪より得たる8株,及び一乳酸工場の醪より得たる2株,計44株の乳酸菌(内10株は球菌にして34株は桿菌なり)に就て其の性質を檢討せり.
(2) 第一群Streptococcusとしては2株を得,これらは何れもEnterococcusに屬し1株はSc. faecalisに1株はSc. glycerinaceusに該當するを知のたり.
(3) 第二群Pediococcusとしては6株を記載しこれらは2株のPc. hennebergiと4株のPc. lindneriに分け得られたり.
(4) 第三群Leuconostocとしては2株を得これらは共にLeuc. mesenteroidesに屬し1株は明かなるα-typeなるも他の1株は寧ろβ-typeに近き事を知りたり.
(5) 第四群True-Lactobacillus (catalaseを有せず, homo-fermentationを行ふ)としては8株得られこれはL. casei 1株, L. acidophilus 1株, L. plantarum 1株及びL. delbrückii 2株の他pentose中特にxyloseを選擇醗酵し常に
d-乳酸を生産する短桿菌L. xylosus nov. sp. 3株に分ち得たり.
(6)第五群Beta-Lactobacillus (catalaseを有せず, hetero-fermentationを行ふ)としては15株を得これらのraffinoseの醗酵性は形態,蔗糖粘化,マンニツト生産力及び温度關係と密接なる關係を有しこれとpentoseの醗酵性とを組合すことによりL. brevis α 1株, L. brevis β 3株, L. fermentum α 7株, L. fermentum β 3株及び特に醪と高温を好み醪中に速かに多量の乳酸を造り寒天培養基に聚落を作り難き特性を有する新菌種L. betadelbrückii nov. sp. 1株に分ちたり.
(7) 第六群Wild-Lactobacillus (catalaseを有す)としてはOrla-JensenのMicrobacteriumに該當するものは得られざりしもL. thermophilus 6株の他硝酸還元力を有するL. ciliatus nov.sp.2株及び硝酸還元力を有し揮發酸を生産するL. caneus nov. sp. 3株,計11株を得たり.
(8) 醪中に於ける菌種の分布に就て乳製品と比較考察しStreptococcusの分布少きも特にPediococcusが普通に見らるヽ點を指摘し桿菌としては. Beta-, Wild-,及True-Lactobacillusが比較的平等に存在するを指摘せり.
(9) 前報に於て見たると同様に醪中の乳酸菌は乳製品中のそれに比しpentoseを醗酵するもの多くこれに反し牛乳を凝固するもの少なきを知り得られこれは培養條件による菌種の淘汰作用に關する前報の結論を肯定せるものと謂ふべし.
稿を終るに臨み本研究も前報と並びて片桐教授等の乳酸醗酵に關する研究の準備として行ひたるものにして同教授には終始御懇篤なる御指導を賜りたり謹みて御禮申し上ぐ.尚實驗に助力せられたる青山房三君にも謝意を表す.
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