日本農芸化学会誌
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41 巻, 8 号
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  • カゼイン・ミセルの膠状性に及ぼす加熱の影響
    吉田 繁
    1967 年 41 巻 8 号 p. 359-364
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    (1)カゼイン・ミセルおよびその蛋白質部分であるカゼイン・ゾル,酸カゼインを75°,10 min.加熱処理したところ,次のような結果が得られた.
    i) カゼイン・ミセルは加熱により粒子の会合が生じてその懸濁液の白濁度が強くなり,さらにこれにCa2+を添加すると未処理のものはCa2+濃度の増加に伴って白濁度が強くなるのに対して,加熱したものはCa-感度が低下し, 0~15mM Ca2+濃度では未処理の場w合より強い白濁を示すが,それ以上のCa2+ 濃度では白濁は増加しないので,未処理のものよりも低い白濁を示し, Ca2+との間に見られるカゼイン・ミセルの膠状性に変化が生じた.
    ii)カゼイン・ゾルは加熱によりCa-感度が低下し,カゼイン・ミセルの加熱による膠状性の変化はそのミセル構成蛋白質部分が加熱変化するためであると考えられる.
    iii)酸カゼインは加熱によりCa-感度が低下して, Ca2+と酸カゼインの間にみられる膠状性に変化が生じた.
    (2)カゼイン・ミセルの構成蛋白質であるカゼイン・ゾルを, Ca2+に対する溶解度の違いからαs-カゼインが主成分のF-1カゼイン,β-カゼインとκ-カゼインが主成分のF-3カゼイン, κ-カゼインが主成分のF-4カゼインの各分画に分割し,それらを75°, 10min.加熱処理したのち未処理の分画と組合せて部分的に加熱したカゼイン・ゾルを再生して,そのCa-感度を測定したところ,次のような結果が得られた.
    i) αs-カーゼインを主成分とするF-1カゼインを加熱処理した再生カゼイン・ゾルのCa-感度は,対照に比べてCa2+の存在で白濁しやすくなった.
    ii)β-カゼインとκ-カゼインを虫成分とするF-3カゼインを加熱した場合の再生カゼイン・ゾルはCa-感度が低下した.
    iii) κ-カゼインを主成分とするF-4カゼインを加熱した場合の再生カゼイン・ゾルは,対照に比べてCa2+の存在で白濁が生じにくくCa-感度が低下した.
    iv) α-s-カゼイン, β-カゼイン,κ-カゼインのすべてを加熱した場合の再生カゼイン・ゾルは対照に比べて, 15~20mMよりも低いCa2+濃度では高い白濁を示し,それよりも濃いCa2+濃度では低い白濁を示した.これは低濃度のCa2+においてはαs-カゼインを加熱した影響が強く現われ,高濃度のCa2+においてはκ-カゼインを加熱した影響が強く現われたためと思われる.
    v)カゼイン・ミセルを加熱するとそのCa-感度を示す白濁度は0~15mMのCa2+濃度の範囲では対照よりも強い白濁を示し, 20mM以上のCa2+濃度では低い白濁を示すのは低いCa2+濃度ではαs-カゼインの加熱の影響を示し, 高いCa2+濃度ではκ-カゼインの加熱の影響が強調されたためと思われる.
  • 発酵および酸処理の影響
    前沢 辰雄, 早川 幸男, 大久保 増太郎, 新堀 二千男
    1967 年 41 巻 8 号 p. 365-369
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    (1) 5月から夏を越して翌年3月まで約10カ月,澱粉に水を張って貯蔵し発酵を起こさせた試料と,比較のため防腐用として塩酸および界面活性剤DBSを添加して発酵を抑えた試料について液化性を調査した.それによると,激しく発酵した澱粉は原澱粉(干し粉)に比べて難溶性澱粉が80~100%増加した.これに反して発酵を抑えた澱粉は25~35%程度の増加に止った.一方,強い酸性(0.25%塩酸)で貯蔵した澱粉では8倍以上の増加を示した.
    (2)酸処理澱粉としてよく知られているリントナー澱粉の液化性を調査した.澱粉を7.5%の塩酸に浸漬し,低温(4~10°)および28°の恒温に7日間経過させたものについて試験したところ,低温区では難溶性澱粉の増加が30%程度であったが, 28°区では6倍以上の増加を示した.
