(1)カゼイン・ミセルおよびその蛋白質部分であるカゼイン・ゾル,酸カゼインを75°,10 min.加熱処理したところ,次のような結果が得られた.
i) カゼイン・ミセルは加熱により粒子の会合が生じてその懸濁液の白濁度が強くなり,さらにこれにCa
2+を添加すると未処理のものはCa
2+濃度の増加に伴って白濁度が強くなるのに対して,加熱したものはCa-感度が低下し, 0~15mM Ca
2+濃度では未処理の場w合より強い白濁を示すが,それ以上のCa
2+ 濃度では白濁は増加しないので,未処理のものよりも低い白濁を示し, Ca
2+との間に見られるカゼイン・ミセルの膠状性に変化が生じた.
ii)カゼイン・ゾルは加熱によりCa-感度が低下し,カゼイン・ミセルの加熱による膠状性の変化はそのミセル構成蛋白質部分が加熱変化するためであると考えられる.
iii)酸カゼインは加熱によりCa-感度が低下して, Ca
2+と酸カゼインの間にみられる膠状性に変化が生じた.
(2)カゼイン・ミセルの構成蛋白質であるカゼイン・ゾルを, Ca
2+に対する溶解度の違いからα
s-カゼインが主成分のF-1カゼイン,β-カゼインとκ-カゼインが主成分のF-3カゼイン, κ-カゼインが主成分のF-4カゼインの各分画に分割し,それらを75°, 10min.加熱処理したのち未処理の分画と組合せて部分的に加熱したカゼイン・ゾルを再生して,そのCa-感度を測定したところ,次のような結果が得られた.
i) α
s-カーゼインを主成分とするF-1カゼインを加熱処理した再生カゼイン・ゾルのCa-感度は,対照に比べてCa
2+の存在で白濁しやすくなった.
ii)β-カゼインとκ-カゼインを虫成分とするF-3カゼインを加熱した場合の再生カゼイン・ゾルはCa-感度が低下した.
iii) κ-カゼインを主成分とするF-4カゼインを加熱した場合の再生カゼイン・ゾルは,対照に比べてCa
2+の存在で白濁が生じにくくCa-感度が低下した.
iv) α-
s-カゼイン, β-カゼイン,κ-カゼインのすべてを加熱した場合の再生カゼイン・ゾルは対照に比べて, 15~20mMよりも低いCa
2+濃度では高い白濁を示し,それよりも濃いCa
2+濃度では低い白濁を示した.これは低濃度のCa
2+においてはα
s-カゼインを加熱した影響が強く現われ,高濃度のCa
2+においてはκ-カゼインを加熱した影響が強く現われたためと思われる.
v)カゼイン・ミセルを加熱するとそのCa-感度を示す白濁度は0~15mMのCa
2+濃度の範囲では対照よりも強い白濁を示し, 20mM以上のCa
2+濃度では低い白濁を示すのは低いCa
2+濃度ではα
s-カゼインの加熱の影響を示し, 高いCa
2+濃度ではκ-カゼインの加熱の影響が強調されたためと思われる.
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