(1) 盤分土では鹽分濃度を増す程,宿主植物の生育,根瘤の着成は不良になりC1'が0.1%以上の鹽分土になると顯著な被害がある.
(2) 普通土の株當窒素定固量を100.0とすると鹽分土ではクロタラリアは4.6,田菁は8.8,虎爪豆は6.9である.細菁は初期の生育は劣つたが,根瘤の養成,窒素含有率は普通土に近く3種の緑肥中最も耐鹽性が強い.
緑肥作物間の耐鹽性鹽の強弱種複雑微妙な原因によろうが,根菌と宿主植物物自體の耐鹽性の如何に分けて考えられる.栽培試験の觀察からすると虎爪豆植物は概して耐鹽性は強いが,根瘤の着成は弱く,田菁植物は耐鹽性は強そうにも見えないが根瘤の着成は強いと云う様に兩者の耐鹽性は必ずしも一致しては居らぬ様である.
叉田菁菌は培養基の反懸を酸性に變化する大河原氏等(2)の云う豌豆系に屬し,クロタラリア,虎爪豆はアルカリ性に變化せしめる大豆系の根瘤菌であり,田菁菌は鹽分土のpHを低下せしめて自體に好適のpHに近ずけ様とすると同時に鹽分に對しても或る解毒的な作用があるのではあるまいか.
(3) 強鹽分土其儘に外部より根瘤菌を接種しても養分を與えても其の効果は皆無か又は微弱である.この鹽分土を脱鹽すると根瘤は僅かであるが着成し,更にこれにKH
2PO
4及びCaCO
3を與えると根瘤は一層よく形成される様になる。この事實からするとこの程度の鹽分土にも根瘤菌は多少生存してゐるが,鹽分の多い爲,着成能力を缺いて居るからであろう.從つて脱鹽後菌を接種したり,養分を補給したりすると一層根瘤の着成は良好となつて普通土の成績に近づくものと解される.
一般に根瘤菌の發育と根瘤形成能力の對反應性の限界値は異なる様で,根瘤菌が生存し得る反應でも根瘤の形成には被害があると云われている(3).同様な事は對鹽性にもあり得ると考えられる.即ち板野氏(4)は紫雲英,ヒューバム・クロバーの發育はNaCl濃度が3.5%以上になると至難であるが,0.01~0.50%の範圍は好適濃度であり,海岸地方潮害土壌に於ける緑肥栽培の参考になろうと發表されている.勿論菌の種による耐鹽性相違は考られるが,本實驗成績によると全鹽0.3%程度になると宿主植物の生育,根瘤の着成が不良になることからすると根瘤菌自體の發育に對する鹽分の限界濃度は植物及び根瘤形成の限界濃度に比し遙に高い様に思われる.換言すると鹽分が菌自體に影響するより,根瘤の着機能を妨げる影響の方が強く,從つて菌に對する鹽分の關係濃度の成績を以て直ちに上記の如く緑肥作物の耐鹽性を云々灯することは出來ない様に思われる.而して多鹽分による根瘤形成機能の障害は根瘤菌は發育し得ても,着成能力が衰退する爲か,それとも植物の根部組織が菌の受入れに不都合になるためかの問題があるが本實驗では未解決である.
終りに臨み本稿の校閲を賜つた恩師大杉博士に深く謝意を表する.
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