白蟻防除従事者(PCO)の血中のchlordanesとその関連化合物およびその他の有機塩素化合物の詳細な分析を行い,以下に示す結果および考察を導いた.
1)PCOと一般人(non-PCO)の血液について比較を行うと,PCO血中には,∑DDT(pp'-DDT+pp'DDE, 2.1~30ng/g,平均値12ng/g),dieidrin(<0.30~16ng/g,平均値1.5ng/g),heptachlor ep-oxide(<0.10~34ng/g,平均値4.1ng/g),∑chlordane[cis-(α)-chlordane+
tvans-(γ)-chlordane+trans-(δ)-nonachlor+oxychlordane,0.57~83 ng/g,平均値12 ng/g]が,比較的高い濃度で存在した.また“Chlordane”処理を行った家屋に居住する一般人からもoxychlordane (0.13 ng/g)が微量ではあるが検出された.
2) 事業所によってPCOの血液中の
trans-(δ)-nonachlor濃度に差がみられた,また同一事業所で,ほぼ同じ従事年数のPCOに関しても差がみられ,暴露の程度に顕著な差があることをうかがわせた.さらに同一従事年数でも,事業所によっては低い血中濃度が検出されたが,これは防毒マスクの使用効果によるものと考えられた.
3) “Chlordane”製剤中の成分とPCOの血液中のchlordane関連化合物の比較を行うと,製剤中にみられるheptachlor,α-chlordene,γ-chlordeneは,PCOの血液中には存在しないが,代謝物であるheptachlor epoxide, oxychlordaneが新たに血液中にみられた.それらの代謝物は,
trans-(δ)-nonachlorと同様,従事年数の多いPCOほど血中濃度が高い傾向にあった.このようなことから
trans-(δ)-nonachlor, oxychlordane, heptachlor epoxideは人体内で比較的安定な化合物であるといえよう.
定量用標品多数を御恵送いただいた,ベルシコールパシフィックリミテッド木村泰男氏ならびに,採血に御尽力いただいた,友清重孝氏に厚く御礼申し上げます.
なお本報告の概要は日本農芸化学会昭和57年度大会(東京)において発表を行った.
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