蚕を用いて,環境中に存在する化学物質の生体内分布および濃縮率について一考察を行った.本報ではα-, β-, γ-, δ-BHCについて検討した.
1. 蚕からの各組織採取量は少なく,また多量の農薬が投与できないため,溶媒の濃縮率が高くなることによっておこるクロマトグラム上の妨害を除き,また脂訪の混入がないクリーンアップ法について検討した.その結果, 7%量の水添加による不活性化フロリジルカラムを採用し,ヘキサン50ml,ついで6%ジエチルエーテル・ヘキサン50mlで溶出した.この方法を含めた全操作のBHC各異性体添加回収実験を,全検体について行った.その結果, BHC各異性体を5および50ppb加した検体について85%以上の回収率であった.
2. 投与した全BHCのうち, 20%が糞中に排出され, 80%が生体中に吸収された. BHC各異性体のうち,各組織に分布する濃度がもっとも高かったのは*beta;-BHCであった.これは, β-BHCが生体内で安定であるためと考えられる.また,全BHCの分布率は疎水的組織である脂肪組織でもっとも高く,親水的組織である絹糸腺でもっとも低かった.
3. 体液に対する消化管,脂肪組織,絹糸腺およびcarcassへのBHC各異性体の濃縮率を検討した.その結果,脂肪組織では投与後4時間で19.8~25.3倍で,もっとも高かった.他の組織での濃縮率はBHC各異性体いずれも, carcass>消化管>絹糸腺の順であった.
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