    (3)生澱粉分解能を有するEndomycopsis fibligerの酵素と細菌α-アミラーゼを使って生澱粉を50°, 48時間分解させ,残った澱粉の液化性を調査したところ,酵素の使用量を増し分解の進んだ区ほど難溶性澱粉の発生量が多かった.
    (4)以上の成績から,発酵および酸処理した澱粉の液化性悪化の機構について次のように考える.澱粉に微生物が繁殖したり,あるいは酸処理によって澱粉が部分釣に分解されると,澱粉分子や分子の束を連結構成していた網の目構造が切断されてゆるみ,粒子内の分子鎖の可動性を増す.その結果,分子鎖が接触衝突する機会が増え,衝突によって分子鎖が会合して強固な束を形成し,液化酵素に抵抗するようなものができる.この場合,澱粉が湿潤状態でかつ温度の高い方が分子鎖が動き易く,それに応じて難溶性澱粉の発生量も増加する.
  • 乳酸菌によるブドウ糖,乳糖,ショ糖混合物の分別定量
    秋場 克彦, 日野 昌弘, 池辺 信夫
    1967 年 41 巻 8 号 p. 370-374
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    L. acidophilus F 2 (誘導変異株,乳糖,ショ糖非醗酵株), L. thermophillus IFO 3863 (ショ糖非醗酵性), L. acidophilus 3532 (3種の糖に対し醗酵性)の3種の菌をもちい,その特異的糖発酵性によりブドウ糖,乳糖,ショ糖の分別定量を行なった.接種菌量は106~105/ml, 37°, 72時間静置培養後, 1mlをとり0.01N NaOHで生酸量を測定した.標準曲線は各菌株ともブドウ糖をもちいて2%の範囲まで作成し,混合糖の定量に用いるには,総濃度0.8%以上の場合は混合糖中のブドウ糖濃度が0.3%以下の濃度のときにのみ使用できる.また,発酵試料の定量を行なった結果,各稀釈濃度でも一致した定量値を得,試料に既知濃度の糖を添加して定量した場合の回収率も100%に近い値を得,実際の測定に使用が可能であった.
    なお,ブドウ糖,乳糖,ショ糖以外の糖が試料中に混在した場合のこの定量法の特異性であるが,果糖はブドウ糖と同じく消費され,そのためブドウ糖の値は(つまりF2株によって得られる値),ブドウ糖+果糖の値として定量されてくる.その他の糖の定量におよぼす影響の詳細については,今後の検討に待ちたい.
  • 新林 恒一, 伊出 優, 佐野 洋二
    1967 年 41 巻 8 号 p. 375-380
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    泌乳牛の乳動静脈血の主要な2, 3の成分の濃度差を検討してつぎの結果を得た.
    (1)遊離アミノ酸の乳動静脈差を検討した結果,カゼインを合成するのに血流からの供給で十分にまかなわれると思われるアミノ酸には,バリン,ロイシン,リジン,イソロイシン,アラニン,アルギニン,スレオニンがあり,不十分なものには,セリン,グリシン,メチオニン,アスパラギン酸,グルタミン酸などがあった.
    (2)血糖,揮発性脂肪酸などもかなりの動静脈差が認められ,動脈血中に認められた揮発性脂肪酸はほとんどが酢酸であった.
    (3)カルシウム,燐なども十分,牛乳中のカルシウム,燐を供給するに足る動静脈差を示した.
    乳清中に燐脂質関連物質としてエタノールアミンの存在を確認した.
  • NADP共役イソクエン酸脱水素酵素とイソクエン酸分解酵素の代謝調節に関する研究
    長町 健一, 藤井 ミチ子, 本田 幸一郎
    1967 年 41 巻 8 号 p. 381-385
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    ヒマ種子を暗所,30°で発芽させ,胚乳のICL活性変化を測定した.活性は主として可溶性分画に存在し,その分画のICL活性は発芽とともに次第に強まり, 5日目頃に最高に達し,以後急激に弱まる.
    胚乳の可溶性分画よりICLを分離精製し,その物理化学的性質を検討した.クエン酸, α-ケトグルタル酸はICL活性に対して影響をおよぼさないが,グルコース-6-燐酸は基質に対して不拮抗型阻害剤として作用する.
    以上の実験結果,ならびに前報の実験結果よりIDH, ICL活性の中間代謝物による代謝調節機作に関して考察を試みた.
