東南アジアの少数民族の間で作られている漬物茶(微生物発酵茶)と酷似した製法で作られるわが国の碁石茶(高知)および阿波晩茶(徳島)の香気成分について分析し,漬物茶の香気特性の検討を行った.
その結果,碁石茶と阿波晩茶には共通した漬物茶特有と見られる香気パターンが認められ,新たに茶の香気成分として12種の化合物が同定された.新たに同定された化合物は微生物発酵生成物と晃られ,エステル2種(乳酸メチル, 11-ヘキサデセン酸メチル),アルコール5種(2-メチル-1-ペンテン-3-オール, 3-メチル-2-ブテン-1-ナール, 2-ヘプタノール, 3-ナクタノール, (
E)-2-オクテノール),フェノール4種(4-メチルグアヤコール, 1, 2, 3-トリメトキシベンゼン, 4-エチルフェノール, 2, 6-ジメトキシフェノール)およびアセトインである.潰物茶の香気特性として以下のことが認められたが,強発酵茶である碁石茶において顕著であった.
(1) 漬物茶では(
Z)-3-ヘキセノール,リナロールとそのオキサイド,サリチル酸メチル,ベンジルアルコール, 2-フェニルエタノール,酢酸, 4-エチルフェノールが香気の基本を成し,発酵茶に似たパターンを示した.
(2) 微生物発酵生成物と推定される酸類,フェノール類,二級アルコール,エステル類の値が高く,漬物茶特有の発酵臭の要因と考えられた.
(3) 日乾工程により,カロチノイドおよび不飽和脂肪酸の分解物と推定される成分の増加が認められた,とくに,日乾条件のきつい阿波晩茶においてこれらの成分の含有率が高く,阿波晩茶の枯葉様香気に寄与しているものと考えられた.
本研究を進めるにあたって,碁石茶に関するご教示と資料をいただいた大豊町中央公民館館長,石川靖郎氏,試料を提供いただいた小笠原正春氏に深謝いたします.
本研究の概要は, 1986年4月,日本農芸化学会昭和61年度大会で発表した.
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