醤油(麹菌として
A. sojae KS使用)の火入れおりの濁度量,密度,粒度を測定することにより,生醤油中に残存する麹菌由来の酵素であるアルカリおよび酸性プロテアーゼ,α-アミラーゼの火入れおり沈降への寄与を検討し,以下の結果を得た.
(1) 生醤油中のアルカリプロテアーゼ,酸性プロテアーゼ,α-アミラーゼはそれぞれ火入れおりの前駆体であり,生醤油中の残存活性は火入れおり量と高い相関を示した.
(2) 精製したα-アミラーゼを生醤油に添加して火入れをすると,添加量の増加とともに火入れおり量は増大したが,火入れおりの密度,粒度分布は変らなかった.
(3)生醤油中から酸性プロテアーゼのみ選択的に除虫して火入れを行った場合,火入れおり量は減少し,凝集が遅くなったが,火入れおりの密度分布はほとんど差が認められなかった.
(4) 精製したアルカリプロテアーゼを生醤油に添加して火入れをすると,添加量の増加とともに火入れおり量および火入れおりの密度は増大した.一方,初期の火入れおりの生成および凝集の促進がみられたが,時間の経過とともに次第に凝集が遅れ,最終的には凝集を阻害し,沈降しにくい微小の粒子の割合の火入れおりとなった.したがってアルカリプロテアーゼは火入れおりの沈降を阻害すると推定した.
(5) アルカリプロテアーゼの活性中心をブロックしたDIP-酵素を生醤油に添加して火入れした場合,火入れおりの生成量,凝集速度は活性プロテアーゼ添加の場合に比べ,ほとんど差が認められなかった.このことはアルカリプロテアーゼ添加による火入れおり生成促進,凝集阻害はプロテアーゼ作用によるものでないことを示唆した.
(7) 以上の結果,火入れおりの沈降に生醤油中の残存α-アミラーゼは寄与せず,酸性プロテアーゼは促進し,アルカリプロテアーゼは阻害すると推定した.
抄録全体を表示