水稲種実の種々の生理的過程,すなわち乳熟期,完熟期,発芽期,完熟期種実胚および幼葉について,酸性ホスファターゼ活性の変化をイオン交換セルロースクロマトグラフィー,セファデックスG-200によるゲル濾過あるいはディスク電気泳動によって調べた.
(1)粒当りの各過程種実の活性は,用いたリン酸エステルのいずれに対しても,乳熟期がもっとも高く,完熟,発芽期の順に減少した.また,いずれも
p-ニトロフェニルリン酸,ピロリン酸, α-ナフチルリン酸などに対する活性が高かった.タンパク当りの比活性は乳熟,発芽期ではほぼ同じで,完熟期ではその1/2~1/3であった.また完熟期種実では,生体重当り糠層および胚にもっとも活性が高かった.
(2) DEAE-セルロースクロマトグラフィーにおける活性パターンは,非吸着部(I)と吸着,溶離部(II, III)の3画分に分けられる.乳熟期種実では大部分がIで,完熟期種実胚,糠層ではIは減少し, II, IIIが増加した.一方発芽期種実,幼葉ではI, IIが少なく大部分IIIであった. IをさらにCM-セルロースクロマトグラフィーで分画すると, 3活性画分(Ia, Ib, Ic)に分けられた.乳熟期種実ではほとんどIbで,完熟期種実胚,糠層ではIa, Icが増加した.一方発芽期種実,幼葉ではIcが著しく増加した.
(3)各過程における酵素画分の,セファデックスG-200ゲル濾過による推定分子量は約6万, 8~10万, 11~12万および20~22万の4グループに分けられた.大部分の画分は8~10万を示したが, I画分から得られた各画分には種々の分子量のものが存在し,また生理過程によっても差異がみられた.完熟期種実胚では, 4グループのすべてが認められた.
(4)各種実抽出液はディスク電気泳動によって, pH 9.4ゲルの場合, 4個の活性バンドに分離されたが,そのうち2個は乳熟,完熟,発芽期の順に減少し,他の2個は各過程を通じてあまり変化がなかった.
完熟期種実(糠層)および発芽期種実における各酵素画分の活性バンドの構成は互いに類似したが,乳熟期種実の画分は活性バンド数が多く,かつ易動度の大きいものが認められた.
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