メチル水銀中毒予知の指標を得る目的で,ラットを用いた塩化メチル水銀(MMC) 12.5および37.5mg/kg diet投与試験を行い,血清と脳のメチル水銀濃度とメチル水銀中毒発生の関係を解明した.
両試験のいずれも,対照群と,メチル水銀の体内蓄積と排泄に影響を与えるヨウ素摂取レベル(ヨウ素, 0.3~150mg/kg diet)によって,コンブ摂取群を含む4群の試験群に分けた.
1) MMC 12.5ppm飼料で37日間飼育と,そののちMMC添加を止めて29日飼育したおのおののラットの主要臓器および血清のメチル水銀濃度から生物学的半減期(B. H.)を計算した.
全組織に含まれるメチル水銀のB. H.は,ヨウ素摂取レベルによって異なり,高ヨウ素摂取群では明瞭な延長を示した.
脳および血清のB. H.には,ヨウ素摂取レベルによる変動はなかった.
2) MMC 37.5ppm飼料投与19~29日間で,ヨウ素摂取量の多い群から順次にメチル水銀中毒(後肢の運動失調)が発生した(P<0.01~P<0.001).
中毒症状の進行は高ヨウ素摂取で著しく促進し,体重減少,腎臓肥大,脾臓萎縮が発生した.とくにコンブ摂取群に,体重,脾臓,肝臓重量の減少が顕著に現れた.
3)全ラットについて測定した血清MMC濃度(μg/ml)と脳および諸臓器のMMC濃度(生組織中μg/g)の間には,いずれの場合も高い正のベキ相関が存在した(P<0.001,
r=0.98~0.94).
4) MMC投与試験の結果からプロビットで算定した脳と血清の半数中毒濃度(TD
50)およびその95%信頼区間は, MMCとして,脳が7.36μg/gおよび6.59~7.40μg/gで,血清が2.69μg/mlおよび2.43~2.93, μg/mlであった.これは,ベキ相関の回帰線の式(Y=3.547X
0.730)を用いて計算した値と一致した.
血漿と脳とのメチル水銀濃度比には種による差はないと報告されている.
したがって,メチル水銀中毒発生予知および脳中メチル水銀濃度推定の指標として,血清メチル水銀濃度は有用であると考える.
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