ヒト癌細胞の初代培養系に混入した線維芽細胞の増殖を選択的に抑制する方法を開発するために,われわれはデキストラン硫酸を添加した培地を用いて,癌細胞と線維芽細胞に対する増殖抑制効果を調べた.
(1) 分子量の異なる4種類のデキストラン硫酸(8k, 15k, 50k, 500k)を用いて,ヒト線維芽細胞株(MRC-5)に対する増殖抑制効果を調べた結果,分子量500kのデキストラン硫酸がもっとも強い増殖抑制効果を示した.
(2) 分子量500kのデキストラン硫酸は, 7種類のヒト線維芽細胞株の増殖を濃度依存的に抑制した.しかし, 9種類のヒト癌細胞株に対する増殖抑制効果は非常に弱かった.さらに,ヒト線維芽細胞株の細胞質の形態はデキストラン硫酸によって濃度依存的に肥大化した.
(3) 外科手術から得たヒト癌細胞を10μg/mlのデキストラン硫酸を含む培地で培養したとき,癌間質から混入したヒト線維芽細胞の増殖は抑制された.そして,ヒト癌細胞が優先的に増殖した.
以上の結果から,デキストラン硫酸を添加した培地は,ヒト癌細胞の選択的培養方法として有用であることが示唆される.
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