2, 3-ブチレングライコールを脱水性觸媒で處理して反應生成物を檢討した.試驗の結果は1, 3-ブチレングライコールの如く容易に2分子の脱水は行はれず,ブタヂエンの生成は少量で大部分は1分子脱水に依るメチルエチルケトンの生成が見られた.外にピナコリン轉位に依るイソブチルアルデヒド,オレフイン或はアルデヒドの重合物と思はれる褐色油状物質及び上記諸物質の分解瓦斯が得られた.
1) 一般に脱水性觸媒として知られる酸性白土,活性アルミナ,酸化トリウム,青色酸化タングステン,珪酸アルミニウムを用ひて温度300~450°の範圍で脱水反應を檢討したが粗製メチルエチルケトンの理論量に對する收率は何れも50~60%で著しい差異は認められなかつた.
2) 酸性白土を觸媒として200~750°の範圍で脱水反應の状況を檢討した.
メチルエチルケトン並にイソブチルアルデヒドは250~500°が其收率良好でメチルエチルケトンは比較的低温の250°で66.23%の最高收率を示し,イソブチルアルデヒドは比較的高温の好收率を擧げてゐる. 250°の場合反應グライコールに對する全收率は71.96%に及んでゐる. 550°以上ではケトン及びアルデヒドの生成量著減して發生瓦斯量増加し, 750°に到ると殆んど總ての物質が分解して瓦斯のみとなる.ブタヂエンも550°に於ける5.1%が最高で温度上昇に連れて分解の爲收率低下を來す.
次に400°及び600°の反應温度で生成した液を劃温蒸溜に附して各溜液の百分率を比較した.蒸溜の頭初液中に溶解してゐるブクヂエンは瓦斯として逸散する.定量すると400°の場合收率1.65%, 600°の場合0.6%で其量は僅少である.メチルエチルケトンを主成分とする65~85°の部分は400°の65.72%, 600°の64.76%で略同率であるが, 85°以上の高沸點の部分は400°12.29%で, 600°の24.29%に比して約半量である。
3) 脱水能の比較的穏和な觸媒を用ひてメチルエチルケトンの生成率を試驗した.即ち酸性白土に苛性加里1%を加へたもの,白陶土,白陶土に酸化鐵5%並びに苛性加里1%を加へたものの3觸媒で試驗したが結果は強力な脱水性觸媒に依らねばメチルエチルケトンの1分子脱水は進み難い事を明にした.
終りに臨み,本試驗に終始懇篤な御指導を賜つた坂口謹一郎先生及び朝井勇宣先生並びに頭初から種々御援助御指導を頂いた陸軍科學研究所國澤新太郎技師に謹んで感謝の意を表する.尚,東京工業試驗所の井上春成博士,永井宏技師,東京帝國大學理學部の水島三一郎教授並びに理化學研究所久保田勉之助博士及び其の研究室の方々に有益な御助言を仰いだ事を厚く感謝する.
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