農業経済研究
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85 巻, 3 号
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報告
  • 菊地 昌弥
    2013 年 85 巻 3 号 p. 140-150
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    本報告では野菜を中心とした福島県産の主要農産物を取り上げ,重要な販売先となっている卸売市場での価格と数量の動向を捉え,東日本大震災が発生した2011年以降の状況を発生以前(2007~2010年の平均)と比較し,受けた影響の詳細とその要因を解明することを目的とした.農畜産業振興機構(ALIC)が公開している卸売市場データの考察および東京都中央卸売市場の卸売業者,JA全農福島,うつくしふくしま農業法人協会,福島県農業会議,大手スーパー等で行ったヒアリング結果をもとに考察を加えた.第1に,東京都中央卸売市場(東京市場)と大阪府中央卸売市場(大阪市場)では震災以降において従来とは異なり数量と価格の一般的な関係性が確認できず,構造が変化している.とりわけ東京市場で顕著である.第2に,最大の販売先である東京市場での動向として注目されるのは,①震災以前と異なり数量が減少し価格も下落する状況が全体的傾向として確認され,しかも2011年から2012年にかけてそれが深化している,②その一方で2011年に影響を受けなかった品目が一部存在する,③2011年から2012年にかけて価格が回復傾向にある品目も一部存在する,の3点である.第3に,上記の3つの動向は要因が単独で存在しているのではなく,異なる要因が複合し発生している.必需的でありなおかつ出荷最盛期に他の国内産地の供給量が少なかった品目については数量と価格の関係が成立するが,それに該当しない品目の場合,④東電の原発補償を背景に産地側の価格交渉力が低下するケースがあり,そのことが①の実態を誘発する原因となっている.東電の補償はいつまで継続されるのか明確になっていないだけに,今後を見据えると中長期的には打ち切られた時のことを想定し産地としての供給力や交渉力を回復させていくための具体的方策を立案し実行していくことが必要になろう.
  • 大木 茂
    2013 年 85 巻 3 号 p. 151-163
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    東日本大震災によって生じた原子力発電所事故による食品の放射性物質汚染問題が発生した.本稿は,食品の放射性物質汚染問題に対する行政の検査結果から検査の必要性を示しつつ,小売業者の対応について整理した.小売業者の対応は一様でないものの,消費者の安心確保のため,自主的検査を公的検査と組み合わせて実施する企業が多かった.なかでも生協は,消費者の組織でありながらも,組合員には生産者も多いことから難しい対応を迫られている.また自主検査の実施と経営の善し悪しとは関連性が弱いことも窺えた.現状では検査なしに食品の安全を確保できる状況ではないため,これからも長期に放射性物質汚染問題を注視する必要がある.
  • 氏家 清和
    2013 年 85 巻 3 号 p. 164-172
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    2011年3月に発生した東日本大震災により東京電力福島第1原子力発電所において放射性物質が環境中に大量漏出する深刻な原子力災害が発生した.その結果,発電所が立地している福島県,ならびにその周辺各県の農畜水産物に対する放射性物質汚染が懸念され,これらの産地の農畜水産物が消費者に忌避される事態が生じており,現在でもこれらの地域の経済や社会に深刻な影響をもたらしている.これらの影響をどのように克服するかを考える上で,汚染に対する消費者評価の実態を把握することは重要な課題といえるだろう.本稿では,ほうれん草を事例に原発周辺地域産の農産物に対する消費者のWTA(willingness to accept)関数を推定する.さらに,これらの農産物に対する消費者評価を産地に対する評価と汚染による健康リスク評価に分解して,消費者評価の推移のありようを定量的に分析する.分析の結果は次の通りである.まず,京浜地域と京阪神地域で,消費者評価の様相が大きく異なっていることがわかった.リスク評価には地域差がほとんどないが,産地評価は京阪神地域の方が悪かった.産地評価とリスク評価の挙動は大きく異なっており,これらを分解して捉えた本稿のアプローチは有効だったといえるだろう.さらに,汚染水準とWTAとの関係性についても検討した.その結果,汚染水準─WTA曲線の形状は,原点に対して凹形の構造を持っていることを指摘した.すなわち,汚染の水準が低い場合には水準の変化により消費者評価が大きく変化するが,水準が高い場合には,消費者評価は変化しにくいと考えられた.2012年4月に行われた放射性物質汚染に関する安全基準の改定による変化は,それまでの汚染水準─WTA曲線に沿った変化であると解釈することができ,消費者のWTAを大幅に低下させるには至っていないことを指摘した.
  • 半杭 真一
    2013 年 85 巻 3 号 p. 173-180
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    東京電力福島第一原子力発電所事故は,放射性物質の大量拡散をもたらした.食品の放射性物質による汚染は低い水準に抑えられているものの,放射性物質がこれまで直面したことのなかった危害因子であることから,消費者は不安と混乱のなかに置かれている.本論文では,食品中の放射性物質に関する科学情報をスライドショーとしてまとめ,このスライドショーによって消費者の意識がどのように変化するかを分析した.福島県と首都圏,関西圏に住む消費者を対象として,農産物としてキュウリを選び,インターネットを用いて調査を行った.福島県産の農産物は消費者に忌避されており,スライドショーは消費者の選好を変化させていた.本論文は,科学的な情報提供の有効性を示すものであるが,スライドショーに対する見方が分かれていることは,放射性物質に関するコミュニケーションの難しさを示している.不安の程度が比較的小さい消費者に対して,客観的データを提供することが有効だろう.
研究動向
  • ──2012年ブラジル大会と過去の大会との比較から──
    大江 靖雄
    2013 年 85 巻 3 号 p. 187-192
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    本稿は,第28回国際農業経済学会(IAAE)ブラジル大会における発表論文を対象として,過去のIAAE大会と比較することでその研究動向をレビューした.IAAE大会は,最も大きい農業経済学の大会であることから,世界的な研究動向を把握することができる.本稿では,IAAE日本人会長が今大会を統括するという記念すべき大会であったことから,今後の我が国農業経済学会にとっての意義についても考察した.本稿での考察から得られた知見は以下の通りである.1)今大会では口頭報告数が減少して,ポスター報告論文数が増加したことで,若手研究者への参加を促す効果を有している.2)開発経済学と資源・環境経済学の分野での口頭報告セッション数が増加し,全体の半数を占めていた.特に,資源・環境経済学の分野では,トピック数が増加している.また,市場分析関係も2割のシェアを占めるまでに増加した.総じて,農業経済学の対象分野が伝統的な生産経済学の分野から拡大しており,農村資源マネジメントの経済学へ向かっていることを理解できる.
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