Mucor racemosus No. 50,その第4代UV変異株No. 54および第4代NTG変異株No. 51のそれぞれの凝乳酵素標品SR-0, SR-1およびSR-2によるカゼインフラクションの分解特性の差違を明らかにし,同時に市販の仔牛レンネット(ハンゼン粉末レンネット,HR)および
Mucor pusillus Lindtの微生物レンネット(名糖レンネット, MR)と比較し,次の結果を得た.
(1) pH 6.7におけるα
S-およびβ-カゼインからのNPNの遊離の程度はSR-0>SR-1>SR-2の順に高く, MRによるα
S-およびβ-カゼインからのNPNの遊離の程度はそれぞれSR-2およびSR-1とほぼ等しかった. HRによる両フラクションからのNPNの遊離はきわめて低値で, β-カゼインからのNPNの遊離はSR-2とほぼ同程度であった.
HRやMRはβ-カゼインに作用しても溶液は透明であったが, SR酵素の場合反応液はしだいに白濁し,やがて凝集して粘稠性のある沈殿を形成した.この沈殿は酵素反応を継続しても,再び溶解することはなかった.
(2) κ-カゼインの分解力はMR>HR>SR酵素の順に強かった.また, SR酵素間にはκ-カゼイン分解力の差違はなかった.
(3) 電気泳動によりカゼインフラクションの分解パターンの差違を検討した結果, β-カゼインについて最も顕著な差違があり,それぞれの酵素に特徴のある分解パターンが認められた. κ-カゼインの分解生成物はプラス極からマイナス極への電気泳動により, HRやMRでは原点近傍に1本の濃い分解物のバンド(パラ-κ-カゼイン)の出現がみられたのに対し, SR酵素では, HRやMRの場合と同じ位置のバンドと,それより若干移動度の大きいバンドの計2本のバンドの出現がみられ,明らかにHRやMRの場合と異なっていた.
(4) pH 6.0におけるカゼインフラクションの蛋白分解活性および分解機作を調べた結果, MRはα
S-およびβ-カゼインに作用し比較的低分子化力が強いのに対して, HRやSR酵素では高分子分解物を多くプールし,その低分子化力はMRに比べかなり弱いことを認めた.また, HR, MRおよびSR酵素によるκ-カゼインの切断部位あるいは機作が互いに異なることが示唆された.
(5) 変異株を誘起し,凝乳酵素のMCA/PA比を向上させることによって,(1)凝乳活性に関係の深いκ-カゼインの分解力に変化はなく,(2)α
S-およびβ-カゼイン,とくにβ-カゼインの分解力が顕著に低下する傾向が認められた.
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