  • 放線菌Streptomyces sp. No. 41の生産する5'-ヌクレオチダーゼについて
    岩浅 孝, 杉本 洋, 原田 倫夫, 横塚 保
    1967 年 41 巻 8 号 p. 386-392
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    Streptomyces sp. No. 41の生産する5'-NDaseの精製を行ない,その性質の幾つかを明らかにした.
    (1)本酵素の作用最適pHは7.0~7.3に認められ,その安定pH域は6.0~8.0である. 55°, 10分間の処理で完全に失活する.
    (2) Ca2+, Sr2+あるいはMg2+により賦活されるが, Ca2+の効果は最も大きい. Ag2+, Hg2+, Cu2+, Ni2+およびZn2+は強い阻害作用を示す.またI2およびNBSによる阻害も著しい.ヌクレオシドによる阻害はピリミジン塩基を持つものにより強く認められる.
    (3)本酵素は5'-ヌクレオチドに特異的に作用するが, FMNは全く分解せず,またNMNの分解もわずかである.リボヌクレオチドではプリン塩基を持つヌクレオチドをより速かに分解するが, 5'-IMPの分解速度はとくに大きい.
    (4) 5'-AMPおよび5'-IMPについて測定したKm値は,それぞれ3.0×10-5Mおよび7.9×10-5Mである.
  • モミジワタカイガラムシの脂質
    橋本 皓, 山田 和彦, 向井 克憲
    1967 年 41 巻 8 号 p. 393-398
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    モミジワタカイガラムシ(包卵雌成虫)の脂質分析を行なった.
    (1) 20以上の脂質成分の存在を認めた.
    (2)主成分はトリグリセリドで, 78.5%を占めた.そしてワックス8.2%,リン脂質8.1%,炭化水素2.5%,他に遊離アルコール,ジグリセリドなどが少量存在した.
    (3)遊離脂肪酸は微量であった.
    (4)トリグリセリドの構成脂肪酸は,ラウリン酸が95.8%の高率を占め,トリグリセリドはトリラウリンから構成されるものと判定された.ジグリセリドも高率のラウリン酸(87.1%)から構成された.これに対してリン脂質の脂肪酸組成は, C18酸の合計が87.4%を占め,二者とともに特異的であった.
    (5)リン脂質成分は5種存在し,ホスファチジルコリン,ホスファチジルエタノールアミンが主であった.
  • カテキンの酵素酸化物生成におよぼすアミノ酸類の影響
    中川 致之
    1967 年 41 巻 8 号 p. 399-405
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    (1)紅茶の水色に明かるさを与え,その含有比率の高いことが紅茶の品質に望ましいとされるテアフラビンの生成に関し,アスコルビン酸,イソアスコルビン酸,アスパラギン酸,グルタチオン(酸化型)の添加は促進効果を,グルタチオン(還元型),システイン,アルギニン,リジン,グルタミン酸は抑制効果を示した.
    (2)高次の重合物を形成していく一つの形式と考えられる(+)-カテキンのキノン重合時に,アルギニン,アスパラギン酸を添加すると,着色物を対照よりもはるかに多く生成し,グルタミン酸では逆の結果になることが認められたが,アルギニン添加などにより増加する着色物は,いわゆる(+)-カテキンのhead to tailの縮合物だけでなく別種のものも含むと推定された.
    (3)アルギニン,リジンをテアフラビンを生成する系に添加した場合,カテキンの他の重合系を促進して褐色物をつくるものと考えられた.
    (4)システインはテアフラビンを生成する系に添加した場合,特異的にケトンに不溶の桃色色素を形成するが,このものはカテキンのキノンとシステインの重合物と推定された.
    (5)テアニン,アラニンのような中性アミド,アミノ酸は,カテキンの酵素酸化にあまり影響しないと考えられた.
  • 内藤 博, 神立 誠
    1967 年 41 巻 8 号 p. 406-408
    発行日: 1967年
    公開日: 2008/11/21
    ジャーナル フリー
    酵母Torula utilisを培養し,その菌体から活性炭クロマトグラフィーによって35S-メチオニンを調製する方法を述べた. 5%酢酸溶出によって,メチオニンはメチオニンスルホキシドおよびシスチンと完全に分離し, n-ブタノール系使用のペーパークロマトグラフィーを併用することによって,ほぼ純粋な35S-メチオニンが得られた.また,この方法により組織等白質中のメチオニン比放射能を能率よく測定することができた.
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