土壌により分離した
Mucor racemosus No. 50その第4代UV変異株No. 54および第4代NTG変異株No. 51について,小麦ふすま培養による凝乳酵素の大量生産および調製を行い,それぞれの粗酵素標品SR-0, 1および2について,仔牛レンネット(ハンゼン粉末レンネット, HB)および
Mucor pusillus Lindtのレンネット(名糖レンネット, MR)を対照として,それぞれの酵素特性を比較検討し以下の結果を得た.
(1) 小麦ふすま培地として用い, 24°Cで培養することによって比較的高い凝乳酵素生産性が得られ,こうじの水抽出液を硫安分画することによって,凝乳比活性の高い粗酵素標品を調製できることを認めた.
(2) SR酵素はカゼインを基質としたときの最適pHが3.0で一種の酸性プロテアーゼであった.また,尿素変性ヘモグロビンを基質としたときの最適pHはSR-0が4.0, SR-1および2が3.5でSR-0に比べpHが0.5酸性側にシフトしていた.
(3) 変異株の誘起による凝乳酵素のMCA/PA比の向上は,同一MCAにおけるSR-1および2のpH-カゼイン分解活性(PA)曲線が, SR-0に比べpH 5.5から中性域にかけて0.5~0.6 pHが酸性側にシフトし, PAが低下したことにより生じたものであることを認めた.
(4) MCAの最適温度は1/100M CaCl
2を含む10%還元脱脂乳を基質としたとき, MR 64°C, HR 61°C, SR酵素56°Cで, 1/1000M CaCl
2を含む基質では, MR 52°C, HR 45°C, SR酵素46°Cであった.
(5) SR酵素のMCAはCa
2+によって活性化されたが, PAはほとんど影響されなかった. MCAのCa
2+依存性はMR_??_HR>SR酵素の順で, SR酵素のCa
2+依存性が最も低いのが特徴であった.
(6) MCAのpH依存性はMR_??_HR>SR酵素の順で, Ca
2+依存性と同様にSR酵素が最も低かった.
(7) SR-1よび2のMCA/PA比は, 1/100M CaCl
2を含む10%還元脱脂乳を基質とし, MCAを測定したとき, MRとほぼ同程度であったが, 1/1000M CaCl
2を含む基質を用いたとき, MRよりも高値であった.
(8) 熱安定性はMRが最も高く,次いでHR, SR酵素の順で, SR酵素が最も熱安定性が低かった.また, SR酵素間には熱安定性に差違はなかった.
(9) SR酵素のpH安定域はグリシン非存在下でpH 6.0~7.0と狭く, 0.08M以上のグリシン存在下でpH 4.0~7.0と比較的広いPH範囲で安定となり,グリシンは酸性域でのSR酵素のpH安定性を増大させる効果を有していた.
(10) 金属イオンおよび酵素阻害剤の影響を調べた結果, SR酵素はFe
2+およびHg
2+, HRはFe
2+によって阻害を受けた.
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