1. 清酒醸造中全期間に於けるTryptophanの増減を精密に調査し之を曲線に圖示せり.
2. Tryptophanを分析する新酵素を發見しTriptophanaseと命名せり.
3. Tryptophanaseは麹菌の酵素たるTakadiastase中に存在し又清酒酵母浸漬汁中にも含有することを認めたり.尚市販の蛋白質分解酵素たるPepsin, Trypsin, Papainの製品中にも等しくTriptophanaseの含有せらるることを證明せり.惟ふにTryptophanaseは共分布廣くして一般の蛋白質分解酵素に伴つて存在するものの如し.
4. Tryptophanaseの最適P
Hは6.2の付近にあり.P
H3.0以下の酸性,P
H12.0以上のAlkali性には殆ど其作用を破壊せらる.
5. Tryptophanaseの最適温度は比較的低位にあり,20°C附近を最適とし30°C之に次ぐ.
6. Tryptophanaseは100°Cに煮沸する事に依り殆ど完全に破壊せられ其作用を停止す.
7. TryptophanaseはThymol, Toluolの如き殺菌劑に依り僅に其作用を阻害せらる.
8. 清酒が其新酒時代より古酒となる貯藏期中に於て其含有するTryptophan量を著しく減少する理由は單に火入等の如き加熱の影響に因るにあらず,麹菌及び清酒酵母より溶出殘溜せる酒中の酵素Tryptophanaseの作用に因ることを證せり.
9. Tryptophanaseに依るTryptophanの分解は普通のAmidaseの作用と異りDesaminierenに依りAmmoniaを遊離すること無し.
10. Tryptophanaseに依るTryptophanの分解生成物はMelanin等の如き有色素體を生ずるに非らず.從てTyrosinase又はChromoxydaseの作用に非ず.
11. Tryptophanaseに依るTryptophanの分解成生物としては僅にIndolcarbonsäure及びIndolessigsäureの微弱なる反應を認めたるのみにして其構造より推定さるべき物質たるIndol, Skatol, Indolpropionsäure, Anthranylsäure, Kynurensäure及びTryptophalに就て試験せるも試料少き爲未だ陽性の結果を得ざりき.尚該點に就ては試験を續行し次囘に之を報告すぺし.
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